2009 年 1 月 のアーカイブ

男子は幼稚で「心情」の理解が苦手?

2009 年 1 月 19 日 月曜日

 前回は、子どもの書き言葉の獲得とそれに伴う思考のレベルアップについて書きました。ただし、こういう変化が一様にどの子どもにも起こるのかというと、そうではありません。「うちの子は、本を読むのに国語がサッパリ」などという話はたびたび耳にすることです(これには理由があるのですが、機会を改めて書きます)。また、男子と女子とでは心の成熟するカーブがかなり違います。一説によると、女子は男子よりも平均して精神年齢が1歳~1歳半ほど高い(男子は1歳半遅れている)そうです。男の子をもつおかあさんの多くが、それを実感されているのではないでしょうか。

 話を男子に絞って進めます。「男子は、幼稚!」――これは、国語の学習指導をしている者なら誰でも認識しており、頭を悩ませている問題です。物語文における人物の「心情把握」は、中学受験では必ずといってよいほど扱われる国語の最重要テーマですが、これを男子の多くが苦手としています。作中の人物が、「なぜこういうことを言ったのか」「どういう思いで行動したのか」ということがなかなかわからないのです。

 実例を挙げてみましょう。随分前の広島学院の入試問題から例を引いてみました。

 山の中の一軒家に暮らしているおじいさんと孫の夏代(小学6年生)のところに、家出してきた少年(秀一)が転がり込み、やっかいになっていたのですが、夏休みのある日、夏代が盲腸炎にかかって入院することになりました。以下は、その後のやりとりです。

 夏代の回復ははやかった。一週間たつと、医者は退院していいといった。老人は用心のために、もう二、三日おいてくれと頼んだが、医者はとりあわなかった。

 夏代は手術した翌日から自分で便所へいった。秀一や老人にそんなめんどうをみられるのが苦痛だったのだ。医者はそのことがかえってよかったといった。老人はくやしがって、
「おまえさんは人間をブタか犬をいじくるつもりでおる。」
と不平をいった。そんな悪口をいわれながらも、医者はついでだといって、老人を診察し、少し血圧が高いようだからと、注意した。
「あんたみたいな、がんこじじいなんか、どうでもいいんだが、あんたにもしものことがあったら、夏代ちゃんがたいへんだからな。」
医者もまけずにいや味をいった。そのあとで、アハハと大声で笑った。

<以下省略>

「ぼくがぼくであること」山中恒(ひさし) より

問い 問題文に登場する医者は、どのような人として描かれていますか。十五字以内で答えなさい。

 この問題のねらいは、おそらく見かけの医者の言葉や態度とはうらはらに、夏代にかこつけて老人の診察をしてやっているこの医者の、心遣いに気づいているかどうかを試すことにあるでしょう。無論、大人なら苦もなくわかることです。がらっぱちで、口が悪い見かけの言動に対して、実は親切で心の温かい人物だというのがミソですから、十五字という字数枠なら、両面を対比して書くことも可能です。「口は悪いが、心のやさしい人」などが適当でしょうか。

 ところが、この問題を6年生の男の子にやらせると、サッパリできないのです。彼らの答えの代表的なものをいくつかご紹介してみましょう。

  1. ・いじっぱりで負けずぎらいな人
  2. ・いじわるで性格の悪い人
  3. ・いや味を平気で言う人

 このように、医者の見かけにとらわれた答えがほとんどです。文中の表現をそのままに受け取っているのでしょう。男子の場合、この人物の内面を推し量れるようになるまでの成長が、なかなかもどかしいのです。では、どうすれば、心情把握に長けた子どもにできるのでしょうか。何かよい対策はあるのでしょうか。それとも、子どもの成長をただひたすら待つしかないのでしょうか。

 これについては、次回以降徐々に私たちの考えをお伝えしていきたいと思っています。わが子の読解力に不安を感じ始めているおかあさん方に、参考にしていただければ幸いです。

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カテゴリー: アドバイス, 中学受験, 子どもの発達

「語彙の爆発」がもたらす思考の変化

2009 年 1 月 16 日 金曜日

 4年生頃から訪れる「語彙の爆発」は、子どもが言葉の微妙なニュアンスの違いを理解することを可能にします。また、具体的事物や事象でなく、抽象的な内容を扱う表現の理解も可能になっていきます。論理に基づいて考える力も急速に発達していきます。

 たとえば、次のような話があります(以下の話とそれに対する子どもの反応の事例は、子どもの発達に関する専門書の記述を参考に書きました)。

 その昔、アレキサンダー大王が難題を抱えて困惑していたところ、ギリシャの哲学者が見事にその難題を解決してくれた。その哲学者は、大きな樽のなかに住んでいる風変わりな人物だった。アレキサンダー大王がその知恵に感心し、哲学者のもとを訪れて、「褒美を何でも遣わすから、欲しいものを申し出よ」と伝えた。すると、その哲学者は「して欲しいことが一つある」と答えた。「それは何か」と大王が尋ねると、「貴方が私の前からのいてくれることだ。私は今、その場所で日向ぼっこをしていたところなので」と言ったそうである。

 この話のおもしろさは、大人ならわかると思います。ところが、子どもに「この話のどこがおもしろいか」と尋ねると、4年生ぐらいまでの子どもは「樽の中で暮らすのがおもしろい」とか「せっかく何でももらえるのに、もらわないなんて変だ」などのように、表面的な受け止め方しかできないそうです。

 ところが、語彙の爆発的な増加を経た5年生ぐらいの子どもになると、この話の真の面白さを理解できるようになります。絶対的な権力者に対して、いささかもひるまぬ哲学者の態度に共感を覚える子どももいます。これは、語彙数の増加が思考の水準を引き上げた結果であり、「量」が「質」を生み出したのだと言えるでしょう。言葉のバリエーションが増えることで、より高度な思考ができるようになった子どもは、話の核心を見抜けるようになってくるのです。

 中学入試では、人物の態度や行動の裏にある、ほんとうの気持ちを理解しているかどうかを問う問題がよく出されます。また、具体的な事例を、一般化してとらえる能力を問うような問題も出されます。このような問題には、暗記による対策は通用しません。具体的事例を一般化したり、一般論を具体的事例で証拠づけたりするような、大人の思考様式を獲得しておく必要があるのです。

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カテゴリー: 中学受験, 子どもの発達

4年生は「語彙爆発」の時期

2009 年 1 月 14 日 水曜日

 子どもの知的発達において、9歳は大きな節目となる時期だと言われています。子どもの思考様式が9~10歳(小学4~5年生)にかけて急速に変化し、大人の思考へと近づいていくからです。このことは、子どもの語彙が増えていくことと大いに関連しています。

 子どもも、4年生ともなると自分から様々な本を手にして読書を楽しむようになります。これによって、新たな語彙を素晴らしい勢いで獲得していきます。読書が定着するまでの子どもは、新しく出てきた「書き言葉」を、すでに知っている「話し言葉」と照合することでその意味を学び、自分のものにしていく必要がありました。話し言葉としてはすでに知っていたわけですから、書き言葉に焼き直すだけで、語彙そのものが増えるわけではありません。しかしながら、こうして少しずつ書き言葉のレパートリーを増やした成果が表れてきます。それは、子どもが一人で読書を楽しめるようになることです。

 書き言葉としての語彙が一定数に達すると、子どもは絵本の世界から本格的な書物の世界へと旅立ちます。多くの場合、子どもたちは3年生頃から読書に勤しむようになりますが、その結果、「間接体験」から新たな語彙を獲得する流れが生じ、子どもは日常の経験や会話から新たな語彙を仕入れるよりも遙かに多くの語彙を手に入れるようになります。

 これは、子どもの語彙獲得の道筋が逆転したことを意味するでしょう。「話し言葉」をもとに新たな「書き言葉」を獲得していたのが、「書き言葉」を通じて新たな「話し言葉」を獲得するようになったのです(専門家によると、これを「反対給付」というそうです)。これが「語彙の爆発」と言われる、急激な語彙の増加現象をもたらします。有名な発達心理学者の坂本一郎氏の研究によると、9~10歳(小学4年生)の一年間は、生涯で一番語彙の増加率の高い時期にあたり、年間39.3%を記録しています。

 このような語彙発達の時期を上手に乗り越えられるかどうかは、実は中学入試での合否に大きな影響を与えます。中学入試では、小学生の一般的なレベルの一歩上をいく思考レベルが求められているからです。次回は、この問題について引き続きお話ししたいと思います。

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カテゴリー: 中学受験, 子どもの発達

中学入試本番が目前に迫ってきました

2009 年 1 月 13 日 火曜日

 中学入試が目前に迫ってきました。そこで、今回は中学入試を直前に控えたお子さんをおもちのご家庭に向けて何か書かせていただこうと思います。受験がまだまだ先のご家庭には、本番前の雰囲気について知る機会にしていただければ幸いです。

  何年か前から、申し合わせで「入試解禁日」なるものが広島地区で設けられ、以来解禁日からの数日間で、大半の中学校の入試が終わるようになりました。

 かつて広島では、各中学校の入試がかなり長い期間にわたって五月雨式に行われていました。1校、また1校と、受験しては結果を待つ入試日程は、小学生にはいささか酷に感じられたからでしょうか。その当時の入試は、張りつめた緊張とともに重苦しさが漂っていたように記憶しています。その点、今では「あっという間に始まり、あっとういう間に終わる」ので、受験生の子どもたちにとってはこのほうがよいのではないかと思います。

 ただし、約数日間毎日入試が続くので、このタイミングに合わせて気力と体力をピークにもっていかなければなりません。入試本番直前に風邪など引くと大変です。受験生である当人はもちろんのこと、お子さんの体調管理を預かるおかあさん方には、最後まで気を緩めず、最高のコンディションにもっていけるようご配慮をお願いいたします。

 私たち学習塾も、「心のケア」については配慮する責任があります。今の段階を迎えてからは「新しいことをやらないように」と、子どもたちには注意しています。入試問題に何が出るかを必要以上に気にすると、「まだやっていない」と気になることが限りなく出てくるものです。それらを一つひとつしらみつぶしのようにやっていくことなど、到底できるものではありません。そのようなことをすると、不安が不安を呼び、精神的なコンディションをくずしてしまいかねません。

 当たり前の話ですが、入試では「合格点」がとれればよいのであって、「満点」が必要なわけではありません。これまでに蓄えた知識、考え方を駆使して入試問題にあたり、そして志望する中学校の合格水準をクリアできればいいのです。その合格水準は、8割、9割ではありません。6~7割でいいのです。新しいことに手をつけて不安を誘発するよりは、平常心を維持し、勇気をもって入試に臨んだほうが、遥かによい結果が期待できるのではないでしょうか。

 もうひとつ。入試が近づくと、どのお子さんも「合格したい」という思いが募ります。その思いが募れば募るほど湧いてくるのが得体の知れない不安であり、「合格できなかったらどうしよう」というプレッシャーです。お子さんが、落ち着かない顔で親の方を向いたときには、「だいじょうぶだよ」「あなたならやれるよ」と、勇気づけてあげてください。親がどっしりと構えていたら、子どもの気持ちは随分と違ってくるものです。

 お子さんが、不安や迷いを振り払い、全力で入試に立ち向かえるよう、最後まで見守り応援してあげてください。わたしたち学習塾の担当者も、お子さん方がこれまで培ってきた力が出し切れるよう、そして最善の結果がもたらされるようフォローし、応援してまいります。

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カテゴリー: ごあいさつ, アドバイス, 中学受験

暗記型の勉強はなぜいけないの? ~その2~

2009 年 1 月 9 日 金曜日

 以前、ある私立中学の入試でこんな問題が出されました。「秀吉の検地・刀狩りが、世の中の仕組みにどんな変化をもたらしたか、簡単に説明しなさい」――おそらくは、社会構造の変化とその要因を関連づけて理解しているかどうか、すなわち本当に歴史を学んでいるかどうかを尋ねたものでしょう。暗記型の子どもには辛い問題です。知識を丸ごと覚え込んで、歴史の因果関係を説明する問題にまで対処しようとすると、頭はパンクしてしまうことでしょう。

 私たちは、こう思います。教科のフレームとなる重要な内容の学習は、子ども自身が「なるほど!」と、納得しながら進めていくべきです。そして、その後で付帯的事項を取り込んでいくのです。たとえば、歴史の大きなうねりをしっかりと掌握したうえで、歴史上の出来事の一つひとつを掘り下げて学んでいくのです。そうすれば、先ほどのような問題にも十分に対処できるし、暗記力のよさも一層生かされるのではないでしょうか。

 私たちが4年部開始から2年あまりもの期間をかける「基礎力養成期」で徹底させているのは、このような考えに基づく指導です。大切な基本をしっかり身につけた子どもは、知識をバラバラでなく体系的に理解していますから、中学入試に強いのは無論のこと、中学・高校進学後も筋のいい学習を展開させていき、学力を大きく伸ばしていくことができます。

 小学生の子どもの暗記力は確かにすばらしいものです。しかし、理屈を理解して納得していく学習のほうが、長いスパンで見ると、結局は学力開花への遠回りのようで近道なのです。また、「なぜだろう?」「どうなっているのだろう?」という疑問を、自分の知識を総動員して解決していく学習のほうが、暗記型の学習よりも何倍も楽しいのではないでしょうか。

 小学生には、どういう受験勉強をすべきかの判断はまだできません。このことを踏まえ、中学入試をめざして学ぶ子どもたちに最もよい勉強法を授けるのが、私たち大人の役目であろうと思います。

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カテゴリー: 中学受験, 家庭学習研究社の理念