子どもが好奇心を失いつつある?

2010 年 7 月 8 日

 今年の春頃だったでしょうか。ある新聞に学習塾の講師をしている方からの投書が掲載されていました。

最近、子どもたちの学習指導をしていて痛感するのは、子どもたちが無気力になっていることだ。それは勉強への取り組みにも表れている。「どうしても解決したい」という欲求を胸に、目を輝かせて一生懸命に学ぶ子どもが少なくなった。人間には、誰にも「知りたい」という好奇心が備わっているのだと思いたい。しかし、今の子どもたちを見ていると心配になってしまう。

 投書の内容は、だいたいこのようなものだったと思います。子どもの勉強離れについては、この10年どころか、漫画雑誌が増えたり、ファミコンが流行し始めたりした頃からずっと言われていることです。この投書に同感の気持ちをもつ人はきわめて多いのではないかと思います。ただし、筆者が少し気になったのは、この学習塾の先生が、「人間には誰にも好奇心が備わっていると信じたい」と書いておられることです。現象と本質を取り違えておられるのではないでしょうか。

 そもそも、好奇心の旺盛なサルの集団が、森を離れてサバンナに移動したことからヒトへの進化は始まったと言われています。森に暮らす臆病なサルたちのなかに、未知の世界に対する好奇心を抑えきれなくなり、森を去って新天地へと向かった一群がいました。それが人間の祖先です。好奇心が強く、未知のことを知りたいという欲求が押さえきれない動物。それが系統的に確立された人間という動物の本質です。

 ですから、好奇心がなければ人間ではないのです。最近の子どもについて、無気力化や勉強離れ、学力低下などの指摘がありますが、子どもの本質が変わったわけではありません。子どもはみな例外なく、好奇心をもつ存在なのです。問題なのは、子どものもつ好奇心をしぼませてしまう環境要因が、昔と比べて圧倒的に増えているということです。

 では、それはどのようなものでしょうか。以前にも書いたことがありますが、コンピュータゲームは、今や日本のどんな山の中や離れ小島に暮らす子どもをも虜(とりこ)にしています。漫画を好む子どもが多いのは相変わらずですし、携帯端末も今では小学生にすら普及しています。アニメなどの動画は、テレビに限らず様々な媒体を通して見ることができます。これらは手軽に受け身のまま楽しめるため、粘り強く考えたり工夫したりすることが要求されません。そうなると、手っ取り早く楽しめるものばかり子どもは求めるようになってしまいます。

 また、インターネットを利用した小型情報機器の類は、小さな窓から膨大な情報を提供するポテンシャルをもちます。それらが大人をスルーして直接子どもの目に届きます。こうして、子どもを目先の快楽へと走らせる、数多くの有害な情報が親の目、大人の目をかいくぐって子どもを誘惑していきます。それが今日の高度情報化社会の現実です。

  筆者は、ロードバイクに乗るのを趣味としています。休日は、なるべく車の通らない山の中の道路などを走っています。あるとき、人っ子一人いない(と思い込んでいた)県境付近の道路を走っていたら、道路脇の田んぼのあぜ道に二人の少年が肩を並べて座っていました。何か楽しい会話を交わしているのだろうと思いきや、そうではありませんでした。ゲームに熱中する少年達二人とも会話を交わすどころか、それぞれがコンピュータゲームに夢中で取り組んでいました。こんな自然に恵まれた環境にいながら、コンピュータゲームとは!  愕然とした面もちで、そこを走り去ったものです。

 ちょっと話が本題からはずれたかも知れません。時代がどのように変わろうとも、子どもは本来好奇心の塊です。要は、退屈しのぎの域を出ないようなコンピュータゲームなどよりも、人間本来の好奇心や探求心を触発するものが世の中にはたくさんあるのだということを、子どもに教えることが必要なのではないでしょうか。子どもは、大人が思うほどに遊びと勉強を区別していません。楽しければ、好奇心を刺激するものなら、遊びも勉強もないのです。

 その証拠に、私たちの教室で学ぶ子どもたちの多くは、楽しそうに勉強をしています。おそらく、そのうちの多くはコンピュータゲームや携帯などももっているのだと思います。しかし、それらに没頭して勉強を投げ出したりすることはありません。しかも、授業中の子どもたちは、考えることを楽しむかのように笑顔を浮かべています。受け身の電子的遊びよりは、自分で考えて解決の突破口を捜したり、答えを引き出す計算式を編み出したりするほうが、ずっと深い楽しさを味わえるし、自分に手応えが得られるのです。

 子どもが粘り強く考えようとしない、勉強にまっとうに取り組まないのは、子どもが変わったからではなく、子どもを取り巻く環境が変わったからです(大人には、その意味で大きな責任がありますね)。子どもをとりまく環境がどうなっているかをしっかり見極め、子どもが本来もつ好奇心を大いに発揮しながら成長していける状況を確保してあげたいものですね。

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カテゴリー: 子どもの発達, 子育てについて, 家庭学習研究社の理念

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