2010 年 11 月 8 日 のアーカイブ

“わける力”と“つなぐ”力  ~その3~

2010 年 11 月 8 日 月曜日

 前回ご紹介した政治評論家の見解が正しいかどうかについては、明確な判断を下す根拠を筆者はもちません。ただし、日本の教育の問題点をついているのは間違いないと思います。

 どのご家庭におかれても、こうした問題が人ごとでないということを踏まえ、わが子の健全な人間形成や学力形成について考える必要があるのではないかと思います。

 ところで、この問題について考えているうちに、ふと私たち家庭学習研究社の指導が、「つなぐ力」の育成に符合したものであるということに気づきました。特に、授業の手法については、「そうである」と自信をもってはっきり言うことができます。

 家庭学習研究社の授業は、問題をやり込んだりものごとを覚え込んだりする場ではありません。そういうやり方では、テスト対応力はついても、真の学力や思考力を育てることにはならないからです。家庭学習研究社では、どの教室においても、指導担当者が問題提起をし、それについてみんなで一緒に考え、自分の考えを披露したり意見を交わしたりして、互いに刺激しあいながら、それぞれ学習対象の理解に自力で到達していけるよう指導を行っています。

 他者に競争で勝つための勉強という意識を、小学生にもたせるのには賛成しかねます。互いに繋がりながら刺激し合い、ともに成長していくような勉強こそ、小学生にはふさわしいのではないでしょうか。そうやって、他者と繋がりながら学んで成長していくことが、子どもの健全な成長に繋がるのだと思います。

 算数のように、答えは一つに帰結する教科でも、答えにたどり着くための思考の切り口やプロセスは一つではありません。人と繋がり、いろいろな考えを聞いていると、自分にない要素がたくさん身につきます。このような授業が繰り返されれば、1年間で大変な違いが生じることでしょう。

 手前味噌ではありますが、弊社の教室に通っているお子さんは、大概仲良しで、コミュニケーション能力にも問題のない子が多いと思っています。集団指導が続く日本の学校教育で成果をあげて行くには、「つなぐ力」の土台を築きながら学問の高度化へと前進していく必要があります。ただ受かることだけを優先した勉強ではなく、真の学力の育成、人間的成長も視野に入れた受験勉強で受験を通過してこそ、先々のさらなる飛躍が期待できるのではないでしょうか。

 ところで、筆者がどうしても心に引っかかるものを感じることがあります。それは、子どもの情意・行動面での「わける力」(自分は、他者とは別の人間だ。独立した一人の人間だという意識をもつこと)は、どのようにして育まれるかという疑問です。答えをおもちのかたがおられたら、ぜひお教え願いたいところです。

 ここから、筆者は自分なりに答え(答えに近いもの)を考えてみました。やや説得力を欠くかもしれませんが、書いてみたいと思います。


 自意識、独立心、自尊感情は、ものごとをやり遂げていくうえで推進力になる大変重要なものです。言わば、その人の人的エネルギーになるものだと思います。それはどうやって産み出されるのでしょうか。答えの一つとして筆者が考えたのは、親子の対話と、それによって生まれる信頼関係です。たとえば、おかあさんが子どものどんな言葉もしっかりと受け止め、返事をしてやる家庭では、子どもは自分を一人前の人間として扱われていると感じ、自分に対するOK信号を送ることができます。それが望ましい自己認識を育むのではないでしょうか。また、おかあさんが自分の言うことを聞いてくれることで、「自分もおかあさんの言う言葉に耳を傾けよう」という意識も芽生えます。無論、それは他者へも波及し、人を尊重し、人の言葉にも耳を傾ける姿勢へと発展していくのではないかと思います。

 また、これは教育学者が述べておられたことですが、子どもは自分の力ではどうにもならないような大きな存在に接したとき、自分というちっぽけな存在を強烈に意識するようになります。つまり、自然に接し、自然の大きさを感じ取るような経験です。

 星を見ながら果てしない宇宙に思いを馳せたり、顕微鏡で目には見えないほどの小さな生き物がいるのだということを発見したり……こういった不思議さを味わったり、そのことに感動したりすることが、自分を見つめるもう一つの眼差しを得るきっかけになるのだそうです。

 これは、先ほどの独立心や自尊感情とは違ったものに感じられるでしょうが、子どもの自我を育てるという意味で根はつながっているのではないかと思います。受験がまだ先であれば、子どもと一緒に川辺を歩いたり、野山を探索したり、海辺の生物を探して回ったり、晴れた日に田舎で夜空を眺めたり、魚釣りに出かけたり。そんな体験を今のうちにさせてみてはどうでしょうか。先ほどの教育学者によると、自然に接して驚いたり、感動したり、不思議に思ったりする体験は、間違いなくその子どもの将来の助けになるそうです。自然と接して育んだ探求心は、「わける力」から発展していく学力形成にも多大な影響を及ぼすことでしょう。


 「わける力」と「つなぐ力」。やや難しいテーマを3回続けてしまいました。お子さんの子育てと学力形成において、多少なりともヒントが得られたなら幸いです。

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カテゴリー: アドバイス, 子どもの発達, 子育てについて, 家庭学習研究社の特徴