2011 年 4 月 のアーカイブ

「おかあさんの勉強会」を開催します

2011 年 4 月 28 日 木曜日

 中学受験生の子どもをもつおかあさんは大変です。子育てにおいてもまだ目が離せない時期にありますから、二重の負担が伴います。わが子がちゃんと勉強して成果をあげてくれれば、親の苦労も忘れようというものですが、思うに任せないことが多いものです。

 おたくではどうでしょうか。お子さんは小学生生活を伸び伸びと送りつつ、受験勉強もがんばっておられるでしょうか。

 子どもは自分の今の状態に対して楽観的です(少なくとも、大人からはそう見えるものです)。一方の大人は、現在の状態と理想の状態を比較しながら先を読んで行動しようとします。そこで、心配のあまりわが子に注意を促すことがどうしても多くなります。子どもには子どもなりの考えがあり、親と対立することも少なくありません。おかあさんのストレスは、次第に溜まっていくことになります。

 昨年実施した「おかあさん塾」は、こうしたおかあさんのご苦労を少しでも軽減するとともに、明日の子育てに対する元気と意欲を出していただくために企画したものです。ただし、初めての試みでもあり、いろいろな面でこなれておらず、趣旨に反してやや頭でっかちな催しになった嫌いがありました。

 そこで今年は昨年の反省に立ち、おかあさんが主役の楽しくて元気の出る催しにすべく、「おかあさんの勉強会」という呼称で再出発することにしました。「おかあさん塾」という呼称に若干のこだわりはあるのですが、「おかあさんが主役」のイメージに沿ってネーミングを変更しました。

 さて、その「おかあさんの勉強会」の内容をここで簡単にお伝えします。全3回・各回1時間半の実施は昨年と同じですが、全部参加ができない場合、都合のつく回のみでも結構です。弊社の4・5年部「週3日コース会員」のおかあさんが対象で、校舎単位で実施します。日程や申込方法等は当ホームページの案内を参照ください。

第1回 テーマ:家庭勉強の自立を応援しよう!

 家庭勉強は、学校や学習塾の勉強と連動しているものの、別の役割も担っています。それは、子どもの人生の歩みに影響を与えるほど重要なものです。では、その役割とはいったいどういうものでしょうか。それをまず、おかあさんがたにご理解いただきます。

 そのうえで、おかあさんがたにはわが子の家庭勉強の現状を話し合っていただきます。そして、「うまくいっていない」と感じておられるご家庭があれば、その原因をグループで考えていただきます。

 最後に、「どうしたら子どもの家庭勉強は軌道に乗るか」をテーマに考えていきます。おかあさんがたからグループごとに案を出していただくほか、家庭学習研究社からもアイデアを提供します。そうして、家庭ごとに当面の課題と目標をまとめていただいて終了します。

第2回 テーマ:ほめかた次第で子どもは変わる

 子どものやる気を引き出す方法として、「ほめること」がよく話題にされます。そこでこの回は、おかあさんがたに「わが子をほめているかどうか」を尋ねることから始めます。子どもたちには、「ほめられている」という実感をもっているかどうかを事前にアンケートで調査しておきます。結果を照合しながら、現状と課題を一緒に考えていきます。

 わが子をほめる。それは、おかあさんがその気になれば簡単なことのように思えます。ところが、ほめかたには配慮すべき点やコツがあります。ただほめれば子どもは喜び、がんばり始めるとは限りません。そこで、おかあさんがわが子をほめる際に、どういう点を押さえればよいのかを共に考え、一人ひとりに練習をしていただこうと考えています。

 親がほめることは、小学生時代の子どもには特別な意味をもちます。この時期だからこそ、大いにほめてやらねばならない深い理由があります。そのことに、全てのおかあさんには気づいていただきたいと願って実施します。

第3回 テーマ:コミュニケーション力は会話から
                           (内容は検討中)

 中学受験は発達途上にある小学生の受験です。このことは、学力以外のファクターが合否に関わることを意味します。たとえば、思考の水準が大人に近いほど、文章に書かれていることの意図を理解することが容易です。それは国語の文章題だけでなく、すべての教科の入試結果にも影響します。よく言われる「幼稚なタイプ」は、“頭のよさ”でなく“発達度”によって不利になりがちです。

 おたくではどうでしょう。お子さんは、抽象的内容を扱った文章の理解ができるようになりつつあるでしょうか。書かれている内容の事実関係を掌握できるだけでなく、その背後にある書き手の真意に気持ちが及ぶような読み取りが可能になりつつあるでしょうか。

 こうした能力は、どうすれば早めに身につけられるのでしょう。決め手は、「日常会話」と「読書」です。このうち、親が日常生活で深く関わっているのは「会話」です。では、どんな配慮をすれば子どもの思考の発達を促せるのでしょうか。この回は、実例を挙げながらそれを一緒に考えていきます。

 「どうしてうちの子はこんなにできが悪いのか」と、親はよく嘆きます。しかし、子どもは環境によって成長の度合いが随分変わるものです。それを踏まえるなら、親が育てたように育っているとも言えるでしょう。もしそうなら、学力がうまく伸びていない原因の一端は、親にもあるのではないでしょうか。今のうちに、親としてできることをしてやりましょう。それを通じて、親子の絆を深めましょう。少なくとも、そのプロセスで親子共々たくさんの収穫を得ることができます。

 この催しを通じて、そうしたことにおかあさんが気づいてくだされば幸いです。

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カテゴリー: 中学受験, 子育てについて, 行事のお知らせ

あなたは子育てに「向いている」?   ~その1~

2011 年 4 月 25 日 月曜日

 だいぶ前になりますが、ある雑誌の企画で、千名以上のおかあさんを対象に「あなたは子育てに向いていると思いますか?」というアンケートが実施されました。また、子育てに「向いている」と答えたおかあさんと「向いていない」と答えたおかあさんに、性格的違いがあるのかどうかも調査されました。

 さて、このアンケートの結果でどんなことがわかったでしょうか。早速アンケートの結果をご紹介してみましょう。

質問1 あなたは子育てに「向いている」と思いますか?子育てに向いているかアンケート結果

 この結果には驚かされました。なんと、「向いていない」と思う人は、「向いている」と思う人の倍以上もいるのですね。そう言えば、他からの情報ですが、欧米のおかあさんがたは「子育てが楽しい」と感じる人が多いのに対して、わが国では、「子育てが辛い」と感じる人が多いという、国際比較調査の結果もあるようです。

 さて、子育てに「向いている」と答えたおかあさんと、「向いていない」と答えたおかあさんに、何らかの性格的な違いがあるのでしょうか。そこで行われたのが次の調査です。

質問2 あなたご自身に対する質問です。「はい」「いいえ」「どちらとも言えない」の三項目から、それぞれ一つ選んでください。(%)

お母さんの性格に関するアンケート

※100%にならないのは、答えが明確でない人が僅かずついることによります。

 上記質問項目のうち、⑫⑭⑧⑩⑦については、「向いている」と答えた人、「向いていない」と答えた人にほとんど相関関係が見られなかったそうです。なお、今あげた質問番号の順は、差が少なかったものから並べたものです。この結果から何らかの傾向が見えてくるしょうか。「高学歴の人は子育てが苦手」という俗説がありますが、いちばん差のなかったのが⑫ということからも、それは間違った見方であるということがわかりますね。

 では、子育てに対する受け止めかたの違いを決定づける性格的な要素は、どういうものなのでしょうか。実は、子育てに向いていると答えた人と、向いていないと答えた人の性格的な違いが見えてくるのは、       で示した質問項目でした。それぞれの質問に対する答えにどのような違いが見られたのか、次回ご説明してみたいと思います。

※今回の記事は、「あなたの子育て診断します 田中喜美子/著」をもとに作成しました。

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カテゴリー: アドバイス, 子育てについて

家庭教育に求められるハビトゥス

2011 年 4 月 18 日 月曜日

 今日の話題は小難しくて敬遠されそうですね。「ハビトゥス」は、教育熱心なご家庭に有用な示唆を与えてくれる言葉だと思い、敢えて取り上げてみました。よろしければお読みください。

 先日ある私学を訪問したら、校長先生が「最近、東京あたりの私学では『ハビトゥス』がしきりに取り上げられています。うちでも教育実践のスローガンに掲げようかと思っています」というようなことをおっしゃいました。

 「ハビトゥス」は耳新しい言葉かもしれません。筆者は教育社会学系の本を好んで読むため、そうした本にあったのを思い出しました。ただし、どういう経緯で生まれた言葉なのかをとっさに思い出せませんでした。すると、校長先生が「フランスのブルデューという学者の文化資本論という本にある言葉です」と教えてくださいました。

 ここまでの内容で、ますます先を読む意欲を失った人もあるかもしれません。わが子を私学に入れようと検討しておられるご家庭のお役に立つ点があると思いますので、この先もぜひ読んでいただけたらうれしいです。

 「ハビトゥス」から英語の「ハビット(日本語の「習慣」の意)」を連想された人もおありでしょう。それは間違いではありません。「ハビトゥス」は習慣によって形成される個人の生きかたのようなものだからです。筆者の所持する本には、「長い間積み重ねられた慣習的な行動や経験の結果として、個人に形成されていく生き方や行動の構えのようなものだ」とありました。

 ブルデューという学者は、集団や家庭の「再生産戦略」について研究した人です。人間の多くは、教育レベルにおいても生活レベルにおいても、自分の代より子どもの代のレベルアップを図ろうとします。それを「再生産戦略」と言いますが、この戦略の柱になるのが「婚姻戦略(誰と結婚するか)」と「教育戦略(わが子をどう教育するか)」であるとブルデューは考えました。

 このうちの「教育戦略」は、子育ての最中にあるご家庭の参考になると思います。たとえば、「寸暇を惜しんで読書する人間になるか、自由な時間の大半をその場しのぎの遊びに費やす人間になるか」は、どんな教育を受けて育ったかの表れです。学習の計画性や実行力、現状を振り返る姿勢など、自己の能力開発に欠かせない姿勢も、ハビトゥスの形成のされかたで決まってきます。学力や知性、教養を志向するご家庭にとって、「ハビトゥス」は重要な鍵を握る要素なのです。

 ブルデューは、再生産に役立つものとして、「経済資本」「文化資本」「社会関係資本」の三つをあげています。経済資本は、言うまでもなくお金です。文化資本は、家庭の文化レベルです。社会関係資本は、人のつながりが生み出す力のことです。その中で、「文化資本」にブルデューは着目しました。

 文化資本には、「家庭にある文化的な物(本や楽器・美術品など)」、「親の学歴や資格など」、「ハビトゥス(習慣によって獲得された行動様式や生きかた)」の三つがあります。

 なぜ、今日の日本の私立学校が「ハビトゥス」に注目しているのでしょうか。学校が「望ましい学びかた・生きかた」のできる人間を育成する。それには、学校だけの努力では無理で、教育に深い関心を寄せ、金銭的にも投資を惜しまない家庭と連携することが前提となります。公立の学校では得られない教育成果として、私立学校がハビトゥスに着目したのは、そういう理由もあってのことだと思います。

 ただし、ハビトゥス自体は家庭教育を主体に形成されるべきものです。学校はその必要性を家庭に働きかけ、学校教育の成果をより高めることを期待しておられるのでしょう。

 では、このハビトゥスを形成するためには、親は子どもにどのような関わりをすべきなのでしょうか。筆者が読んだ本では、子どもが幼い(小学校低学年まで)うちは「学習にふさわしい環境づくりを心がける」「親が勉強する姿を見せる」「子どもと一緒に勉強する」などが提案されていました。

 では、もっと上の年齢の子どもにはどういう働きかけが望まれるでしょうか。それについても同じ本に書いてありましたので、ご紹介してみましょう。

(1) 基本的生活習慣を調える。

 「早寝早起き」と言われるように、一定のリズムで規則正しい生活を送ることは、健康においても頭の働きにおいても重要なことです。遊びは決めた時間内におさめ、やるべき勉強(学校の宿題、塾の予・復習など)を計画に沿ってテンポよくやる。朝食もきっちりとる。そういう子は、統計的にも高い学力を有しているそうです。セルフコントロールのできる子どもは、学習ハビトゥスを備えた子どもです。自己規律と学業達成の間には深い関係があります。

(2) 親子のコミュニケーション、とりわけ会話を密に行う。

 読んだ本の内容、学校でのできごとなどについての会話を大切にしましょう。そうして、話好きの子どもに育てるのです。叱るときも、子どもに申し開きの機会を与え、一方的に叱らないことが大切です。言葉を上手に用いれば、自分の気持ちを的確に相手に伝えたり、相手の行動や意見も適切に理解したりすることができます。

(3) 文字・活字との接触の機会を頻繁にもたせる。

 学校は文字文化が支配する場所です。すべての勉強の基礎に「読み書き能力」があります。極端に言えば、「活字を制するものが学校・学級を制する」のです。幼い頃からピアノやバレエなどの習い事に通わせるのは、ブルデュー的な文化資本を築く一助にはなりますが、こと学力形成面では遠回りの道であるのは否めません。一方、本を読む習慣や勉強の習慣をつけることは、活字文化の継承者になる最も確実な道なのです。

 ハビトゥスを形成する方法については、目新しいことは何もありません。しかしながら、いずれも核心をついた重要な提案だと思います。「なるほど」と思われたかたは、ぜひ実行してみてください。当面の中学受験を乗り越えるための勉強法を間違えると、ハビトゥスは形成されない恐れが多々あると思います。私学の先生がたのお話を聞いていると、(1)や(2)の足りない子どもが増えているようにも思います。目先の受験に気を取られて、大切なものを育むことを忘れないようにしたいものです。

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カテゴリー: アドバイス, 中学受験, 子どもの発達, 子どもの自立, 家庭での教育

どうして勉強しなきゃいけないの?

2011 年 4 月 11 日 月曜日

 弊社は中学受験塾です。当然、通っている子どもたちは、親に「優秀になってもらいたい」と期待されています。

 しかしながら、まだ子どもですから「どうして勉強しなければならないのか」「なぜ自分に勉強が必要なのか」がわかっていないケースが多いものです。6年生になり、行きたい学校が定まってくると、子どもの様子も大概変わってきます。しかし、4・5年生のうちは、なかなか勉強に向かう姿勢が親の満足するレベルには到達していないものです。それが親のストレスにつながっていることも少なくありません。

 「どうしてちゃんとやれないのか」「もっとしっかり取り組んでほしい」など、多くの親はイライラを募らせながら、「どうしたらもっとがんばるようになるだろうか」と思案しています。

 「わが子の勉強の必要性をしっかりと理解してほしい」と思うものの、それを伝えるよい手段が見つからず、困っている人はいませんか?

 どうして勉強しなきゃいけないのでしょう。勉強の必要性を子どもにどう言えばわかってもらえるでしょうか。それがわかれば、親のストレスは随分軽減されるでしょうに・・・・・・。

 「勉強しなければならない理由を子どもにどう説明したらよいか」――これは、だいぶ前からおかあさんがたに集まっていただく催しのテーマにしてみたいと考えていたことです。しかしながら、実は筆者にも最高の答えは見出せず、いまだに実現していません。

 あるとき、公立中学校の校長先生のブログを拝見していたら、ある日の朝礼のことを記事にされていました。その朝礼での言葉が、まさに「勉強はなぜしなければならないのか」でした。かいつまんでご紹介してみましょう。

1.脳細胞を活性化する

 脳細胞は140億個あると言われるが、多くの人はその数%しか使っていません。頭がいいかどうかは、この脳細胞をどれだけ使っているかで決まってきます。脳細胞は、使えば使っただけ働きがよくなります。だから、子どもの時期にどれだけ鍛えたかが一生を左右します。

2.若いときには勉強という辛いことに立ち向かうべき

 家でTVを見る1時間と、机に向かう1時間と、どちらが辛いですか? 答えは決まっていますね。敢えて辛いことに自分を追い込んでいく。今のみなさんにはこういう体験が必要です。自分が鍛えられ、育てられます。また、勉強は本来やりがいがあり価値のあるものです。今までできないことができるようになるとうれしいですね。こういう喜びは、極めて価値の高い喜びです。

3.将来の可能性を広げる

 将来してみたいこと、就きたい職業がありますか? 夢の実現には血のにじむ努力が必要です。イチローみたいな野球選手になりたくても実現する可能性は低いものです。将来の職業を考えると、多くの人にとってペーパーテストが大きなポイントになります。テストで点がとれるほど、選べる大学の数が増えます。なれる職業の数が増えます。

 どうでしょう。参考になる面もありますが、小学生にはまだわかりにくいかもしれません。ある本を読んでいたら、「何のために勉強するのか。それは幸せになるためだ」というのがありました。その説明を読んでいたら、思春期を迎えた中学生以上の子どもにはある程度説得力があるようなことが書いてありました。以後、別の人の著作にも「人間は、幸せになるために勉強するのだ」という記述がありました。

 ですが、小学生にはやや抽象的でわかりにくいのは否めません。そこで、自分はわが子にどう言ったかを振り返ってみました。

 いささか断片的にではありますが、少し思い出しました。中学受験のための勉強をさせているときです。「人間は、何か仕事をしないと生きて行かれない。でも、仕事なら何でもいいというわけにはいかないよな。どんな仕事をしたいか決めたとき、その実力がないとその仕事には就けない。勉強をしておけば、それだけなれるものが多いんだよ」というようなことを言ったと思います。前出の校長先生の言葉の三つ目に近いでしょうか。

 中学受験をめざす気持ちを高めるために、こんなことも言ったように思います。「人間は、一人じゃがんばれない。勉強もそうだ。がんばる人が周りにいたら刺激をもらってがんばれる。だから、回りにがんばる人がたくさんいる学校をみんなめざすんだよ」

 すみません。いずれもあまり説得力がないですね。ともあれ、親が「なぜ勉強が必要か」をわが子に語って聞かせることはとても大切なことだと思います。感情的に叱ってやらせるのではなく、冷静に熱意をもって語って聞かせれば、子どもはいつの間にか親の考えを自分のものとして受け入れているものです。是非あきらめずに、今のうちに親の考えを伝えてあげてください。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について

受験生活で親が忘れてはいけないことは?

2011 年 4 月 4 日 月曜日

 毎年のことですが、4月を迎えると幼稚園では入園式が、また小学校から大学までのほとんどの学校では入学式が行われます。私事ですが、筆者の愚息も大学へ進学しました。

 子どもが家元を離れるまでの期間は、意外と短いものなんだということを、子どもがわが手を離れて初めて思い知った次第です。ガランとしたわが子の部屋に入ると、感慨よりも寂しさを禁じ得ませんでした。

 わが子が家を出るとき、「新たな門出だ。おまえには未来と希望がある。ほんとうの勉強は今からだぞ」と握手をして送り出しました。しかし、実際にわが子が家を出てしまうとこの体たらくです。わが子の存在は、自分のなかで大切な部分を占めていたのですね。我ながら情けない話です。親の「子離れ」ができていなかったのかもしれません。

 以前ご紹介したことがあるかと思いますが、ある本に「子育ては、何のためにするものだと思いますか。子どもと別れるためにするものなのですよ」というくだりがありました。大学病院でカウンセラーをしておられる有名な先生の言葉です。今年の春、筆者は改めてこの言葉をかみしめることになりました。

 今、わが子を家庭学習研究社の教室に通わせておられる保護者の方々に、また、毎日子育てにがんばっておられるおとうさんやおかあさんに、改めてこの言葉を贈りたいと思います。わが子が自分の手元を離れるまであと何年あるでしょうか。実は、そんなに長い期間は残されていません。もしお子さんが10歳であれば、あと8年もすれば大学生です。多くのお子さんはおそらく家を離れ、遠くで大学生活を送ることになるでしょう。

 さて、先ほどの話に戻ります。「子育ては子どもと別れるためにするもの」という言葉の意味についてです。時期が来たら、どの家庭でもお子さんは親のもとを離れるのは分かり切ったことです。ただ、そのときに親としてどういう気持ちになるかが重要ではないでしょうか。「この子は、何とかやっていくだろう」という気持ちになれるよう、悔いのない子育てをしておかねばなりません。

 では、悔いのない子育てとは何でしょうか。それは、一言でいえば「子どもを精神面でも行動面でも自立させること」ではないかと思います。

 先日、広島の私立一貫校の教頭先生とお話しする機会がありました。そのとき、「入学試験に受かる学力をつけておくこと以外に、貴校に入学する前に準備しておくべき大切なことは何かありますか」とお尋ねしたところ、「自分で考え、自分で行動できるようになっておくことです」という答えが返ってきました。

 最近は、何でも親が手出し口出しし、自分でやる姿勢の欠落した生徒さんが多いのだそうです。受験勉強も生活面も、みな大人に取り仕切られて私学に受かっても、後が続かないのだそうです。「社会に通用しない人間では、学力はあってもどうにもなりません」とおっしゃっていました。

 もう一度、先ほどの「子育ては子どもと別れるためにするもの」という言葉に立ち返って考えてみましょう。子どもの独り立ちの準備に向けて、親として様々な配慮が必要なのは、子育てをしている最中のまさに“今”なのですね。

 受験勉強を塾任せにしたり、親が深入りしたりしたのでは、いつまで経っても自立はままなりません。また、生活習慣の自立は、どの私学でも口を揃えて「最も重要なことだ」とおっしゃっています。受験生活を最優先するあまり、子どもの毎日の生活に関わる諸々のことが自立とほど遠い状態にあると、受験突破には何とか漕ぎつけても、中学・高校生活が立ちゆかなくなってしまうのです。

 こうした点に鑑みると、受験生の親としての務めは、「受験勉強の応援」というよりは「受験勉強を含めた、わが子の全体的な自立への配慮」であろうと思います。何でも自分のこととして受け止め、自分で考え判断し行動できる人間になれるよう、勉強面以外にも心を配り、サポートしてあげてください。

 私たち家庭学習研究社は、「子どもを鍛えて合格させる」というのではなく、「子どもが自立勉強の手だてを獲得できるよう応援する」のが役割であると認識し、ご家庭の自立に向けた子育てと連動して学習指導を行っています。

 18歳の春、「少々の困難に負けず、何とかやっていけるだろう」という期待をいだいてわが子を送り出せるよう、今のうちに親として何をしておくべきかをお考えいただくきっかけにしていただけたなら幸いです。

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