天才肌の凄い子どもたち

2012 年 9 月 3 日

 中学受験は12歳の子どもの受験です。発達途上にある小学生が受験生ですから、受験生活に関わる周囲の大人の配慮が欠かせないことを、このブログでも再三書いています。

 しかしながら、なかにはとてつもなく完成度が高く、小学生とは思えないような子どもがいます。「小学生でも、こんな凄い子がいるんだ」と、驚き感心させられることが、これまで幾度となくありました。今回は、そんな子どもたちのことを思い出し、書いてみようと思います。

 A君を知ったのは、彼が5年生のときでした。いつも休憩時間になると、文字のぎっしり詰まった文庫本のようなものを読んでいました。近寄ってみると、分厚い大人向けのミステリーでした。「こんな本に興味をもつとは、随分早熟な子どもだな」と思ったものです。

 筆者は国語の指導を担当していましたが、彼の成績は常にトップランク。他教科も同様で、他の子がうらやむような優秀な子どもでした。ただ気になったのは、国語の授業中に下のほうに顔を向け、何か読んでいるような気配を感じたことでした。「さては、例の本を読んでいるな」と思い、ときどき抜き打ちで発表をさせたり、発問を投げかけたりしてみました。ところが、彼は何でもないような顔をして、きちんと受け答えをするのです。メガネ越しに見える彼の涼しげな大きな瞳が、ククッと笑っているようで、「またやられた」と思ったものでした。

 結局、一度も彼のしっぽをつかむことができませんでした。いや、もしかしたら私の勘違いだったのでしょうか。今となってはわかりません。彼は、算数もよくできましたが、中学受験では余裕綽々で第一志望校に受かり、やがて東大の理Ⅰに進学しました。

 B君も天才肌を感じさせる印象的な子どもでした。6年生の国語テストでのことです。大概の子どもは、文章をろくに読み通さないままに、確実に点を稼げそうな漢字や語句などの問題を物色するものですが、彼は違いました。当分の間腕組みをしたまま、じっと素材文に目を集中させていました。半分近くの問題をやり終えた子どもがいるなか、1問も手をつけていない彼が心配になったほどです。

 机間巡視をしながら、10分ぐらい後に再び彼の席のところに戻ってみると、いつの間にか全問やり終えているではありませんか。文章をしっかりと読み通すことに集中し、読み終えるや否や瞬く間に全ての問題をやり終えてしまったのです。この子も理数系に強く、中学受験では受験校の全てに受かり、やがて東大理Ⅰに進学しました。

 次も男の子の話です。筆者は6年生の男子クラスを担当したことが多く、どうしても事例が男の子に偏ってしまいます。ご了承ください。

 6年生ともなると、国語のテキストに載っている素材文はかなり難しくなります。大人向けの小説などから引用される文章も少なくありません。あるとき、テキストの素材文に使用された小説に興味をもち、「先生、この話を全部を読みたいから本の名前を教えてください」と言ってきた男の子がいました。C君です。「これはやめておけ。3部作といって、三冊でストーリーが完成している本で、読むのは大変だ」そう言いながら、本の名前だけ教えてやりました。何週間か後、「先生、この間紹介してもらった本、面白かったです」と彼が報告してきました。ちょうど読書感想文の課題が出たので、その本の感想文を書いたとか。

 彼は読書家で、受験勉強もそぞろに本ばかり読み耽り、おかあさんは常に心配をしておられました。そんなおかあさんを後目に、相変わらずの読書三昧。そして、たいした勉強もせずに、何食わぬ顔で志望校に合格しました。彼の膨大とも言える読書量は、素晴らしい知識、思考力を彼に授け、僅かな受験対策の勉強でも入試に通用する学力を養ってくれたのでしょうか。

 今度は女のお子さんの話です。あるとき、6年生のDさんから電話を受けました。「質問ですか。何ページの何番かな?」そう尋ねると、「いいえ、問題の質問じゃありません。それなら、解答を読めばわかります。私が知りたいのは、文章中の接続詞のことです。なぜこの接続詞がこの場所にあるのか納得できません。教えてください」そう言われ、急いでテキストの該当個所に目を通したのですが、大人向けの随筆で、しかもかなり込み入った文章でした。すぐには答えられそうになく、「しばらく時間をくれないかな。後で電話します」そう言って、一旦電話を切りました。

 何度も文章を読み直したあげく、やっと理屈がわかりました。その接続詞の前の10行余りは挿入段落になっており、回想の部分として差し込まれていました。だから、接続詞は直前の段落の内容ではなく、10行以上も前の内容を接続していたのでした。そのことを説明すると、「ありがとうございました。スッキリしました」と言ってお礼を言ってくれました。こういう質問をする子はちょっといません。「凄いお子さんだな」と、感心することしきりでした。後で知ったのですが、彼女は6年生の女子でトップ3に入る大変優秀なお子さんでした。

 E君は、国語の記述問題で、模範解答よりよいと思うような、優れた答えを書いてくる男の子でした。大人の作成した答えは子どもの発想にはないことが多く、スッキリしないものの、代わりのよい答えがまとまらず、ついついそのまま使ってしまいがちです。ところが、E君の書いた答えは、子どもの考え得る最高の答えであることが多く、「これこそが、子どもの模範解答だ」と唸らされたものでした。

 実は、E君は他の教科の指導担当者からも怖れられる(?)存在でした。授業中、彼が「今の問題ですが、僕は違った答えかたをしているんですけど」と質問をすると、必ずと言ってよいほど、彼の考えた答えかたのほうがよいのです。彼の謙虚な言いかたに、どの担当者も好感をもちました。そして、そういうことがあるたびに、指導担当者の間で話題になったものでした。そんな彼ですから、中学入試では第一志望校に受かったのは言うまでもありません。中学進学後も、その学校で先生がたを唸らせたことでしょう。

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カテゴリー: がんばる子どもたち, 勉強について, 子どもの発達

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