2014 年 9 月 1 日 のアーカイブ

「勉強しなさい!」は逆効果?

2014 年 9 月 1 日 月曜日

 「わが子には、高いレベルの学力のもち主になってほしい」――これは、多くの親の願いであろうと思います。そこで、大概の親は「どうやったら子どもの学力が伸びるか」に関する情報を探したり、いろいろと試みたりされていることでしょう。

 どの中学、高校、大学に入るかが、子どもの人生に決定的な作用を果たすとは限りません。しかしながら、世間的評価が定まっている学校に進学すれば、ある程度の見通しを立てることはできます。たとえば、東京大学のような難関大学に進学した学生が、子どものころどういう教育環境で育っているのかがわかるような資料があれば、知育に熱心な保護者の方々にとって大いに参考になることでしょう。

 実際、筆者もそういった類のものをこれまで何度か目にしたことがあります。今回は、その中からわかりやすく参考になりそうなものをピックアップしてご紹介してみようと思います。いずれも1冊の本のなかで紹介されていたものです。

 まず、「子どもが家庭で勉強するときの場所」としては、どこがふさわしいでしょうか。東京大学の学生約千名を対象にした調査によると、一番多かったのは「リビング」で、48.6%を占めていました。続いて多いのが「子ども部屋」で31.4%、その次が「台所」で9.1%、「おとうさんの書斎」2.3%、「その他」3.3%となっていました。

 お宅ではどうされているでしょうか。子どもの勉強のために特別な部屋は必要ではなく、むしろ親が様子を見ていつでも声をかけられる場所のほうが、小学生にとっては安心して学べるし、学習の習慣づけという観点からも効果があるようです。親に見守られるとやる気になるというのは、小学生までの子どもならではの効果と言えるかもしれませんね。

 以前、「リビング学習」をお勧めする記事を書いたことがあります(いまだに多くのかたが読んでくださっています)が、やはりこの調査結果を見てもリビングで学習することは成果につながるようです。小学生には、リビング学習を!

 子どもが知的なものを志向する人間に育つかどうかに関係することとして、「家庭内にどんなものが備えられているか」ということがあります。さて、東京大学に進学するような知的レベルの高い学生の家庭はどうだったのでしょう。「子どものころの身の回りにあったもの、環境」を尋ねたところ、次のような回答があったそうです。

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 この調査においても、自分専用の勉強部屋を与えられていた学生はさほど多くないことがわかります。「時計」が多いのは、家庭内にあったものとして思い出すものとしては当然かもしれません。ただし、アナログの時計に早くからなじんでおくことと、算数の能力にはかなり相関があるようです。ですから、高い学力が身につくことと無関係ではなさそうです。

 次に多いのが「勉強机」ですが、中学受験をわが子にさせるような家庭では大概子どもの勉強机が用意されていると思います。よって、これは「必要条件」の一つとしてとらえるべきでしょう。

 そのほかで目につくのは、「おもちゃ箱」、「国語辞典」、「百科事典」、「地球儀」、「楽器」、「生き物」、「地図」などですが、いずれも子どもの興味を刺激するものという共通点があります。親が、これらについて話題にし、子どもが興味をもつようならさまざまなことを教えてやる。そういったことを通じて、子どもが知的好奇心を養い、ものを知るということに熱心な人間に育つ。そういった効果があるのは頷けることです。

 なお、「テレビゲーム」と答えている学生が26.1%います。これは「与えると勉強ができる子どもになる」ということよりも、テレビゲームは現代の子どもに深く浸透しており、東京大学へ進学するような優秀な子どもも一定数はテレビゲームに興じていたというふうに理解すべきであろうと思います。ポイントは、息抜きとして活用する範囲に留めるということではないでしょうか。

 このブログで何回も取り上げている「家族揃っての食事」の重要性ですが、ただ家族そろって食べるのならどんな状況でも子どもにとって好ましいというわけではありません。以前書いたとおり、「家族で楽しい会話を交わしながら食事をする」ということが子どもの成長にとって望ましいと言われています。東大生の子どもの頃の食事風景はどのようなものだったのでしょうか。筆者が拝見した資料では、朝食と夕食に分けて調査した結果がまとめられていました。

 それによると、朝食で一番多かったのが「家族で会話をしながら(58.4%)」、次が「テレビを見ながら(40.4%)」、以下、「家族で黙って(13.6%)」「お父さんが新聞を読みながら(11.1%)」「音楽・ラジオをかけながら(2.7%)」の順でした。夕食で一番多かったのも「家族で会話をしながら68.1%)で、以下、「テレビを見ながら(41.4%)」「家族で黙って(11.1%)」「音楽・ラジオをかけながら(3.6%)」の順でした。

 どうでしょう。家族で会話をしながら食事をとっていた家庭が多いのは頷けますが、意外とテレビなどをつけながら食事をする家庭が多いことに驚かれたでしょうか。この資料を掲載していた本には、「東大脳ホルダーの家庭だからといって、ことさら厳格であったり、特殊なルールがあったりするわけではありません。普通の家庭と変わらない光景が広がっています」とありました。さらに、次のような解説が加えられていました。

 「会話」は、子どもの脳を刺激するのに非常に効果的です。テレビを観るという行為は非常に受動的で、脳も限られたごく一部の部位しか働いていないことが脳の研究でわかっています。ところが、生きた人間との会話のやりとりになると、人間の脳のあちこちの部位、特に判断力や記憶力、創造性を司る「前頭葉」が非常に活発に動き出すのです。

 いかに家庭の食事を楽しくにぎやかに、そして、自然に脳がいろいろな刺激を受けてしまうようにできるか、どうやらこのあたりが、東大脳ホルダーの家庭とそうでない家庭を分かつひとつのポイントになりそうです。

 最後に、「子どもに勉強させようとしたときどんな言い方をするか?」という質問に対する回答の結果をご紹介しましょう。

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 これを見ると、「勉強しなさい」と指示や命令をしている親は少数派です。一番多いのは、「『勉強しろ』とは言わない」という回答で、67.5にのぼります。多くの保護者がご存知のように、「勉強しろ」と言わないで子どもを勉強に向かわせる方法というのは非常に難しいものです。子どもを東大へ進学させる親は、こうした点で成功しておられるようです。

 では、具体的には親としてどういうスタンスで子どもを育てれば命令、指示、叱責などに頼ることなく子どもを勉強に向かわせることができるのでしょうか。これに対する明確な答えは残念ながらありません。実は、この部分を掘り下げて考えることこそ、親に求められるのであろうと思います。

 他の資料を拝見すると、東大生の親の子育ての基本スタンスは、「放任スタンス」が40.7%、次が「ほめるスタンス」で19.6%、その次が「諭して叱るスタンス」で19.4%、その次が「怒鳴るスタンス」で12.5%、その次が「細かく指導するスタンス」で7.3%でした。

 放任という言葉が用いられていますが、これは「子どもをほったらかしにして無関心でいる」ということではなく、「親の考えを日頃からしっかりと伝え、何事も子ども自身に考えてやらせ、親は少々のことでは介入しない」ということのようです。また、「子どものやることに対して、否定的な見かたをしない」ということが、放任スタンスの親の特徴だと説明されていました。

 多くの親は途中で子どもに介入し、いろいろ小言を言ったり指示や命令をしたりしがちです。ですが、親の方針を伝えたら、あとは子どもを信じて見守る、うまくいかないときに相談に乗る、といったように、子どもに任せて大丈夫になるよう仕向け、辛抱強く子どもの成長を応援することがどうやらポイントのようです。つまり、何をするにつけ自分で考えて行動できるよう自立させているわけです。

 さて、いくつかの資料に基づいて「優秀な子どもに育てるため必要なことは何か」について考えてみましたが、新たな気づきはあったでしょうか。

 どうやら、「特別な方法などない」という結論が導き出せそうですが、それでも調査資料の一つひとつを点検してみると、当たり前のことのなかに子どもが優秀に育つ理由が見出されるように思います。保護者の方々には、それぞれの項目と家庭の現実とを突き合わせ、参考にすべき点、気づいた点を今後の子育てに活かしていただければ幸いです。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 子どもの自立, 子育てについて, 家庭での教育