自制心と学力の相関関係

2014 年 9 月 15 日

 学力を伸ばすには、ただ才能に恵まれているだけではだめで、適切な学習環境が与えられるかどうか、成果につながる学習活動が営まれるかどうかも大いに関与してきます。

 このブログにおいても、そうした観点から「学習習慣」「学習意欲」「学習方法」など、学習の成果を決定づける重要な要素を取り上げ、それらが果たす役割についてご説明してきました。

 今回は、「自制心が学力形成にどう関与するか」ということを話題に取り上げてみました。「自制心」は、「我慢」という言葉に置き換えることも可能ですが、このほうが実際場面に照らして考えやすいかもしれません。では、「我慢」することと、学力形成にどんな関係があるのでしょうか。家庭のしつけ・教育と密接に関わる話題ですので、やや硬い話題ですが敢えて取り上げてみました。

20140915a ずいぶん前のことですが、ある心理学者(米国)が「子どもにほうびを我慢できる能力が備わっているかどうかを実験によって調べました。実験の対象は保育園の園児たちでした(ほとんどの園児は、しつけの行き届いた富裕家庭の子ども)。子どもを一人ずつ部屋に入れ、お菓子やおもちゃなど子どもの好きなものを一つ部屋に置き、ほしくなったときにベルを押して品物をもらうか、最後まで待って品物をもらうかのどちらかを選択させました。

 この実験のミソは、最後まで待ったら同じものを二つもらえることを子どもに伝えておいたという点にありました(たとえば、ベルを鳴らしたらクッキー1枚、最後まで我慢したらクッキー2枚といった具合です)。この実験の趣旨は、「どれだけ欲求を抑えて我慢できるか」というもので、長く我慢できる子どもほど「満足遅延」の能力が高いとみなされます。

 さて、実験を行った心理学者は10年後、子どもたちがどのような高校生になっているかを調べました。親にどのような生徒であるかを報告してもらったのですが、満足遅延の能力が高かった(ほしいものを手にするまで長く我慢できた)子どもほど、集中力に富み、計画性があり、困難な状況に強く、ストレス耐性が高い高校生に成長しているということがわかりました。なお、学者によっては「満足遅延の能力が学力形成に寄与するのではなく、生まれつきの才能や環境的理由で10代になってから学力が伸びたのだ」という見解を示しているようですが、自制の能力が勉学をはじめ様々な知的活動にプラスの作用を果たすことは、少なくとも間違いないと言えるでしょう。

 同時に、子どものこうした特徴と学力には高い相関があることも判明しました。園児の頃、満足遅延の能力が高かった子どもほど、SAT(大学進学適性試験)で高いスコアを得ていたのです。たとえば、ベルを鳴らさずに待てた時間と、SATにおける語学スコアとの相関は0.42、数学のスコアとの相関が0.57でした。これはかなり高い相関を示していると言えるでしょう(参考:完全に正の相関がある場合が1、全く関係がない場合が0)。

 このことから推し量れるのは、より大きな満足のために自分の目先の欲求をコントロールできるようになった子どもは、年齢が上がってからも自分の達成したい目的のために努力を惜しまない人間に成長できるということです。

 SATのスコアと、いわゆる知能指数との間には、高い相関があると言われています。しかし、実験の結果わかったように、学力を決定づけるのは天賦の才だけではなく、自分のほしいものを手に入れるために我慢するなどの「動機づけ」も、大きな作用を果たしているようです。

 さて、ここまで読んで、「じゃ、どうやって自制心の強い子に育てればいいのか?」ということに興味をもたれたかたもおられるかもしれませんね。ここまでの記事は、アメリカの心理学者リチャード・E・ニスベット氏の著述を簡単にまとめたものですが、氏がこの点に言及している箇所がありますのでご紹介してみましょう。

 残念ながら、子どもの自制心を高める方法がわかっていると自信をもって言うことはできないが、研究によっていくつかの手がかりは得られている。出来に関係なく自分に報酬を与える大人を見た子供は、自分もそうすることがわかっている。出来のよかったときにだけ自分に報酬を与える大人を見ると、子どももそうする。

 またある学者は、すぐに菓子に手をつけずに、より大きな褒美を待つよう子供を仕向けるこつを、いくつか見つけた。褒美のことではなく、「楽しいことを考える」ようにさせると、子どもは長く待つことができた。褒美を遠くに置いて視線から外させても、長く待つようになった。こうしたヒントが実験室での彼らの実験以外でも一般的に通用するかどうかはわからないが、おそらく通用するだろう。また子供の我慢を励ますような機会を親が探し、とくにどのように我慢すればいいかを親がアドバイスすれば、効果があるかもしれない。親が満足遅延の手本になろうとしてもよいかもしれない。

 上記の実験を行った学者は、「子どもは、観察した親と同じようにふるまう」ということを発見しました。たとえば、一部の子どもには、後でより大きな報酬をもらう代わりに、すぐに報酬をもらう大人の様子を見せました。その大人はこう言いました。「気づいただろうが、私はその場で手に入れるのが好きだ。人生でも、待ちすぎると、ほんとうの生き方をする時間がなくなるんだ」と。 満足遅延の能力を備えた子どもでも、このような手本を見ると、その後はほとんどの場合すぐにほうびに手を出したと報告されています。

 ここまで読まれたかたの大半は、しつけ・教育の重要性を改めて痛感されたのではないでしょうか。これまでに何度も書きましたが、小学生までの子どもはまだ行動規範がしっかりと身についていません。悪い見本を見ると、すぐ真似をしてしまいます。子どもに我慢する心を身につけてほしいなら、親は我慢する姿勢を子どもに手本として示すことが大切なんだということを、改めて思い知らされます。

 また、「楽しいことを考えさせる」ことが満足遅延を機能させるコツになるというのも、参考になるかもしれません。受験生活においても、楽しいことをうまく織り交ぜるよう工夫をすれば、子どもも気持ちにゆとりをもつことができ、もっと頑張れるのではないかと思います。

 目先の小さな喜びより、我慢や辛抱をしてより大きな喜びを得ることのほうを選択する。それを教えるチャンスは、小学生までなら日常生活の様々な場面でたくさん見出せるのではないでしょうか。また、家族それぞれが手にしたい目標を話し合って掲げ、それが実現するまで励まし合うというのも一つの方法かもしれません。20140915B

 中学受験をすることの意義は、こうした親の配慮やサポートを通して、子どもの人間形成の場として活かせるということにもあるでしょう。受験での合格も重要なことではありますが、受験のプロセスで自己抑制、自己コントロールの姿勢を身につけたなら、先々の人生においては合格したことよりもむしろこちらのほうが自分の支えになってくれることでしょう。中学受験を視野に入れておられるおとうさんおかあさんが、こういった観点からもお子さんを見守り応援されれば、受験の経験がより生きてくるのではないかと思います。


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