2015 年 2 月 16 日 のアーカイブ

受験生活のスタートにあたって

2015 年 2 月 16 日 月曜日

 教育の世界に「人間怠け者説」という言葉があります。「人間というものは生来怠け者であり、何事も無理にでもやらさないと努力しない」――このような観点に立つ言葉です。確かに、人間にはそういう弱さがあるのも事実でしょう。多くの人間は、やるべきことの時期が迫ったり、やらざるを得ない状況に追い込まれたりしないとがんばりが利きません。一説によると、日本人の8割以上はこういうタイプだと言われています。

 では、子どもの勉強についても同じ考えに立ち、子どもの自発性をあてにせず、無理強いしてやらせるべきでしょうか。みなさんはどう思われますか? 実は、この方法こそ「怠け者」の大量生産に与(くみ)する誤ったやりかたであると筆者は思います。

 中学受験の準備学習を例に考えてみましょう。合格を得させてやりたいのが人情です。しかし、そのために大人が采配を振るって勉強させたのでは、学びの自律性も積極性もうまく育ちません。そればかりか、下手をすると「隙あらば、勉強から逃げ出したい」というネガティブな気持ちを助長してしまうのではないでしょうか。

 そもそも、小学生の子どもは考えること、解き明かすことが大好きです。「自分でやれた!」ということに無上の喜びを感じる年齢です。この経験が向上心や前向きさを育てるわけです。20150216a

 この点に鑑みるなら、子どもの将来を見据えた学習という視点に立ち、せっかく備わったすばらしい資質を伸ばしてやることを大人は考えるべきではないでしょうか。

 このようなサポートに基づく学習が実現したなら、おそらくその子どもは生涯自律的に学ぶことを忘れない人間に育つでしょう。「人間怠け者説」とは正反対の、前向きで主体性のある人生を送れる人間になれることでしょう。中学受験は、その活かしかた次第で子どもに得難い知的財産をもたらす絶好の場になるのです。

 さて、このところ「児童・生徒の学習意欲低下・学力低下」がしばしば取り沙汰されています。それは、勉強を放棄している一部の子どもだけの問題ではありません。6カ年一貫教育の進学校の生徒にも及びつつあります。子どもが消費社会に取り込まれ、目先の楽しさに埋没させるゲームや遊びの類が日本のどこに暮らしていても浸透しつつあることも原因の一つと考えられます。また、かつての貧しい社会と比べ、ほとんどの家庭は衣・食・住が満ち足りています。そういう環境で暮らすと人間はハングリー精神を喪失し、「何につけてもモチベーションが上がらない」という専門家の指摘もあります。

 子どもの本質はいつの時代も変わりません。しかし、子どもを取り巻く環境は刻々と変わっています。その変化が子どもの成長にどのような作用をもたらすのか、大人は敏感に読み解く必要があるように思います。子どもの「学習意欲」が自然に高まるのを期待するだけでなく、勉強の楽しさにふれるチャンスを大人が意図的につくってやる。そうして学びに積極的な人間に育てるということが必要な時代が訪れているのではないでしょうか。

 私たち家庭学習研究社がお預かりするのは、成長途上にある小学生の子どもたちです。この子どもたちが受験のプロセスでどのような学習を積み重ねていくかで、将来どんな人間になっていくかがかなりの確率で決まるのです。なにしろ、受験準備の期間は最低でも1年かかります。2年、3年間が普通であるこの長い期間に体験する勉強を通して、子どもの人間としての枠組みも決まっていきます。つまり、子どもの学びの姿勢を決定づけると言っても過言ではありません。

 近年、「学歴はあっても社会で役立たない人間」の増加が取りざたされていますが、中学受験を乗り越える方法を間違えなければ心配要りません。受け身の勉強ではなく、自らを律した学習によって学力をつけた人間は、そうした人間に陥る危険性が極めて少ないからです。

 2月21日(土)には、いよいよ2015年度の5・6年部講座がスタートします。この段階からしばらくは、ただカリキュラムに沿った勉強を進めていくだけでなく、自分で学ぶために必要な方法や姿勢を獲得するための指導も行ってまいります。

 保護者におかれても、当面はテストの成績に振り回されず(すぐに成績が安定軌道に乗るお子さんはそう多くありません)、「まずは、学びの手立てを身につけるのだ」「しっかりとした学習の習慣を身につけるのが先決だ」と認識していただき、そうした観点からほめること、激励すること、反省を求めることを心がけていただくようお願いいたします。私たち指導担当者も、前述のような指導でしっかりと成果をあげるだけでなく、学びに向かう真摯な姿勢をもったお子さんになるよう精いっぱい応援させていただきます。

 御承知のように、人間ほど生まれてから成熟するまでに時間のかかる動物はいません。知性の座と言われる前頭前野が完成に至るのは成人を迎える頃であり、実に20年あまりの年月が必要です。そんな動物は人間以外にありません。成熟に時間を要するということは、それだけ教育に時間をかけることができ、それによって変わる可能性が高いということを意味します。人間の脳が優れた知恵を身につけられるのは、長い成熟に達するまでの期間があるからなのですね。

 ただし、他のいかなる動物よりも未熟に生まれ、長い成育期間を必要とする人間は、それだけ与えられた環境の影響を強く受けることになります。どうか、中学受験の準備にあたる期間の子育てや親子関係についても十分な目配りをお願いいたします。

 繰り返しになって恐縮ですが、大切なのはお子さんの将来です。この将来を明るく希望に満ちたものにするための土台を築く時期に受験があることを忘れないでください。もしも、受験勉強がお子さんにとってマイナスに作用するような事態になったなら、受験をパスすることもあってよいのではないでしょうか。

 弊社におきましても、心身ともに健全な人間に成長を果たしたうえでの入試合格が実現するよう、全力で指導にあたらせていただきます。ご理解ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

LINEで送る
Facebook にシェア
Pocket

カテゴリー: アドバイス, 中学受験, 勉強の仕方, 子どもの発達, 子どもの自立, 子育てについて, 家庭学習研究社の特徴, 家庭学習研究社の理念