2015 年 8 月 のアーカイブ

子どもの意欲の起点にあるおかあさんの存在

2015 年 8 月 31 日 月曜日

 前回は、欧米人と日本人(アジアの他国を含む)の学習観の違いについてご紹介し、「学習すれば能力を伸ばせる」という考えが望ましいものであり、日本人の美徳であるということをお伝えしました。

 ただし、「学習すれば能力が伸びる」という考えは、成績主義の考えかたや受験での過剰な競争を引き起こすというマイナスの側面もあるように思います(韓国や中国にも同じ状況が見られます)。それがプレッシャーになり、日本の子どもたちの学習意欲低下や自分に対する自信の喪失につながっているのかもしれません。

 また、学習意欲の低下は今日の社会が引き起こした必然的現象でもあります。衣・食・住の満ち足りた今日においては、子どもの学びのモチベーションを上げる要因を見出しにくいのではないでしょうか。そのうえ、少子化の進行は子育てを過保護へと向かわせ、子どもの自立性や自己コントロール能力が育ちにくい環境を形成しています。さらには、様々な工夫されたゲームの類が子どもを誘惑してきます。今の子どもはそれらを簡単に買えるほどお金持ちですから、始末に負えません。

 しかしながら、学習意欲の低下は全ての子どもに及んでいるわけではありません。弊社は中学受験の専門塾ですが、「受験に合格するため」「親に言われるから」「成績を上げるため」といった、様々な重圧につながる要素を抱えた条件があるにもかかわらず、いつも笑顔を忘れず楽しそうに学んでいる子どもがたくさんいます。今、わが子の学習意欲に不安や不満を感じておられるご家庭だって、対処のしかた一つで状況を好転させることは必ずできるはずです。

 では、どうしたらよいのでしょう。まず、学習意欲のみならず、子どもの物事に向かう意欲を左右するものは何か(誰か)ということを、大前提としてはっきりさせておきましょう。それは間違いなくおかあさんです。この記事をお読みくださっているおかあさんがたには、このことをぜひしっかりと受け止めていただきたいと思います。

 子どもの行動に活気を吹き込む存在。この点においておかあさん以上の存在はありません。小学生までの子どもにとって、おかあさんにはそれほど大きな影響力があるのです。

 20150831aそう申し上げると、却ってプレッシャーを感じられるでしょうか。できれば、逆に受け止めていただきたいですね。「よし、私が子どもにしてやれること、今しかしてやれないことを悔いの残らぬよう実践しよう!」――ぜひ、そんなふうに思っていただきたいと存じます。実際、弊社の教室ですばらしい勉強の取り組みをしている子どものほとんどは、良好な親子関係のもと、おかあさん(もちろんおとうさんも)の適切な見守りや応援を学びのエネルギーにしているのです。決して特別な仕掛けがあるわけではありません。

 「玉井式国語的算数教室」の創始者である玉井満代先生は、講演会のたびに必ずおかあさんがたに伝えておられることがあります。先日(8月28日)、西区民文化センターで実施した「教育講演会」においても、同様のお話をされました。

 子どもは、おかあさんからおっぱいをもらわないと生きていけない赤ん坊のときから、ひたすらおかあさんを信じ、おかあさん大好きで育ってきたのです。子どもはこれまでの人生で、おかあさんからほめてもらう、ただそれだけのために日々がんばってきたのです。そのことをしっかりと受け止め、どんなときにもわが子をいとおしむ心を失わないようにしましょう。「子どもはおかあさんが大好き!」――そのことさえ忘れなかったら、みなさんが子育てで失敗することはありません。

 脳神経外科の専門家が書いておられる書物に、これと同趣旨の記述があります。「すべての始まりは、“お母さん”との出会い」という小見出しのページに、次のようなことが書かれていました。

 考えを生み出すという神経機能プロセスの形成は、生まれてだいたい三か月目、人の表情が見えるようになり、自分以外の他者を認識するようになってはじめてスタートします。外界に向けて開いたばかりの赤ちゃんの眼が、最初に認識するのは“お母さん”の表情とお母さんの姿。じつはお母さんを見て、興味を持ち、お母さんを好きになることから人間の脳を考えるしくみづくりは始まるのです。

 20150831bいわば母親という存在が起点になるのです。現に、お母さんに褒められたくて勉強やスポーツをがんばり、才能を開花させたという人は少なくありませんが、その姿勢はきわめて脳の理(ことわり)にかなっていると言えるでしょう。たとえ苦手なことでも、好きなお母さんのためにそれを覚えたり、考えたりするのは喜びだと、脳が感じるからです。そうした気持ちが組み込まれた情報は脳機能を活性化し、深く、長く記憶に留まると考えられます。

 この文章では、おかあさんという存在が子どもの物事に取り組む意欲の起点になるということが書かれています。そう言えば、何らかの子どもを対象とした調査の結果を説明した文章に、「この課題は、あなたのおかあさんの希望によって選んだものです」と伝えると、取り組む子どものモチベーションが上がる」といったような記述を目にしたことがあります。

 子どもにとって唯一無二の存在で、大好きなおかあさん。それは、「子どもの意欲を高めるのも下げるのもおかあさん次第である」ということを意味するでしょう。その大好きなはずのおかあさんが、子どもの「ほめてほしい」という願望に応えてくれず、逆に叱ってばかりだとどうなるでしょうか。

 前述の脳神経外科医の先生は、「母親という存在自体は根源的な好意や愛情の対象なので、そこに葛藤が生じます。子どもはとても苦しいのです。そうなると脳の自己防衛本能が働いて、いくらガミガミ言われても右から左へ『聞き流す』ようになってしまうのです。聞くふりをするだけで、内容は頭に入っていません。おかあさんに叱られて葛藤する苦しみから自分自身を守るために、脳がそうしろと命令するのです」と述べておられます。

 「うちの子どもは、親の話を聞こうとしません」という相談がときどきありますが、それは子どもの心の葛藤の為せる業なのですね。親としては辛いところです。子どものためを思っていろいろ言ってきたのが、逆効果になってしまうのですから。

 こうした状況を脱し、子どもの内心にある「おかあさん大好き!」という思いを素直に稼働させるよい方法はないものでしょうか。次回は、これをテーマにして話を進めてまいろうと思います。よろしければ、引き続きお読みください。

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カテゴリー: がんばる子どもたち, 子どもの発達, 子育てについて, 家庭での教育

欧米人と日本人の学習観の違い

2015 年 8 月 25 日 火曜日

 多くの小学校では、今週から通学が再開されるようです。月曜から学校が始まったご家庭もあるようですが、お子さんは気持ちよく学校に通われたでしょうか。

 毎年、夏休みの終わりごろになると子どもの自殺のニュースがテレビや新聞などで報じられています。大人に限らず、子ども同士にも難しい人間関係が存在します。夏休みにはそういったしがらみから一旦解放されていましたが、再び学校に通う時期が近づくとそれが強い重圧となり、辛いという気持ちが増幅されてしまうのでしょうか。

 先日は、二人の中学1年生が犠牲になった陰惨な殺人事件が発生しています。運悪く、常識の通用しない悪意に満ちた大人と接点が生じたとき、もはやだれもその子どもを助けることはできません。親は子どもの人間関係や行動について様々な観点からとらえ直し、わが子が危険にさらされないための対策を講じるべき時代が訪れているように思います。

 さて、アメリカの心理学者の著した書物に目を通していたら、子どもの学習と能力向上との関係について、日本の親なら当たり前と思っていることが、欧米諸国の親にとっては当たり前でないということを教えられる記述を目にしました。

 どういうことかと言うと、「勉強すれば自分の能力を伸ばすことができる」というのが日本やアジア圏の親の主要な考えかたですが、欧米の親は「能力、才能というものは生まれながらのものだ」と考える傾向が強いようです。このことについて言及された部分をいくつかご紹介してみましょう。

引用1 親にとって極めて重要なのが、知能は自分でコントロールできるのだと子供に教えることだ。アジア人はとくに、能力は勉強で手に入れるべきものだと考える傾向がある。当然、アジア系アメリカ人はヨーロッパ系アメリカ人に比べ、学習目標を達成するためにより懸命に勉強する。またアジア人は、成功したあとより失敗した後のほうが懸命に勉強する。一方ヨーロッパ系のアメリカ人は、失敗したあとより成功した後のほうが懸命に勉強する。最初に成功しなかったらもっと一生懸命勉強しなさいと、子供に教えるのが重要だ。

引用2 アジア人やアジア系アメリカ人の成果は、謎でも何でもない。懸命に勉強しているためだ。1980年代、日本の高校生は1日3.5時間勉強していて、現在はもっと長いかもしれない。インドシナ系ボートピープルの高校生の子供も、1日3時間勉強していた。一方、一般的なアメリカ人の高校生は、平均で1日1.5時間しか勉強しない。

 アジア人やアジア系アメリカ人の子供のほうが真剣に勉強するというのも、謎ではない。アジア人はこの本を読まなくても、知能や知的成果は大きく変えられることを知っている。孔子が2500年前に、その点を指摘している。能力の源を2つに分け、1つは生まれつき――天からの授かり物――で、もう1つは真剣な勉強によるものだと説いている。

 いまでもアジア人は、知的成果――少なくとも学校での数学の成績――はもっぱら真剣に勉強するかどうかの問題だと考えているが、ヨーロッパ系アメリカ人は、生まれもった能力や、教師がよいかどうかの問題だと考える傾向がある。アジア系アメリカ人はこの問題に対して、東アジア人とヨーロッパ系アメリカ人の中間の態度を示している。

引用3 アジア人やアジア系アメリカ人は、西洋人やアメリカ人と比べてもう一つ、動機づけに関する別の強みをもっている。何かに失敗すると、ますます必死で取り組むのだ。

 あるカナダ人心理学者のチームが、日本人とカナダ人の大学生を実験室へ連れてきて、創造性テストを受けさせた。しばらく取り組んだ実験参加者に、研究者たちはお礼を言い、どの程度の出来だったかを伝えた。そのとき実際の出来とは関係なく、一部の実験参加者にはとてもよくできたと伝え、残りの参加者にはかなりひどい出来だったと伝えた。続いて参加者に、好きなだけ時間を使ってかまわないからと告げ、同様のテスト問題を与えた。すると、カナダ人では、最初のテストで出来が悪かった場合より出来がよかった場合のほうが2回目のテストに長く取り組んだが、日本人では、最初のテストでうまくいった場合より失敗した場合のほうが長く取り組んだ。

 「勉強に一生懸命に取り組めば、自分の才能を伸ばせる」と信じ、テスト成績が悪かったら、挽回を期して次はがんばろうとする。確かに、日本人にはそうした傾向が見られます。これらは日本人の美徳であり、今日までの発展を支えてきた原動力だと思います。こうした美点をずっと持ち続けていたいものですね。

 しかし、日本の子どもには気になる点もあります。最近の大がかりな調査によると、日本の高校生の学習意欲が随分下がっているそうです。

 欧米の子どもは年齢が上がるほど学習意欲を高め、大学生は非常に熱心に学ぶと言われます。その一方、日本の子どもは大学に入るまでで金属疲労のような状態になるのか、大学生があまり勉強しないと言われます。

 また、アメリカの子どもは勉強の成績で自分に自信を失ったり、自己卑下をしたりしません。その一方、日本の子どもは勉強ができる割に自分に自信がもてないでいるという調査結果があります。これらと先ほどのアメリカの学者の著述とを、どう結びつけて理解したらよいのでしょうか。

 日本の子どもに足りないもの。それは、勉強をすること、それ自体に喜びを感じる体験ではないでしょうか。日本の子どもの勉強は、「テスト対策のため」「成績をあげるため」「進学のため」「親に言われたため」など、「~のため」に勉強する(させられる)傾向が強く、常に他者との比較で自分が評価されがちです。だから、勉強ができるのにいつまでも自信がもてず、逆に年齢が上がるにつれて自信も意欲も下がっていくのだと思います。アメリカの子どもは、勉強面ではパッとしなくても、一つできなかったことができただけで大喜びし、自信満々の笑顔を見せると言います。どちらが先々によい流れを生み出すでしょうか。

 以前にもご報告したかも知れませんが、実はこのブログの記事で最も読まれているカテゴリーの一つが「学習意欲」に関するものです。ブログの検索ワードに、「やる気」「小学5年、やる気なし」「学習意欲を高める方法」などの言葉が毎日多数見られます。

20150827a わが子の学習意欲の現状に、多くのかたが不満をもっておられるのでしょう。そして、「どうにかならないものか」と思案されているのでしょう。何度も書きましたが、子どもの学習意欲低下問題は、家庭の問題であるだけでなく、社会構造的な問題でもあります。とても難しい問題ですが、小学生の場合は親や周囲の大人の関わりやサポートしだいで随分変わる余地があります。

 筆者自身、どういうアプローチが望ましいのかをもう一度考えてから、またこの問題に対する対策を記事にしてみたいと思います。

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カテゴリー: 勉強について, 子育てについて, 家庭での教育

家庭学習を計画通りに進めるための一工夫

2015 年 8 月 19 日 水曜日

 長かった夏休みも、残り少なくなってきました。子ども達にとってはあっという間に過ぎていった休み期間だったかもしれませんね。
 さて、夏休みに入る前には多くのご家庭で学習計画を立てられたと思いますが、それに沿って家庭学習を進めることはできたでしょうか?もちろん「予定通り・計画通りにできました」というご家庭は問題ありませんが、その一方で「しっかり話し合って計画を立てたはずなのに、途中でうまくいかなくなってしまった」「宿題を予定通りすることができなくて、大急ぎで片づけているところ」というご家庭も少なくないのではないでしょうか。
 その原因は様々だと思いますが、大半のケースは、立てた計画が子どもの現状に合っていなかったり、最初の計画を途中で見直すことなく「やりっ放し」の状態になってしまっていたことにあるのではないかと思います。

 そこで、夏休み明けからの家庭学習を計画通り円滑に進めるための対策法のひとつとして、「PDCAサイクル」の要素を取り入れることをおすすめします。
 PDCAとは、「①計画(Plan)」→「②実行(Do)」→「③点検・評価(Check)」→「④改善(Act)」の4段階を繰り返すことによって、対象となる業務などを継続的に改善していくことをいいます。
 これを、当社の低学年部門の取り組みを例に挙げて、毎月末に実施している「実力確認テスト」や「ステップアップテスト」をペースメーカーとして設定する形にアレンジしてみましょう。

① 計画(Plan)
・・・月末のテストを目指して、お子さんの現状に合わせた「今月の目標」を掲げてみてください。例えば、「次の実力確認テストでは、前回の得点を1点でも上回る」や「次のステップアップテストでは、苦手な算数で平均点を超える」など、その1か月で達成可能だと思える目標を、親子で話し合って決めましょう。
 続けて、「今月の目標」の達成のために毎日取り組むべき具体的なルーティン(「◯時からは、前回の授業プリントの振り返り」「◯時から、計算練習帳1ページ」など)を考えて設定してください。そして、これが毎日習慣化させるべき家庭学習の内容になります。

② 実行(Do)
・・・①で掲げた「今月の目標」の達成に向けて、毎日のルーティンとして決めた学習に取り組んでみましょう。その際、前章でご説明したとおり、習慣として定着するまでは無理をすることなく、あらかじめ決めた時刻や分量を守った上で、こつこつと継続させることが大切です。

③ 点検・評価(Check)
・・・毎日の取り組みが自分自身でも確認できるように、1か月分の「取り組み表」や「頑張りカード」のようなもの(簡易なものでかまいません)を準備してあげるとよいでしょう。毎日のルーティンを終えた後で、計画通りに取り組めた証として、その表やカードにシールを貼るなどすれば、子どもも楽しく取り組めて、かつ毎日継続する励みになるはずです。

④ 改善(Act)
・・・月末のテストが終了した後、「今月の目標」がどの程度達成できたかという点や、ルーティンとして設定した内容が適切だったかなどの点を親子で一緒に振り返り、その反省を活かして、翌月末のテストに向けた新たな「今月の目標」を再び設定します。

 このように、月に1度実施される「実力確認テスト」や「ステップアップテスト」に向けた準備を当てはめると、サイクル1周がちょうど1か月になりますから、子どもにとっては見通しがもちやすく、家庭学習のリズムも作りやすいはずです。
 もちろんこれは一例ですから、塾のテストに限らず、学校で実施されるテストや習い事のタイミングなど、子どもが目標として捉えやすいものをペースメーカーとして設定すれば、毎日の家庭学習の習慣づけにもうまくつなげられるはずです。

 このサイクルをうまく継続させていくコツは、特に“点検・評価”や“改善”に力を入れることです。
 最初に計画を立てることに関しては多くのご家庭で取り組まれていることと思いますが、それをしばらく続けているうちに、継続させるための修正や工夫をいかに施すかという点が疎かになってしまいがちです。計画だけ立てて後は放っておく・・・のではなく、毎日の「取り組み表」を工夫して、日々の取り組み状況をいつでも確認できるようにすることや、テスト終了後の見直しや新たな目標の立て直しなどを毎回きちんと行うようにすれば、最初に計画を立てたまま「やりっ放し」状態になってしまった、最初は頑張っていたのにいつの間にかフェードアウトしてしまった・・・といったことは起こりません。

 今回ご説明したような取り組みを通して家庭学習を習慣化することができれば、少しずつ成果があらわれてくるはずです。子どもが自分ひとりでこうした工夫や配慮を行うことはなかなかできませんから、保護者の方がお子さんの様子を見ながら、あせらず地道に働きかけてあげてくださいね。

(butsuen)

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カテゴリー: 家庭での教育, 家庭学習研究社の特徴, 小学1~3年生向け

夏休みの後半の過ごしかたを大切に

2015 年 8 月 17 日 月曜日

 確か、冷夏の予想だったはずの(筆者の勘違い?)今年の夏ですが、例年に増して暑さが厳しいように感じます。これだけ暑いと水浴びなどをしたくなるものですが、連日新聞紙面には水難事故の記事が掲載されています。これから海水浴を予定しておられるご家庭は、事故のないよう十分気をつけてください。

 早いもので、長い夏休みも後半を迎えています。近年は、学校行事等によって授業のカリキュラム消化が滞る学校が多く、夏休みを早めに終えて登校を再開させる傾向にあるようですね。

 弊社の中学受験部門の夏の講座は、いずれも夏休み前半に組まれている講座(4・5年生は「夏期講座」、6年生は「中学受験夏期講習」)が軸となっています。それらの講座も盆前に終了し、今日(8月17日)からはいずれの学年も「夏期集中特訓」と呼ばれる演習型の短期講座が始まっています。

 4・5年生の「夏期集中特訓」は、これまで(「夏期講座」を含む)学んだ範囲を演習形式で一通り学び直す講座です。広い範囲について、問題演習を通してどのぐらい力がついているかを確かめます。参加した子どもたちには、この演習型講座を通じて、既習事項の定着度を確かめながら、より理解を深いものにし、しっかりと記憶に刻みつけていただきたいと思います。

 とは言え、受験生はまだ小学生ですから、長期休暇の途中で学習のリズムが乱れることが多いものです。理由は察しておられるかもしれませんが、だいたい次のような具合です。

1.夏の講座の柱となる「夏期講座」がとりあえず終わり、少し気分が
  緩み始めた。
2.お盆休みをきっかけにして、生活習慣が乱れ始めた。
3.夏休みの残りが少なくなって、宿題や提出物が気になり始めた。

 校舎で授業を担当している者に尋ねると、「はじめは意気込みの伴った勉強をしているが、メインの夏期講座が終わって盆休みが間に挟まると少しテンションが下がり、緊張感を欠いた雰囲気の子どもが見られるようになる」とのこと。これは小学生だからある程度やむを得ないかもしれません。

 しかしながら、ここで生活が乱れたり勉強のリズムが失われたりしたのでは、せっかく夏休み前半で築いてきた生活習慣や学びの態勢が台無しになりかねません。保護者の方々におかれては、20150817bわが子の生活や勉強の取り組みの現状について一緒に振り返り、再びよいリズムやテンポを取り戻していただきたいと存じます。振り返りのポイントですが、次のような事柄をチェックしてみてください。

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 大人ならどなたも承知しておられますが、やるべきことに対して受け身の気持ちになると何事もはかどりません。夏休みの学習にしても、ダラダラ時間ばかりかけても成果はあがらないし、行動の切り替えもうまくできなくなり、夏休みの終わりになってからやり残したことを大慌てでやっつけることになりがちです。「学校再開後の生活や学習が快適なものになるかどうかは、夏休み後半の過ごしかたにかかっているのだ」ということをお子さんに伝え、メリハリのある生活や学習が失われないよう配慮してあげてください。

 なお、何度も「早寝早起きが望ましい」といったことをお伝えしていますが、その理由についてこの機会にお伝えしておこうと思います。

 子どもの朝寝坊の多くは夜更かしが原因です。脳科学の専門家によると、朝寝坊をすると“概日リズム”(体内時計)が乱れ、脳はすっきりとした状態で活動できなくなります。いわゆる時差ぼけに近い状態になり、活動すべき昼間に眠気を感じたり、眠るべき時間に目が冴えたりする恐れが生じてきます。当然、勉強の能率は下がります。そればかりか、食欲の減退や、慢性的な疲労感にさいなまれたりすることにもなりかねません。つまり、夜更かしや朝寝坊を繰り返していると、学習意欲の足りない、覇気のない子どもに見られかねない状態に陥る危険性が高くなるのです。

 小学生~高校生を対象とした睡眠に関する調査によると、「週1回以上居眠りをする」という調査項目に対して、YESと答えた小学生がおよそ25%、中学生が40%、高校生が60%いたそうです。この結果は、年齢が上がるごとに夜更かしの率が高くなっており、また、小学生でも夜更かしの影響で授業中に眠気を覚える児童がかなりいるということを示しています。

 この調査で、睡眠が「かなり不足している」「やや不足している」と答えた子どものなかに、「午前中に眠くなる」という傾向がかなり見られたそうです。この調査結果を紹介されていた大学の先生は、「これは明らかに睡眠不足によるものです」と述べておられました。

 こういう生活を続けている子どもは、常に脳がすっきりしない状態になりがちで、その結果疲れを常に覚え、イライラし、物事に対して無気力になりがちだとか。子どもたちは、心も体も一番成長していかなければならない時期にあります。「早寝早起き」は、健康で快適な生活を送るための第一の条件です。ぜひそれを励行し、規則性やリズムのある生活を送り、スッキリとした状態で学習に取り組んでいただきたいですね。

 さあ、夏休み明けにお子さんが爽やかな笑顔で学校に登校できるよう、親子で現在の生活習慣を振り返り、よいコンディションで夏休みを乗り切れるよう、もう一度調整を図っていただきたいと存じます。
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カテゴリー: アドバイス

勉強とは、忘れること間違えること

2015 年 8 月 10 日 月曜日

 進学塾に通っての勉強というと、どうしてもテストと結びつけてとらえられ、点数や成績、取り組んだことをどれだけ覚えているかに注意が向けられがちです。

 たとえば、弊社の4・5年部の「夏期講座」で学ぶケースについて考えてみましょう。授業を受け、家に帰ってからおさらいをしたり、他の問題に取り組んだりを繰り返しながら、講座の中日と最終日にテストを受けることになっています。

 おとうさんやおかあさんは、わが子のテスト結果が返ってきたとき、何を真っ先にチェックされるでしょうか。おそらくほとんどの人は教科ごとの点数と順位、そして何よりも総合点と順位に目を向けられると思います。それは当然のことです。

 成績が良好であれば親としてもうれしく、「よくやったね!」「これからもがんばりなさい」とほめて励まされることでしょう。

 20150810aでは、もしも成績が期待通りでなかったならどうでしょうか。「今回は残念な結果になってしまったね」「今回はしかたない。次、がんばろう!」と激励されるでしょうか。

 成績はともあれ、いずれも親としての愛情をもとにした対応であり、それ自体には何の問題もありません。ただし、筆者にとって気になることがあります。それは、テストの結果が返ってくる前、それも通学初日からのお子さんの勉強の様子を日々見守っておられたかどうかということです(見守ってやりたくても、それができない忙しい保護者もおられるとは思います)。

 たとえ成績がよくても、お子さんがやるべきことにしっかりと取り組んでいなかったケースがないとも限りません。たまたま得意とするタイプの問題が出ることもあります。直前にやったところが運よく出題されるということもあるでしょう。

 そうした経緯を知らずにただほめたのでは、夏休みのテスト結果はマイナスに作用しかねません。お子さんが受験勉強を軽く見てしまう恐れがあるからです。こういうことは、4・5年生の時点ではままあることで、そのつけは6年生になってから伸び悩みという形で払わされることになりがちです。ですから、保護者の方々には「わが子は、やるべきことにしっかりと向き合って努力しているかどうか」という視点を忘れないでいただきたいのです。

 一方、もしもお子さんが一生懸命取り組んだのにテストに失敗したのならどうでしょう。確かに、やったはずの勉強が実になっていなかったわけですから、こちらのほうが問題としては大きいように思われがちです。しかし、努力した結果の成績なら、いくらでも対処の方法は見つけられるものです。

 人間の脳は、勉強してわかったはずのこと、覚えたはずのことの何割も忘れてしまうものです。考えてみれば当然のことですが、人間の脳が体験したことを全て記憶に留めるような機能をもっていたとしたら大変なことになってしまいます。膨大な量の体験記憶や学習記憶を脳に格納していかねばならなくなります。だから、どんどん忘れるなかで、繰り返しインプットされてきた情報を優先して記憶に留めるような仕組みになっているのです。

 脳科学者の書物を拝読すると、次のような記述がありました。

 (前 略)脳ははじめから物事を区別して覚えないようになっています。そうでなければ、記憶はほとんど役立たないからです。人の顔や景色を覚えても、それらはまったく変わらないということはありません。従って、前に見たときとかなり変わっていても、この人は前に会った人であり、ここは前に来たところであるとわかるためには、違うものでも同じものと認める能力が必要になります。つまり、脳の働きはあいまいなもので、そこが正確なコンピュータと本質的に違う点の一つです。

 (中略)このように、脳のあいまいさは大切な性質ですが、そのために間違うことにもなり、似ている人を同じ人と認めたりします。勉強にしても、そのために間違います。しかし、脳は間違えるたびに記憶は正確になってゆくようになっています。従って、はじめから一言半句も間違えないように覚えることは困難で、間違いを繰り返す必要があるのです。そのためには問題集をこなしたり、自問自答を繰り返したりする必要があります。あるいは、脈絡をつけて記憶してゆけば、個々の事項についてたえず点検することになるでしょう。

 つまり、人間の脳は1回で覚えるようにできていない代わりに、間違いを繰り返すことで正確に記憶するようにできているということのようです。

 中学受験に向けての勉強は、まさに忘れることの繰り返しです。忘れてしまうことはとても残念なことですから、ついつい「忘れることとの闘い」などという言いかたになりがちですが、むしろ「正確に覚えるために、間違いは必要なものだ」と受け止めるべきではないでしょうか。20150810b

 夏期講座のテストで悔しい思いをしているお子さんはおられませんか? 「ちゃんとやったつもりだったのに、いっぱい忘れていた」「できたつもりだったのに、ミスばかり」――これが多くの中学受験生の現実です。しかし、重要なのはちゃんと取り組み、頭を使ってきたかどうか。もしも、お子さんがやるべきことをやっていたのなら、おとうさんおかあさんはこう言って励ましてあげてください。

 ただ悔しい思いで終わらせず、間違えたところ、ミスをしたところのやり直しをしっかりやっておこう! ここまでの勉強はこれでいいんだ。受験生がみんなたどってきた道なんだからね!

 やり直しながら人間は知識を確かなものにし、記憶に留めていきます。「どうして間違えたのだろう」と振り返って考えることが、頭の働きを促進し、使える知識を増やしていき、本物の学力の形成を後押ししてくれるのです。

 テスト結果が返ってきたときからがほんとうの勉強です。しっかり見直し、やり直しをしていきましょう。その努力を怠らなかった受験生には、きっと笑顔の入試結果がもたらされることでしょう。

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