2016 年 6 月 のアーカイブ

子どもの睡眠不足にご注意を!

2016 年 6 月 27 日 月曜日

 先週月曜日に掲載したブログでは、日本人の睡眠時間が他国の人たちと比較すると相対的に短いことを、資料をもとにご説明しました。また、子どもの睡眠時間も日本は他国と比べるとかなり短いこともお知らせしました。

 みなさんそうだと思いますが、普段睡眠が足りているときは強い睡魔に襲われたり、抗し難い眠気と闘ったりすることはあまりないと思います。しかし、丸1日以上寝ないで仕事に追われたり、心理的な負荷のかかる状態が長時間続いたりすると、強い睡眠の欲求が襲ってきます。この欲求の度合いは食欲などよりもはるかに強く、他の全てを投げ打ってでも眠りたくなるのです。このこと一つをとっても、睡眠は人間にとって生命に関わる重要なものだということがわかります。

 そこで、今回は睡眠の役割を再確認するとともに、子どもの睡眠不足が招く問題点について書いてみようと思っています。睡眠は日常生活で必須のものであり、健康な暮らしを維持するうえで欠くことのできないものです。では、睡眠は何のために欠かせないものなのでしょうか。疲れをとるため? 不足すると眠くて何もできなくなるから? 睡眠が必要であることはわかっていますが、「なぜ必要か」ということまで考える人は少ないようです。

 「睡眠の役割」について、脳科学を専門とされる大学の先生は次のように書いておられます。

 睡眠には、体を休めエネルギーを蓄えるという働きがありますが、その中でとくに脳を休め、修復してよりよく活動させるという大切な働きがあります。つまり、睡眠は脳を休息させるだけでなく、併せて点検修理し保全する働きをもっているのです。したがって、子どもが適切に睡眠をとることは、脳をいきいきとさせ、彼らがよりよく生きていくことにつながっているのです。逆に適切な睡眠がとれないと、子どもの活動にさまざまな支障が生ずることになるのです。睡眠の良し悪しが、脳の状態とその活動に影響を及ぼし、結果的に子供の成長を左右することになるのです。

 子どもが健康であるためにも、睡眠を適切にとることが大切です。子どもの体の成長の多くが、睡眠中に起こるからです。また、子どもが睡眠不足だと起きてから注意散漫となり、そうしたことが続くと素直さに欠け、落ち着きのない性格になるともいわれています。

 どうでしょう。睡眠は脳の「休息」だけでなく、「点検修理」「保全」という重要な役割を担っているのですね。この機能が子どもの健全な成長を支えているのです。また、睡眠の不足は注意散漫の原因となるだけでなく、やがては性格上の問題点の原因をつくってしまうということがわかりました。

 このように、睡眠は子どもの健全な成長にとって欠かせないものですが、先週もお伝えしたように、日本の子どもの睡眠時間は他国の子どもよりもかなり短いことがわかっています。おたくのお子さんはどうでしょう。夜更かしの習慣が染み付いたりしていないでしょうか。夜遅くまでテレビやゲームなどをしていると、いざ寝るとなっても脳は覚醒状態にあります。なかなか寝付けず、それがまた睡眠時間を少なくするという悪循環が生じることになりがちです。 

 就寝時間が遅ければ、当然睡眠時間は足りなくなります。どんなに遅くに寝ても、学校の始まる時間は待ってくれませんから、家を出る時間を遅くするわけにはいきません。こうやって、少しずつ睡眠が不足する状態が続くことで、子どもの健全な成長が蝕まれていくのです。またそれだけでなく、人間には寝るべき時間、起きるべき時間があるのではないでしょうか。子どもが夜更かしをすることで、「就寝 → 起床」の流れが時間的にずれていくことも何らかの悪影響があるのではないかと心配されます。

 20160627b人間は、朝の光を浴びるのを合図に1日の活動を開始し、日が暮れて夜が訪れると体を横たえて睡眠をとることを繰り返しています。地球の動きに合わせて体内時計を稼働させ、一定のリズムで生活をしているわけです。これを概日リズムと言います。

 この概日リズムが崩れることで、子どもはどんな影響を受けるでしょうか。前述の大学の先生は「子どもが時差ボケ状態になり、昼間に眠くなったり、夜眠れなくなったりします。その結果、起きているときの活動が鈍くなったり、食欲がなくなったり、いつも疲れていてやる気がないといった状態になってしまいます」と述べておられます。またその先生は、1週に1回以上居眠りする」と答えた小学生が25%、中学生が40%、高校生が60%いたという睡眠調査の結果(別の大学の先生の調査)を紹介しておられました。

 もっとも、睡眠時間は長ければ長いほどよいというわけではありません。かつて、睡眠時間と子どもの学業成績との相関関係に関する調査の結果をお伝えしたことがありますが、以下の資料をご覧ください。
20160627

 睡眠時間は8時間前後が望ましいようで、少なすぎても多すぎてもよくないという結果が出ています。睡眠時間が10時間以上の子どもは、睡眠が浅いなどの問題がある可能性もあるようです。

 できるなら、なるべく毎日同じ時間に就寝し、同じ時間に起床することが望ましく、睡眠時間は8時間程度が目安になるのではないかと思います。規則正しい生活を送り、睡眠もリズムよくとる毎日を心がけてください。受験生であっても、少なくとも7時間は睡眠時間を確保したいですね。

 なお、睡眠の役割として受験生の観点から見逃せないのは、「睡眠を通して、脳が学んだ知識を整理整頓し、記憶に残している」ということです。これについても以前ご紹介したことがあるように思いますが、機会を見てまたこのことについて書いてみようと思います。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 子どもの発達

2016「私学がきみを呼んでいる!」実施報告

2016 年 6 月 23 日 木曜日

 6月19日(日)には、恒例の私学紹介イベント「私学がきみを呼んでいる!」を開催しました。この催しは、弊社の6年部会員家庭を対象とし、毎年6月に開催しています。今年は西区民文化センターホールを会場に、午前は男子、午後は女子に分けて実施しました。

 2002年に「広島の私学 進学研究」という呼称で始めた私学紹介イベントですが、何回かの呼称変更を経て、今や弊社で最も大きなイベントの一つとして定着しています。毎年、男子の部広島学院、修道、広島城北、広島なぎさの4校、女子の部ノートルダム清心、広島女学院、安田女子、広島なぎさの4校をご紹介しています。イベント当日は、各校から先生1名、中3の生徒さん各3名(弊社の卒業生)にお越しいただき、ステージ上で自校の特徴やよさについてアピールをお願いしています。

 毎年のことですが、どの私学の先生も生徒さんも受験生の興味・関心を引く仕掛けを工夫し、趣向を凝らしたプレゼンをしてくださっています。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

 今年はあいにくの雨模様でしたが、会場は多くの受験生親子でにぎわいました。このイベントの構成や内容はここ2~3年ほぼ変わっていないため、すでにこのブログにおいてもおおよその内容をご紹介しています。そこで、報告の文面はなるべく簡略にし、当日撮影した映像を中心にどんな催しかを具体的にイメージしていただこうと思います。なお、プログラムは基本的に男女共通です。

第1部:これであなたも私学博士!?
 ●映像による学校紹介(中3生によるナレーション)
 ●参加型クイズ&トーク

☆アトラクション(私学生が部活の成果を披露)

第2部:私学で夢を叶えよう、がんばれ中学受験生!!
 ●制服紹介
 ●先輩からの受験アドバイス&学校生活報告
 ●先生からの受験アドバイス
 ●受験生への応援メッセージ

 開始に先立ち、まずは弊社の校舎長6名がリレーで一言ずつ挨拶をさせていただきました。無論、ここで長い話は禁物ですので、どの校舎長も気の利いた一言ずつを心がけていたようでした。
主任

 そして、いよいよイベントの始まりです。第1部は、各私学の学校生活の様子を映像で紹介するコーナーです。受験生にとってわかり易いよう、また興味をもってもらえるよう、実際にその私学に通っている中3の先輩にナレーションをお願いしています。

 なぜ中3生にお願いしているかというと、プレゼンが達者にできて、なおかつ受験生時代の記憶もしっかり残っている年齢であるということが理由です。実際、どの生徒さんも「後輩のために」という思いでしっかりと心づもりや準備をしてくださったのでしょう。それがよくわかる、すばらしいナレーションでした。生徒さんに与える負担も気になるところですが、先生がたは「生徒にとって、よい成長の場になります」と、快く引き受けてくださっています。先輩の生の声によるナレーションがあるせいか、どの受験生も4校の映像紹介を最後まで退屈することなく楽しんでいました。
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 第1部の次の出し物は、「参加型クイズ&トーク」です。各私学2問ずつのクイズを出し、観客席の受験生や保護者にグー、チョキ、パーの三択で答えてもらいます。問題は、私学の広報担当の先生がたと弊社の広報スタッフとが相談して作成しました。「受験生のみなさんに、少しでも私学に親しみをもってもらえれば」という意図で企画したコーナーです。
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 全部のクイズが終わると、次は第1部最後の出し物、「アトラクション」です。今年は、男子の部は広島なぎさ中学校の管弦楽部のみなさん、女子の部は広島女学院中学・高等学校のマンドリン部のみなさんによる演奏でした。楽器演奏は、どの中学校でも入部後一から習得していく生徒さんがほとんどです。短期間に、よくここまで上達するものだと感心させられることしきりでした。
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 曲目は、男子の部が「ハンガリー舞曲第五番」と「きみの瞳に恋している」でした。中学生だけで編成されているとは思えない迫力ある演奏でした。いっぽうの女子の部は、「校歌」「崖の上のポニョ」「いのちの名前(千と千尋の神隠しより)」「夢をかなえてドラえもん」でした。広島女学院のマンドリン部は非常に有名で、幅広い活動をされているクラブですが、噂通りその演奏は「すばらしい」の一言で、親も子も聞き入っている様子が手に取るように伝わってきました。

 アトラクションは、一見このイベントと内容的に無関係のように思えますが、それぞれの私学に入学し、部活動に打ち込んでここまでの技量をもつようになった先輩たちへの憧れの気持ちを引き出す大きな効果があります。実際、何度も私学の先生がたから伺いましたが、このアトラクションに出てくださったクラブの翌年の入部者が増えるのだそうです。おそらく、「あの学校へ行きたい!」という思いを引き出す効果もあるのだと思います。 

 約15分の休憩後、いよいよ後半の第2部の始まりです。各私学とも、先生と生徒さん3名の計4名ずつ登場してもらいます。この場面を活かし、まずは「制服紹介」をしていただきました。生徒さん3名は、夏服、冬服、合服(もしくは部活のユニフォームなど)で登場します。ステージ中央でポーズを決めていただいた後、先生もしくは生徒さんに制服について解説をいただきました。興味深く聞いているのは大概女子のほうで、制服の由来やデザイナーなどについて熱心に耳を傾けていました。
 制服紹介

 制服紹介が終わったところで、いよいよ第2部の始まりです。第2部のはじめは「先輩からの受験アドバイス」です。このコーナーでは、先輩たちに受験生時代のことについて○×で答えてもらったり、事前に行っていたアンケートの結果について説明してもらったりしました。内容は、「中学校生活で何が一番楽しいですか?」「受験生時代に苦手教科はありましたか?」などです。このコーナーの企画意図は、私学生活への期待や憧れの気持ちを引き出したり、「もっとがんばろう!」という意欲を提供したりすることでした。そして、そのまま「先生からの受験アドバイス」へと続きます。
15-22

 いよいよフィナーレが迫ってきました。最後は、各私学の先生や生徒さんから「応援メッセージ」をいただきました。それぞれに工夫を凝らした心のこもった激励は、来年の受験に向けたモチベーションアップにつながったことでしょう。どの私学の生徒さんも母校愛に満ちており、「ぜひ私たちの学校に来てください!」の言葉を添えておられました。
last

 午前午後とも2時間かけた大掛かりなイベントでしたが、私学の先生や生徒さんの工夫を凝らしたプレゼンのおかげで、あっという間に終わった充実したイベントとなりました。

 これから暑い夏がやってきます。しかし、受験生のみなさんにとって今年の夏は勝負の夏。このイベントで高めたモチベーションをもとに、この夏を勉学に邁進して駆け抜けてください!

 がんばれ、中学受験生!!

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カテゴリー: 中学受験, 私学について, 行事レポート

あなたの子どもの睡眠時間は足りている?

2016 年 6 月 20 日 月曜日

 CIMG1541先週の金曜日(6月17日)には、西区民文化センター会議室にて「夏のおかあさんセミナー」を実施しました。予約も申し込みも無用の催しですので、「どれぐらいいらっしゃるかな?」と、期待と不安の面持ちで当日を迎えましたが、驚くことに会場の席がぎっしり埋まり、用意した補助椅子でかろうじて全部のかたにお座りいただけました。多数のご来場、ありがとうございました。

 この催しの内容ですが、以前本ブログでご紹介した流れの通り3つの話に分け、筆者を含めて3名でお話ししました。筆者はこのブログの大半を書いているので、ときどきブログの検索ワードをチェックしています。圧倒的に多いのが「やる気」「意欲」という言葉です。多数のご家庭が、お子さんの学習意欲について不満や悩みを抱えておられるようです。そこで、筆者は「子どもの学習意欲と親子関係とには密接な関係がある」ことをお伝えし、子どものやる気を高めるための方策などに時間を割いてお話ししました。

 ご来場のかた全員が最後まで熱心に耳を傾けてくださり、心より感謝しています。また、多数のかたがアンケートに熱心で好意的な感想をお書きくださいました。今後の行事の企画に活かしてまいりたいと存じます。

 さて、予定していたブログの話に変わります。今回は睡眠についてお伝えしようと思います。先日、子どもの睡眠時間について書いてみようかと思い立ち、いろいろ調べてみました。そのとき、新聞社系のサイトに次のような資料が掲載されているのが目に留まりました。

20160620 この資料は、経済開発協力機構(OECD)が2009年に調査した加盟国の平均睡眠時間の比較調査結果を紹介したものです。

 これを見ると、調査対象国のうち日本人の平均睡眠時間は7時間50分で、韓国の次に睡眠時間が少ないことがわかりました。最も多いフランスとは約1時間の違いがあります。

「えっ、8時間弱なら結構睡眠は足りているんじゃない?」と思われたかたもおありでしょう。この調査は様々な年齢層を対象に行われており、大人の睡眠時間はこれよりかなり少ないものと思われます。

 2015年の「国民生活時間調査」(NHK放送文化研究所)によると、日本人の平均睡眠時間は平日で7時間15分、土曜が7時間42分、日曜が8時間3分でした。そのうち、30代は平日で6時間59分、40代は平日6時間50分とありました。みなさんの睡眠時間と比べてみてください。

 なお、調査対象者数など詳しいことは確認しておりませんので、ご了承ください。

 同様の調査が始められた1960年代の日本人の平均睡眠時間は、現在よりも約1時間多かったというデータがあります。ここ数十年で、少しずつ睡眠時間が減少傾向にあったことが調査報告書に記されていました。ただし、このところこうした傾向に警鐘が鳴らされているためでしょうか。2015年の調査結果は、その前の調査(2010年)と比べ、睡眠時間の減少はほぼ止まっているそうです。

 子どもについてはどうでしょう。大学の先生の著書に次のような著述がありました。

 20160620b「子どものからだと心白書(2003年)」によると、3~4歳児の平均睡眠時間は、3歳で9.6時間、4歳で9.7時間となっています。この調査の10年前と比べると、3~4歳児で約30分睡眠時間が短くなっています。また、小学生の平均睡眠時が8時間43分、中学生が7時間51分、高校生が6時間54分となっています。この調査の35年前と比べると、小学生で39分、中学生で46分、高校生で56分も睡眠時間が短くなっているのです。

 子どもの睡眠時間も、ここ数十年で減少の傾向を示しているようですね。日本の子どもの睡眠時間は、最初にご紹介したOECDの調査結果でおおよそ想像がつきますが、やはり外国の子どもより少ないようです。前述の大学の先生の著書によると、日本の中学生よりもアメリカの中学生のほうが約30分睡眠時間が長く、ヨーロッパ諸国の中学生は日本の中学生よりも約90分も睡眠時間が長いというデータが紹介されていました。

 睡眠が不足すると、どんな問題が生じるでしょう。注意力や判断力など、生きていくうえで不可欠な能力が正常に働きません。慢性の睡眠不足にあると、どういうことになるか、おおよそ想像がつくのではないでしょうか。

 次回は、子どもの睡眠不足、不規則な睡眠が生活や学習にどのような影響を及ぼすかについてお伝えしようと思います。

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カテゴリー: 子どもの発達, 子育てについて

中学進学後の飛躍のために ~その2~

2016 年 6 月 13 日 月曜日

 前回は、中高一貫の進学校(事例は私学)の生徒個々に対する“面倒見”や“目配り”について、三つのエピソードをご紹介しました。そして、それぞれについての筆者の見解や感想を書きました。

 わが子の中学進学にあたり、親は「うちの子をちゃんと見てほしい」「わが子が立派に成長できるよう、しっかりとフォローしてもらいたい」と願うものです。それは当然の要望であろうと思います。しかしながら、学校の“面倒見”や“目配り”に関しては、ご紹介した事例のように様々な状況が予想され、どの親も満足するような状況にはなかなか至らないと思います。また、親の要望通りでなかったからといって、それが学校の怠慢だとは言えません。

 そもそも、私学の一貫校の教育環境のよさとは、「生徒の志や生きかたを啓蒙する教育理念が学校風土に存在すること」「優れた情熱ある教師によって、レベルの高い授業が実践されていること」「学業に対する真摯な姿勢をもつ、優秀な生徒が集まっていること」などにあると、筆者は思っています。

 このような学校で日々学ぶなかで、生徒はその学校の教育理念を自らに浸透させていきます。また、優秀な教師による卓越した授業は刺激に満ちており、生徒の意欲が触発され、学問に対する造詣が深められていきます。そしてこれが大きいのですが、一緒に学ぶ仲間が学力的に粒ぞろいであるだけでなく、それぞれに個性的で面白く、共に学ぶ生活を通して互いに競争したり励まし合ったりする関係が生まれ、それがまた勉学への取り組みや人間性の成長に波及していきます。つまり、その学校環境自体にすばらしい教育力があるわけです。そこが私学の魅力だと言えるでしょう。

 こうしてみると、“面倒見”や“目配り”は付帯的なものであり、その必要性があったときに要請されるべきもののように思えてきませんか? 実際、そういった見かたは基本的には間違っていないと思います。しかしながら、近年は少子化が進み、全体的に子育ては過保護の傾向にあります。このような今日においては、中高一貫校の教育内容に対する保護者の期待や要望は変化せざるを得ません。学校に“面倒見”や“目配り”が求められるのも、そうした変化の一つではないでしょうか。

 同じような要望は、おそらくどの保護者にもあるでしょう。しかし、重要なことは子ども自身が恵まれた学校環境を存分に生かし、自らの努力で成長していくことです。悩んだとき、困っているときにサポートしてもらえる環境はありがたいですし、いつも先生に目配りをしてもらい、学業の状態を掌握してもらえていることは大変な安心でしょう。しかし、それが不要なくらいの人間になることのほうがもっと重要ではないでしょうか。

 ここまで書いて、やっと本題に入ることになります。子どもが中学校に進学後、恵まれた教育環境を自ら活かして成長していくためには、それなりの態勢づくりや準備をしておく必要があるのです。さて、それはどのようなものでしょうか。すでにお伝えしたように、志望校に合格できる学力を携えさえすれば、進学後の心配が無用になるわけではありません。中高一貫の進学校の生徒になってからの飛躍を後押ししてくれるのは、テスト学力とは違った要素なのです。では、どんな要素が考えられるのでしょうか。いくつかあげてみたいと思います。

 

① 受験生活を通して、学びの主体性・自律性を育んでおく。

 自らを律しながら学んでいく主体性。これこそが先々の躍進を支える知的財産です。ところが、中学受験を終えた段階で「勉強はこりごり」といった状態の子どもも見られます。これではまた塾通いを余儀なくされてしまいます。学びの主体性を奪う、暗記や詰込み式の受験勉強、大人による強制的な受験対策は決して子どものためになりません。

2016060613a もどかしいことですが、子どもが勉強に興味をもち、その楽しさを享受できるよう導くことが受験勉強の初期段階における基本であろうと思います。そして、より高度な内容へと進んでいくことを子どもが楽しみにするような流れを築くのです。そうして、「勉強は自分にとって必要なもの」と思うようになれば、入試レベルの問題に挑戦する段階になってからも、決してへこたれることはありません。それでこそ、レベルの高い進学校の教育環境が子どもにとってふさわしいものになるのではないでしょうか。

 「何としても合格を」という大人(親や学習塾)の思いはわかりますが、どういう方法で受験しても受かりさえすれば子どもの将来が保証されるわけではありません。親の期待するレベルには届かなくても、自分でやる勉強で受験してこそ、先々の飛躍に向けた可能性の芽は育つのです。

 

②「授業」と「家庭学習」を連動させた学習習慣を確立する。

 日本の中等教育は授業を中心に行われています。この「授業」を大切にし、活かせるかどうかで、1年2年のうちに大きな差がついていきます。授業時間は1科目につき1時間足らずです。この限られた時間を活かすための方策として、たとえば数学では単元の中心をなす理論を、順を追って理解していけるよう、先生からの発問や生徒の発表を織り交ぜながら丁寧に指導していくのが普通です。

2016060613c 授業で理屈を理解し、家庭で反芻しながら類似問題に取り組む。この繰り返しがリズムを生み、学力形成の流れが築かれていくのです。ところが、問題演習中心で受験を乗り越えた生徒さんは、このような授業を退屈に思い、一緒に考えを進めていくプロセスをスルーしてしまいがちです。当然、単元の重要な導入が不十分ですから、家庭での勉強がうまく進みません。それ以前に、そもそも家庭学習の習慣すらない可能性があります。これでは行き詰ってしまうのではないでしょうか。

 弊社の受験指導は、4年生は「授業と家庭での復習」、5・6年生は「授業と家庭での予・復習」を軸に据えています。小学生ですから、高いレベルでやりこなせるわけではありませんが、このような学習が習慣づけられていることが、中学進学後の飛躍につながるのだと筆者は考えています。

 

③家庭での家族間のコミュニケーションを大切にする。

 受験生活に親子の会話はどんな意味をもつでしょうか。「話をする時間があるなら勉強を」と思われるかたがあるかもしれません。しかし、家族の会話を通して身につけたコミュニケーション能力は、子どもの学力形成にとても大きな作用を果たすのです。2016060613d

 まず言えるのは、親子の会話を日常から楽しく経験している子どもは、人の話に耳を傾ける姿勢をもちます。これが、授業を集中して聴く姿勢につながります。親子で互いの思いを伝えあうことに慣れている子どもは、自分の意思を他者に伝える力があり、コミュニケーション能力に長けています。これが先生への質問や相談、授業での発言・発表という自発的な行動を可能にするのです。また、中学進学後の友人関係の形成にあたっても困ることがありません。

 近年、大学では入学早々から不登校や退学の問題が生じているそうです。その理由は、友人ができない、ランチを一緒に食べる人間関係を築けないなど、大学での勉強以前のコミュニケーション能力不全であることが明らかにされています(有力大学を含む多くの大学で対策が講じられています)。

 中学受験のプロセスでも、家庭での親子の会話を大切にしましょう。このような家庭では、勉強の悩みや問題点を親が早期に察知し、アドバイスを送れます。何よりも人間として健全な成長が果たせます。

 

④ 現状を振り返りながら修正していく姿勢を身につける。

 自分は今どういう状態にあり、問題点はどこにあるのか。このような認知機能を“メタ認知”といいます。メタ認知的な思考は、今日の高度情報化社会において非常に重要なものとされています。メタ認知的思考は、小学生でもできます。また小学生のうちに育てておけば、中学受験を乗り越えるうえでも役立ちますし、後々まで人生を渡る過程において大きな助けになります。2016060613

 メタ認知的な思考があれば、自分の学習状況を客観的に掌握し、いつまでに何をどうすれば現状を修正できるかを考え、対策を講じることができるでしょう。たとえば、テストの成績が返ってきたとき、どこを落としたのか、どこができたのかを仕分け、落としたところの勉強を振り返り、何が不十分だったのかを明確にしていくことができるでしょう。受験勉強でこのような思考や行動姿勢を磨いておけば、学ぶ内容が高度化する中学・高校での学習で大いに力を発揮することでしょう。

 ほんものの力をつけるには、テストに備えた学習を一生懸命やるだけではなく、テストのあとの振り返りややり直しが不可欠です。メタ認知的思考は、このような学習を推進するための強力な武器であり、一生を通して自分を伸ばしていくためのツールになります。

 

 まだまだご紹介したい条件がいくつもありますが、複雑になるのでここまでにしておこうと思います。結局、お子さんがどのような学校環境に身を置くことになったとしても、勉強を自分に必要なものだという意識をもち、自らを律する姿勢があればどのようにでも成長していけるのではないでしょうか。

 逆の見かたをすると、大人が受験の結果を求めるあまり、子ども自身の勉強であるという大前提を揺るがせてしまうと、どの学校に受かろうとも意味をなさなくなってしまうと言えるでしょう。

 受験のプロセスにおいて何がお子さんに必要なのかを、多少はお伝えできたかなと思います。お子さんの勉強で基本とすべきことをしっかりと根付かせましょう。そして、少しずつの進歩を信じ、励ましてやりましょう。そして、前よりも少しでも努力をするようになったなら、大いに喜んでやりましょう。その繰り返しが子どもの望ましい成長を促すのは間違いありません。

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カテゴリー: アドバイス, 中学受験, 勉強の仕方, 家庭での教育

中学進学後の飛躍のために ~その1~

2016 年 6 月 6 日 月曜日

  夏の講座の申し込み受け付けを本日(6月6日)より開始します。現会員のご家庭には、先週末から今週の木曜日にかけてお子さんの通学日に「案内」や「申込書」をお渡しする予定です。どうぞよろしくお願いいたします。新規入会を検討いただいているご家庭は、本部または通学希望校に資料をご請求ください。折り返しご家庭へお送りいたします。

 今受験生活を送っている児童のおかあさんは、「何とかしてわが子にはがんばってもらいたい」「どうか無事に受験まで漕ぎつけ、できれば第一志望校に受かりますように」と願っておられることでしょう。

 それは親なら当然の願いです。お子さんが受験生活を上手に乗り越え、念願の合格を手にされるまで、辛抱強く温かい応援をよろしくお願いいたします。私ども学習塾も、お子さんの学力伸長に向けて精いっぱい応援させていただきます。

 今回のブログ記事は、お子さんが中学校へ進学した後の学校生活を見通し、親として今からどんなことに留意しておくべきかについて書いてみようと思います。親は、「とにかく志望校に進学できれば、あとは学校にお任せできるだろう」と思いこみがちですが、そういう考えかたで大丈夫なのかということについても一緒に考えていただけたらと思います。

 まずは本題に入る前に、筆者が見聞きしたエピソードを三つほどご紹介します。いずれも、中高一貫の進学校(ここではある私学を例にあげています)の学校環境に関わる話です。

20160606 いつだったか、私学にお子さんを通わせているおかあさんが、学校や先生への不満の声を漏らしておられました。どういうことかというと、保護者面談に行ったところ、先生の話の内容が一般論や原則論ばかりで、わが子について具体的な報告や説明がなく、「何のための面談か」とがっかりされたというのです。

 親にしてみれば、わざわざ時間を割いて学校に行き、担任の先生の話を直接聞くのですから、「わが子の学校での様子について、よい話を聞けるかもしれない」という期待があります。また、先生との密なコミュニケーションがあることがわかれば親としても安心です。それなのに、そうした親の期待が裏切られ、がっかりされたのでしょう。

 さて、次も同じ私学についての話です。筆者は仕事柄たびたび私学を訪問しています。ある日その私学を訪ね、校長先生と私学を紹介する行事についての打ち合わせをする機会がありました。そのとき、たまたま生徒とのコミュニケーションについて、校長先生はこんなことをおっしゃいました。「うちの教員は教育に情熱があり、すばらしいです。先ほども校内を移動していると、いたるところで教員が生徒に声をかけています。生徒一人ひとりにほんとうによく目を行き届かせています」

 次も、同じ私学についての話です。この私学に子どもを二人通わせたことのある保護者が、学校での生徒と先生の関係について、こんな話を聞かせてくださいました。「あの学校は、生徒をほったらかしにしているようで、実はそうでもないんですよ。いろんな教科の先生がいるでしょ。そのなかのどなたかがしっかりわが子のことを見ていてくれて、いざというときフォローしてくださるんですよ」

 三つのエピソードは、いずれも同じ私学の、それも生徒への“面倒見”や“目配り”についての話です。どう思われたでしょうか。保護者のなかには、最初の例のような話を耳にすると不安を抱かれるかたがおられるかもしれません。筆者は、どの話も間違いのない事実だと思います。すべて学校の一側面であり、嘘でもなんでもありません。

 たとえば、一つ目の話についてはこう思います。生徒にも様々なタイプがあり、なかには否が応でも目立ち、すぐに先生に覚えられ、クラスの人気者になるタイプの生徒がいます。こういう生徒なら、先生からもいくらでも具体的な報告が聞けるでしょう。しかし、クラスの定員が40~50名に及ぶなかで、おそらく先生の目からこぼれる生徒もかなりの数にのぼるでしょう。先ほどのエピソードについては、「先生が、もう少しそのお子さんについて上手に報告されてもよかったのに」とは思いますが、なかにはよい報告ができず、一般論で話が終わってしまうようなケースもあることでしょう。 

 筆者も、かつて息子をある私学に通わせました。保護者面談では、「先生はわが子のことを親身に見守ってくださっている」と、一応は感じました。しかし、家庭で息子が担任の先生の話題を出したり、先生とのやりとりを報告したりしたことは、ほとんどありませんでした(唯一例外の先生がおられました。ユーモアたっぷりの愛情深い語り口で、勉強の楽しさを教えてくださった年配の先生で、息子は今でも尊敬しています)。当時は、「男の子はそんなものだろう」とぐらいに思っていました。そうして、この感想は変わることなく息子の6年間の学校生活は終わりました。

 私学には大勢の生徒がいます。ですから前述のエピソードのように、先生との密なコミュニケーションや“面倒見”のよさを期待していると、親が失望する可能性はかなりあると思います。同様のことは学習塾にもあります。筆者が指導現場にいたころのことですが、保護者面談を終えた後になってから、「この話をお伝えしておけばよかった。もっと保護者に励みを提供すべきだった」と後悔することがたびたびありました。指導する側も、「親は何を求めているのか」をよくわきまえないといけませんね。

 二つ目の話に移ります。筆者自身、仕事で私学を訪問した際、校長先生が話されたような光景を何度も目の当たりにしました。あるとき、先生に学校を案内していただくために渡り廊下を歩いていると、不意に先生が視界から消えました。きょろきょろあたりを見回すと、その先生が一人の生徒さんを校内の一角に誘導し、他の生徒に気づかれないよう注意を与えておられました。おそらく服装か何かに関する注意だったのでしょう。このように、必要と判断されたときには、先生がたは生徒個々にアプローチをされているのだと思います。

 勉強面でも先生がたは一生懸命フォローされています。ある私学では、宿題が溜まってどうにもならなくなった生徒は全員個別面談をし、提出し終えるまでのスケジュールを組ませ、それを実行できるかどうかを熱心に見守っておられるようでした。また、家庭学習の管理をどうしたらうまくできるかということも指導しておられました。その効果ですが、ちゃんと学びの態勢を築き直して這い上がってくる生徒も何割かいるいっぽう、残念ながら溜まった宿題を放棄してしまう生徒も何割かいると聞きました。

 三つめの話について。クラスの全員を一人の先生がみているわけではありません。学校で生徒は様々な教科・科目を学びますが、それぞれに専任の先生が指導に当たっておられます。ですから、生徒が好きな教科の先生に目をかけられる、相性のよい先生がいる、たまたまや偶然で先生と親しくなる、などによって生徒と先生の関係が密になるケースは多々あると思います。ですから、相談できる先生に出会い、何かで悩んだときに親身にアドバイスをしてくださるということも、かなりの確率であると思います。

 ここまでの話では、まだ筆者が何をお伝えしようしているのか要領を得ないかたもおありでしょう。学校に細かな“面倒見”や“目配り”を期待すると、期待外れになることもあるということをお伝えしました。しかし、中高一貫の進学校には面倒見などよりもはるかに期待できることがあります。次回は、中高一貫の進学校(特に私学)の教育の本質的な価値を確認しながら、中学進学後のさらなる成長を見通した情報をお届けしたいと考えています。

 まだ本題に入らない段階で、すでにいつもより長い文章になってしまいました。次回にお伝えしたいことを書きますので、よろしければ引き続きお読みください。

 

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カテゴリー: 中学受験, 家庭学習研究社の特徴, 私学について