2016 年 8 月 1 日 のアーカイブ

勉強が空回りするのはなぜ?

2016 年 8 月 1 日 月曜日

  「一応は勉強しているのに成績がさっぱり」「学んだことがわかっていない。記憶に残らない」――お子さんについて、こんな悩みを抱えているご家庭はありませんか? こうした状態が続くと、子どもは自信を失いますし、やる気がだんだん衰え、ますます成績不振になるという悪循環に陥ります。

 どうしてこんな事態が生じるのでしょう。その理由について、筆者は確かな理由を突き止めているわけではありません。また、原因は勉強のやりかただけでなく、子どもの内面にも起因している可能性もあり、「こうしたら改善されます」といった簡単な処方箋のようなものを見出すのは至難の業です。しかし、考えられる単純な理由が一つあります。もしも、今からお伝えすることが原因かも知れないと思われたなら、今回の記事に最後まで目を通していただければ幸いです。

 まずは、「学ぶべき事柄は何によって提示されているのか」、ということから考えてみましょう。それは言うまでもなく言葉(主に書き言葉)です。つまり文字情報を知覚し、その表す意味をしっかりと理解することで勉強は成立します。

 大人なら、文字の連なりを目で追っていきながら、ほぼ同時進行で意味を解読していくことができます。だから、子どもにとって活字を介した情報伝達がいかに大変なことかについて、なかなか想像できないかも知れません。しかしながら、小学生の子どもはまだリテラシーの世界に参入したばかりです。個々の子どもの読みのスキルには、相当な個人差、隔たりがあるものと想像されます。この読みのスキルの到達度の違いが、活字を介して学ぶ子どもの情報処理能力に著しい差を生み出しているのです。

 活字の連なりから意味を解読する、すなわち文章を読んで理解するときの脳内の情報処理のしくみについて簡単に確認してみましょう。文章を読むときの情報処理の流れは、大きく分けて二つあります。それを今からごく簡単にご説明してみようと思います。

1.トップダウン処理

 文章を読むとき、そこに描かれているものや状況を具体的な像(心象)としてイメージできると、より理解が進みます。カブトムシ、アゲハチョウ、家、鉛筆、ごはんといったように、子どもの興味に関わるもの、生活に密着したものなら、子どもは難なく心の中に思い描くことができます。

20160801a しかし、公園、レストラン、空港、パレード、といったような言葉の場合、イメージを起こすのは難しくなります。こういう言葉を具体像へと結びつけるには、その言葉が意味する一連のものに接した経験が必要です。「公園に行きました」というくだりを目にしたとき、読み手が思い浮かべるのは、自分が公園に行った体験を通して見たものでしょう。たとえば、噴水、鳩、滑り台、ジャングルジム、砂場、たくさんの花々、花時計など、公園いう言葉から思いつくものを意識にのせることで、公園をイメージ化することができます。

 このように、文章を読む際、読み手は文中の言葉に関わる様々な情報を、自分の経験に照らしながら場面や状況をイメージしています。これをトップダウン処理と言います。

2.ボトムアップ処理

 文字の連なりを分析し、そこから吸い上げた情報を頼りに著述内容を理解する活動を「ボトムアップ処理」と言います。文字列から意味のまとまりを見出して単語を抽出し、その意味を確かめます。さらに後につながる文字や単語との関係を点検・分析し、意味の流れをつかみ、文全体の表す意味を解読します。こうした方法で、一連の文の連なりから意味を吸い上げながら、一つながりのまとまりのあるストーリーとして理解していきます。

20160801b 会話と違い、目の前には相手がおらず、表情や身振りなどの補助的な情報は一切ありません。活字のつながりや関係のみを手掛かりにして情報を得るので、文字が形成する言葉と、実生活で使っている音声の言葉との対応関係をしっかりと学んでこそ、この情報処理の方法を活用することができます。

 人生経験に乏しい小学生は、トップダウン処理の能力が大人と比べて劣ります。そこで、挿絵などの補助的で具体的な情報を使う方法が用いられています。

 しかし、小学生にとってより困難なのはボトムアップ処理です。ボトムアップ処理がある程度できるようになるには、文字とその音の対応関係を学び、文字の連なりを見ただけで言葉を形成する塊(言葉の区切り目)を見出して仕分けなければなりません。それは、今まで知っていた音声の言葉と、文字のつながりでできる言葉(書き言葉)を照合していく作業でもあり、大変もどかしいステップです。さらに、言葉の約束事(文法)に関する知識も、求められますから、それを少しずつ学んでいく必要があります。

 話が長くなり、読むのがしんどくなってきたかたもおありでしょう。要するに、勉強しても成果があがらないお子さんの多くは、ボトムアップ処理の態勢が脳内に築けていないのではないかということです。文字列を目で追いかけながら情報を処理していく流れが稚拙であるために、読んでも理解できない、記憶に残らない、さらには読むのが苦痛、といったような悪循環が生じているのではないかと筆者は思います。 

 では、今から何をやればよいのでしょうか。無論、ボトムアップ処理の態勢を今から築いていくということしかありません。そこで次回は、ボトムアップ処理の能力を引き上げていくための方策についてお伝えします。それは少しも難しいことではありません。単純ですが、集中力と根気が必要です。すでに何をするのかお気づきのかたも多いことでしょう。

 受験への足取りを少し間違っただけで、「うちの子は能力が足りない」と勘違いをされる保護者がおられます。それはお子さんにとってとても残念で不幸なことです。勉強しても成績がさっぱり、という悩みをもっておられるご家庭は、お子さんの可能性について間違った判断をすべきではありません。やったら、やっただけの成果があがるような流れはどうしたら気づけるか。それを考えて実行していきましょう。

LINEで送る
Facebook にシェア
Pocket

カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 子どもの発達, 家庭での教育