学力形成の流れを築く読みの態勢づくり

2016 年 8 月 8 日

 前回から、勉強しても相応の成果が得られない、学んだことが記憶に残らないお子さんが一定数おられることを話題に取り上げ、その理由として、「活字を読んで著述内容を理解するためのスキルが不足しているのではないか」、ということをお伝えしました。

 読みのスキルを磨くためには、黙読へ移行する前に音読の練習を繰り返しておくことが肝要です。しかしながら、多くの家庭でそのことの重要性が理解されず、中途半端な読みの状態で黙読へ移行しているようです。それが子どもの学習活動のブレーキになっているのではないかと思います。

 そこで、まずは黙読への移行過程の子どもの現実について一緒に考えてみていただきたいと思います。多くの子どもは、幼稚園への入園の段階では、音声の言葉は知っていても文字の言葉の知識はまだそんなに多くありません。ご存知のように、正式で系統だった文字の学習は小学校入学から始まります。この段階から、文字を一字ずつ声に出して発音し、文字の一つひとつにそれぞれ固有の読み(音)があることを学習します。

 ひらがなやカタカナの学習が一通り終わると、文中の文字の並びに従って「つ」「く」「え」と発音すると同時に、これらの文字がひとかたまりの意味をもった語の構成要素であることに気づき、「つくえ」という語として認識できるようになります。こうやって、既知の話し言葉に対応した、新たな書き言葉を獲得していくわけです。このような、話し言葉(音声言語)と書き言葉(文字言語)の照合を繰り返すことで、しだいに文を読むための土台ができあがっていきます。

 ここまでお読みいただくとおわかりのように、文字の連なりを見て快適に読めるようになるには、文字の一字ずつを声に出して発音する必要があります。そして、それが滑らかで正確になるにつれ、ある段階(多くは2年生前半)から、文字列を目でとらえただけで語のかたまりや切れ目を峻別し、自動的にそれらの読み(音)を声に出さずとも脳内でイメージできるようになります。それが黙読です。黙読ができるようになると、音声に変換する面倒な作業が不要になるため、読みの負担が格段に軽減されます。こうして、子どもは自分で文章を読んでそこに描かれている世界を楽しめるようになります。

 ここで、お子さんの読みの熟達に向けたプロセスを振り返ってみてください。お子さんはいつごろから黙読できるようになられたでしょうか。そう申し上げても、おそらくほとんどのかたは記憶にないと思います。子どもは2~3歳頃から文字に触れる生活をしていますから、就学前から文字を読むことがいくらか可能になっているのが普通です。おそらく、小学校入学時の子どもは、黙読への移行の途中にあるのだろうと思います。自分で絵本などを楽しめているかのように見えるわが子を見て、親は「もう、うちの子はちゃんと文字が読める」と思い込んでしまうかもしれません。しかし、キチンとした黙読力を身につけるには、文字とそれに対応する音を脳に浸透させる音読という作業をみっちり行っておく必要があります。

 あるとき、筆者が「もっとお子さんに音読の練習を」と1年生児童の保護者にお伝えしたとき、「うちの子は、声に出さず文章を読んでいます。だから、もう黙読ができています」と言い返されたことがあります。しかし、現実には黙読に移行していたわけではありません。僅かながら口を動かした状態で文を読んでいる状態にあったはずです。この段階では、もっとしっかりと声に出して発音し、文字と音の関係を脳に浸透させていく必要があります。そうした練習を経て、子どもは文字列を見通しただけで瞬時に文字列に対応した音をイメージし、意味に解読していく態勢を築くことができるのです。

 黙読の態勢が整った子どもは、快適に文章を読むことができますから、自然と本を読むことに勤しみ、それがさらに子どもの黙読力を磨き、読書活動を活発にします。そういう流れができると、子どもは新たな語彙を、活字を通して手に入れることができるようになります。この、「活字から新たな語彙を獲得する」という流れが、子どもの語彙の爆発的な増加を促します。そして、読みの能力の一層の拡充、思考力の発達といった連鎖を引き起こし、子どもの知力は著しい進歩を遂げていきます。 

 このように、黙読への移行が望ましいステップを踏んで行われていれば、活字を介して行われる勉強が充実するのは当然の成り行きであり、勉学で成果を得ることが約束されるでしょう。現在お子さんの勉強がうまく機能していないと思われるかたは、このステップをお子さんがうまく通過していなかったからではないかと筆者は思います。ですから、そこからやり直すことが巻き返しのための最も有効な方法だと筆者は思います。

 以上が、読みの態勢を再構築するために音読からやり直すことをお勧めする理由ですが、どのような感想をおもちになったでしょうか。少し込み入った難しいことも書いたので、わかりにくく感じられたらごめんなさい。読みの態勢を築き直さないままでいると、いつまでも悪循環が尾を引きます。一方、読みが軌道に乗った子どもはすばらしい勢いで読みの力を充実させていきます。これを放っておくと、中学受験が迫ってきたころには大変な差が生じているのは間違いありません。 

 今からでも決して遅くはありません。お子さんの読みの態勢を築き直すための第一歩を踏み出しましょう。それは、徹底した音読練習を通して、黙読力を上げていくことです。

 ここで、なぜ音読が重要かについて簡単にまとめておきましょう。
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 読みの態勢づくりには、毎日の習練の積み重ねが重要です。やったりやらなかったりでは十分な効果は得られません。まずは、お子さんの目の前にある教科書、塾の国語テキスト、家庭にある児童書を手に取り、毎日音読を継続してみてはいかがでしょうか。音読は、自分の耳で正誤を確かめられる学習で、子ども自身で間違いに気づくことができます。しかし、音読から学力を築き直すにあたっては、親のサポートがあったほうがよいでしょう。

 ここでまた新たな問題に突き当たります。子どもに音読の必要性をどうやって納得させるか、音読の練習は、具体的にはどうやったらよいのか、などについて多くのご家庭は明確な答えを見出しておられないのではないでしょうか。そこで、次回以降はこのことについても筆者の考えをお伝えしてみようと思います。


カテゴリー: アドバイス, 子どもの発達, 家庭での教育

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