「やる気」はどこからやってくる?

2017 年 4 月 24 日

 新年度が始まって、早くも最初の1か月が過ぎようとしています。お子さんは新しい学年・クラスで張り切って勉強や運動に取り組んでいるでしょうか。そんなお子さんの姿を見ながら、「もう◯年生なんだから、言われなくても自分から動いてほしい」「意欲的に勉強に取り組んでほしい」などと思われることはありませんか?
 私達大人は、子どもに対してつい「もっとやる気を出しなさい」と言ってしまいます。ご褒美を与えたり、厳しい言葉を掛けたり罰を与えたり・・・、何とか子どもの気持ちを高めたいと、アメとムチを使い分けるお母さん・お父さんも多いことでしょう。もちろん、そうした働き掛けによって、自分で楽しさを見出して取り組むようになってくれればいうことはないのですが、なかなかうまくはいきません。

 この「意欲」や「やる気」ですが、一体どんな流れで生まれて、どうやって高まっていくのでしょうか。脳科学者の先生の著作の中に、これに関して興味深い記述を見つけました。それは、「『意欲』を生み出しているのは脳である。そして、脳が『意欲』を生み出すきっかけを与えているのは、体の動きや周囲の環境である」というものです。
 脳科学的にいうと、意欲ややる気が高まるときの脳の変化ははっきりわかっているのだそうです。モチベーションに関わるのは、大脳基底核の一部である「淡蒼球」と呼ばれるところ。脳の運動野が体を動かして実際に筋肉が動くと、この刺激が脳に戻ってくる流れでループが形成される。このループが、淡蒼球から信号が送り出されることに関わっていて、この信号によってモチベーションが高い状態になり、それが勉強や習い事などへの意欲につながっていく・・・のだそうです。このように「やる気が高まるきっかけをつくるのは体や環境である」と聞くと、なんだか不思議な感じがしますよね。

 この中では、これに関連したいくつかの実験結果が紹介されていました。そのうちの一つが、表情に関するものです。この実験は、2つのグループに分かれ、ペンを噛んだ状態で漫画を読むというものです。片方はストローをくわえるようにペンを唇ではさんだ状態、もう片方は歯や歯茎をむき出しにしてペンを噛んだ状態で漫画を読みます。全く同じ漫画なのですが、後者のグループの方が「面白い」と感じた人が多いという結果が出ました。なぜこのような差が生まれるのでしょうか?
 もうお気づきかもしれませんが、後者のペンのくわえ方は、笑顔に近い表情を強制的に作ることになります。つまり、そのときの感情がどうであれ、無理矢理にでも笑顔を作ることによって、脳がポジティブな思考をするようになったということです。「楽しいから笑う」のではなく、「顔が笑っているからきっと楽しいんだろう」と脳が解釈したというわけですね。
 つづいて実験結果をもう一つ。今度は、握力に関する実験です。被験者に握力計を渡して、目の前のモニターに「握ってください」という表示が出ている間だけ握ってもらうというものです。まずは通常通りに計測します。そして次に、開始前の一瞬だけ「がんばれ」とモニターに表示して、その後で計測します。すると、「がんばれ」と表示して計測したときの方が、通常通り計測したときの2倍の数値を記録したという結果が出ました。その上、反射スピードも上がり、力を発揮する時間も長くなったのです。この結果は、人はプラスの情報を取り入れられる環境に置かれると、自然と脳が前向きな反応をするようになるということを証明しています。
 ですから、受験生が「目指せ◯◯合格」という紙を壁に貼ったり、「必勝」と書いたハチマキを巻いたり、入試当日に家族から「大丈夫だよ」と声を掛けてもらったりといった行為はすべて、脳科学の観点からも、子どもの意欲を高めるために効果のあるものだといえます。

 いかがでしょうか。これらの実験結果はいずれも、体全体や五感を使って楽しいと感じることや、周囲からポジティブな働きかけや情報を与えられることによって、脳はそれに応じた対応をするようになるということを証明するものです。「楽しんでいる」「面白いと感じている」と脳が感じたり思い込んだりするような状況を作れれば、やる気や意欲は自然と高まっていくということなんですね。そして、学力を形成する上で最も重要な家庭学習においてこのような環境を作れるのは、お母さん・お父さんに他なりません。
 やる気は、誰かに「やる気を出しなさい」と言われて高まるものではありません。お子さんが勉強や習い事に対して意欲的に取り組むためには、叱って動かそうとするのではなく、普段から前向きな言葉掛けや環境づくりをすることこそが重要なのだ、と心に留めておいていただければと思います。

(butsuen)

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カテゴリー: 子育てについて, 家庭での教育, 小学1~3年生向け

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