2009 年 3 月 19 日 のアーカイブ

きみの涙は無駄ではなかった!

2009 年 3 月 19 日 木曜日

 今日、広島市内では小学校の卒業式が行われます。6年間の小学校生活で子どもたちは著しい成長を遂げています。幼稚園を卒園するときとは違い、様々な感慨が胸にこみあげながらの卒業式であろうと思います。

 別れの悲しさがある一方、新たな出会いもすぐ先には控えています。そう、もうすぐ中学生になるのです。「中学校って、どんなところだろう」――子どもたちは、今から始まる中学生生活に思いを馳せ、その日の訪れを心待ちにしているのではないでしょうか。

 ただし、中学受験を経験されたご家庭においては、希望どおりの進路が得られず、まだ残念無念の思いを吹っ切ることができないでいるケースもおありかもしれません。そんな親御さんやお子さんには、一刻も早く気持ちを切り替え、次なる目標に向かってスタートしていただきたいと思います。

  私たちは、「入試の結果がすべてではない」と、つくづく思います。たくさんの子どもたちの中学受験に至る過程やその後を見ていると、重要なのは入試結果ではなく、「受験への挑戦のプロセスで何を学び、何を身につけたかなのだ」ということを、思わずにはいられなくなるからです。

 6年生の男子クラスを担当していた、ある年のことです。遠方から通ってくる、一人の男の子がいました。とてもまじめな勉強ぶりで、成績もよく、気になる点と言えば、まじめすぎる性格が、“融通の利かなさ”にもつながっているように見えたことぐらいでした。ともあれ、とにかくよく勉強するお子さんでしたから、まず受験は大丈夫だろうと思っていました。

 ところが、いざ入試が始まると思わぬ事態が待っていました。第一志望校の前に受けた二つの中学校の入試に失敗してしまったのです。おそらくまじめすぎる性格が災いして、過度の緊張に襲われたのでしょう。

 そして、いよいよ本命校の入試がやってきました。彼の成績なら、全力を出し切れたなら十分に可能性はあると踏んでいました。そこで、「きみの力を出し切れば大丈夫!」と、激励すべく、入試会場では真っ先に彼をさがしました。間もなく彼は見つかりました。ところが、様子が変です。出だしに失敗している彼は、もう緊張の塊と化してしまい、顔をこわばらせていました。

 「困ったな。どう声をかけたものか」と、思案しているとき、さらに運の悪いことが起こりました。周囲の受験生が、すでに終えた入試の結果のことを小声で話しているのを耳にしたのです。「受かっていないのは、ボクだけなんだ・・・・・・」そう言ってから、しばらく沈黙したあと、声をあげて泣き出したのです。大慌てで、人の少ないところに彼を連れて行き、檄を飛ばしたものの、もはや彼の目はうつろでした。そして、為すすべもなく泣き顔の彼を入試に向かわせることになってしまいました。

 結局、本命校の入試も失敗した彼は、最後に受けた中学校に合格し、そこへ進学することになりました。その中学校の入試当日には、朝暗いうちから駆けつけましたが、すでにご両親が中学校の建物の前に立っておられました(入試会場で彼のご両親を見たのは、これが最初で最後でした)。彼の姿が見えないので、おとうさんに聞くと「教室で瞑想しています」とのこと。そういうまじめさが彼の長所でもありますが、正直言ってそのときには、「もっと開き直れないものか」と、もどかしくさえ感じられました。

 こうした状況にあっても、泰然自若としておられたおとうさんおかあさんのご様子は、今でも忘れることができません。「これは彼が自分でしでかしたこと。それを自分なりに受け止めて反省し、乗り越えるしかありません」――これは、おとうさんがおっしゃったそのときの言葉でした。

 「これぐらいできるお子さんを、どうして志望校合格へ導けなかったのだろう」と、当時随分残念な思いに駆られたことを思い出します。

 その後、中学生になった彼から2~3度便りをもらいました。がんばっているようで安心しましたが、いつしか彼のことも記憶から消え去っていきました。

 それから何年か後、たまたま彼を知っている人から思わぬ情報を耳にしました。彼が国立大学の最高峰といわれる、あのT大学の法学部に合格したというのです。そのときは心底、「よかった!」と喜びと安堵の気持ちがこみあげ、また彼の奮起を讃えたい思いでいっぱいになったものです。

 そのとき、筆者はふと彼についてあることを思い出しました。国語が苦手だった彼は、よく筆者のところにやってきて補習を受けていました。みんなが問題をやり終え、最後の一人になると、「何でボクだけできないんだ!」と泣き出したこともありました。そんなある日、彼は筆者に「ボクは、将来弁護士になりたいんです」と目を輝かせて語っていたのです。

 「そうか、彼は自分の目標をずっと投げ出すことなく、がんばっていたのだ。入試での失敗にもめげず、ずっと彼は努力をしていたのだ」――そのことを知ると、改めて彼の真摯な姿勢に心を打たれるとともに、胸から熱いものがこみあげてしかたありませんでした。

 入試結果がすべてではない。この言葉を、「気休め」ととる人もいるかもしれません。しかし、彼のような受験生がいるという事実が、筆者たち受験関係者にそう言わせるのです。おそらく、このようなお子さんを見た経験は、どの学習塾の指導担当者にも少なからずあるのではないでしょうか。

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カテゴリー: 中学受験, 子どもの発達, 子育てについて