2010 年 5 月 のアーカイブ

子どものイメージング力をどう育てるか ~その2~

2010 年 5 月 13 日 木曜日

 前回に引き続き、子どものイメージング力をどう育てるかについて話を進めていきます。今回も、主として筆者が聴講した講演会の内容をご紹介したいと思います。

 講演の内容は、子どものイメージング力を育てるのは家庭教育であるということを踏まえてのものでした。当然のことながら、日本では家庭教育の大半をおかあさんが担っておられます。講演者は、おかあさんがたに愛情を込めて話をしておられました。少しでも参考にしていただけたらと思います。

 言葉は体験とつなげて覚えれば生きた語彙になります。そうすれば、ある日突然本で再び出くわしても、サッとイメージできるようになるのです。たとえば、「トントンとドアを叩く音がして、クマさんが入ってきました」と絵本に書いてあったとします。これなら、幼いお子さんだって状況をたちまち理解できます。子どもの体験と結びついているからです。

 このことから何がわかるでしょうか。「子どもには、子どもにわかる言葉で」と、意識し過ぎる必要はないということです。おかあさんを通じて具体的状況のもとで耳にしていた言葉は、自然と身につきます。2歳、3歳でも、普通に親が「豆腐一丁」「箸一膳」などを使っていれば、子どもは自然に覚えてしまうのです。

 ところで、今日本特有のものの単位について述べました。ものの単位には、その国の文化が伺えるそうです。細かく数え方を規定されているということは、その民族がいかにそのものを大切に思っているかの証です。親はそういうことを意識して、子どもに言葉と関わらせるべきでしょう。

  さて、子どもを育てるにあたって、おかあさんがたはどんな期待をもっておられるでしょうか。子どもに学歴を得させることだけにこだわり、「何としても東大などの一流大学へ」と思っておられるかたはそんなにおられないと思います。それよりも、「わが子によい人生を歩めるよい人間になってほしい」と願っておられるかたが多いのではないでしょうか。もしそうなら、親はわが子にしっかりと言葉を教えるべきです。

 その言葉とは、私たちにとっては日本語であり国語です。国語とは、その国の習慣、文化、歴史などのすべてが合わさったものです。それを本気で子どもに伝えていかないと日本はダメになってしまいます。言葉をしっかりと教えられてこそ、子どもはものごとに興味をもち、「知りたい」という欲求に駆られて学ぶようになるのです。

 虹という言葉にしても、ただ七色を上から暗記させるのは意味がありません。虹を親子で見たとき、「あ、虹だ。虹って、日本では七色だけど、ドイツという国では五色なんだって」などと親が言ってみるのです。そして、家に帰ったら地球儀を取り出してみる。そうすると、子どもは段々とドイツに関する何かに興味をもつようになります。何気なく、種を蒔いたことが、功を奏することがあります。そういう流れをつくるための仕掛けをたくさん用意してやることが、親の役割ではないでしょうか。

 次の二つの問題の答えを考えてみてください。答えが違うことにお気づきでしょうか。

   3月10日から3日目は何月何日? 
   3月10日から3日後は何月何日?

 前者は3月12日、後者は3月13日です。こういう問題ができないのは、計算力不足が原因ではありません。日本語でつまずいているのです。「~目」「~後」――こういう言いかたを幼い頃から使っているかどうか。ためしにわが子に使ってみて、わかっているかどうかを確かめてみてください。

 また、小さい子のいる家庭には、子どもの目線に針のついた時計を掛けてやりましょう。そして、ときどき時刻を意識する言葉を会話に入れてみるのです。そういうことを繰り返していると、角度のイメージング力も自然と身についてきます。

 小さい頃から暗記する勉強をさせると、数の概念は身につきません。「一皿に2つずつ、ドーナツを3人に配りました。ドーナツは何個いりますか」という問題に対して、算数が得意なはずの子が2+3=5と答えることがあります。もし、2+2+2=5と答えていたのなら、単純な計算ミスです。重要なのは考えかたですから、答えではなく式を見てあげるべきです。また、絵に描いて考えさせると、イメージングができるから間違えません。足し算の練習→足し算のテスト・・・こういう勉強ではイメージング力は身につきません。

 パンケーキを焼いています。子ども6人に2枚ずつ焼くつもりです。でもママがいるから7人分よ。では、何枚焼くとよいのでしょう。こういうふうに、物語で算数を学ぶと子どもも絵を描いたようにイメージ化することができます。そういう勉強をさせてあげてください。

 5、6年になると、いったん身につけた思考の様式を変えることは困難になります。暗記型の勉強、パターンを覚える勉強をしたお子さんに、イメージングの力を授けることは難しくなってしまいます。しかし、1、2年生なら状況をイメージしながら学ばせることができます。そうして、状況をイメージする力を9歳までにつくっておくと、子どもの勉強は随分楽になるものです。

 おかあさんの配慮のもとで、ぜひ子どものイメージング力を育てておきましょう。イメージング力は、愛情深い家庭教育でこそ育つものなのですから。

 いかがでしたか? おかあさんがたの参考になったのではないかと思います。暗記、操作、習熟といったように、テスト成績に直結するような勉強に目を奪われていると、学力を支えるもっと重要な土台を築くことを忘れてしまいます。おかあさんがそのことにお気づきになり、お子さんをサポートされれば、状況は随分と違ってくることでしょう。

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カテゴリー: アドバイス, 子どもの発達, 子育てについて, 家庭での教育

子どものイメージング力をどう育てるか ~その1~

2010 年 5 月 10 日 月曜日

 前回は、言葉からイメージを起こす力、すなわちイメージング力が国語力、ひいては学力全般に大きく関わっているということについて書きました。

 今回は、引き続きこの話題を取り上げ、「子どものイメージング力を育てるにはどうしたらよいか」について話を進めてみたいと思います。

 この春、このイメージング力をテーマにした講演会が関西の某都市で行われました。筆者はたまたま講演者と面識があり、聴講させていただきました。講演者は、劇作家であり、小学生を対象とした学習塾を主宰し、なおかつ、大手学習塾が多数採用している中学受験の算数テキストの執筆もされているという、多芸多才な女性です。

 この講演の内容は、小学生や幼児をおもちのおかあさんがたの家庭教育に大変参考になる話であり、ちょっとその一部をご紹介してみたいと思います。なお、メモをもとにまとめましたので、講演者の言葉そのままではないことを予めおことわりしておきます。

 子どものイメージング力を育てるには、家庭での会話で(特に9歳頃までが勝負)親が気をつけるべきことがあります。それは、日常の何気ない場面で意識してイメージングにつながる言葉を用いることです。

 気持ちのいい朝です。日ざしが心地よく窓越しに差し込んできます。そんなとき、お子さんに「今朝は、やわらかな日ざしが差してくるわ」と言ったとしましょう。親の使っている言葉は、みな子どもの脳にメモリーされていきます。朝のやわらかな日ざしがどういうものか、具体的状況と一緒に脳に刻み込まれていきます。こういうことが繰り返されたなら、おそらく子どもは言葉に対する感性が豊かで、イメージング力に優れた人間に成長できることでしょう。

 一方、おかあさんが「やべえ」と言ったら、お子さんは、その言葉の使用法を例示して教えたことになり、すぐにお子さんは自分で使うようになります。それは歓迎すべきことではありませんね。

 爽やかな青年、厳かな式、こんな言葉を日常で使っていたなら、それを使った状況とともに子どもは脳にインプットすることができます。ところが、「厳かな」という言葉を、具体的場面とともに聞く機会をもたなかったなら、子どもはいつまでもその言葉を使えるようにはなれないことでしょう。一方、親が実際に使ってみせれば、子どもはすぐに自分で使えるようになります。

 これから先、子どもがどんな分野に進んでも必要となる力とはどういうものでしょうか。それは、言葉の力(語彙力)と、イメージングの力です。そして、それらはおかあさんを通じて子どもに身につけさせることができるものです。

 授業で「一面の冬景色」という言葉を使ったとき、「先生、その一面とは一辺が何センチですか?」と質問した子どもがいました。驚きました。「角を曲がると、牛が出てきてめんくらった」という文の「めんくらう」の意味を選択肢で答えさせたところ、「めん(麺)を食らう」を選んだ子どもがたくさんいました。

 こういう間違いは、頭の良し悪しとは無関係です。早くからテスト問題にばかりあたらせていると、文章の前後をちょっと読んで答えを考えたり、似たような問題を解いた経験に反応したりするクセがつき、それが仇になっているのです。パターンで対応するのではなく、流れ全体のイメージを捉えながら、部分の言葉の意味を味わい捉える力をつけるべきだったのではないでしょうか。

 いかがでしょうか。前回、弊社の入会試験を何回受けても受からなかったお子さんのことを書きましたが、今ご紹介した講演内容からも、イメージングの力を育てていなかったからだということが、おわかりいただけたのではないでしょうか。そして、子どものイメージングに力は、おかあさんの家庭教育によって育てることができるという点について、もっと知りたいと思われたかたもおありでしょう。そこで、次回も引き続き講演の内容をご紹介してみたいと思います。

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