2010 年 6 月 21 日 のアーカイブ

なぜ日本の子どもの自己評価は低いの? ~その2~

2010 年 6 月 21 日 月曜日

 前回の記事をお読みいただいたかたのなかには、「日本の子どもの自己評価が低い理由はだいたいわかった。しかし、進学を巡る競争がつきまとう日本では、点数や順位によって自分を評価する傾向をなくすことはできない。この問題を解決することは難しいのではないか」――このように考える人も少なくないことでしょう。

 確かに、日本を含め、東アジア諸国は受験熱が高く、合格を巡る競争のせいで子どもの自己評価が低くなる傾向があるようです。しかし、小学生までの子どもに関しては、大人の子どもに対する期待の差し出し方を工夫することである程度対処できるのではないかと思います。次にご紹介するアメリカの教育観などは参考になるのではないでしょうか。

 前出の国際比較調査に関わった日本の学者は、アメリカの教師に、「さほど勉強ができないのに、子どもが勉強を得意であると思えるのはどうしてか」と尋ねたそうです。すると、質問を受けた教師は、しばらく質問の意図がわからなくて当惑していたそうです。アメリカでは、子どもの学力を全体(クラス内)の順位と関連させてとらえるという発想自体がないからです。

 そのアメリカの教師は、「『2ヶ月前と比べると、よくできるようになった。だから、自分は進歩したのだ』と、子どもが思えることが重要なのだ」と語ったそうです。質問した日本の学者が、「しかし、自分は他の子よりも勉強が苦手と感じることはあるのではないか」と質問したところ、「他の子どもと比較するのは意味がない。本人ができるようになったと思えることが大事なのだ」と、アメリカの教師は答えたそうです。

 自分の以前と比較して評価をする。こうした考え方を、もっと子どもに向けてやればよいのではないでしょうか。無論、受験を視野に入れた勉強の場合、順位を参考にしないで対策はできません。しかし、子どもも親も順位にばかり目を向けるのはどうでしょうか。少なくとも親は、「以前のわが子と比べて進歩しているかどうか」「より努力をするようになったかどうか」という視点から子どもを見守り、進歩や努力を喜んでやる必要があるように思います。そうすれば、子どもが挫折や失望に苛まれることはありません。成績が思わしくなかったときでも、子どもは随分精神的に救われるのではないでしょうか。

 この記事をお読みいただいているかたの多くは、わが子の中学受験を視野に入れておられる親御さんであろうと思います。そうした親御さんにぜひお願いしたいことがあります。進学塾というところは、データ(成績)を提示しないとやっていけません。データからわかるいろいろな事柄をもとに、合格に向けた修正や対策をしていく必要があるからです。

 しかし、データには恐ろしい力もあります。極端に成績が落ちたりすると、親子共々落ち込んでしまいがちです。「もっと上をねらえ!」と親に檄を飛ばされた子どもは、自分の限界を早々に感じてしまうこともあります。がんばっても順位が上がらない状態が続くと、子ども自身が「自分には能力がない」と自らを見限ってしまうこともあります。

 データによって子どもが自分に自信を失ってしまっては、そもそも受験をめざす意義が失われてしまいます。データは活かせば役に立つものですが、データに振り回されてはならないのです。ですから、「以前のわが子より、進歩しつつあるかどうか」という視点から見守り、コツコツ努力していくことを奨励してあげてほしいのです。

 以下にご紹介する話は、以前にも書いたことがあるかもしれませんが、改めてお伝えしておきます。筆者はこれまで、「この子はすばらしい!」と唸らされるような優秀なお子さんを多数見届けてきました。そういうお子さんをみて感心したのは、「よい成績を維持しているお子さんは、それだけ努力しているお子さんなのだ」ということです。どのお子さんも、まっとうな努力をしているのです。

 たとえば、「頭のよい子だ」と思うお子さんほど、「成績は、自分の努力の度合いを示す物差しだ」という見方をしています。そして、思わしくないテスト結果が返ってきたときには、「今回は、努力が足りませんでした」と言います。そして、次は必ずといってよいほど挽回します。おそらく、次のテストに向けて反省点を洗い出し、徹底的にやるべきことをやって次のテストに臨んだのでしょう。

 無論、どの子も努力しさえすれば望む結果が得られるとは限りません。しかし、自らを信じ、努力をすることで自分を進歩させることができるのだという実感を得る体験をしたお子さんは、一生を前向きに生きていく姿勢を身につけることができます。それこそが、大きな財産ではないでしょうか。

 子どもが小学生のうちは、毎日の体験や親の働きかけがそのまま人間形成に影響を及ぼします。それを踏まえるなら、「親の差し出す期待は“成績”だけではいけない」と認識すべきではないでしょうか。もっと子どもが奮起し、自分に自信がもてるような働きかけや励ましが親の側には求められるように思います。小学生までの子どもにとって親の存在は絶対的です。その親の期待の差し出し方を工夫することで、子どもをプレッシャーから解放してやるのです。

 わが子の現状を振り返ってみてください。成績に過敏になり、自信を失いかけているようなことはありませんか。少しでもそれが感じられたなら、対処に向けて今回の記事を少しでも参考にしていただけたならうれしく思います。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強の仕方, 子どもの発達, 家庭での教育, 家庭学習研究社の特徴