2011 年 5 月 23 日 のアーカイブ

わが子との距離は適切ですか?

2011 年 5 月 23 日 月曜日

 高校・大学受験においては、受験に関わるほとんどのことは受験生自身の問題であり、親が関わる余地はあまりありません。しかし、中学受験は趣が違います。親の関わり、とりわけおかあさんの後押しや助力が入試結果にも大きな作用を果たします。

 おかあさんは、子どもの勉強の進み具合を心配して声をかけるばかりか、やる気をなくしたときには励まし、心のケアもしてやります。体調が優れないときは医者に連れて行きます。小学生までは、おかあさんと子どもの絆は特別に強く、一心同体と言えるほどです。入試本番が終了するまで、おかあさんの愛情深い献身的なサポートは決して途切れることがありません。

 こんなおかあさんとお子さんの間に、おとうさんが割って入れるスペースはほんの少しかも知れませんね。おかあさんには、「自分がお腹を痛めて産んだ子だ」「ここまで私が苦労して育ててきたのだ」という意識があります。お子さんには、「生まれてこの方、おかあさんとどんなときも常に一緒であり、おかあさんに育てられた」「本当に甘えられるのは、おかあさんだけ」という意識があります。おかあさんと子どもの絆が強いのは当たり前のことなんですね。

 映画などで、いかつい大男が危機にさらされたとき、「おかあさーん!」と声を張り上げるシーンがあります。戦争時分、特攻隊で死を直前にした兵士の書いた手紙の多くは、おかあさんに向けてしたためられています。大人になってからも、母親と子どもとの特別な関係は少しも変わるものではないのですね。

 しかしながら、わが子を心配するあまり、知らず知らずのうちに子どもとの距離が近づきすぎるケースもあるようです。わが子の一挙手一投足が気になり、うまくやれていないと、すぐに口を出してしまうおかあさんはおられませんか? 特に子どもが男の子だと、その傾向に拍車がかかるようです。そう言えば、先ほどの映画のシーンも、戦争の話も、息子から母親に向けられたものですね。

 あるとき、有名なカウンセラーの著書を読んでいたら、子どもの書いた「一行詩」が紹介されていました。その詩を読んで、筆者は目が釘付けになりました。ちょっとご紹介してみましょう。

「父よ! 何か言ってくれ。母よ! 何も言うな」

 どうでしょう。筆者は6年生の男子クラスを担当することが多かったので、こんなふうに言われるおかあさんを気の毒に思う一方で、言いたくなった生徒さんの気持ちもまたよくわかるような気がしました。あまりに母子の距離が近いと、子どもは窒息してしまいます。

 以前、電話でおかあさんからこんな相談を受けたことがあります。

<A君の家庭>
 先生、息子がいつまでたっても勉強しようとしないから注意したら喧嘩になって、机の下にもぐりこんだまま出てこないんです。どうしたらいいんでしょうか。

<B君の家庭>
 先生、相変わらず子どもはのんべんだらりで、いい加減な勉強しかしません。見ていられなくて、ついついやかましく注意するんですが、最近では暴力で逆らってくるので、ほとほと手を焼いています。いったいどうしたらいいでしょう。

 状況は似たものであり、程度こそ違え、これと同様の問題を抱えたご家庭は結構あると思います。共通しているのは、おかあさんが子どもに構い過ぎであり、お子さんがウンザリしているということです。A君・B君のおかあさんには何度もアドバイスしたことがありました。そのときは「わかりました」とおっしゃるのですが、すぐに同じ状況に戻ってしまいます。失礼を承知して言えば、子どもを自立させ損なっている、子離れができていないという感じです。

 一方、どちらのお子さんにも言えることは、いつまでもおかあさんに甘えているという現実です。未だに親離れしておらず、いつだっておかあさんの世話を受けて何事もやりとおせてきたくせに、叱られると反抗します。困り果てたおかあさんの顔を見て、ちょっぴり良心が咎めるものの、意地を出してやろうという気概や自立心がなかなか頭をもたげてきません。

 A君は優秀で、テストでは国語で一番をとったこともあります。志望校に合格しましたが、中学進学後も相変わらず踏ん張りが利かず、やがて学校を休むようになったといううわさを聞きました。B君も勉強に本腰を入れさえすれば、相当な結果が得られたはずのお子さんでした。しかし、ちゃらんぽらんな勉強をとうとう改善できずに本番を迎え、入試は今一歩の結果になってしまいました。

 ここで問題にしているのは入試の結果ではありません。子どもが心配なあまり、あまりに距離を近づけると、子どもの自立のチャンスを見失ってしまいます。入試が近づいても相変わらずのわが子の様子に業を煮やしても、今さら“勝手にしなさい!”とも言えず、ずるずると同じ状況を引きずってしまいがちです。

 勉強は、子ども自身のことです。子どもが自立した勉強ができるような応援こそ、親には求められるのではないでしょうか。そうでないと、おかあさんの苦労は逆効果になり、いつまでも報われなくなる恐れもあるでしょう。

 わが子の自立勉強の応援については、今までに度々このブログに書いていますので、よろしければ参考にしてください。

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カテゴリー: 中学受験, 子どもの自立, 子育てについて