2011 年 7 月 のアーカイブ

待てる子どもは勉強が得意?

2011 年 7 月 25 日 月曜日

 以前、ある作家さんが、著書の中でおもしろい言葉を使って最近の若者の気質を分析していました。“自販機症候群”という言葉です。ご存知のように、自動販売機はコインを入れてボタンを押すと、すぐに望みの商品を取り出してくれます。どうやらそれと同じように、何事に対しても即座に思いどおりの結果がもたらされることを期待してしまい、辛抱強く「待つ」ということができない人が増えているようなのです。

 もちろん、これは若者に限った話ではなく、私たち現代人は皆多かれ少なかれ「待つ」ことが苦手です。便利で機械化された暮らしがあたり前になりすぎて、些細なことでも思い通りにならないことが続くと、どこか不快な気持ちにさせられます。とりわけ今の子どもたちにとって、「待つ」ことは生活の中で自然と身につく習性ではなく、意識して訓練しておくべきものなのかもしれません。

 弊社の算数指導担当者によると、授業でわからない問題にぶつかったとき、それに対する子どもの反応が2通りに分かれるそうです。

 つまり、問題の解決策が見つかるまで辛抱強く「待てる」か「待てない」か、ということなのですが、勉強を進めるうえで有利なのはとうぜん(A)タイプのお子さんです。我慢がきかず、途中で問題を投げ出してしまったり、焦って解き方だけを聞き出すような勉強の仕方を続けていると、いざというときに自分の頭で考えることができません。これではせっかくの伸びシロも無駄になってしまいます。

 ただし、小学生の時点では、まだ大半のお子さんが(B)タイプというのが現状でしょうから慌てる必要はありません。授業や家庭勉強を通じて、自分の感情を上手にコントロールしながら「理解できるようになるまで待つ」能力を磨いていけば、お子さんは少しずつ変わっていくはずです。わが子の成長もまた、「待つ」ことが肝心ですね。

 自分に対しても相手に対しても、待つべきときにきちんと待てる冷静さや忍耐力を備えた子どもは、何か思い通りにならないことが起きても、簡単に諦めたり投げやりになったりはしません。そう考えると、「待つ」力は子どもが前向きに人生を歩むうえで欠かせない要素といえるのではないでしょうか。

 皆さんは待つことが得意ですか? それとも苦手なほうですか? 日頃、お子さんに対して「まだできないの?」「早くしなさい!」といった言葉をかけがちな方は、それが知らず知らずのうちにお子さんを焦らせる要因になっているかもしれません。「こういうときはどうすればいいと思う?」「もうちょっと考えてみようか」「焦らなくていいよ」――まずはこうした何気ない言葉の積み重ねから、お子さんの「待つ」力を育ててみてはいかがでしょうか。

(sugihara)

LINEで送る
Facebook にシェア
Pocket

カテゴリー: がんばる子どもたち, 子どもの発達, 子育てについて

夏休みを“自己統御力”強化の機会に

2011 年 7 月 15 日 金曜日

 自分のやるべきことを自分で考えてやるのと、他者の指示やコントロールのもとでやるのとでは、一見同じ成果を得ているように見えても、実は見えない部分での差が少しずつ生まれており、やがては随分と大きな差になっていくものです。

 人に頼ったやりかたをすると、どうしても自己成長のための方法論が身につかず、自分で這い上がり成長していくような流れをいつまでも築くことができません。無駄が多いように見えても、自分で考えて行動する姿勢を養っておいたほうが賢明です。そのほうが、はるかに大きな伸びしろを育てることになるのではないでしょうか。

 これは、小学生の受験勉強のあるべき姿をお伝えしようと思って述べたことですが、勉強以外の何につけても言えることだと思います。試しに、他の事例を通して考えてみたいと思います。

 脳科学の研究者の書物にあった話をご紹介してみましょう。肥満している人のダイエット法として、次の三つが試みられました。一つは、食事と運動習慣に対する行動変容法、もう一つは食欲を低下させる薬物療法、さらにもう一つは前二者を併用する方法です。

 三つの方法に基づき、それぞれに専門家の指導が行われました。さて、ダイエット効果はどれが一番高かったでしょうか。半年後の調査によると、いちばん効果が高かったのは二つの方法の併用で、次が薬物療法で、いちばん効果が低かったのが行動変容法だったそうです。

 ところが、1年後に体重の変化を再び測ると、今度は行動変容法の体重減が一番大きく、次いで薬物療法、二つの方法の併用の順になったそうです。

 どうしてこのような逆転現象が起こったのでしょうか。この学者によると、自己統御感の違いによるものだそうです。どういうことでしょうか。行動変容法によるダイエットに挑戦した人は、「自分の体重が減ったのは、自分の努力した結果によるものだ」と自己評価をすることができます。ですから、指導期間が終わった後も、自分なりに体重を減らすための努力を継続しました。

 一方、薬物療法を採り入れた方法の指導を受けた人は、「体重が下がったのは薬のおかげだ」と思っているので、調査期間が過ぎると「いざとなったらまた薬を飲めばいいんだから」と、薬を飲んで食事を制限するのをやめてしまったのではないかと思います。

 では、二つの方法を併用した人のダイエット効果が、いちばん減少したのはなぜでしょうか。これに言及した記述がなかったのでよくわかりませんが、「体重が減ったのは、何の作用によるものか」が頭の中で明確にされなかったからではないでしょうか。そのため、自分の努力か薬物の処方か、の行動の選択が行われなかった、すなわち何もしなくなったのです。因果関係のよくわからないことを長い期間継続するのは、誰にとっても楽ではありません。

 前出の学者は、「運動を取り入れた減量プログラムは、前頭連合野における自己統御感、あるいは自己効力感をより高めることでダイエットに効果があります」と述べていました。前頭連合野は人間の知性の司令塔です。自己統御は司令塔の機能ですから、それが活性化するということは「自分はやれる」という自信を得、さらなる行動力へという成長の連鎖が生じることになります。

 以上のことから、筆者は次のように思いました。何かをめざすにあたっては、実現するために必要な情報を集め、作戦を練らなければなりません。他者からレクチャーしてもらうこともあってよいでしょう。しかし、それから後は他者に頼らず、自分で考えて工夫する努力を怠らないことが重要ではないでしょうか。それが自らの可能性を自己肯定し、努力を惜しまない行動派の人間へと成長する秘訣なのです。

 どうでしょう。中学受験をめざして学んでいる小学生の学習と成長に当てはめてみても、全く同じことが言えるように思います。

 薬物療法よろしく、「これを処方すれば受かる」と、とにかく与えられたメニューや知識を詰め込むばかりの勉強をやっている(やらされている)と、自己統御感をいつまでも味わえません。

 これでは自分に対する自信も得られませんから、次なる目標を自ら定めて行動していくような積極性も育たないのではないでしょうか。

 大人は子どもに失敗をさせたくないため、目先の結果の得られる方法を採りたくなります。「あなたはこういう勉強をしなさい」「言われたことを、とにかく全力でやりなさい」といったように、大人の指示や命令通りにやらせたほうが無駄な試行錯誤の経験をせずに結果が得られるでしょう。しかしながら、目先の結果と引き替えに「将来の大成」というもっと遠大な視点から見た重要なものを失ってしまうのです。

 薬物療法で、目先のダイエット効果をあげるのとまさに同じことではないでしょうか。子どもに自己統御から得られる自信を体験させてやりませんか? これは何年生の家庭かどうかは関係ありません。たった今から変えていく努力をすれば、どなたも近い将来には大きな収穫を得ることができるのです。

 夏休みは、朝の起床から就寝まで、自分で考えて行動する生活を取り戻す格好の機会です。勉強も受け身ではなく、自分でやり遂げてこそ味わえる効力感を体験させてやりましょう。わが子の将来は、確実に明るい方向へと転じていくに相違ありません。

LINEで送る
Facebook にシェア
Pocket

カテゴリー: アドバイス, 子どもの自立, 子育てについて, 家庭での教育

子どもの“やる気”を引き出すためのヒント  ~その2~

2011 年 7 月 11 日 月曜日

 前回に引き続き、子どものやる気を引き出すヒントを専門家や学者の著述を引用しながらご紹介してみます。

4.子どもの“自尊心”を育む!  ベッツィー・ヤング氏

 「子どものストレス」の著者で、大学教授や作家もしているアメリカのベッツィー・ヤング博士は、「自尊心」という観点から子どもの物事に取り組むやる気について研究をされています。ヤング博士は、「自尊心」を次のように定義づけておられます。

 自尊心とは、「自分自身がどれだけ好きか」ということだが、実はもっと深い意味がある。自尊心とは、自分の価値――幸福、健康、能力、尊敬、友情、愛、達成感、成功感などを精神的に味わう気持ちである。

 これを読めば、自尊心をもっている人間は、社会で生き抜くための諸条件を携えている人間であり、きわめて健全な人間像を連想させられます。何ごとにも創造性を発揮し、よい結果を引き出せることを自ら確信し、最善を尽くせる人間なのです。では、自尊心をもつ子どもに育てるには、どんなことを心がけるべきなのでしょう。これは氏の著述ではありませんが、ある本に次のようなことが書かれていました。

  1. 一.子どもの考えや感じていることに耳を傾け、知る。
  2. 二.子どもが敗北感でなく、何か達成感を味わえるような状況をつくる。
  3. 三.子どもの年齢や性格に合った方法で、自分で自分の人生を管理しているという感覚を味わうチャンスを与える。
  4. 四.子どもに対し、愛され、能力もある子だと励ます。
  5. 五.親自身が積極的に生きている姿を見せる。

 「親は自分に関心をもってくれている」と実感すること、成功体験を味わうこと、「自分の人生の主役は自分だ」と思えること、「自分は親に愛されている」と実感すること、親が手本を見せてくれること。これらについて、改めて現状を問い直してみてはいかがでしょうか。

5.成績が悪ければ、勉強以外でほめよう!  勝山正躬氏

 神戸の灘中学校・高等学校の名物校長先生だった勝山正躬先生(平成元年没)は、中学受験生の親向けの本において、次のようなことを述べておられます。

 子どものもつ“自信”はいささか神秘的で、大人には不可解に思うことがときどきあります。例えば、勉強には精彩を発揮しない子どもでもひとたびグランドに出ると、ハツラツとし始める子どもがいます。「おまえは、教室では元気がないくせに、運動だと自信たっぷりだなあ」とほめるとニコニコしています。そんな子どもに勉強法をアドバイスすると、やがてぐんぐん成績をあげることがよくあるものです。

 これは、成功体験の一種と言えるでしょう。グランドで知っている成功の喜びを、教室でも味わいたいと子どもが気づいたからなのです。ほめる材料は、勉強の中にしかないわけではりません。子どもは、日常生活のすべての場で、全人格をさらけ出して生きていますから、そこから長所を見つけてほめればいいのです。他人に対する優しさ、思いやり、几帳面さでもいいでしょう。それをほめ続けることによって、子どもが自信をつかみます。そのうえで、親は上手に勉強の方にエネルギーの向きを変えればいいのです。

 勉強がうまく行かず悩んでいる子どもを、「勉強、勉強」と追い立てても、子どもは辛い思いをするだけです。しかも、それによって全人格が否定されるのでは、意欲を湧かしようがありません。「急がば回れ」です。子どもを信頼している態度を見せる→ほめる→自信をつけさせる→勉強への意欲を駆り立てる、そんなやり方もあるということに気づいてほしいと思います。

 子どもにとっては、親のほめ言葉は何よりの自信につながります。しかし、勉強がうまく行っていない子どもをほめるのは難しいものです。そんな子どもには、ほめる要素を勉強に限定する必要はないのだということを教えられる話です。

 いかがでしょうか。5名の専門家や学者の著述をご紹介してみました。やる気・学習意欲に関する話題は、これまでにも何度かとりあげてきました。

 しかしながら、この話題には「満足」という到達点が見えることはありません。また、よくなったと思ったら、また元どおり、といった繰り返しもあります。ただし、親の姿勢だけは変わらないでいたいものです。それは、子どもの出した結果を評価するのではなく、子どもの取り組みがどう変わるかを期待する温かい眼差しを失わないことであろうと思います。

LINEで送る
Facebook にシェア
Pocket

カテゴリー: 勉強について, 子どもの自立, 子育てについて, 家庭での教育

子どもの“やる気”を引き出すためのヒント  ~その1~

2011 年 7 月 4 日 月曜日

 子どものやる気は、親や周囲の大人の配慮次第で大きく変わる可能性があると言われています。時代は変わっても、子どものやる気を引き出す働きかけさえすれば、子どもはちゃんとがんばるのです。そこで、子どものやる気を引き出す親の接し方とはどのようなものかについて、学者や学力形成の専門家の著述から参考になりそうなものをご紹介してみたいと思います。

1.“よい点”を最大限にほめる!  スペンサー・ジョンソン氏

 医学博士のスペンサー・ジョンソン氏は、コミュニケーションに関する多数のベストセラー本を出しておられます。博士の著書のなかに参考になる記述があります。簡単ご紹介してみましょう。

 少年は、おそるおそるリビングルームに入って母親に成績表を渡しました。気持ちは落ち着きませんでした。Aが二つに、Bが三つ、Dが一つ、という自分の成績を知っていたからです。歴史はDしかもらえませんでした。

 「ジェームズ・ソーンダース君」と母親は静かに話し始めました。そして、黙って成績表をもう一度見直してから、大声で叫んだのです。「君はすごい!」 少年は苦笑いをしました。「ほら、見てごらんなさい! Aが二つに、Bが三つもあるじゃないの」 そして、その子を抱き寄せながら言いました。「ジミー、おかあさんはとても幸せよ。おまえがよくやってくれたんでうれしいわ」

 この家を訪れていた女性が、「お子さんの成績表にはDが一つあったんじゃありません?」と解せない顔をして尋ね、さらに、「Dについて何も言わないのは親として無責任では」というようなことを言います。すると、「よい成績をとろうと努力するのは子どもの責任です。母親がその責任を取ってしまったら、自分で責任のとれない子になってしまいますわ」と母親は答えます。そしてさらに、「責任(responsibility)という言葉の意味についてお考えになるといいと思います。これは、対応(response)する能力(ability)のことを意味しています。私が子どもにできる最大の贈り物は、人生に対応させることなのです。私は、子どもが進んで自分の責任を担っていけるよう、手伝っているのです」と、答えます。実は、この母親はよい点をほめることで、ほとんどCだったジミーの成績を今の成績にまで引き上げたのでした。母親に認めてもらったジミーは、率先してがんばったのです。

2.子どもに“共感”する!  汐見稔幸氏

 汐見稔幸氏は、東京大学大学院の先生でしたが、東京大学附属中等教育学校の校長を務められたご経験もあります。その汐見先生が、子どもの考える力を育てるための簡単なコツを書いておられました。これは、やる気を引き出すことにも通じるでしょう。内容は、だいたい次のようなものです。

 子どもの考える力を育てるためには、何ごとにつけても「自分自身が主役なんだ」という意識をもたせ、「自分が好きでやっていることだ」というところをできるだけ保証してやることが大切です。「親の言うことを聞きなさい」という会話、命令する・指示する会話をできるだけ減らすということです。親は忙しいですから、「早く」とか「いい加減にしなさい」と言いたくなるのは当然ですが、子どもとの会話の時間を大切にし、そのときには聞き役になることも必要です。子どもにとっては、「親が一生懸命考えて応えてくれた」ということがとても重要なのです。そういうことを続けていると、子どもに自分で考えて行動する力が自然と育っていきます。

  1. ・親の考えていることをすぐに「やってちょうだい」という形にする会話を避ける。
  2. ・聞き役になり、共感することに徹する。

 この二つのことを心がけるだけで、子どもは考えながら話すようになるそうです。

3.“ピグマリオン効果”を引き出す!  桜井茂男氏

 筑波大学心理学系教授の桜井茂男先生は、子どもの学習意欲の研究者として知られています。その桜井先生の著作に、子どもの意欲を引き出す効果的な励まし方について参考になる記述がありますので、簡単にご紹介してみましょう。

 教師が学業成績の悪かった子どもに対して、「もっとがんばりなさい」と激励する姿をよく見る。しかし、能力がなければいくら努力したとしても無駄ではないか。私たち日本人は「努力」を大切にするあまり、それに頼りすぎてはいまいか。「ほんとうは頭がいいのだから、もっと努力してごらん」とか、「能力はあるのだから、がんばればよい点がとれるよ」というような潜在的な能力のあることを理由として激励する方が効果的ではないか。そこで私は、小学生、中学生、大学生を対象として、教師から「努力不足だから努力しなさい」と激励される場合と、「本当は頭がいいのだから努力しなさい」と激励される場合とを比較し、どちらが学習意欲や教師への好感度が高まるかを調査した。

 結果は、小学生も、中学生も、大学生も、潜在的な能力を理由に激励されるほうが学習意欲も教師への好感度も高まることが示された。

 「がんばりなさい」という励ましは、どのご家庭でも熱心にされていると思います。しかしながら、「子どもの能力を認めた、力強い励ましをしていますか?」と言われると、「もちろん、やっていますとも」と答えられる人は、意外と少ないようです。「わざとらしくて、照れくさい」と感じられるかたもおありかもしれませんが、自然に言える言い回しを考え、ぜひ試していただきたいと存じます。

LINEで送る
Facebook にシェア
Pocket

カテゴリー: 勉強について, 子育てについて, 家庭での教育