夏休みを“自己統御力”強化の機会に

2011 年 7 月 15 日

 自分のやるべきことを自分で考えてやるのと、他者の指示やコントロールのもとでやるのとでは、一見同じ成果を得ているように見えても、実は見えない部分での差が少しずつ生まれており、やがては随分と大きな差になっていくものです。

 人に頼ったやりかたをすると、どうしても自己成長のための方法論が身につかず、自分で這い上がり成長していくような流れをいつまでも築くことができません。無駄が多いように見えても、自分で考えて行動する姿勢を養っておいたほうが賢明です。そのほうが、はるかに大きな伸びしろを育てることになるのではないでしょうか。

 これは、小学生の受験勉強のあるべき姿をお伝えしようと思って述べたことですが、勉強以外の何につけても言えることだと思います。試しに、他の事例を通して考えてみたいと思います。

 脳科学の研究者の書物にあった話をご紹介してみましょう。肥満している人のダイエット法として、次の三つが試みられました。一つは、食事と運動習慣に対する行動変容法、もう一つは食欲を低下させる薬物療法、さらにもう一つは前二者を併用する方法です。

 三つの方法に基づき、それぞれに専門家の指導が行われました。さて、ダイエット効果はどれが一番高かったでしょうか。半年後の調査によると、いちばん効果が高かったのは二つの方法の併用で、次が薬物療法で、いちばん効果が低かったのが行動変容法だったそうです。

 ところが、1年後に体重の変化を再び測ると、今度は行動変容法の体重減が一番大きく、次いで薬物療法、二つの方法の併用の順になったそうです。

 どうしてこのような逆転現象が起こったのでしょうか。この学者によると、自己統御感の違いによるものだそうです。どういうことでしょうか。行動変容法によるダイエットに挑戦した人は、「自分の体重が減ったのは、自分の努力した結果によるものだ」と自己評価をすることができます。ですから、指導期間が終わった後も、自分なりに体重を減らすための努力を継続しました。

 一方、薬物療法を採り入れた方法の指導を受けた人は、「体重が下がったのは薬のおかげだ」と思っているので、調査期間が過ぎると「いざとなったらまた薬を飲めばいいんだから」と、薬を飲んで食事を制限するのをやめてしまったのではないかと思います。

 では、二つの方法を併用した人のダイエット効果が、いちばん減少したのはなぜでしょうか。これに言及した記述がなかったのでよくわかりませんが、「体重が減ったのは、何の作用によるものか」が頭の中で明確にされなかったからではないでしょうか。そのため、自分の努力か薬物の処方か、の行動の選択が行われなかった、すなわち何もしなくなったのです。因果関係のよくわからないことを長い期間継続するのは、誰にとっても楽ではありません。

 前出の学者は、「運動を取り入れた減量プログラムは、前頭連合野における自己統御感、あるいは自己効力感をより高めることでダイエットに効果があります」と述べていました。前頭連合野は人間の知性の司令塔です。自己統御は司令塔の機能ですから、それが活性化するということは「自分はやれる」という自信を得、さらなる行動力へという成長の連鎖が生じることになります。

 以上のことから、筆者は次のように思いました。何かをめざすにあたっては、実現するために必要な情報を集め、作戦を練らなければなりません。他者からレクチャーしてもらうこともあってよいでしょう。しかし、それから後は他者に頼らず、自分で考えて工夫する努力を怠らないことが重要ではないでしょうか。それが自らの可能性を自己肯定し、努力を惜しまない行動派の人間へと成長する秘訣なのです。

 どうでしょう。中学受験をめざして学んでいる小学生の学習と成長に当てはめてみても、全く同じことが言えるように思います。

 薬物療法よろしく、「これを処方すれば受かる」と、とにかく与えられたメニューや知識を詰め込むばかりの勉強をやっている(やらされている)と、自己統御感をいつまでも味わえません。

 これでは自分に対する自信も得られませんから、次なる目標を自ら定めて行動していくような積極性も育たないのではないでしょうか。

 大人は子どもに失敗をさせたくないため、目先の結果の得られる方法を採りたくなります。「あなたはこういう勉強をしなさい」「言われたことを、とにかく全力でやりなさい」といったように、大人の指示や命令通りにやらせたほうが無駄な試行錯誤の経験をせずに結果が得られるでしょう。しかしながら、目先の結果と引き替えに「将来の大成」というもっと遠大な視点から見た重要なものを失ってしまうのです。

 薬物療法で、目先のダイエット効果をあげるのとまさに同じことではないでしょうか。子どもに自己統御から得られる自信を体験させてやりませんか? これは何年生の家庭かどうかは関係ありません。たった今から変えていく努力をすれば、どなたも近い将来には大きな収穫を得ることができるのです。

 夏休みは、朝の起床から就寝まで、自分で考えて行動する生活を取り戻す格好の機会です。勉強も受け身ではなく、自分でやり遂げてこそ味わえる効力感を体験させてやりましょう。わが子の将来は、確実に明るい方向へと転じていくに相違ありません。

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カテゴリー: アドバイス, 子どもの自立, 子育てについて, 家庭での教育

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