2012 年 8 月 27 日 のアーカイブ

子どものコミュニケーション力が低下している?

2012 年 8 月 27 日 月曜日

 一般に学力というと、教科の様々な知識や技能のことを思い浮かべます。事実、中学入試においても、算数、国語、理科、社会の4教科の知識や技能を問う問題が大多数を占めています。

 しかし、学力の要素はそれだけではありません。テストで測りにくい学力、測れない学力もあります。読解力、論理的思考力、論述力、ディベート力などいろいろありますが、今のテスト制度では能力差や優劣を数値化するのが困難な場合が多く、中学入試においても中心的存在ではありません。

 また、学力そのものではないけれども、学力を支える重要な要素があります。たとえば、好奇心や学習意欲、集中力、学習を計画的に行う力、継続力などです。さらには、コミュニケーション力なども、学力形成に欠かせない要素であり、広義の学力要素として含める考え方もあります。これらについては、以前も書いたことがあります。

 今回は、このうちのコミュニケーション力を話題に採り上げてみました。というのも、近年教育現場で「子どもたちのコミュニケーション能力が心配になった」ということが、しきりに取り沙汰されているからです。

 どういうことかというと、たとえばクラス全員で話し合って何か発表をしたり、グループで作業をしたりするような課題があるとき、誰も音頭を取ろうとしない、段取りをつけるために話し合おうとしない、などのような事態が生じているのです。

 弊社でも、苦手教科をもつ児童の補強指導をしているとき、休憩時間に子どもたちをしばらく遊ばせてやろうとしたものの、昔のようにくつろいだ話に興じたり、消しゴム落としなどの遊びに興じたりする子どもが少なくなったと聞きました。あるときなど、楽しい会話を演出しようとしたにもかかわらず、互いに口を利くこともしないでだまって座っているので、指導担当者が戸惑ったという話を耳にしました。小学生の子どもは活発に動き回るものです。行儀がよいと単純に喜ぶわけにはいきません。

 そう言えば、以前筆者が6年生を担当していたとき、ただの一度も他の子どもと口を利く様子を見たことのない男の子がいました。心配になり、こっそり休憩時間にその男の子がどうしているか教室を覗いてみました。すると、一人ぽつんと自分の席に座っていました。

 これには驚きました。テストでは常に上位の1~2割以内にいましたから、とても頭がよいお子さんです。しかし、人と交わることが苦手なお子さんはいくら勉強ができても、先々の人生で壁に突き当たってしまうことでしょう。筆者は、「一度彼を笑わせてやろう」と思い立ち、授業中にジョークを連発してみました。「笑ってくれるようなら、そう心配することもないだろう」と思ったからです。うつむいたまま、かすかに笑っている彼の様子を見て、少しほっとしたことを覚えています。

その男の子は第一志望の私学に合格し、そこへ進学しました。しかし、筆者はその男の子のことがやはり心配で、ずっと忘れることができませんでした。

 何年か経って、彼が進学した私学の先生と話をする機会があり、その子の名前を挙げてみました。今、どうしているかどうしても知りたくなったからです。すると、筆者が聞きたいことを説明するまでもなく、「あっ、彼ですね。最初は驚きました。けれど、今は何とかやっていますよ」という返事がかえってきました。

 ほっとしつつも、「やはり、苦労しているのだろうな。がんばれよ!」と、心の中で念じたことを覚えています。

 この男の子のように、勉強秀才でもコミュニケーションの足りない子どもは、人とつながりをもたねばならない世界ではなかなか自分を通用させるのに難儀をすることが予想されます。この場合のコミュニケーション力は、学力というよりは知力の一要素だととらえるべきかもしれません。

 ただし、一般にはコミュニケーション能力の不足は、学力形成にとってもマイナスになることが多いものです。

 授業で必要とされる最も基本的なコミュニケーション力は、「先生の話を傾聴し、理解する力」です。先生の話が聴ける。これが、集団指導の場での基本中の基本となるコミュニケーション能力です。また、授業でわからないことがあるとき、タイミングよく手を挙げ、先生に質問する力もそうした能力の要素でしょう。これができるかできないかでは、やはりなにかと違ってくるのではないでしょうか。さらに、クラスの仲間と教えあったり、ともに刺激を与え合ったりするような力も、コミュニケーション力です。これも、やる気や成果に随分影響してきます。

 中学、高校、大学と、中学受験以後の学びの場では全て集団指導が軸となります。ですから、弊社では学校と同じ形式で、それより少人数クラス編成で(一人ひとりに目配りするため)指導を行っています。演習指導や、1対1の個別対応の指導もしないわけではありませんが、日本の学校教育のスタイルでうまく学力を伸ばせる態勢を築いておくことが重要だと考えるからです。

 しかしながら、子どもの育つ環境が少しずつ変わり、こうした授業などの集団指導にうまく乗れないタイプのお子さんが増えてきているのは間違いないように思います。コミュニケーション力が未熟なまま成長すると、テスト対応型の学力は備わっても、社会にでてから自分を通用させることができません。

 先ほどご紹介した男の子が、無事に自分を修正して成長していることを祈るばかりです。おたくのお子さんはどうでしょうか。家族同士が楽しい話題に興じたり、互いの話に耳を傾けたりする時間を継続的につくってあげてください。コミュニケーションの基本は対話です。お子さんは、おかあさんの目を見て話を聞いておられるでしょうか。互いに目を見て、心からの交流を心がけてください。

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カテゴリー: 家庭での教育, 家庭学習研究社の特徴, 家庭学習研究社の理念