今こそ、学びの奥深い世界へ

2012 年 10 月 1 日

 昔購入して読んだ本をふと手にして読み返していると、日本人について考えさせられる記述が目に留まりました。一つの国民をはかる物差しは、人、文化、金、軍事力、商品の5つだというのです。このもの差しで日本人をはかると次のようになるそうです。

Man doesn,t speak (人はしゃべらない)
culture whispers (文化はささやいている)
money speak a little (お金はわずかながらものをいっている)
military power keep silent (軍事力は、沈黙を守るのみ)
commodities speak much (商品は、大いにしゃべりまくっている)

 これが、国際的な日本人の評価を表すものだというのですが、30年ほど前とおぼしきこの評価は、今もほとんど変わらないのではないでしょうか。

 国際舞台で、きちんと他国に対して語るべきことを語れないもどかしさが日本人にはつきまといます。素晴らしい文化をもちながら、十分にそれを諸外国に理解してもらう努力が欠けています。途上国支援がとかく金ぐらいでしかできない日本ですが、それでもそれはそれで多少は感謝されているかも知れません。軍事力は、基本的にもたない国ですからこういう評価になるでしょう。日本商品の卓越性については、この数十年間完全に国際的評価として不動のものになりつつあります。

 これを見ても、日本人がいちばん苦手をするものが浮き彫りになりますね。つい最近もそのために、とんでもない状況が発生しています。

 これから社会に旅立つ次世代には、国際的に通用する人間に是非とも成長してもらいたいものです。と言うと、「じゃ、英語がやっぱりいちばん必要な勉強だ」と思われたかたもおありかも知れません。しかしながら、英語を自在に話せることが、そのまま国際派として世界に通用する人間になることにはつながらないのが難しいところです。また、前述のような日本人の評価を覆す切り札にもなり得ません。

 英語を高いレベルで身につけ、外国生活を送った経験をもつ人の書物を読むと、英語万能論はどこからも聞こえてきません。英語は流暢でも、日本について自分について雄弁に語れる人、持論を闘わせて外国人と相対峙できる人、本当のコミュニケーション能力を備えた人でなければ相手にされないという記述をしばしば目にします。

 では、日本の子どもたちが世界に通用する人間に成長していくためには、何が必要なのでしょうか。筆者のような人間が言えることは少ないのですが、優秀な児童を多数お預かりする身としては、「真に教養のある人間に成長していくための礎を、今のうちに築いてほしい」というのが正直なところです。

 真の教養とは、学歴ではありません。受験勉強というと、とかく学歴や学校歴を獲得するための手段とみなされがちですが、小学生の子どもは基本的にまだ「ために学ぶ」という意識はありません。ですから、周囲に水を向けられて受験勉強を始めたとは言え、「受験合格のために勉強しなくては」といった意識はまだ希薄です。

 このような段階にこそ、学ぶということの楽しさや喜びをたくさん味わってほしいと思うのです。本当の学びの目的は、「今学んでいることのなかにある」と言われます。学歴を得たり、何かを手に入れたりするためではなく、目の前に存在する知の欲求を満足させるために学びはあるのです。

 こうした体験をたっぷりと積んだ子どもは、中学・高校生になってから「何のために勉強するのかわからない」「将来進むべき道がわからない」などという、低次元の悩みに陥る可能性は低いでしょう。思春期から青年前期は、「自分探しの時代」などと言われますが、本当の学びを体験している人間は、探さなくても、自分という主体の志向性を見出しています。学びを通して自分が追究していきたいものがおぼろげなりとも見えていると言います。

 子どもたちには、小学生のうちに知を追究する姿勢を養ってもらいたいと、筆者はつくづく思います。そうすることで、自分という存在がどういう人間か、何をしたい人間なのかも自ずと見えてきます。真の教養も、そうした学びから育まれるのだろうと思います。

 英語が自在に話せるのは素晴らしいことですが、その前に自分の人間づくりをしっかりとしておけば、どこでも通用する人間になることができるでしょう。そのほうが人生の充実に有効なのは間違いありません。

 いつか日本人が今の壁を乗り越え、国際的な評価を高めるような時代がやってくるかもしれません。そういう時代を築くのは、本当の学びの価値を見出す人間を育てる教育の力だと思います。国は、もっと教育に力を注ぐべきではないでしょうか。
 

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カテゴリー: 勉強について, 家庭学習研究社の理念

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