夏期講習で出会った凄い中学受験生

2013 年 7 月 22 日

 6年部の「中学受験夏期講習」が今日(7月22日)から開講します。4・5年部の「夏期講座」も、24日から始まります。この長い夏休みを上手に活かせば、学習状況が好転し、一気に成績を伸ばすことも可能です。悔いの残らぬ夏の講座、夏休みにして欲しいものです。

 さて、夏休みの講座というと、かつて筆者が一夏だけ授業を担当した凄い受験生のことを思い出します。今回はその受験生のことを書いてみようと思います。

 当時6年生でしたが、毎回のテストの総合成績で男子のトップは必ずと言ってよいほど彼でした。それもぶっちぎりの成績で、2位の子どもが350点(400点満点)だとすると、彼は380点台といった具合で、誰も並ぶことすらできません。

 当時6年部男子会員は三百数十名ぐらいいましたから、いくら優秀な受験生でもそうそう1位を続けるのは難しいものです。また、1位と2位の点数も拮抗することが多く、毎回のぶっちぎりとなるとほとんど不可能です。

 それをやってのける彼ですから、すぐに噂の人になりました。指導する側の私たちも、「○○君凄いね!」としばしば話題にしたものです。まして他の子どもにとっては、まばゆいほどの「雲の上の人」であり、「あこがれの対象」だったようです。

 実は、彼は日曜コース(現在の土曜コース)の会員でしたから、テスト日以外は家庭勉強で受験対策をしていました。したがって、一度も会ったことはありませんでした。そんな彼が、夏の講座に参加することになりました。しかも、筆者が所属していた校舎の、担当クラスに通ってくるのです。これは大きな楽しみができました。いったい、どんな子どもなのでしょう。

 夏期講習の初日、初めて彼を見て驚きました。既に170㎝はあろうかという長身で、しかも今でいう“イケメン”なのです。小学生の子どもにそんな形容はふさわしくないと思われるでしょうが、既に彼は中学3年生ぐらいの雰囲気をたたえていました。「天は、二物も三物も与えることがあるのだな」と、感心させられたものでした。

 そんな彼の授業の様子はと言うと、これがまたケチのつけようがありません。背が高いのでいちばん後ろの席に座っていたのですが、いつだって背筋がピンと伸び、まっすぐに筆者のほうをを見ています。授業で扱う内容が退屈なとき、大概の児童は欠伸を堪えられなくなったり、落ち着かなくなったりするものですが、彼だけは申し訳ないほど真剣に授業を聞いてくれました。

 印象に残っているシーンがあります。ある説明をしているとき、「ん?」といった表情をした彼は、やおら辞書をめくり始め、ノートにメモをとったと思いきや、軽く頷くとたちまち元どおりに授業を聴き始めました。その大人びた所作に、こちらが引き込まれるほどでした。

 講座が何日か経過したある日の休憩時間のこと。彼の机の前から教室外まで、子どもの列ができていることに気づきました。不審に思って近づいてみると、子どもたちが交替で彼の座席に座っているのでした。彼の存在は、もはや周囲の子どもたちにとって「身近な神様」のようなものであり、そんな彼にあやかりたかったのでしょう。

 「凄い人」が目の前にいるのは幸運なことです。彼の一挙手一投足がよき手本となり、大変な刺激や励みをもらえるのです。まして、一度でも仲良く話を交わす機会を得た子どもは、それこそ有頂天になり、目の色を変えて勉強に励むようになりました。こうして、彼の存在は周囲の子どもたちの取り組みに多大な影響を及ぼしたのです。彼を中心に友だちの輪が広がっていったのは言うまでもありません。

 彼は単に勉強ができる「天才」ではなく、周囲のみんなに優しい気遣いを忘れない、人間的にもすばらしい存在でした。入試会場で、落ち着かない様子の友だちを心配し、ずっと付き添っていた姿を今でも思い出します。中学受験後、それぞれ進路は変わっても付き合いは絶えることがなく、成人後も連絡を取り合っていると聞いています。

 友人がすばらしければ、「少しでも近づきたい」と誰しも願うものです。でも、それだけに留まりません。「一度でいいから彼を負かしてみたい」――そんな思いに駆られ、必死になって勉強に打ち込むようになります。そうやって、彼はたくさんの受験生を引っ張ってくれたのです。ひょっとしたら、彼がいたから入試の結果を引き出せた子が少なからずいたのではないかと思います。

 それから7~8年ほど経った頃でしょうか。所用で私学を訪れたとき、ふと彼の進学先だったことを思い出しました。そこで、お会いした先生に彼の在学中の様子を尋ねてみました。すると、その先生はこんなことをおっしゃいました。

 「ああ、○○君ですね。彼のような凄い生徒はめったにいません。彼のような生徒がせめてクラスに1人ずついてくれたら、うちの学校はもっともっとよくなるんですがね」

 クラスに1人でもお手本になる生徒がいると、クラスの雰囲気がガラリと変わるのだそうです。なぜなら、自分の実力に覚えのある生徒は、自分よりもはるかに凄い生徒がいると目の色が変わります。そして、「彼のようになりたい!」「彼を負かせるだけの実力を身につけたい!」と、必死にがんばるようになるのです。それが教室に緊張感をもたらせ、集中力のみなぎる授業が実現するのです。まるで、中学受験生の頃に起こったできごとと同じです。彼は、行く先々でこうやってお手本、目標になって周囲の人間によい影響を与え続けたのですね。

 彼の進学先ですが、当然ながら最高峰のあの国立大学です。ただし、その後はどうしているかわかりません。彼のことですから、立派な人生を歩んでいることでしょう。

 毎年たくさんの受験生をお預かりする私たちですが、彼のような完成度の高い受験生はそうそういるものではありません。しかし、彼が「小学生でもあれだけのことができるのだ」という事例を示してくれたことは、後々までも指導の役に立っています。

 さて、4・5年生の夏の講座は明後日から始まります。初めて弊社の教室に通うお子さんは当然ながら、これまで通っていたお子さんも「どのクラスになるのか」「先生が誰か」と、期待や不安の入り混じる思いで初日を迎えられることでしょう。すべてのお子さんが、充実した学びの時間を実現し、講座の最終日まで元気いっぱいに頑張り通されますように!また、夏の講座でよき友、よきライバルができるといいですね。

 

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カテゴリー: がんばる子どもたち, 中学受験, 勉強について, 勉強の仕方, 子どもの発達, 子どもの自立

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