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修道と広島女学院の校長をお招きして その2

木曜日, 11月 28th, 2013

 前回に引き続き、修道と広島女学院の校長先生をお招きして実施したイベント、「私学が育む子どもの未来」の様子をご紹介します。今回は、修道の田原校長、広島女学院の星野校長にお話しいただいた事柄の後半をご紹介します。

④ 自分を見つけ出すための環境

 中学・高校の6年間は、思春期を経て青年前期に移行していく大切な時期ですが、この期間に子どもたちは自分という人間のありかたを追求し、将来の展望を定めていくことになります。しかしながら、近年は自分がどんな適性をもった人間なのか、どんな進路を歩むべきか、そういった大事なことに向き合う姿勢の欠落した生徒が増えていると言われます。

 私学には高校受験がありません。思春期を受験準備に追われることなく過ごせる私学の生徒にとって、“自分探し”のゆとりをもてることは大きな強みです。修道、広島女学院では、この点に関してどのような教育やサポートをしておられるのかを尋ねてみました。

20131128_a修道 修道で過ごす6年間で、生徒は「自分でものを考える」という姿勢を養い、自分の進路を見つけ出します。学校は、そうした生徒に様々な刺激を与えます。たとえば、年間を通じてOBを招いて講演をしてもらっています。ありがたいことに、その講演に出たいという申し出がたくさんあります。また、「東大見学ツアー」というのを高校1年生対象でやっています。数ある大学の中で、敢えて頂点にある東大を選び、最高のものを見せることで発憤を促すわけです。東京ドームホテルのオーナーは修道OBで、そこに泊まらせてもらいます。参加者はバス一台分、50名に限ります。中学3年生のときの成績で選抜しますので、行きたい連中はこの時期に必死で勉強します。このように、男の子は単純な仕掛けに燃えるので、そういう刺激をたっぷりと与えます。ともかく、卒業生にいっぱい協力者がおり、その人たちと交流することで生の進路指導ができることが修道の強みだと思っています。

20131128_b女学院 女の子が仕事に就くにあたっては、自分の隣国のこと、世界で何が起こっているのかということなどを学びながら、人間としての視野を広げておくことが必要です。そういう知識を修めることで、「自分に何ができるか」「何に貢献できるか」「自分の力は、どこで発揮できるか」を考えるようになっていきます。そうした成長を引き出すため、たとえば世界銀行で働いているOBをお呼びして話をしてもらったり、海外の人々との交流を積極的に行ったりなどの働きかけをしています。年間を通じて、100名以上の人に来校していただいています。その方々は、教員、社会人といろいろです。海外の大学に進学を希望する生徒も調べてバックアップするなど、時代の要請に答えるグローバル教育といった視点を大切にしています。

⑤ 校長先生にちょっと聞いてみたい!

 このコーナーは、ひとつのまとまったテーマとしては掲げられなかったものの、どうしてもお聞きしたかった話題について手短にお話しいただこうという趣旨で設けたものです。

1.私立進学校への進学が決まったとき、私たち(学習塾)が最も多く受ける質問は、「勉強についていけるでしょうか」というものです。実際、学習状況に問題が生じた生徒さんに対しては、何らかのフォローがあるのでしょうか。

修道 まず大切なのは、そういった状況に至らないことです。本校は、「自由、自由」といった雰囲気がありますが、中1と中2(初級)においては、みっちり勉強を鍛えます。相当な勉強をしてもらっています。これで学習習慣や学習姿勢をしっかりとさせ、基礎を固めます。それでもテストの成績がよくない生徒は、担任がピックアップし、バス1台(50名)で夏休みに山奥にあるお寺に出向き、セミナー合宿をやります。2泊3日で、朝から夜中までひたすら勉強に取り組ませ、「もう絶対にこんな経験はしたくない!」と生徒が悲鳴をあげるほど勉強させます。そういうきつい体験を通して生徒を目覚めさせ、取り組みを変えていこうというわけです。入ってからの心配など無用です。

2.英語が世界共通語としてますます重要になっています。広島女学院は明治19年の創設以来、英語教育に定評があります。英語力をつけることに関して、どんなことをされているのでしょうか。

20131128_c女学院 おっしゃるように、本校は英語塾としてスタートしました。英語習得のための教育には熱心に取り組んでおり、外国からも外国人が多数やってくる環境にあります。本校では、英語教育の根本として、“英語を学ぶ”というのではなく、“英語で学ぶ”ということを大切に考えています。語学は何かを学ぶための道具であるという認識に立っているからです。英語教員は、英語の授業においても英語を覚えさせるのではなく、英語の文章にあるメッセージ性に着目させるよう心がけています。入学いただくにあたっては、予め英語を学んでおく必要はありません。ゼロからのスタートを前提に指導していきます。また最近では、「使える英語にする」という文部科学省の方針に沿って、トーイックだけでなく、話す力を重視しているトーフル(トーフルジュニア)も導入しています。

3.男子だけの学校で6年間、女子だけの学校で6年間を過ごす意義についてお話しください。

修道 正直申し上げて、同じ年齢だと男子より女子は精神年齢が上で、男子は相手にされないほどです。中1や中2の男の子は、言ってみればサルのようなものです。女子に頭を押さえられない環境で、伸び伸びともみくちゃで過ごしてこそ成長できるんです。それに、男子だけで過ごすと女性を神格化し、女性に純粋なあこがれをもつようになります。それはとても大切なことです。近年、経営上の理由で男子校や女子校が激減していますが、その一方、「共学でありながら男女別学」という方式をとる学校が現れています。このほうがよい教育ができるからです。私は、男子校は残されるべきだと思います。

女学院 女子だけだと、自分を遠慮なく出せます。同じ年齢の男子は、幼い、うるさい、落ち着きがないなど、この年齢の女子にとって、言ってみれば面倒な存在なんですね。女子同士のほうが安心できるんじゃないでしょうか。また、女子だけで学校の様々な行事を運営することで、男子に頼ることなく全部自分たちでやることで自立心が養われ、リーダシップをもった女子も育ちます。また本校では、高校に上がっても生徒の進路とは無関係にクラスを編成します。いろいろな方向をめざす生徒が交流を深めながら、グループで励まし合う体験は貴重なもので、こうした経験を通して「全体で力を発揮する女子の特性」が活かされるようになるのです。私も、女子校は必要だと思います。

⑥ 私学で伸び伸びと成長するための秘訣

 20131128_dいよいよ最後のテーマです。先ほどの生徒さんへのアンケートでもわかりますが、どの私学にも入学試験があり、第一志望の者だけが入学しているわけではありません。それなのに、修道や広島女学院の生徒さんの大半は「学校大好き!」と言っています。これは素晴らしいことですが、何か秘密があるのでしょうか。また、思い通りの受験結果が得られなくても、子どもがちゃんと成長していくにはどういう配慮が必要でしょうか。

修道 入学したら、もはや第一志望だったか、第二志望だったかはどうでもよいこと。「この学校が好き!」という思いを育てる力が私学にはあり、それが公立学校との大きな違いです。まず、生徒の面倒見が違います。この細やかな面倒見は、公立では実現できません。また、先生はみな「修道で教師になりたい!」という強い思いをもち、採用に至った情熱ある人間です。その先生は、ずっと修道の先生であり続けながら成長していきます。数年ごとに教育委員会から割り振りされて勤務校が変わる、公立の先生とはそこが違います。つまり、先生の意識や学校愛にものすごいものがあり、ロイヤリティが違うのです。入学してきた生徒も、そうした学校環境にいれば、自ずと「修道大好き!」になるんですね。私学は、基本的にはどこでもそうです。喜んで行かせてあげてください。

女学院 私どもは、たとえ第一志望で入学されたのではなくても、「6年間、この学校に入ってよかった」と思っていただければよいと考えています(弊社から:そういう流れが現実のものであることは、前回ご紹介したアンケート結果でおわかりになるでしょう)。広島女学院に入学した生徒さんには、学校生活を通して「二つ選択肢があったら、しんどいほうを選ぶ」人間になってほしいと願って教育にあたっています。それが人としての成長を意味するからです。このような成長の機会に、お子さんはもうすぐ直面されます。どの中学校を受験するかという受験校選択や受験後の進路選択も、親子で考えを交わしながらしていく経験をすることが子どもにとって重要なことです。たとえショックな結果になっても、他の誰かや何かのせいにせず、自分で責任を引き取ることが人としての成長に繋がるのです。そうすれば、自分の思っていた学校を選べる結果になっても、それが叶わなかったとしても、お子さんは進学先でさらなる成長を遂げることができるでしょう。

 以上が、イベントでお二人の校長先生にお話しいただいた内容です。どんな感想をもたれたでしょうか。筆者は、この2校がなぜ広島で大きな人気を得ているのか、ご来場の方々には十分伝わったと確信しました。簡単にまとめたため、実際のイベントでのおかあさんがたの反応の様子や会場の熱気は到底お伝えできないのが残念です。

 ともあれ、お二人の校長先生のおかげで、とても内容の濃いイベントになりました。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

  なお、校長先生がたのお話のあと、弊社の各校舎長が「受験生活を充実させ、私学進学後に大きく伸びていくために、親に必要な配慮としてどのようなことがあるか」についてお話しいたしました。その内容については、残念ですが今回は割愛させていただきます。

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修道と広島女学院の校長をお招きして その1

月曜日, 11月 25th, 2013

20131125 11月11日(月)、13日(水)、15日(金)の3日間、修道と広島女学院の校長先生をお招きし、私立学校のよさについて保護者の方々にお伝えするイベント、「私学が育む子どもの未来」を開催しました。東広島市、呉市、広島市の3会場で行ったため、お忙しい立場の校長先生がたには3回も同じことをお話しいただくことになり、大変なご負担をおかけしてしまいました。

 しかしながら、さすが全国にも名前の轟いた有力私学の校長先生です。会場の規模も、参加人数もまるで関係ないかのような表情で、どの会場においても熱意溢れるお話をしてくださいました。実際、どの会場のアンケートでも、「とてもよかった」「私立学校のよさがよくわかった」「1時間半が、あっという間だった」など、大変ありがたい反応をたくさんいただきました。

 さて、今回はこのイベントの内容や様子をご報告しようと思います。筆者は、「学校説明会」「私学フェスタ」「各種学校行事」など、私学を知る機会は他にもいろいろあることを踏まえ、私学の主催される催しでは聞けない、保護者目線に立った内容にすることを意図して、このイベントを企画しました。

 また、学校側からは手前味噌と思われる話はしにくいものです。学習塾から要請された話題という形式なら、ためらうことなくお話しいただけるのではないかと思いました。私学受験を考えておられる保護者、私学受験を迷っておられる保護者に、私学とは何か、私学のよさはどこにあるのかを、多面的かつ本音のレベルで知っていただける催しにしたいと考えました。

 それでは、修道の田原校長、広島女学院の星野校長にお話しいただいた事柄を中心に、イベントの進行順に合わせて当日の内容について簡単にご紹介してみましょう。以下にご紹介する内容は、ブログ用に随分短くまとめたものであり、実際にはもっと詳しくお話しいただいています。

①私立学校の教育にかける思い

 高度化と行き詰まり、グローバル社会の到来、少子化の進行など、今日の子どもたちが社会に参入していくにあたって難しい問題が山積しているのが今日の日本です。そんな状況にあるからこそ、教育は重要性を帯びてくるのではないでしょうか。それを踏まえ、校長先生には私立学校の教育にかける熱い思いを語っていただきました。以下は、校長先生がたのお話の内容を簡単にまとめたものです。

修道 私学の存在価値の根本は、ミッションがあることです。修道では、強靱で柔軟な心をもった人間の育成、時代が要請する能力(たとえば英語)を携えた人間の育成に全力で取り組んでいます。社会に有為な人材を育成するため、修道ではリーダーになれる人間が育つ教育環境を整えることが非常に大切であると考えています。それには、まず生徒の自主性の育成が基本になります。自主性は自然と育まれるものではなく、教育を通して磨いていくものです。ですから、学校全体がそういう雰囲気に溢れています。

女学院 私どもは、「生徒には、凄い力が備わっているのだ」ということを前提に、教員はその力を引き出す責任があるのだと認識し、女学院に入ったからこそ生徒が成長できる教育の実践に努めています。たとえば、「自分は人として愛されて存在している」ということに気づいてもらうということ。それが自分の存在価値を肯定できる人間になり、自分に与えられた使命を見出すことに繋がるからです。広島女学院では、教員全員が生徒のもつ素晴らしい力を引き出すべく、気構えをもって教育にあたっています。

②在校生が語る私立学校の魅力とは!?

 ①は私学の根本をなす、はずせないテーマですが、やや堅い内容になるのは避けられません。そこで、今度は在校生に実施させていただいたアンケートの結果や、生徒さんのインタビューをご紹介し、実際の学校像に迫っていく試みをしてみました。

 以下は、両校の高校生(修道は高21クラス、女学院は高2と高3各1クラス)のアンケートの結果を簡単にまとめたものです。

≪修道生・女学院生に聞きました!~在校生アンケート~≫(PDF 6.96MB)

 なお、インタビューは両校の高校2年生の生徒さん各1名に協力いただきました。二人とも、自分の考えを率直かつ明快に語れる素晴らしい生徒さんでした。動画でご紹介したいと思うほどでした。多くの保護者の方々は、「わが子も、あんなふうに成長できたらな」という見本として二人のインタビューの様子をご覧になったのではないかと思います。

③修道生、女学院生らしさって!?

 先ほどのインタビューの生徒さんの話しぶりを聞いていると、二人ともすっかり修道生、女学院生らしさが板についていることに感心させられました。何よりも、二人から“学校愛”が強く感じられました。そこが公立学校の生徒さんとはひと味違ったところではないでしょうか。

 では、この修道生らしさ、女学院生らしさは、どのようなものでしょうか。また、どのようにして育まれるのでしょうか。

修道 修道生らしさを一言で表現するのは難しいですね。カッコイイ男の子は、どの学校にもいます。とは言え、卒業生を見ていると、修道出身者の特徴は感じます。たとえば、

1.やたらと群をつくりたがる。

  まるでゴキブリのようにウジャウジャ群れたがります。その集まりから必ずリーダーが現れます。そこが特徴かな。同窓会も、いろいろな年齢層で毎年のようにやっています。公立ではそういう学校はあまりないんじゃないかな。いつだったか、古希を祝う会でもたくさんのOBが集まり、学校から校旗を借り出して、70になった老人がその校旗を掲げながら、「○○君の死を悼む!」などと号令をかけているんです。壮観ですよ。修道OBは、老人になっても強い絆で結ばれているんですね。

2.どんな環境でも楽しむ逞しさがある。

  修道では、修学旅行は豪華客船をチャーターして屋久島などの島へ行くんですが、あいにくの荒れ模様で楽しみにしていたスキューバ・ダイビングが台無しになりました。それなのに、だれも臆することなく、濁った海に飛び込んで楽しんでいました。インストラクターのかたは、「こんな生徒さんがたを今まで見たことがない」と言って、感心されていました。いつどんな条件でも楽しむことを忘れないというのも、修道生らしいところだと思います。(その他、例が多数)

女学院 “らしさ”は、自分を学校に合わせるのではなく、「自分“らしさ”を出す、人の“らしさ”を認めることが基本だと思います。それが、安心して互いに自分らしさを出すことに繋がり、結果として自由闊達な女学院生“らしさ”が出てきます。また、女学院では女性として自立した生きかたができることを重視しています。そのために、女性のリーダーシップを育むための教育を行っています。たとえば、中2生には「チャレンジキャンプ」というのを実施し、6人グループでテント生活をさせます。先生は一切関与せず、高校生から希望者を募り、グループにリーダーとして加わってもらい、後輩を適切に導く経験をしてもらったりしています。

※長くなったので、続きは次回にご紹介します。

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わが子に不満を募らせているかたへ

木曜日, 11月 21st, 2013

 11月17日(日)には、「玉井式国語的算数教室」を導入している全国の学習塾の全体研修があり、家庭学習研究社から筆者と低学年部門の社員3名、計4名で参加しました。会場は、品川ガーデンシティホテルでしたが、久しぶりに見る品川駅付近の様変わりぶりに驚きました。なにしろ、数十階はあろうかと思われるような高層ビルがずらりと並んでいます。

 実はその日、筆者は5時間に及ぶ長い研修の最初にあたる「基調講演」を依頼されていました。このような大層な役柄には値しない人間ではありますが、「玉井式の効能を科学的見地から検証する」という意味では、誰にも負けないという自負がありましたので、迷うことなくお引き受けしました。

 さて、ここまでの話は催しへの参加報告で、今回の話題には即していません。今回書いてみようと思ったことは、この基調講演において学習塾関係者の方々にお話ししたことを振り返っていると、「この話は、おかあさんがたにお伝えすべきではないか」という思いに駆られてきたからです。それは、子どもと接するときの最も基本的で重要なことについてです。

 筆者は、かれこれ28年家庭学習研究社で広報の仕事を担当しています。今は授業に出ていませんが、もう少し若い頃には週3~4日授業を担当していました。普段の授業は筆者自身楽しかったのですが、秋が深まってくると、「冬期講座」や「次年度講座」の募集活動の準備が忙しくなり、正直言って「授業がなければいいのに」と度々思ったものでした。

 ある日、大急ぎで授業の準備をして校舎へ移動したものの、その日はとりわけ忙しくて既にくたびれ果てていました。「これじゃ、どうせろくな授業もできやしない。ああ、嫌だな」――そう思いながら授業に臨んだのですが、その日の授業は予想外のものになりました。

 子どもの反応がとてもよく、一生懸命筆者の話を聞いてくれるのです。気がつけば、「ひょっとして、今年いちばん流れのよい、活気ある授業になっているのではないか」とさえ思いました。授業時間が終わっても、子どもたちは「もっとやろうよ!」と言ってくれるほどでした。

 何が授業を変えたのでしょう。何しろ、相手は6年生の男子ばかりです。参観者がいる大事な授業で、筆者の気持ちを見透かしたように授業をかき乱して恥をかかせるような子どもたちです。それが、どうしてぼろ雑巾のようになった元気のない私を励ますかのような、よい反応をしてくれたのでしょう。その日の夜、帰宅するときには心から子どもたちに「ありがとう」と思ったものでした。

 学習塾関係者の方々には、そのエピソードを通して「子どもたちの反応は、自分の姿を鏡に映したようなものだ」という意味でお話ししました。子どもたちのよい反応は、その日の自分の授業への態度や姿勢を映しだしたもので、そうしたフィードバックから学ぶことを通して私たちは指導の技量を上げ、人生の生きがいを得ることができるのだ、といったようななことをお話ししたように記憶しています。

 しかし、講演内容を反芻しながら、筆者はふとあることに気づきました。それは、子どもたちがあの日の授業で指導者冥利に尽きる反応を示してくれた本当の理由です。子どものよい反応は、くたびれ果てた筆者への思いやりによるものではなかったのです。

 おそらく、筆者が余計なことを考えず、自然体で授業をしていたからではないでしょうか。いつもなら、「こういう授業をやろう」「子どもたちには、ここまで取り組ませよう」といったように、子どもをコントロールすること、自分の満足のいく授業をしようという、自分本位な邪念があったのだと思います。それは無意識の意識といったレベルのものですが、子どもに見通されていたのです。

 すると、連想ゲームのようにわが子の中学受験の頃のことが頭に浮かんできました。いくら注意を与えても頑固で言うことを聞かず、叱ると徹底的に反抗するわが子に手を焼いていました。「もう勝手にしろ!」と怒鳴りつけたこともありました。ところがある日、車のなかで親の気持ちを何ということもなく語って聞かせたとき、わが子のほうを見ると何と顔が涙でくしゃくしゃになっているではありませんか。あれほど注意したり、忠告したり、叱ったりしても、頑なに言うことを聞かなかったわが子が・・・。今やっと、息子の涙の意味がわかりました。肝心なとき、問題の核心に気づかなかった親としての自分を、今さらながら後悔するばかりです。

  2013112_a さて、ここからがおかあさんがたにお伝えしたいことです。わが子が思い通りにならない、期待通りにやってくれない。それに不満をもち、怒りの気持ちで接すれば、子どもはたちまちおかあさんの本心を察してしまいます。そのときの子どもの反応は、実は親の心の状態をそのまま鏡に映し出したものではないでしょうか。親はわが子に対してマイナスの感情を剥き出しにして接するから、それが子どもに伝播してしまうのです。

 親はわが子を思い通りにコントロールしようとするのではなく、もっと子どもの現実に沿って自然体で接してやればよいのではないでしょうか、そして、わが子に対する気持ちを、率直に伝えてやればいいのです。親が自然体で子どもに接すれば、子どもも無用の身構えをしなくなるでしょう。そのうえで、子どものやったことのちょっとしたよい点を、フィードバックしてやるのです。

20131121_b 「さっき、あなたがやっていたこと、あれはいいね。おかあさん、うれしいよ」そんなふうに、子どものしたことにプラスの反応を示してやるのです。それが子どもにとっていちばんうれしいことであり、また大きな自信になります。そして、何かをするときの意欲に繋がっていきます。無論、いきなり変えることはできないでしょう。しかし、前述のように、親の対応や接しかたのうちにある本心を、子どもは必ず見通します。親が子どもをコントロールしようとするのではなく、子どもの気持ちに寄り添ってやれば、子どもはそれを察知しないはずがありません。20131121_c

 今、子育てを辛いものと思っておられるおかあさんはおられませんか。子育ては、世界でいちばん重要で美しい仕事です。どんな偉人も、おかあさんの子育てなしに育つことはありません。子育てこそが、他の何にも優先すべき価値のある仕事なのです。既に過ぎ去った子育ての悔やみは、今さら取り返すことはできません。しかし、今からの毎日を大事にすることこそ、親にいちばん求められることではないでしょうか。これまで何度も書いたかと思いますが、子どもはおかあさんなしに生きられないこと、だれよりもおかあさんが自分を心配し、愛してくれていることを知っているからです。

 今日の今からの子育ての毎日を、どうか大切にしていただくようお願いいたします。

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子どもの計画実行力を高めるためには!? ~その3~

月曜日, 11月 18th, 2013

 先週から、後期第1回「おかあさんの勉強会」の様子や内容をご報告しています。今回がその最後です。

 勉強会の最後の30分では、お子さんの計画実行力を高めるための親からの働きかけについて、弊社から8つのヒントを呈示させていただきました。まずは、8つの項目が何かをお伝えし、それぞれについての家庭の状況をチェックシートに書き込んでいただきました、それをもとに、各項目の意味と意図をお伝えしようと思ったのです。8つの項目は以下の通りです。
20131111

 この勉強会の対象者は小学校4~5年生をもつおかあさんです。この年齢のお子さんは、もう自分なりの考えをもっていますから頭ごなしは通用しません。

 しかしながら、いっぽうでは日本の子どもの場合、学習意欲の源泉になる最大の要素は、「親の期待」です。「子どもの意思」と「親の期待」は決して矛盾するものではありません。両者がうまく繋がるよう、親が上手に働きかければ、子どもは必ず親の期待に沿った行動を自ら選択するのです。こうした点を受け、チェックシートの項目の(1)~(3)は、子どものプライドを尊重してやり、親子の信頼関係を築きながら学習生活の活性化をはかろうという意図で設定しました。

 親、特に日本のおかあさんが子どもに対していかに強い影響力をもつかについて、痛感させられる実験結果があります。

 201311187~9歳のアジア系とヨーロッパ系の子どもたちを3つのグループに分け、ある実験が行われました。

 どのグループにも文字を使ったゲームのような課題に取り組ませたのですが、1つ目のグループには自分で取り組みたい課題を自由に選ばせました。2つ目のグループには、実験者が取り組む課題を指定してやらせました。3つ目のグループには、「きみたちのおかあさんが、この課題を選んだ」ということを伝えて取り組ませました。3つのグループの課題は、実は同じものでした。

 上のグラフは、課題終了後に与えた6分間の自由時間に、子どもたちが自発的に課題に取り組んだ時間の違いを表したものです。これを見ると、アジア系の子どもは「おかあさん選択群」の取り組み時間が圧倒的と言えるほど長いことがわかります。おかあさんの意向は、行動面において自分の意志以上の影響力をもつのですね。

 このことからわかること。それは、親の気持ちをうまく子どもに伝えれば、子どもはがんばるということではないでしょうか。そういった意味で、子どもの学習の取り組みを変えるチャンスは冬休みです。 なぜなら、冬期の講座からは学習計画の組み替えが必要になります。「一緒に学習計画を立てよう」ともちかけ、子どもの考えを尊重しながら、計画を共同で練り上げてはいかがでしょうか。お子さんがよい判断をした場合、「それ、いいね!おかあさんもそれがいいと思うよ」などと応じてやり、親の考えも織り交ぜながら冬の学習計画を立てるのです。そして、「今年の冬休みはがんばれそうだね!」と励ましてやりましょう。

 チェック項目の(4)(5)は、子どもの自律的姿勢を引き出すための配慮の例としてあげたものです。目標には“遂行目標”と“熟達目標”とがあります。前者は、テストで何点をとるとか、何番以内になるなど、結果が明白に分かる目標です。一方の後者は、「これからの2週間、学習計画をきちんと実行に移す」などの目標です。

 両者の違いは、前者が自分ではコントロールできないのに対し、後者は努力次第で誰でも実行できるという点にあります。子どもに自信を与え、実行力をつけさせるには、ちょうどよい熟達目標を子どもにもたせることがポイントではないでしょうか。これも親子で話し合い、当面の目標をお子さんの納得づくで決めるとよいでしょう。

 チェック項目の(6)と(7)は、親子の信頼関係を強化すること、家庭内を活気あるものにすることの重要性に鑑みて設けたものです。家族全員で守るルールのようなものを設け、声をかけあうような家庭のお子さんは、何でもエネルギッシュに取り組む前向きさがあります。また、親子で楽しい話に花を咲かせる時間が定期的に設けられている家庭のお子さんは、親の期待は何かを正面から受け止め、それを実行に移そうという姿勢が強いものです。

 子どもは、親を見て学んでいます。またもともと親の期待に応えたい、親に認めてもらいたいという願望をもっています。ですから、子どもは親とのやりとりがうれしければ、心のなかで「今、自分は何をすることが求められているのか」を自然と考えるんですね。

 最後の(8)ですが、これは日本の家庭の子どもが最も成果をあげられる学習の場が、リビングや茶の間であることを踏まえた項目です。詳しくは、このブログの過去の記事にあります(「“リビング学習”は日本人家庭に向いている?」2010.3.15)。この記事は、多くの人に読まれています。よろしければ参考にしてください。
 

 がんばりが利かなくなったお子さんを、見違えるように変える特効薬は残念ながらありません。それは、みなさんがいちばんよく知っておられると思います。親子といえども別の人間で、親の思い通りに子どもは動いてくれないのはしかたありません。

 しかしその一方で、お子さんは親なくして生きられないことをよく承知しています。親がいかに自分のことを心配してくれているかもよく理解しています。温かく、辛抱強く働きかけてあげてください。少しずつ、きっとお子さんはおとうさんおかあさんの期待に応えるべく、頑張りはじめることでしょう。

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子どもの計画実行力を高めるためには!? ~その2~

木曜日, 11月 14th, 2013

  前回は、子どもたちに実施したアンケート調査の結果をお伝えしたところで終わりました。そこで今回はその続きを書いてみようと思います。

 子どもたちは、決めた計画を守れるようになるためにどうすべきかをわかっています。それでいて守れないのです。これはどういうことなのでしょうか。

 既に書いたように、どうすべきかについて、もう何度も何度も耳にたこができるくらいおかあさんからアドバイスをもらっているのでしょう。自分が心底現状を憂慮し、何とかしようと思っていれば変われるはずです。対策が親の指示によるものだと、理屈ではわかっていても体が動いてくれないのではないでしょうか。

 実は、このことはある程度予測がついていました。おかあさんがたは一生懸命わが子を見守っておられます。いろいろ手を尽くしてアドバイスされているのは当たり前のことです。

 そこで、次のワークでは、子どもが言う計画通りにできない理由」「どうすれば計画通りに実行できるようになるかについての子どもの見解」をどう思うかについて、グループごとに話し合っていただきました。そして、改めて「親からどのような働きかけをすべきか」を話し合っていただきました。

 さて、おかあさんがたの話し合いで、どのグループからも妙案が生まれたでしょうか。そうであることを祈りつつおかあさんがたの話し合いを見守りました。

 残る時間はおよそ30分。この時間は、弊社からもヒントになりそうな情報を提供することに充てました。無論、すぐに状況が一変するような方法はそうそうありません。しかし、小学校の4・5年生といえば、まだまだ親の影響力が絶大な年齢にあります。親からの働きかけで子どもを変えることはできるはずです。筆者はそのことを念頭に置き、状況を変えるには、次の点に留意していただきたいということをお伝えしました。

 

1.親が思う以上に子どもにはプライドがあります。それを踏まえないと働きかけは功を奏しません。
2.子どものことを信じているというメッセージを、絶えず発信してやりましょう。
3.子どもを変えるには、とにかく辛抱と忍耐が必要です。特に、親の言うことがコロコロ変わるのは禁物です。

 

 20131111_illust親がわが子に接するとき、特に改めてほしいことを伝えるときには、一方的に命じる言いかたや、子どもを批判する言いかたをすると、必ずといってよいほど反発を受けます。「ボクのことをダメなヤツと思っているのか」「私を信用していないの?」という思いが湧いてくるのでしょう。これに対して、「ちゃんとやらないから言っているのよ!」「口ばかり達者で、全然実行していないじゃないの!」などと切り返すと、もう子どもは聞く耳をもってはくれません。子どもにもプライドがあって、上から押さえつけられるような言われかたは我慢ならないのです

 やるべきことをやっていないわが子に対し、「わが子を信じているというメッセージを!」というのは矛盾しているかも知れません。しかし、そこが大きな問題ではないでしょうか。親がわが子を信じてやれないのに、子どもが親の期待通りのことをしようと思うはずはないのですから。

 これは余談ですが、親がわが子を信用するということに関して、ふとあるお子さんのことを思い出しました。6年生の授業中、家庭勉強のことについて話をしていたとき、一人の男の子が筆者にこんなことを言ってきました。「ボクはね、おとうさんにすごく信用があるんだ。なにしろ、うちのおとうさんは信用金庫に勤めていますからね」――この言葉に思わず吹き出してしましたが、その明るい笑顔を見て、「きっと楽しく温かい雰囲気の家庭なのだろうな」と思いました。そのお子さんの成績はまずまずといったところでしたが、入試では驚くような好結果を得たことを今でも覚えています。

 もう一つ。子どもが親の言うことを聞かなくなる理由のうち、最も大きくてしかも改めるのが難しい問題があります。それは、「親の言うことがコロコロ変わり、一貫性がない」ということです。考えてみれば当たり前のことですが、前回言われたのが「右を向け」だったのが、次には「左を向け」では、親を信用できるはずがありません。

 こういうことが続くと、親が真剣に子どものことを思って言ったことでも、「どうせ、次は別のことを言うんだろ」としか受け止めなくなるでしょう。親は、子どものことに関しては「忍耐」と「一貫性」で臨む必要があるのではないでしょうか。

※またしても長くなってしまいました。続きは次回お伝えしようと思います。

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