2014 年 1 月 30 日 のアーカイブ

動機づけ理論と子どもの受験のプロセス

2014 年 1 月 30 日 木曜日

 「モチベーション」という心理学用語が、最近では一般的に使われるようになりました。何かの理由でやる気が減退したときは、「モチベーションが下がった」と言い、やる気が出てきたときには、「モチベーションが上がった」などと言います。そう、「やる気」や「意欲」を表す言葉なんですね。

 まもなく弊社では新年度の学習がスタートしますが、このモチベーションがうまく作用するどうかでお子さんの学習成果は大きく変わってきます。そこで、今回はこの「モチベーション」を話題にとりあげてみました。

 モチベーションは、日本の学術用語では「動機づけ」と言われます。動機づけには、「外発的な動機づけ」と、「内発的な動機づけ」の2種類があります。前者は他からの働きかけによってやろうとすることで、後者はそれをすることを本人が必要と考えてやろうとすることを言います。一般に、個人の自己向上心に基づいている後者の方が望ましいと言われていますが、もっともな話だと思います。

 しかし、現実に毎日わが子を見守っている親にとっては、そうした話は筋論にすぎません。「外発だろうが、内発だろうが、何でもいいからわが子がやる気になる方法はないものか」と、嘆くことが多いのが現実です。実は、そういう親の行き着く先は外発的動機づけしかありません。成績が上がったら、小遣いをやるとか、ほしがるものを買ってやるだとか、そのような話をよく耳にします。

 また、「がんばれ!」と何度も激励しても効果がないと、うるさく叱ってしまう(こうなると、「外発的動機づけ」というより、「圧力」というほうがふさわしくなりますが・・・)親も少なくないようです。

 結局、「子どもがやる気になる」という結果がほしいのですから、それが得られるなら内発か、外発かには、こだわる必要はないのかも知れません。

 20140130実際、外発と内発は対立的にとらえる必要はなく、外発であった学習が次第に変質し、内発的になっていくなどというように、「取り組みは連続的に移行するものだ」という考えかたが今では一般的になっているようです。初めは言われてイヤイヤやっていたのが、いつの間にか自分でもおもしろくなり、熱心に取り組んでいたなどということがよくあるものです。

 あるアメリカの社会心理学者は、こうした動機の質的変化を4つの段階に分けて分類しています。それは、外発から内発への移行を説明したものであり、実は中学受験をする小学生の子どもたちのたどる道筋にピタリ符合するものです。どういうことかを、ここで確かめてみましょう。

★第1段階…外的に制御された段階
 やりたいわけではないが、誰かからの働きかけでしかたなくやる段階。最も外発的に学ぶ状態です。「おかあさんに叱られるから勉強する」「勉強しないと小遣いがもらえないので勉強する」「先生の命令で勉強する」などが当てはまります。子どもの勉強の場合、大人に叱られるから、命令されたから、するように言われたからするといったように、この「第1段階」に当てはまるケースが大半を占めるのではないかと思います。受験をめざした塾通いも、親の意向を反映してのことが多いようです。
<親に言われて、とりあえず学習塾通いが始まった段階>

★第2段階…注入の段階
 「成績が下のほうだなんてはずかしい」「このままでは叱られるから、やっておかなくては」など、一応は自分の意志でやろうとする状態を言います。表面上は自分の意志でやっているように見えるだけではあるものの、完全に外からの圧力でやらされているわけでもない、そんな段階です。初期の「第1段階」と比較すると、内発への移行の兆しが見え始めます。
<塾の成績がよくないとイヤな気分になるので、それなりに取り組む段階>

★第3段階…同一化・統合化の段階
 「これをしておくことは大切だから」という必要感から学ぶ状態を言います。先々したいことがあり、そのための準備としてやっておくべきことを学ぶなど、自分がそれを学ぶことによるメリットを自覚して自分からやろうとします。自らの考えと行動を一致させていることから、同一化の段階・統合化の段階などと言われます。この段階にいたると、他者からの働きかけよりも、本人の気持ちの比重が高くなってきます。
<受験生の自覚が芽生えてきた段階、勉強の必要性を自覚し始めた段階>

★第4段階…内発的に動機づけられた段階
 「この勉強をやると、得をするから」というよりも、「この勉強がおもしろいから」、「これをもっと詳しく知りたいから」などの理由で勉強する段階を言います。何かを達成するための手段としてではなく、知ること自体を志向し自己目的的に学ぶ状態ですから、これが最終の内発的に動機づけられた段階と言えます。そもそも、人間の“学び”は何かの手段ではなく、知りたいという人間の本質的欲求に根ざすものであり、ここに到達すると深い学びの領域への進展が期待できるようになります。
<勉強のおもしろさや醍醐味を味わい、率先して受険勉強に打ち込む段階>

 小学生の子どもが、自分から「中学受験をしたい」と親に申し出て受験勉強を始めるケースはそんなに多くありません。むしろ、本人はまだ「受験の何たるか」がよくわかっておらず、親の勧めで気がついたら塾に通って勉強していた(させられていた)などというケースのほうが多いのではないでしょうか。そうして、受動的にではあるものの学習塾に通いながら勉強しているうちに、徐々に勉強の様子に変化が現れ始めます。

 中学受験の勉強には、どの教科にも子どもの知的好奇心を満足させる、結構奥の深い内容が含まれています。それにふれる体験をしているうちに、勉強がおもしろくなっていくのです。また、受験勉強期にあたる小学校中~高学年は、人生でもっとも心身の成長が著しい時期です。子どもの内面の成長が進んでいくと、次第に「勉強は自分にとって必要なものである」と認識するようになります。それが勉強への取り組みを大きく変えていくのです。そうして、6年生にもなると、受験に対する意識、進学目標校などが定まり、子ども自らが率先して学ぶようになっていきます。

 ただし、そうなるかどうかは、ひとえに大人の働きかけにかかっています。初めから、「合格」を親が意識し、子どもを取り仕切って「勉強させる」と、子どもにとっては常に「やらされる勉強」になりかねません。

 お子さんの受験はまだだいぶ先のことです。親はわが子が理想のステップを踏んで成功への道をたどることを期待していいのではないでしょうか。そのための助走路をどう設定してやるか。それは親(大人)次第です。今のうちにおとうさんおかあさんがよく話し合い、お子さんの受験への道筋について十分に検討しておきたいものですね。

 弊社は、「親から与えられた受験を、最終的には子ども自身のものにする」ということを念頭に置いて学習指導を行っています。前述の4つの段階の移行は、その意味においても、弊社の会員児童がたどる理想的な受験への道のりだと言えるでしょう。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 子どもの発達, 家庭での教育, 家庭学習研究社の理念