2014 年 2 月 24 日 のアーカイブ

学び合うことから育まれる社会性

2014 年 2 月 24 日 月曜日

 みなさんは、「白熱教室」というNHKのTV番組をご覧になったことがあるでしょうか。この番組は、ハーバード大学のマイケル・サンデル氏の教室を取材したもので、学生を議論に参加させる形式のユニークな授業を紹介しているのが特色です。この授業では、「正義とは何か」など、簡単に答えが見つからないうえ、それぞれの価値観によって答えが違ってくるような難しい討議テーマが与えられます。

 この番組は、日本でも多くの人たちが見ているようで、大きな反響を呼んでいます。ただし、その理由は扱われているテーマのおもしろさによるものではありません。学生たちが学んでいくプロセスから、視聴者が重要な気づきを得られるからだと思います。すなわち、学生たちが率直に考えをぶつけ合うことを通して、互いに成長していく様を実感できるところにこの番組の魅力があるのだと思います。

 大学の授業というと、学生が受動的に聞いているシーンを想像しがちです。しかし、この番組では教える側、学ぶ側の区別なく、授業参加者が双方向に意見を戦わせ、それによってそれぞれが自分の考えを太らせ充実させていくことのすばらしさを実感することができます。これは、学習者が何歳であろうと、どこで学ぼうと大切にすべき教育の在り方を例示してくれているように思います。

 ある教育者の著者で、子どもたちがお互いに感想を述べ合うことで、より深い学びにたどり着いていく例が示されています。ちょっとご紹介してみましょう。

私の学級で「ごんぎつね」を読んだときに、

「ごんが兵十に心の底から求めたものは、ひとりぼっちからくる、さびしさ、悲しみ、悩み・・・想いがすごくわかりあえる、相談できる、言い聞きあえる、そういう家族みたいな友達を求めていたんだ」ということを、考えに考えて子どもたちは言った。20140224kitune

 これを一番に言った子は、母ひとり、子ひとりの瑞ちゃんだった。お母さんは病院で働き、遅番のときには九時まで帰ってこない。幼稚園時代から彼女はそういう生活をしてきている。彼女は、「ひとりぼっちのときは本当に辛い。でも私は本当のひとりぼっちじゃない。私は九時まで待っておればお母さんが帰ってくるし、私には学級にくれば友達がいる。でも、ごんはそうじゃない、すべての家族がいない、すべての友達がいない、だから、本当にさびしかったんだ」と、ひとりぼっちの子ぎつねに思いを寄せた。

 そこには単にごんを深く読めたということだけではなくて、ああ、瑞ちゃんはごんを深く生活に投影させて読む力を持ったすばらしい友達なんだぞ、という友の発見もあった。

 物語の最後に「ごん、おまえだったのか。いつも、くりをくれたのは」と兵十が言うくだりがある。「ごん、おまえだったのか」というセリフを子どもたちは、「やっと気づいてくれて嬉しいのだ」と解釈した。

 でも、「気づいてくれたんじゃなくて、初めて心を拓いてくれたのだ」と言ったのはレイちゃんだ。レイちゃんは、単なる気づきではなく、ごんに初めて兵十は心を拓いてくれたんだと思う。「ここ、気づいたというのと心を拓いてくれたのは、違うか同じか」と問うと、子どもたちは違うと答える。心を拓いたということは相手を心に受け入れて、心に生き続けさせることなんだと言う。うまく言うもんだなあ、と感心したものだ。

 つまり、兵十の心の中にごんが入ってきて、住まわせたんだと言う。これは三十人で学びあって、それぞれから発言されたことが織り成されて、初めて生まれたことである。

 みんなで意見を出しあい、考え、相手の意見を取り入れて、自分の考えをさらに深めていく。そんな様子が目に浮かぶような場面ですね。これこそ、みんなで学ぶということだと、この記述を読んだときに思わずにはいられませんでした。20140224

 子ども一人ひとりの世界は、まだ小さく狭いかもしれません。けれど、異なる小さな世界を持った子どもたちが、共に学ぶことで、視野を広げていきます。また、相手の意見を受け入れたり、自分の意見を伝えたり・・・そんな経験が社会的知性を育みます。

 近年、「学力はあるのに仕事ができない」といわれる若者が増加しています。これは、知識や問題解法力を身につけたものの、集団内で求められる協調性や、コミュニケーション能力を十分に育むことができなかったからではないでしょうか。小学生の頃の学びは、他者とつながり、互いに刺激を与えあったり、教え合ったり、競い合ったりする経験が大切です。共に学ぶからこそ、「負けたくない」という思いが生まれ、成長したいと意欲を持ち、「そうか、なるほど」と感動に近い理解を得ることで、新しい知識の喜びを感じられるからです。子どもたちには、知性と社会性が連動し、バランスのとれた内面を持った成長を遂げてほしいと願っています。

出典:子どもの力は学び合ってこそ育つ 金森俊朗

(yasumoto)

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カテゴリー: 勉強について, 子どもの発達, 子どもの自立, 子育てについて