能力をほめるか、努力をほめるか

2014 年 10 月 13 日

20140922d 「子どもはほめて伸ばすに限る」とよく言われます。面談の際、これをあるおかあさんに伝えたところ、「先生、うちの子にはほめてやりたくてもほめるところがありません」という言葉が返ってきて、フォローに困ったことがあります。

 無論、わが子によいところが一つもないなどと、本気で思っておられるのではないと思います。おかあさんの関心がわが子の受験への見通しにあり、今の状態が不満でしかたがないからこのようにおっしゃったのでしょう。おかあさんの気持ち自体はよくわかります。しかし、これでは子どもを励まし奮起させるのは難しいと言わざるを得ません。

 似たような心境にあるおとうさんやおかあさんはおられませんか?そんな方々のほとんどは、わが子のがんばりを期待し、これまでにいろいろわが子に働きかけてこられたのだと思います。それでもよい兆候が見られずイライラしているうちに、「うちの子にはほめるところがない」などという心境に至ってしまわれたのでしょう。

  しかしながら、「うちの子はやる気も才能もないんだ」などと悲観しても、状況を巻き直すことにはなりません。ぜひ、もう一度「わが子はほめて伸ばすべし」という原則に立ち返っていただきたいと思います。

 要は、「なぜほめるのか」ということに対する発想を変えればよいのではないでしょうか。これは、ある有名な学者の著書にあった言葉ですが、次のような発想に立てば、わが子をほめてやりたいという気持ちが取り戻せるのではないでしょうか。

 親がわが子をほめるという行為は、がんばりの対価などではない。がんばったからほめてやるのではなく、わが子をがんばらせるためにほめるのだ。親がわが子をほめるのは、わが子が試練を乗り越え、自分を信じて努力する姿勢をもった人間に育てるためなのだ。無償の愛に基づくものなのである。

 「よし、これからはわが子をもっとほめてやろう!」と思われたでしょうか。それならいいのですが。ただし、問題は「わが子の何を見てほめたらよいのか」ということです。これに関して、アメリカの社会心理学者の著述に参考になるものがあります。ちょっとご紹介してみましょう。(一部改変)

 賢いからと子供を褒めるのは、おそらく悪い考えだろう。そうではなく、自分が直接コントロールできる、懸命に勉強したかどうかで褒めるべきだ。知能で子どもを褒めることの問題点として、子どもは自分がどれだけ賢いかを示そうとするあまり、よくできる課題ばかりに取り組んで、うまくできない課題は避けようとするようになる。言い換えれば、子どもは賢いことを褒められると、骨のある課題を受けたがらず、多くのことを学べるようなことをやらなくなる。20140922b
 ある発達心理学者は、この点を明らかにするために次のような試みをした。子どもに課題に取り組ませたあと、出来が極めてよかったと伝え、賢いこと、あるいは一生懸命取り組んだことを褒めた。続いて、別の問題に取り組むチャンスを与えた。問題としては、簡単なもの(子供が「これならよくできる!」と考える)あるいは手応えのある難しいもの(「賢い子には見られないかもしれないけれど、とても勉強になる」と考える)のどちらかを選ばせた。
 すると、賢いことを褒められた子どもの66%が、自分の賢さを示せる簡単な問題を選んだ。一方、懸命に取り組んだことを褒められた子供の90%以上が、多くのことを学べる問題を選んだ。前者は、自分が実は賢くなかったと悟られる危険を回避したのだ。一方、後者の子供は、自分の限界を試し、さらに上達する方法を教えてくれるような問題を好んだのだ。

 実験はさらに続けられました。子どもたちに自分で選んだ問題に取り組ませる前に、最初の問題よりずっと難しい第二の問題を与えて取り組ませました。そして子どもに、第二の問題でできが悪かった理由を説明させました。

  すると、最初の問題で賢いことをほめられた子どもは、第二の問題で失敗したのは能力に欠けていたからだと考える傾向があり、一方、最初の問題で懸命に取り組んだことをほめられた子どもは、努力が足りなかったからだと答える傾向がありました。能力をほめられた子どもはそれ以上問題に取り組みたがらない傾向があり、第二の問題に楽しんで取り組んだと報告する割合も、懸命に取り組んだことをほめられた子どもより低くなりました。

 最後に、もう一つ実験が行われました。子どもを第三の問題に取り組ませました。すると、最初に賢いことをほめられた子どもは、最初に懸命に取り組んだことをほめられた子どもより正答数が少ないという結果になりました。

 いかがでしょう。頭がよいことをほめられた子どもは、自分の頭のよさに疑念をもたれないよう、難しい問題への挑戦を避けるようとしました。そして、失敗をすると自分の頭がよくないからと考えようとしました。一方、努力を見てほめられた子どもは、課題に取り組むのを楽しみ、難しい問題にも積極的にチャレンジしようとしました。また、失敗したら、「自分の努力が足りなかった」と受け止めました。

 以上を踏まえると、頭のよさ(成績)でほめるのではなく、努力(がんばり)でわが子をほめることが大切だというこ結論が導き出せそうです。

 親として子どもをどう応援したらよいのか。これに関しては、親の期待を「結果」ではなく「努力」に置き、絶えずそれを伝えて励ましてやることが第一であろうと思います。そして、少しの努力も見逃さずにほめたり喜んだりしてやる。そうして、少しずつやる気や自信を取り戻させることが重要ではないでしょうか。小学生までの子どもにとって、親からの評価ほど影響力をもつものはありません。親にほめられるかどうかは、テストの結果よりも子どもにとってはるかに重要なのです。

 今の状態が芳しくないお子さんの場合、テストの成績は当面問題にしないことが必要であろうと思います。たとえ今が5年生でも、今から半年がかりで少しずつ態勢を築き直せば、入試への見通しも今とは比べものにならないほど良化するのは間違いありません。

 子どもを信じ、子どもの努力を喜んでやりましょう!

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 子育てについて

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