2014 年 11 月 のアーカイブ

結晶性知能の発達に関する考察 その2

2014 年 11 月 10 日 月曜日

 前回は、中学入試で出題される問題の大半は結晶性知能に関わっていることをお伝えし、この知能を伸ばすにはどうしたらよいのかという問いかけをしたところで終わりました。そこで今回は、その続きを書いてみようと思います。

 実際のところ、筆者自身明確な答えをもっているわけではなく、よい対策方法を知っているわけでもありません。ただし、知識を蓄えたり、思考を巡らしたり、何かの判断を下したりする際、必ず必要になるものは言葉です。この言葉の発達を上手に促すことが基本ではないかと思います。

 結晶性知能の発達曲線を思い出してください。勢いよく上昇していくのは20代前半までです。さらに言えば、10代前半までの上昇カーブがより上向きです。中学受験に強い頭脳の持ち主になるには、受験態勢が本格化する前の段階、つまり9~10歳頃までに言葉に強いタイプの子どもになっておくということも大いにプラスに作用するのではないでしょうか。

 では、言葉に強いとはどういうことでしょうか。まずは語彙が豊富であること。読みの能力が高いこと。書くことに長けていることでしょう。これらが高いレベルの理論を展開したり、思考を推し進めたりするうえでの必須条件になるからです。このうち、語彙の増強や読みの能力育成についてはすでに何度もこのブログで書きました。よろしければストックから探して読んでみてください。

 ともあれ、簡単にここでもお伝えしておきましょう。人間は言葉によって考えますが、書き言葉の習熟とともにより高度な思考が可能になっていきます。この流れを促すにあたっては、まずもって「読み」の態勢を整えることです。

 読みの態勢づくりにあたってすべきこと何でしょうか。活字の流れを目で捕まえて、即座に言葉の切れ目を仕分け、意味に解読していくには、速くて正確な黙読力が必須となります。この黙読力は自然と年齢が進むうちに備わるのでしょうか。そうではありません。毎日の継続的な音読の繰り返しによって、活字の言葉と既にマスターしている音声言語とを照合し、目でとらえると瞬時に意味を解読できる状態に漕ぎつけることが必要です。

 言い換えると、音読練習は音声として耳から入力される言葉と、活字として視覚から入力される言葉との相互アクセス回路、ネットワークを築いてくれるのです。これがうまく形成されるかどうかが、以後の学力形成に多大な影響を及ぼします。

 黙読が達者にできるようになると、文章を読んで理解するのが容易で楽しいものになります。すると、自然と子どもは読書に向かい始めます。読みが苦痛でなければ、人間は必ず本のなかに描かれている世界、活字が織りなす未知の物語にふれることへの欲求を高めるからです(自発性使用の原理:ジャーシルド〔仏〕)。そうやって読書が活発化すると、新たな言葉との出会いが急激に増し、語彙がすばらしい勢いで増えていくという好循環が生じてきます。当然、難しい内容の文章も読みこなせるようになっていきます。

 読みが達者な子どもは、文章を読むスピードが速くて正確であることから、読みが遅く不正確な子どもと比べると、一定時間内の情報処理能力が圧倒的に違ってきます。受験にどちらが強いかは、もはや説明するまでもありません。そのうえ、勉強が辛くなくなるわけですから読みの習熟がどれだけ重要か計り知れないほどです。

 さらに言えば、小学生のうちに結晶性知能の発達曲線を上向きにしておけば、それ以後の発達カーブがずっと上昇し続ける確率が極めて高くなります(読書や学習活動が継続される)。よって、最高到達点が上昇しますし、高齢になるまで知能は伸び続けるでしょう。

 以上のように、読みの習熟を通して活字から知識を得ることに堪能になり、語彙もどんどん増えていく。そこから様々な学問の道で自らを伸ばしていける態勢を築けるのです。ただし、くれぐれも暗記型勉強に陥らないように。今からやれることはいっぱいあります。上手にお子さんをがんばらせてあげてください。

 無論、読みの態勢を上手に築くことだけが結晶性知能の発達に対して決定的な影響を及ぼすわけではありません。たとえば、学習指導要領に掲げられている「興味・意欲・関心」などの心の動きは、子どもを能動的学習活動にいざなってくれます。物事を不思議に思い、「知りたい」という気持ちが駆り立てられることから新たな発見、知識の習得が進んでいきます。ですから、結晶性知能、流動性知能のいずれの発達にとっても必要不可欠な要素と言えるでしょう。

 また、小学生や中学生までは、日常の会話を通して他者から発信される情報を整理整頓しながら理解したり、自分の伝えたいことを順序よく理路整然と発信したりすることができるようになります。こうした経験によって使える語彙を増やしたり、情報を受容する能力や発信する能力を磨くことができますから、会話もまた結晶性知能の発達にとって欠かせない体験と言えるでしょう。

 これらに関することがらについては、これまでこのブログで何度もテーマに取り上げて書いてきました。よろしければ、そうしたカテゴリーに関する記事を拾い出して読んでいただけたら幸いです。

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結晶性知能の発達に関する考察 その1

2014 年 11 月 3 日 月曜日

 先々週、先週と、算数・数学が入試で得点差の生じやすい教科であることを受け、その原因を考察してみました。

  その際、知能には大きく分けて「流動性知能」と「結晶性知能」の2つがあるということをお伝えし、「流動性知能」に関わる単元がこの問題に深く関わることや、算数・数学の好き嫌いや得意不得意につながっているのではないか、ということをお伝えしました。そして、今からできる対策についても若干考えてみました。

 この記事で、「流動性知能はどのようなものか」についてはかなり詳しくふれたと思います。しかし、いっぽうの「結晶性知能」についてはあまりふれませんでした。そこで、今回は「結晶性知能」の特徴についてお伝えしてみようと思います。

 結晶性知能とは、言語、知識、思考、判断など、学習の積み重ねが生きる領域の知能で、「言語性知能」とも呼ばれています。この知能の呼称は、学習や体験によって得たものが結晶となって残り、より高いレベルの能力発揮に貢献することから名づけられたと言われます。

 結晶性知能は、あらゆる教科の学力を支えています。何しろ、既有の知識を稼働させて考え、答えを導き出す知能なのですから。算数・数学においても、知識や理論、技能などに関わるものはみな結晶性知能の受けもつ領域です。では、この結晶性知能の発達曲線をもう一度見てみましょう。2014102027b

 

 

 

 

 

 

 

 

 一見してわかるように、この知能は60歳頃になるまで伸び続けます。つまり、ほぼ一生伸ばし続けることができる知能なのです。このことは、子どもの学力形成に役立てるためにこのブログをお読みくださっている方々自身に対しても、大いに勇気を与えてくれるのではないでしょうか。

 ただし、頭が柔らかい年齢期は暗記・記憶に強いため、ついそうした方向に学習が傾きがちです。それでテストの点を稼げる頭のよいお子さんも少なくありません。しかしながら、それをやると結晶性知能の特色である「学んで得たことが結晶となって積み重なり、より一層知能が高まる」といった好循環が生み出せなくなってしまいます。

 もしも子どもがそうした方向に走ってしまうと、せっかくの才能も台無しになってしまいかねません。「学歴はあるけれど実力がない」という人間の話がよく取りざたされますが、そういったタイプの人間に陥る危険性が高いのです。

 これと対照的な人物の話をご紹介しましょう。ノーベル物理学賞を受賞したアメリカの偉大な科学者、リチャード・ファインマン氏(1918-1988)の著作から引用したものです。

 MIT(マサチューセッツ工科大学)時代、僕はいろいろないたずらをするのが好きだった。あるとき製図のクラスで、一人の学生が雲形定規(変てこな波形で、曲線を描くのに使うプラスチックの定規)を取り上げて、「この曲線に何か特別な公式でもあるかな?」と言った。僕はちょっと考えてから「むろんだよ。その曲線は特別な曲線なんだから。そらこの通り」と雲形定規をとりあげて、ゆっくり回し始めた。「雲形定規って奴は、どういう風に回しても、各曲線の最低点では接線が水平になるようにできているんだよ」
 こうなるとクラスの連中が一人残らず自分の定規をいろいろな角度に持ち、この一番低い点に鉛筆をあてて回し始めた。みんなこの「発見」に沸き立ったが、誰もがとっくにかなり進んだところまで微積分をやっていて、「どんな曲線についても、極小点(最低点)での導関数(接線)はゼロ(つまり水平)である」ということは知り抜いているはずなのだ。ただそれを実際に当てはめてみることができなかっただけだ。言うなれば、自分の「知っている」ことすら知らなかったということになる。
 これはいったいどうしたことなのだろう? 人は皆、物事を「本当に理解する」ことによって学ばず、たとえば丸暗記のようなほかの方法で学んでいるのだろうか? これでは知識など、すぐ吹っとんでしまうこわれ物みたいなものではないか。

 単なる理系秀才で終わるか、優れた本物の科学者になるかの違いの根本を垣間見るような話ではないでしょうか。

 ところで、中学受験においても、入試問題の大半はこの結晶性知能の守備範囲です。この知能をどうやって伸ばしたらよいのでしょうか。

 今回も長くなってしまいましたので、この続きは次回以降に書いてみようと思います。

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