親が言ってはいけない“言葉のタブー”

2015 年 3 月 23 日

 早いもので、2015年度の5・6年部の講座が開講して約1か月が経過しました。また、4年部の講座も、3月7日に開講して2週間余りが経過しました。

 今は、年間の講座全体から見通せば“始まったばかり”です。保護者の方々も、まだお子さんの学習状況について判断を下せる状態にはなく、手探りで見守っておられる段階であろうと思います。ですから、塾での勉強を巡って衝突が生じ、わが子を叱り飛ばしたり、激しい親子喧嘩が繰り広げられたりするようなこともないでしょう。

 そこで、このような状況に至らないうちに保護者にお伝えしておきたいことがあります。中学受験の準備にあたる小学校4~6年生は、頭が柔らかく可塑性に満ちた年齢期であり、よい学習体験を上手に繰り返していけば、すばらしい可能性が開けていきます。その一方、子どもの心を傷つけるような対応をすると、脳にそれがインプットされ、がんばりの利かないタイプの人間に育つ恐れも生じます。わが子の合格を願ってのことであっても、それがわが子の健全な成長にとってどんな作用を及ぼすのかをよく考えたうえで対応をお願いいたします。20150323

 今回の記事は、いささかネガティブな切り口の話題で恐縮ですが、親がわが子にかける言葉の「タブー集」を取り上げてみました。成長途上の子どもの受験生活だけに、子どもの脳の発達にとってマイナスに作用する言葉をかけると、それが後々までも負の影響を及ぼす危険性があるからです。

 たとえば、試験が近づくたびに気分が悪くなったり、夜眠れなくなったりする大学生がいます。その原因を調べると、小学生の頃親が成績に過敏であったり、成績を見て叱ったりなじったりを繰り返したりしていたことだったりします。筆者が直接本人から聞いた例では、「中学受験のときに、合格力を謳う塾で猛烈な勉強を経験したことが尾を引き、大学で定期試験が近づくたびに体調が不安定になり、拒食症に陥って半年休学しました」という女性がおられました。その女性は、「私を合格に導くために、塾の先生も親も必死で応援してくれたのですから恨んではいません」と言っておられました。ですが、「こんな成績じゃ受からない」としばしば注意を受けたそうで、そういう経験がトラウマとなったとしたら、やはり周囲の大人に改めるべきところが多分にあったと思わざるを得ません。

 以下にあげたタブー集は、筆者の現場での指導経験と、これまでに実施した会員児童へのアンケート調査の結果を合わせてまとめたものです。

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 子どもの勉強がはかどらない様子を見ると、たいていの親はイライラを募らせます。とくに、だらだらと時間ばかりかけていたり、注意散漫になってほかのことにかまけていたりすると、親は黙っていられなくなります(4、5年生男子の集中力の持続時間はせいぜい20~30分程度です)。そして、「まだその問題やっているの?」「もっとてきぱきやらないと!」と、子どもをせきたてます。優しい口調ならまだしも、「いったい、どれだけ時間をかけたら気が済むの!」「もっと早くしなさい!!」と怒気を含んだ言いかたをしてしまう保護者もおられるようです。

 言われた子どもは冷静さを欠いてしまいます。場合によってはパニックに陥り、勉強どころではなくなります。まして「なんてのろまな子なの!?」などと言われたら、その子は自分への自信を木端微塵にされ、さらには親への悪感情を脳の奥深くに刻みつけてしまうのではないでしょうか。「時間のなかで精一杯やればいいんだよ。残った問題は、あとで時間を設けてやりなさい」――こんなふうに言葉をかけてやれば、お子さんは焦ることなく取り組めます。やがて要領を得て、時間内にできるようになっていくものです。経験の積み重ねが生きるようなアドバイスをしてやりましょう。

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 「こんな易しい問題もできないの?」といったような、子どもの有能感をくじく言葉も慎みたいものです。また、「お姉ちゃんはできたのに」など、きょうだいと比較する言葉も子どもから自信や自己肯定感をなし崩し的に奪ってしまいます。子どもたちに実施したアンケートで、「親に言われると嫌な言葉」で必ず相当数目にするのが「きょうだいと比較される言葉」です。

 以前このブログに書いたことがありますが、同じ学年のいとこが弊社のテストでたびたび1番をとるため、辛い思いをしている女の子がいました。おかあさんは決してそのいとこと比較して叱ったりはしておられませんでした。ただ、「いとこの○○君、また1番だったね」と言ってため息をつかれたのだそうです(本人から聞きました)。それでもその子には随分堪えたようで、そういうことが続いたあげく、やがて塾をやめてしまいました。平均よりは上の成績で、やる気があり頭も決して悪くないお子さんだっただけに驚き残念に思ったことを記憶しています。女の子には、親の溜息すらも刃になるケースがあるのですね。いとこと比較されることの影響ですらこうですから、まして家族であるきょうだいと比較されることがいかに辛いかを、親は理解してやりたいものです。

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 親の気質にもいろいろあり、なかには何事も命令口調になるかたもおられるようです。命令や指示の効き目がないと、「全部やらないと絶対に許しません!」「どうせサボっていたんでしょ。晩御飯抜きよ!」と命令とおどしをセットにして子どもを奮起させようとするタイプもおられるようです。
 親ですから、ときには命令口調も必要なときがあります。しかし、いつも命令では子どもの自己コントロール力は育ちませんし、自信もつきません。そればかりか、「無理に決まっている」と思うような命令をされると、親への反感や不信感をもつようになっていきます。親としては愛情から発する命令であったとしても、合格を得ること以外に何ら肯定的な成果を子どもにもたらすことはできません。親から自立できず、自分への自信ももてないまま中学生になったのでは、受験に受かっても意味はありません。やがて思春期が来て精神的に親離れすると、そういう子どもは親とろくに口を利かなくなる恐れが多分にあるでしょう。

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 「あなたの言い訳は聞きあきたわ!」「うそばっかり。うんざり!」など、感情任せの言いかたをしがちなおかあさんはおられませんか。子どもがそれを聞いて、「そんなに感情的に叱らないでよ」と思って冷静に聞けばよいのですが、それだけでは済みません。成長の途上に繰り返し親から感情任せの言葉を浴びせられていると、子どもも同じやりかたをする人間になりがちです(親に反発しているというのに)。冷静に話し合う方法を教えられないのですから当然です。

 今のわが子に改めさせなければならないことがあったなら、まずは一呼吸置き、「どう伝えたら、わが子は自分から改めようという気持ちになるだろうか」ということを考えることが必要です。前回お伝えしましたが、怒りや嘆きといった感情は、扁桃体という脳の古い部分から湧きあがってきます。それをコントロールし、適切な行動へと結びつけていくのは知性の座と呼ばれる前頭前野です。前頭前野は脳部位のなかで最後に完成の域に達するのが特徴で、小学生の段階ではまだ発達途上にあります。そんな時期だからこそ、落ち着いて冷静に考える姿勢が身につくような対応をすべきでしょう。

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 「あーあ、こんなんじゃ受験はムリかもね」「もう、塾なんてやめたら」――これも子どもが大変嫌がる言いかたです。すべての実権を握った親から揺さぶりをかけられると、子どもには対抗する手段をもちようがないからです。なかには、「お願いです。受験させてください」「これからがんばるから、塾をやめさせないで」などと反省の言葉を述べたり、懇願したりする子どももいるかもしれません。しかし、自分の弱みを握った揺さぶりの言葉は、子どもの本心からの反省を引き出しませんし、他者を思いやる心を喪失させる恐れもあるでしょう。こうした言葉を親がたびたび発すると、子どももそうした手法を採る人間になりかねません。勉強以前の問題が生じる恐れがありますから、できるだけこういう方法で態度や取り組みを改めさせないほうが賢明ではないでしょうか。

 

 受験をするというのに、その自覚がなかなか芽生えない。それは、実は大半の家庭のお子さんの現実です。そこで、注意を促したり、言い聞かせたり、叱ったりすることになるわけですが、それは必要なことです。叱ることだって大いに必要です。

 ただし、子どもに言ってはならない言葉もあります。その一線を越えないで、いかにしてわが子の反省とがんばりを引き出すか。それが中学受験をわが子にさせる親に突きつけられている課題です。中学受験は2度ありません。「今こそ親のがんばりどころ」なんですね。

 次回は、親がわが子を叱るということに関して、心理学者の調査結果と見解を絡めた話題をご紹介しようと思います。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 子どもの発達, 子育てについて, 家庭での教育

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