「善く生きる」という言葉

2015 年 4 月 13 日

 遅ればせながらご報告します。このブログはこれまで中学受験部門(4~6年部)の保護者に向けて記事を書いてまいりましたが、この4月から低学年部門(1~3年部)の「ジュニアブログ」と統合し、より幅広い年齢の児童の保護者に向けて情報をお届けすることになりました。

 低学年部のブログには、もう一つ指導現場から発信している「ジュニアつれづれ日記」があります。そこで、もう少しすっきりさせたほうがよいと考えました。また、低学年の保護者向けの記事に書いている内容は、高学年のお子さんの学力不振の原因を考えるうえで役立つことも多数あり、まとめて同じブログに記事を掲載するほうがよいのではないかとも思いました。

 今後、本ブログの記事は基本として筆者ともう一名の二人で書いていくことになります。ジュニアブログの記事がこのブログに引っ越してきて、より更新の頻度が増えると思っていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、毎年この時期になると筆者は毎日のように外出し、広島市内の主要私学を訪問しています。外出の用件は、6年部会員親子を対象とした私学紹介イベントを開催するにあたり、私学への協力の要請、ならびに準備の段取りの打ち合わせをするためです。このイベントは、「私学がきみを呼んでいる!」というタイトルで実施していますが、すでに10数年継続している6年部恒例の催しとなっていますので、ご存知のかたもおありでしょう。例年、広島学院、修道、広島城北、ノートルダム清心、広島女学院、安田、広島なぎさの7校に参加協力いただいています。

 言い訳がましい話ですが、外出がらみの日は原稿書きが進みません。したがって、「次はどうしようか」「何を書こうか」と迷ったのですが、私学の先生と打ち合わせの合間に雑談をしているとき、(筆者として)うれしい情報をいただいたので、それをご紹介することにしました。そんな話題ですから、忙しいかたは今回の記事はパスしていただいて構いません。

 うれしい話というのは、卒業生の近況に関することです。その卒業生については、「君の涙は無駄ではなかった!」(2009年9月4日掲載)というタイトルの記事でご紹介したことがあります。

 頑張り屋でひたむきな受験勉強をする一方、真面目すぎるがゆえに「精神的にもう少しタフであってほしい」と思っていた男の子がいました。いよいよ本番がやってきたとき、不安が現実となってしまいました。最初の入試で躓き、次もその次もと悪循環に。結局、最後に受けた私学に受かり、そこへ進学することになりました。当時、「彼はどんな思いで中学校に進学しただろうか」と思うと、胸が痛んだものでした。

 その男の子は律義で、筆者に何度か便りをくれました。やがて彼からの便りは途絶え、彼のことも忘れかけていたあるとき、人づてに彼が東大の法学部に進学したという話を耳にしたのです。その話で記憶の回路のスイッチが入ったのか、彼が筆者に「ボクは、将来弁護士になりたいんです!」と目を輝かせて語っていたことを思い出しました。

 入試の結果が思いもしない失敗に終わった後も、彼は自分の夢を捨てることなく、ずっと努力を継続していたのです。その彼の真摯な努力に、頭の下がる思いをしたことを記憶しています。そのときのことを記事にしたのですが、それでも心のどこかに、「彼は真面目過ぎるからなあ」という、その後の歩みについて心配する気持ちもありました。

 ここからが、最近私学の先生から耳にした「うれしい話」です。その私学の先生と話をしていたとき、ふと彼の出身校であることを思い出しました。そこで何気なく彼の名前を口に出すと、「あ、○○君なら、僕の同期で仲良しでした!」とおっしゃるではありませんか(その先生は母校で教師になっていたのですね)。そして、「彼は今、弁護士をやっていますよ」と教えてくださいました。聞けば、一度別の大学(そこも一流とされる大学ですが)へ進学した後、再受験して東大へ入ったのだそうです。そして、ついに目標の弁護士という職業に就いたのです。彼の今に至るまでの紆余曲折と、ひたむきに頑張り続ける姿勢に改めて感心するとともに、「よかった!」と安堵の思いに駆られることしきりでした。

 大人なら誰もが実感しているでしょうが、「人生は思い通りにいかない」ものです。目の前の試練をようやく乗り越えても、また次の試練が待ち構えています。挫折感を味わうことも少なくありません。しかし、彼のように夢をあきらめずに努力を続けていけば、やがてその夢を叶えることができるのです。今、勉強が思うようにならないで悩んでいるお子さんもおられるかもしれませんが、おとうさんおかあさんには「結果を恐れず、自分のやれる精一杯をやっていけばいいんだよ」と、励ましてあげていただきたいと切に願う次第です。

 前述の彼の近況を知ったとき、ふと頭に浮かんだ言葉がありました。それは、筆者が大学で教えを受けた教育学の教授によるもので、「善く生きる」という言葉です。人生をいかに生きるかを表したものですが、前述の卒業生にぴたりと当てはまっているように思いました。

 かつて受けた授業で、その言葉の意味がどう解説されていたかは全く覚えていません。しかし、5~6年前、大学の創立150周年記念行事が全国各地で行われ、広島にゆかりのあるその教育学の教授(現在は名誉教授)が広島の催しで基調講演をされました。なんとそのときすでに御年80数歳でした(現在もご存命です)。その教授は基調講演の際にも「善く生きる」という文言をお使いになりました。講演終了後、司会者から「先ほどの『善く生きる』という言葉はどのような意味でしょうか」と質問されると、「何度失敗をしても、決してへこたれず、反省を胸にまた努力を継続していくことです」というようなことをおっしゃいました。

 失敗してもそのたびに立ち上がり、あきらめることなく前を向いて進んでいく。それはすべての人間に求められることだと思います。前述の卒業生のような生きかたこそ、「善く生きる」の手本ではないでしょうか。また、80歳をとうに過ぎても矍鑠(かくしゃく)として現役を継続し、はるばる広島までやってきて講演をしておられるその先生こそ、「善く生きる」の体現者だと思いました。

 中学受験をめざして勉強を続ける子どもたちにも、これから様々な試練が待ち受けているでしょう。しかし、決してあきらめずに、失敗をしたらなぜ失敗したのかを振り返り、再び努力を継続していただきたいものです。その繰り返しが、お子さんを成長させ、少しずつ人間の器を大きくしていくのですから。

 おとうさんおかあさんにおかれては、「失敗をしたら、そこに必ずよくなるためのヒントがあるんだよ」と励まし、失敗を糧にさらなる前進をしていく姿勢をお子さんに植えつけてあげていただきたいと存じます。それがお子さんを「善く生きる」人間に成長させ、入試を乗り越える力を、さらには先に控える長い人生を生き抜く力を与えてくれるに相違ありません。

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カテゴリー: ごあいさつ, 子どもの自立, 子育てについて, 家庭での教育

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