欧米人と日本人の学習観の違い

2015 年 8 月 25 日

 多くの小学校では、今週から通学が再開されるようです。月曜から学校が始まったご家庭もあるようですが、お子さんは気持ちよく学校に通われたでしょうか。

 毎年、夏休みの終わりごろになると子どもの自殺のニュースがテレビや新聞などで報じられています。大人に限らず、子ども同士にも難しい人間関係が存在します。夏休みにはそういったしがらみから一旦解放されていましたが、再び学校に通う時期が近づくとそれが強い重圧となり、辛いという気持ちが増幅されてしまうのでしょうか。

 先日は、二人の中学1年生が犠牲になった陰惨な殺人事件が発生しています。運悪く、常識の通用しない悪意に満ちた大人と接点が生じたとき、もはやだれもその子どもを助けることはできません。親は子どもの人間関係や行動について様々な観点からとらえ直し、わが子が危険にさらされないための対策を講じるべき時代が訪れているように思います。

 さて、アメリカの心理学者の著した書物に目を通していたら、子どもの学習と能力向上との関係について、日本の親なら当たり前と思っていることが、欧米諸国の親にとっては当たり前でないということを教えられる記述を目にしました。

 どういうことかと言うと、「勉強すれば自分の能力を伸ばすことができる」というのが日本やアジア圏の親の主要な考えかたですが、欧米の親は「能力、才能というものは生まれながらのものだ」と考える傾向が強いようです。このことについて言及された部分をいくつかご紹介してみましょう。

引用1 親にとって極めて重要なのが、知能は自分でコントロールできるのだと子供に教えることだ。アジア人はとくに、能力は勉強で手に入れるべきものだと考える傾向がある。当然、アジア系アメリカ人はヨーロッパ系アメリカ人に比べ、学習目標を達成するためにより懸命に勉強する。またアジア人は、成功したあとより失敗した後のほうが懸命に勉強する。一方ヨーロッパ系のアメリカ人は、失敗したあとより成功した後のほうが懸命に勉強する。最初に成功しなかったらもっと一生懸命勉強しなさいと、子供に教えるのが重要だ。

引用2 アジア人やアジア系アメリカ人の成果は、謎でも何でもない。懸命に勉強しているためだ。1980年代、日本の高校生は1日3.5時間勉強していて、現在はもっと長いかもしれない。インドシナ系ボートピープルの高校生の子供も、1日3時間勉強していた。一方、一般的なアメリカ人の高校生は、平均で1日1.5時間しか勉強しない。

 アジア人やアジア系アメリカ人の子供のほうが真剣に勉強するというのも、謎ではない。アジア人はこの本を読まなくても、知能や知的成果は大きく変えられることを知っている。孔子が2500年前に、その点を指摘している。能力の源を2つに分け、1つは生まれつき――天からの授かり物――で、もう1つは真剣な勉強によるものだと説いている。

 いまでもアジア人は、知的成果――少なくとも学校での数学の成績――はもっぱら真剣に勉強するかどうかの問題だと考えているが、ヨーロッパ系アメリカ人は、生まれもった能力や、教師がよいかどうかの問題だと考える傾向がある。アジア系アメリカ人はこの問題に対して、東アジア人とヨーロッパ系アメリカ人の中間の態度を示している。

引用3 アジア人やアジア系アメリカ人は、西洋人やアメリカ人と比べてもう一つ、動機づけに関する別の強みをもっている。何かに失敗すると、ますます必死で取り組むのだ。

 あるカナダ人心理学者のチームが、日本人とカナダ人の大学生を実験室へ連れてきて、創造性テストを受けさせた。しばらく取り組んだ実験参加者に、研究者たちはお礼を言い、どの程度の出来だったかを伝えた。そのとき実際の出来とは関係なく、一部の実験参加者にはとてもよくできたと伝え、残りの参加者にはかなりひどい出来だったと伝えた。続いて参加者に、好きなだけ時間を使ってかまわないからと告げ、同様のテスト問題を与えた。すると、カナダ人では、最初のテストで出来が悪かった場合より出来がよかった場合のほうが2回目のテストに長く取り組んだが、日本人では、最初のテストでうまくいった場合より失敗した場合のほうが長く取り組んだ。

 「勉強に一生懸命に取り組めば、自分の才能を伸ばせる」と信じ、テスト成績が悪かったら、挽回を期して次はがんばろうとする。確かに、日本人にはそうした傾向が見られます。これらは日本人の美徳であり、今日までの発展を支えてきた原動力だと思います。こうした美点をずっと持ち続けていたいものですね。

 しかし、日本の子どもには気になる点もあります。最近の大がかりな調査によると、日本の高校生の学習意欲が随分下がっているそうです。

 欧米の子どもは年齢が上がるほど学習意欲を高め、大学生は非常に熱心に学ぶと言われます。その一方、日本の子どもは大学に入るまでで金属疲労のような状態になるのか、大学生があまり勉強しないと言われます。

 また、アメリカの子どもは勉強の成績で自分に自信を失ったり、自己卑下をしたりしません。その一方、日本の子どもは勉強ができる割に自分に自信がもてないでいるという調査結果があります。これらと先ほどのアメリカの学者の著述とを、どう結びつけて理解したらよいのでしょうか。

 日本の子どもに足りないもの。それは、勉強をすること、それ自体に喜びを感じる体験ではないでしょうか。日本の子どもの勉強は、「テスト対策のため」「成績をあげるため」「進学のため」「親に言われたため」など、「~のため」に勉強する(させられる)傾向が強く、常に他者との比較で自分が評価されがちです。だから、勉強ができるのにいつまでも自信がもてず、逆に年齢が上がるにつれて自信も意欲も下がっていくのだと思います。アメリカの子どもは、勉強面ではパッとしなくても、一つできなかったことができただけで大喜びし、自信満々の笑顔を見せると言います。どちらが先々によい流れを生み出すでしょうか。

 以前にもご報告したかも知れませんが、実はこのブログの記事で最も読まれているカテゴリーの一つが「学習意欲」に関するものです。ブログの検索ワードに、「やる気」「小学5年、やる気なし」「学習意欲を高める方法」などの言葉が毎日多数見られます。

20150827a わが子の学習意欲の現状に、多くのかたが不満をもっておられるのでしょう。そして、「どうにかならないものか」と思案されているのでしょう。何度も書きましたが、子どもの学習意欲低下問題は、家庭の問題であるだけでなく、社会構造的な問題でもあります。とても難しい問題ですが、小学生の場合は親や周囲の大人の関わりやサポートしだいで随分変わる余地があります。

 筆者自身、どういうアプローチが望ましいのかをもう一度考えてから、またこの問題に対する対策を記事にしてみたいと思います。

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カテゴリー: 勉強について, 子育てについて, 家庭での教育

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