2016 年 3 月 21 日 のアーカイブ

日常の言葉遣いと学力

2016 年 3 月 21 日 月曜日

 今回は、以前低学年向けのブログで書いたことをもう一度お伝えする内容となっています。今、受験生活を送っておられる高学年のご家庭にも参考にしていただけるのではないかと思います。

 よくできる子の話しぶりで、筆者の記憶に残っているものをご紹介してみましょう。6年生の男子クラスで、「おかあさんに叱られることがあるかどうか」について話題になったときのことです。ある男の子がこう言いました。

 「ぼくは、母に叱られたことは一度もありません。いえ、正確に言えば勉強のことで母がぼくを叱ることは一度もありません。でも、約束を守らなかったり、責任感の足りない行動をとったりしたときは厳しく叱られます。普段は優しい母ですが、そういうときには少しこわいです」

 同じ話題について、別の男の子はこんなことを言いました。

 「かあさんたら、ひどいんだ。ぼくが勉強をしようと思っているときに限って『勉強しなさい!』ってぼくを叱るんだ。もう、やる気なくなっちゃうよ」

 どうでしょう。前者のような話しかたをする子は希です。整然とした落ち着きのある話しぶりで、感心させられます。しかし、愛嬌があって親しみを感じるのは後者の男の子の話しぶりかもしれませんね。

20160321a 小学生の場合、後者の男の子のような話しかたをするのが普通です。気持ちがよく表れており、思わずほほえんでしまいます。子どもがついついテレビを見過ぎてしまい、「そろそろ勉強しないと叱られるかな」と、重い腰を上げようとしたそのとき、とうとうおかあさんの堪忍袋の緒が切れる。家のなかの光景がまるで見えてくるかのようです。これは、多くの家庭で現実に見られるシーンではないでしょうか。

 勉強のほうはと言うと、前にご紹介した男の子のほうが、圧倒的によくできました。先生やクラスのみんなの前で話すことを念頭におき、母親のことを「母」と自然に言える子は、そうそういるものではありません。また、よどみがなく、その場にいない者でもよくわかるような話しかたができている点にも驚かされます。

 このように、よくできる子の話しかたは、センテンスが長く、敬語をわきまえ、接続詞を上手に使え、感情を交えず、順序よく話せるという特徴があります。こういう話しかたは、普段からしていないとできるものではありません。学校のような教育の場で用いられる言葉は、こういう改まった言葉です。また、教科書に出てくる言葉も、テストで用いられる言葉も同じです。目の前に相手がいて、状況を共有しているならもっと簡単で砕けた言い回しでも通じるでしょうが、言葉だけでコミュニケーションをはかれることを可能にするためには、正式な改まった言いかたが求められます。ですから、こういう言葉に習熟していることが、勉強の成果をあげるうえで大いに威力を発揮するのですね。

 さて、前述のような言葉遣いを家庭で身につけさせることが、子どもの知的能力を育むうえで必要だということはわかりました。でも、親子の会話なのに、いちいち文法に照らし合わせ、長いセンテンスで話すなんて窮屈じゃありませんか?」とおっしゃるかたもおありでしょう。

 その通りです。親子の会話で、「です」「ます」などという丁寧語を使うのは変ですし、目の前に相手がいるのに、無理に丁寧な話しかたをする必要もありません。しかし、子どもの成長という観点に立つなら、何かの話題について詳しく話し合ったり、親の考えかたを子どもに徹底させたりするような会話も、ときにはあって然るべきだと思います。

 また、会話のなかで、自然と子どもに新しい語彙を吹き込むような、面白い表現や目新しい言葉を用いる。そういう配慮をすることも必要だと思います。そうして、全体として家庭が子どもの言葉を学ぶ場、話しかたを学ぶ場として機能すればよいのではないでしょうか。

 くつろいだ、楽しい会話こそ家庭で必要なものです。しかし、同時に状況に応じて面白い表現を教えたり、親に自分の気持ちを詳しく説明するような場面をつくったりすることも配慮できるはずです。そうすれば、そのつど子どもは新しい語彙や話しかたのバリエーションを、おかあさんから仕入れることができるでしょう。

 いつも親は堅苦しい言葉遣いの手本を子どもに示す必要は更々ありません。何かについて話しているとき、話が発展して互いの考えを詳しく語り合うような流れができることもあるでしょう。

20160321 子どもを叱るときも、子どもの話しかたを鍛えるチャンスだと言われます。子どもの側にも言い分があるでしょう。それをきちんと親に伝えるべくがんばらせればよいのです。子どもの言うことにしっかりと耳を傾けてやれば、子どもは感情に走らず、言葉を尽くして親を説得する努力をするでしょう。そういう体験を通じて、子どもの話す力は大いに鍛えられるのではないでしょうか。

 結局、学力のおおもとは言葉であり、言葉を介したコミュニケーション能力が学力を伸ばすうえで決め手になります。思考も、言葉を心のなかで組み立てる作業に他なりません。子どもにとって、言葉の豊かな生活の場を用意してやる。それが、親の重要な役割であろうと思います。

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カテゴリー: アドバイス, 子育てについて