2016 年 8 月 のアーカイブ

お父さんの「タイプ」と子どもの成長について

2016 年 8 月 29 日 月曜日

 近年、父親の育児参加について様々な方面で取り上げられていますが、皆さんのご家庭では、お父さんは子育てにどのような関わり方をされているでしょうか。多くのお父さんは日中仕事に行かれていますから、子どもと一緒に過ごすことのできる時間は限られています。それでも、休日や平日の帰宅後などになんとか時間を作って、わが子と一緒に過ごそうと努力されている方もきっといらっしゃるでしょうね。

 父と子の関係について調べたあるアンケートにおいて、子ども達に「お父さんはどういうタイプか」を書いてもらって統計を取ったところ、次の4つのタイプに大別されたそうです。

 ① 優しいパートナータイプ
 ② はつらつエンジョイタイプ
 ③ 堅実で仕事重視タイプ
 ④ 厳しいリーダータイプ

 ①は、あれこれ一方的に指示するのではなく、できるだけ子どもの意見を聴こうとする父親、②は、自分の趣味などを充実させて、自分の遊びに子どもも参加させる父親、③は、子どもとの時間よりも仕事に重きを置く父親、④は、わが子に対して厳しさや強さを前面に押し出した接し方をする父親、とされています。

 ①や②のタイプの父親が子どもに近い関係にある一方、③や④のタイプの父親からは、いわゆる「仕事一直線」とか「頑固一徹」といったイメージが思い浮かびます。昔と比べて父親像が変わったと論じられるようになって久しいですが、④のような父親が減り、①のような父親が増えてきているということでしょうか。160829①
 同時に、こうした変化に伴って、父親が子どもにとって怖い存在ではなくなってきていることが、子どもの成長や親子関係のあり方に影響をきたしている、という意見もあります。父親の権威・威厳の低下の問題といわれるものです。

 ただし、権威や威厳は、子どもに厳しく接していなければ成り立たないというわけではありません。もちろん、厳しく怖いお父さんがいれば子どもの態度はビシッと引き締まるでしょうが、肝心なのは、その緊張感が何に由来しているのかという点です。
 たとえどんなに厳しいお父さんであっても、子どもが父親に対して「お父さんってすごい」とか「いつもどっしり構えていてかっこいい」などの感情を抱いているのなら、そのお父さんは子どもにとって憧れや尊敬の対象となるでしょう。しかし、単に「声が大きくて怖い」とか「逆らったら何をされるかわからない」などの恐怖心が根底にあるのであれば、それは本当の意味での権威だとはいえません。そんな形で親に従っていても、自分の思いを無理に抑えて合わせているだけですから、結局子どもの人間性や社会性を育むことにはつながりにくいからです。

 逆に、たとえ①のような優しいタイプのお父さんであっても、普段の親子の関わりの中で、わが子が「お父さんってすごい!」と感じさせることができていれば、十分「権威をもった父親」だということもできます。本来、「権威」とは、力で抑えつけるようなことがなくとも一定の影響力が発揮されるような関係性でこそ成立するものです。ですから、普段は優しく温かいタイプのお父さんであっても、きちんと節度をもち、状況によっては毅然とした態度が取れれば(この点が難しく、かつ重要ではありますが)、父親としての権威が損なわれるようなことはありません。

 ちなみに、このアンケートをもとに「父子間のコミュニケーション度」を調べたところ、数字の並びどおり、①→②→③→④の順に数値が高かった(①が最も関係良好)という結果になったそうです。160829②
 さらに、「困っている人、友達の手助けを喜んでするかどうか」「みんなで決めたことには従うかどうか」などの項目で、子ども達の社会性の発達度をはかったところ、「父親とのコミュニケーション関係が良いほど、子どもの社会性の育ちも良い」という結果が出た、とのこと。つまり、①や②のタイプの父親の子どもの方が、より高い社会性を身につけることができているということになります。

 もちろん、お父さん一人ひとり性格やキャラクターが違いますから、わが子への接し方もそれぞれだと思います。ただ、父親の関わり方次第でわが子の発達・成長に違いが生じることを考えれば、お父さん方は父親としての自分自身の姿を一度客観的に見直してみる必要があるのかもしれません。そして、その上で補うべき部分を考えていければいいですね。

 さて、皆さんのご家庭のお父さん(または、お父さん自身)はどのタイプですか?

(butsuen)

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カテゴリー: 子どもの発達, 子育てについて, 家庭学習研究社の特徴, 小学1~3年生向け

読みの力をつけるために親が手伝えること

2016 年 8 月 22 日 月曜日

 前々回から、子どもの学力が振るわない原因の一つとして、「読みの習熟不足が関与しているのではないか」ということを話題にとりあげ、対策としてどのようなことが考えられるかを書いてきました。

 文章を読むことは、大人なら空気を吸うことと同様に何の意識もなくやれることです。しかしながら、小学校への入学によって始まった文字学習が軌道に乗り、読むことが何の苦労もない作業になるまでのプロセスは子どもによって千差万別です。この流れをうまく築けるかどうかが、勉学の成果に個人差を生み出す原因になっているのではないかと筆者は考えています。

 確かな黙読力を養うプロセスとして、欠くことのできないステップが“音読”です。なぜ音読が必要かについては前回書きましたが、保護者の方々がお知りになりたいのは、そういった理屈よりも、「音読をどうやって子どもにさせたらよいのか」や、「親が子どもにしてやれることは何か」などについての具体的な指針であろうと思います。

 そこで今回は、ご自身で国語の学習塾を経営し、子どもの国語力強化のためにさまざまな工夫を積み重ね、成果をあげてこられたかたの著書の一部をご紹介し、親の望ましい関わりかたについてともに考えてみようと思います。

 読みの態勢づくりで後手を踏んだ子どもは、例外なく国語の読解力不足という問題に突き当たります。この問題の解決にあたっては、子ども個々の状況に応じた巻き返しのための対策が必須となります。それは学校や学習塾の授業では実行不可能なことであり、それを手伝える存在はおそらくおかあさんぐらいであろうと思います。20160822bそのおかあさんが、どのようなサポートをすべきかについて書かれている箇所を、まずはご紹介してみましょう。

 「国語の勉強はしているのだけれども点数が上がらない」「国語はどのように教えたらよいのかわからない」と、多くのお母様方がお子さんの国語で悩んでいらっしゃいます。しかし、我が子に国語を教えるのは決して難しいことではありません。

 子どもの性格も生活も、つまり、育ってきた環境のすべてが国語に表れます。今まで大切に育んだ子どもの長所も短所も、お母様ならばご存知です。その子らしい良さをもっと伸ばそうという気持ちで子どもに添い、「音読をしながら、印つけとメモ書き」の「丁寧に読む」練習をすることで、子どもの国語の力を養うことができます。

 「国語を何とか……」と思っていらっしゃるのなら、まず子どもの長所をはっきりと捉えます。次に、それをもっと伸ばすにはどのように接すればよいかを考えます。そして、長所を伸ばす接し方で「丁寧に読む」練習をすればよいのです。

 たとえば、活発で積極的な点が長所ならば、それを活かして歯切れ良く、リズムを持って文章を読むようにします。このような子ども達の多くは読み飛ばしをしていますが、その原因であるおっちょこちょいの面については、当分の間、目をつぶります。テンポ良く読み進めていくことで、そのうち飛ばし読みが正されていきます。しばらくすると、懸案の「おっちょこちょいの飛ばし読み」は矯正されているはずです。

 また、おとなしく、考えるタイプのお子さんならば、ゆっくりと丁寧に読み進めます。このタイプの子ども達は「丁寧に読む」ことを練習すると割合スムーズに力が伸びます。正確に読めるようになると、子ども自身が安心して時間の枠を考えていくようになります。その時に「時間がかかり過ぎる」という点が解消されます。

 みなさんのお子さんにはどんな性格的特徴があるでしょうか。「子どもは自分の長所を認めてもらうと幸せを感じます。心身が安定し、何でもできそうな気持ちになります。それが潜在的にもった力を引き出す原動力になるのです」と、著者は述べておられました。

 また、こうした練習を始めるにあたり、「いつからでも、手遅れということはありません。気がついたときから始めればよいのです」とも述べておられます。

 どのようなタイプの子どもにせよ、国語力に問題を抱える子どもに多く見られる傾向として、「読むのを面倒がる」ということがあります。字面を追って丁寧に読み進める作業は、確かに手間がかかります。また、音読は文字の音を声に出して確認していく作業ですからどうしてもスピードが鈍ります。また、声に出すこと自体がかなりの負担になります。そもそも、それがうまくできないから国語力が伸びないのですから、子ども自身で解決するのはほとんど無理と言えるでしょう。親は子どもの「面倒くさい」に寄り添い、子どものよいところを尊重しながら、少しでも楽しく能動的な気分で読みの練習を実行できるように配慮してあげてほしいですね。

 子どもの性格的な特徴、長所に合ったやりかたのよいところは、継続性が期待できるということに尽きるでしょう(おかあさんの情熱や配慮、工夫があってこそのことですが)。「気が進まない」→「どうせうまくやれっこない」→「やはり効果はなかった」→「自分は能力がない」といった負の連鎖を断ち切るには、方法のよし悪しよりも、取り組む子どもの気持ちが前向きになることのほうがより重要なことであろうと思います。また、よいやりかたというものは、一つしかないわけではありません。その子どもにとって一番受け入れやすいやりかたが、最もよいやりかたではないでしょうか。

 ところで、先ほどの引用文のなかに、「音読をしながら、印つけとメモ書き」というくだりがあったと思います。20160822「印つけとメモ書き」とはどういうものを言うのでしょうか。著者によると「印つけ」とは、文章が物語文であるときには気持ちが表現されたところに印をつける、説明文のときには「つなぎ言葉」に印をつける、といった具合です(この方法は、あるお子さんの状態を見て判断されたそうです)。また、意味のわからない言葉に出合ったときにも、印をつけるとよいでしょう。そうした印つけの際、疑問点や後で確かめたおきたいことがあれば、ごく簡単なメモを記しておくと、知りたいことが放置されることがなくなります。

 「音読を励行しましょう」と申し上げると、かなりの確率で「どんなものを読ませればいいのですか?」という質問を受けます。どんな文章をお子さんに読ませるかについては、さほど神経質になる必要はありません。よい文章であっても、お子さんが好まなければ意味がありませんし、文章が難しすぎても読むことへの抵抗感をよけいに与えてしまうことになりかねません。

 弊社の4・5年部会員家庭であれば、「テキストの素材文」や、毎回の「テストの素材文」などが適当でしょう。これらの文章では、必ず読解にあたってのテーマが掲げられています。たとえば、4年部の後期テキストでは、「場面のわけ方(物語文)」「登場人物の気持ち(物語文)」「段落の中心文(説明文)」「段落の要点(説明文)」などのような学習の目標が明示されていますから、こうした点に関わるところに印をつけたり、傍線を引いたりすることで、前出の著者の述べておられるような音読の際に付随する作業がしやすくなるでしょう。文章スタイルに即した読み取りかたを身につけるうえでも大変効果的です。

 ただし、「とにかく読みたがらない」と困っておられるご家庭の場合、お子さんの興味に極力添ったものを選択することも必要でしょう。活字を読むことには変わりありませんから、お子さんが選んだ文章でよいのです。とにかく声に出して読むことを繰り返すことを優先しましょう。「今さら、こんな易しい文章を読んだって、何の役にも立たない」と思わないことです。音読は知識を得るためにするのではなく、読みのスキルアップのためにするのですから。お子さんが読む練習をするうえで選んだ文章なら何でもよいのだというぐらいに割り切りましょう(漫画だって構いません)。

 最後に。4、5年生までのお子さんなら、できればおかあさんと交代で音読することをお勧めします。お子さんの読みの習熟度に合わせ、数行ごとに交代したり、段落ごとに交代したり、ページの切れ目で交代したりと、いろいろ工夫してみてください。おかあさんはお子さんに注意を与えたり、叱ったりするのではなく、おかあさんの読みを聞かせて参考にさせるほうが長続きすると思います。この交替音読の時間を楽しいひとときにするよう配慮してあげてください。声が出ないタイプのお子さんに、「大きい声で読みなさい!」と叱るのはNGです。読むことに慣れ、自信がついてくると、自然と元気のよい読みができるようになります。何事につけ当てはまりますが、よい流れができるまでいかに辛抱強く取り組むかが肝心です。とにかく、恥ずかしがらないで読むこと、面倒がらなくなること、この点をクリアする必要があります。おかあさんがたには、「今しか手伝ってやれないのだから」という決意していただき、お子さんを励ましながらがんばっていただきたいと存じます。

 たとえば、少しでも気の入った読みかたをしていればおかあさんが大いにほめ、躓くことなく読み切れたなら大袈裟なくらいにほめるなど、お子さんの読みに臨む姿勢を能動的にしていくための工夫をしてみてはいかがでしょうか。もし、音読の素材文としてテキストやテストの文章を使うことをお子さんが同意されたなら、各文章の学習テーマに沿ったチェックを入れる学習も可能になるでしょう。こうした作業を繰り返していくうちに、知らず知らずのうちに読みの態勢は整っていきますし、読むときのコツも少しずつ身についていきます。すでにお伝えしたように、音読が滑らかにできていれば、間違いなく黙読はより早くスムーズにできるようになっています。

 読むという行為は、すべての教科学習の基本です。また、スラスラ読めるようになれば、活字から得られる様々な情報や、活字が創造する未知の世界への興味はどんどん増していくに相違ありません。それが子どもというものです。

 中学受験を視野に入れておられるご家庭において、親がわが子の学習に関わることで最も必要性が高いのは、「読みの態勢づくりへの関与」だと筆者は確信しています。ちゃんと読めれば、子どもは自然と学びに向き合い始めます。親が勉強を教える必要はありません。

 わが子の読みの習熟に向けて親が手伝ってやれることについては、また機会があればお伝えしたいと思っています。随分長くなってしまいましたが、多少なりとも参考にしていただけたなら幸いです。

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カテゴリー: 勉強について, 家庭での教育, 音読・読み聞かせ

学力形成の流れを築く読みの態勢づくり

2016 年 8 月 8 日 月曜日

 前回から、勉強しても相応の成果が得られない、学んだことが記憶に残らないお子さんが一定数おられることを話題に取り上げ、その理由として、「活字を読んで著述内容を理解するためのスキルが不足しているのではないか」、ということをお伝えしました。

 読みのスキルを磨くためには、黙読へ移行する前に音読の練習を繰り返しておくことが肝要です。しかしながら、多くの家庭でそのことの重要性が理解されず、中途半端な読みの状態で黙読へ移行しているようです。それが子どもの学習活動のブレーキになっているのではないかと思います。

 そこで、まずは黙読への移行過程の子どもの現実について一緒に考えてみていただきたいと思います。多くの子どもは、幼稚園への入園の段階では、音声の言葉は知っていても文字の言葉の知識はまだそんなに多くありません。ご存知のように、正式で系統だった文字の学習は小学校入学から始まります。この段階から、文字を一字ずつ声に出して発音し、文字の一つひとつにそれぞれ固有の読み(音)があることを学習します。

 ひらがなやカタカナの学習が一通り終わると、文中の文字の並びに従って「つ」「く」「え」と発音すると同時に、これらの文字がひとかたまりの意味をもった語の構成要素であることに気づき、「つくえ」という語として認識できるようになります。こうやって、既知の話し言葉に対応した、新たな書き言葉を獲得していくわけです。このような、話し言葉(音声言語)と書き言葉(文字言語)の照合を繰り返すことで、しだいに文を読むための土台ができあがっていきます。

 ここまでお読みいただくとおわかりのように、文字の連なりを見て快適に読めるようになるには、文字の一字ずつを声に出して発音する必要があります。そして、それが滑らかで正確になるにつれ、ある段階(多くは2年生前半)から、文字列を目でとらえただけで語のかたまりや切れ目を峻別し、自動的にそれらの読み(音)を声に出さずとも脳内でイメージできるようになります。それが黙読です。黙読ができるようになると、音声に変換する面倒な作業が不要になるため、読みの負担が格段に軽減されます。こうして、子どもは自分で文章を読んでそこに描かれている世界を楽しめるようになります。

 ここで、お子さんの読みの熟達に向けたプロセスを振り返ってみてください。お子さんはいつごろから黙読できるようになられたでしょうか。そう申し上げても、おそらくほとんどのかたは記憶にないと思います。子どもは2~3歳頃から文字に触れる生活をしていますから、就学前から文字を読むことがいくらか可能になっているのが普通です。おそらく、小学校入学時の子どもは、黙読への移行の途中にあるのだろうと思います。自分で絵本などを楽しめているかのように見えるわが子を見て、親は「もう、うちの子はちゃんと文字が読める」と思い込んでしまうかもしれません。しかし、キチンとした黙読力を身につけるには、文字とそれに対応する音を脳に浸透させる音読という作業をみっちり行っておく必要があります。

 あるとき、筆者が「もっとお子さんに音読の練習を」と1年生児童の保護者にお伝えしたとき、「うちの子は、声に出さず文章を読んでいます。だから、もう黙読ができています」と言い返されたことがあります。しかし、現実には黙読に移行していたわけではありません。僅かながら口を動かした状態で文を読んでいる状態にあったはずです。この段階では、もっとしっかりと声に出して発音し、文字と音の関係を脳に浸透させていく必要があります。そうした練習を経て、子どもは文字列を見通しただけで瞬時に文字列に対応した音をイメージし、意味に解読していく態勢を築くことができるのです。

 黙読の態勢が整った子どもは、快適に文章を読むことができますから、自然と本を読むことに勤しみ、それがさらに子どもの黙読力を磨き、読書活動を活発にします。そういう流れができると、子どもは新たな語彙を、活字を通して手に入れることができるようになります。この、「活字から新たな語彙を獲得する」という流れが、子どもの語彙の爆発的な増加を促します。そして、読みの能力の一層の拡充、思考力の発達といった連鎖を引き起こし、子どもの知力は著しい進歩を遂げていきます。 

 このように、黙読への移行が望ましいステップを踏んで行われていれば、活字を介して行われる勉強が充実するのは当然の成り行きであり、勉学で成果を得ることが約束されるでしょう。現在お子さんの勉強がうまく機能していないと思われるかたは、このステップをお子さんがうまく通過していなかったからではないかと筆者は思います。ですから、そこからやり直すことが巻き返しのための最も有効な方法だと筆者は思います。

 以上が、読みの態勢を再構築するために音読からやり直すことをお勧めする理由ですが、どのような感想をおもちになったでしょうか。少し込み入った難しいことも書いたので、わかりにくく感じられたらごめんなさい。読みの態勢を築き直さないままでいると、いつまでも悪循環が尾を引きます。一方、読みが軌道に乗った子どもはすばらしい勢いで読みの力を充実させていきます。これを放っておくと、中学受験が迫ってきたころには大変な差が生じているのは間違いありません。 

 今からでも決して遅くはありません。お子さんの読みの態勢を築き直すための第一歩を踏み出しましょう。それは、徹底した音読練習を通して、黙読力を上げていくことです。

 ここで、なぜ音読が重要かについて簡単にまとめておきましょう。
 20160808

 読みの態勢づくりには、毎日の習練の積み重ねが重要です。やったりやらなかったりでは十分な効果は得られません。まずは、お子さんの目の前にある教科書、塾の国語テキスト、家庭にある児童書を手に取り、毎日音読を継続してみてはいかがでしょうか。音読は、自分の耳で正誤を確かめられる学習で、子ども自身で間違いに気づくことができます。しかし、音読から学力を築き直すにあたっては、親のサポートがあったほうがよいでしょう。

 ここでまた新たな問題に突き当たります。子どもに音読の必要性をどうやって納得させるか、音読の練習は、具体的にはどうやったらよいのか、などについて多くのご家庭は明確な答えを見出しておられないのではないでしょうか。そこで、次回以降はこのことについても筆者の考えをお伝えしてみようと思います。

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カテゴリー: アドバイス, 子どもの発達, 家庭での教育

勉強が空回りするのはなぜ?

2016 年 8 月 1 日 月曜日

  「一応は勉強しているのに成績がさっぱり」「学んだことがわかっていない。記憶に残らない」――お子さんについて、こんな悩みを抱えているご家庭はありませんか? こうした状態が続くと、子どもは自信を失いますし、やる気がだんだん衰え、ますます成績不振になるという悪循環に陥ります。

 どうしてこんな事態が生じるのでしょう。その理由について、筆者は確かな理由を突き止めているわけではありません。また、原因は勉強のやりかただけでなく、子どもの内面にも起因している可能性もあり、「こうしたら改善されます」といった簡単な処方箋のようなものを見出すのは至難の業です。しかし、考えられる単純な理由が一つあります。もしも、今からお伝えすることが原因かも知れないと思われたなら、今回の記事に最後まで目を通していただければ幸いです。

 まずは、「学ぶべき事柄は何によって提示されているのか」、ということから考えてみましょう。それは言うまでもなく言葉(主に書き言葉)です。つまり文字情報を知覚し、その表す意味をしっかりと理解することで勉強は成立します。

 大人なら、文字の連なりを目で追っていきながら、ほぼ同時進行で意味を解読していくことができます。だから、子どもにとって活字を介した情報伝達がいかに大変なことかについて、なかなか想像できないかも知れません。しかしながら、小学生の子どもはまだリテラシーの世界に参入したばかりです。個々の子どもの読みのスキルには、相当な個人差、隔たりがあるものと想像されます。この読みのスキルの到達度の違いが、活字を介して学ぶ子どもの情報処理能力に著しい差を生み出しているのです。

 活字の連なりから意味を解読する、すなわち文章を読んで理解するときの脳内の情報処理のしくみについて簡単に確認してみましょう。文章を読むときの情報処理の流れは、大きく分けて二つあります。それを今からごく簡単にご説明してみようと思います。

1.トップダウン処理

 文章を読むとき、そこに描かれているものや状況を具体的な像(心象)としてイメージできると、より理解が進みます。カブトムシ、アゲハチョウ、家、鉛筆、ごはんといったように、子どもの興味に関わるもの、生活に密着したものなら、子どもは難なく心の中に思い描くことができます。

20160801a しかし、公園、レストラン、空港、パレード、といったような言葉の場合、イメージを起こすのは難しくなります。こういう言葉を具体像へと結びつけるには、その言葉が意味する一連のものに接した経験が必要です。「公園に行きました」というくだりを目にしたとき、読み手が思い浮かべるのは、自分が公園に行った体験を通して見たものでしょう。たとえば、噴水、鳩、滑り台、ジャングルジム、砂場、たくさんの花々、花時計など、公園いう言葉から思いつくものを意識にのせることで、公園をイメージ化することができます。

 このように、文章を読む際、読み手は文中の言葉に関わる様々な情報を、自分の経験に照らしながら場面や状況をイメージしています。これをトップダウン処理と言います。

2.ボトムアップ処理

 文字の連なりを分析し、そこから吸い上げた情報を頼りに著述内容を理解する活動を「ボトムアップ処理」と言います。文字列から意味のまとまりを見出して単語を抽出し、その意味を確かめます。さらに後につながる文字や単語との関係を点検・分析し、意味の流れをつかみ、文全体の表す意味を解読します。こうした方法で、一連の文の連なりから意味を吸い上げながら、一つながりのまとまりのあるストーリーとして理解していきます。

20160801b 会話と違い、目の前には相手がおらず、表情や身振りなどの補助的な情報は一切ありません。活字のつながりや関係のみを手掛かりにして情報を得るので、文字が形成する言葉と、実生活で使っている音声の言葉との対応関係をしっかりと学んでこそ、この情報処理の方法を活用することができます。

 人生経験に乏しい小学生は、トップダウン処理の能力が大人と比べて劣ります。そこで、挿絵などの補助的で具体的な情報を使う方法が用いられています。

 しかし、小学生にとってより困難なのはボトムアップ処理です。ボトムアップ処理がある程度できるようになるには、文字とその音の対応関係を学び、文字の連なりを見ただけで言葉を形成する塊(言葉の区切り目)を見出して仕分けなければなりません。それは、今まで知っていた音声の言葉と、文字のつながりでできる言葉(書き言葉)を照合していく作業でもあり、大変もどかしいステップです。さらに、言葉の約束事(文法)に関する知識も、求められますから、それを少しずつ学んでいく必要があります。

 話が長くなり、読むのがしんどくなってきたかたもおありでしょう。要するに、勉強しても成果があがらないお子さんの多くは、ボトムアップ処理の態勢が脳内に築けていないのではないかということです。文字列を目で追いかけながら情報を処理していく流れが稚拙であるために、読んでも理解できない、記憶に残らない、さらには読むのが苦痛、といったような悪循環が生じているのではないかと筆者は思います。 

 では、今から何をやればよいのでしょうか。無論、ボトムアップ処理の態勢を今から築いていくということしかありません。そこで次回は、ボトムアップ処理の能力を引き上げていくための方策についてお伝えします。それは少しも難しいことではありません。単純ですが、集中力と根気が必要です。すでに何をするのかお気づきのかたも多いことでしょう。

 受験への足取りを少し間違っただけで、「うちの子は能力が足りない」と勘違いをされる保護者がおられます。それはお子さんにとってとても残念で不幸なことです。勉強しても成績がさっぱり、という悩みをもっておられるご家庭は、お子さんの可能性について間違った判断をすべきではありません。やったら、やっただけの成果があがるような流れはどうしたら気づけるか。それを考えて実行していきましょう。

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