これからの時代は英語学習が一番大事?

2016 年 10 月 17 日

 先日、某ショッピングモールに出かけた際のこと、フロアの一角にある英会話教室から、3~4歳ぐらいの子ども達が大きな声で英単語を復唱しているのが聞こえてきました。突然大音量で英単語が聞こえてきたことにも驚いたのですが、見ると随分多くの小さな子ども達が英語を学んでいて、そのことにさらに驚きました。

 先日読んだある雑誌記事によると、最近の富裕層家庭では、子どもと母親が英語圏の国に移住し、英語が身についたら日本に帰ってくるというケースや、英語力獲得のために子どもだけ外国に住まわせるようなケースが増えているのだとか。ここまでではなくても、わが子の英語力向上を目的として、国内のインターナショナルスクール等に通わせるご家庭も増えているようです。こうした報告からは、わが子の教育の中で英語力向上を最上位に掲げるお母さん・お父さん方が増えていることがよくわかります。
 英語力を高めることによって、様々な国や地域の人達とコミュニケーションを取ることができ、それを将来の仕事や実生活に活かせるなら素晴らしいことです。ただし、成長過程にある子どもが英語だけで話す環境に身を置いた場合、英語を話せるようになることだけでなく、他にどのような影響を受けるのかという点も考えておく必要があるのでは・・・とも思います。

 言語は、その国・その土地の風土や文化と密接に結びついて成り立っています。日本語が様々な面で日本文化と結びついているように、英語もその国の文化や風習と切り離して考えることはできません。一括りに「英語」といっても、その背景にあるものは国や地域によってそれぞれ違います。幼少期に生活言語として英語を学ぶ場合、英語を使った思考の組み立てや判断、言葉の背景にあるその土地の生活そのものもあわせて身につけていくことになります。
 ですから、もし英語力の獲得のみを目的とする場合、その環境に身を置いて言葉だけうまくすくい取って身につける・・・というのは非常に難しい作業です。先の雑誌で紹介されていた家庭のように「幼い頃から海外で暮らすことで、わが子をバイリンガルに・・・」と考えたとしても、海外でしばらく暮らすうちに日本語を忘れてしまうとか、その後環境が変わるとすぐ英語の発音を忘れてしまったり、言語の違いとともに文化の違いにもなかなか馴染めなかったり・・・、というようなことがしばしば起こるのもまた事実です。

 では、日本人の英語学習はどんな形が望ましいのでしょうか。言語社会学者の鈴木孝夫・慶応大学名誉教授は、日本のこれからの英語教育について、次のようなお話をされています。

 従来の英語教育では紅茶のカップで紅茶を飲んでいたのを、今度は緑茶を入れて出さなければいけません。つまり、容れ物は英語でも中身は日本。外国人が「へえぇ」と感心する日本の文化は山ほどあります。
 紅茶でも緑茶でも、容れ物ではなく中身を飲むのですから、中身に相手が関心を示さなければコミュニケーションが成り立ちません。相手にとって飲み慣れた、しかもまずい紅茶でお茶を濁すのではなく、ティーカップに物珍しい緑茶を入れて興味を惹き、日本への理解を促進する。そのためには、英米の生活や文化を教材にした受信型の英語教育から、日本の文化・歴史・社会・風俗・習慣を英語でどう説明するかを学ぶ発信型の英語教育に切り換えなければいけません。(中略)
 小学校では子どもたちに身に付けさせなければならない大切なことがたくさんあります。それこそ読み書きそろばん、さまざまな公衆道徳や社会常識。限られた貴重な授業時間の中で、それらに優先順位をつけて割り振れば、どう考えても英語は入りません。英語を導入したら他の大切なことが疎かになる恐れが大きい。(中略)
 義務教育の英語は選択制にして、自分たちのことがいえる発信型の教育にする。そして英語と英米文化を切り離す。これが世界の現実に即したこれからの日本の英語教育の在り方です。(Benesse「BERD」より)

 どのような言語で会話をするにしても、誰かと話をする際には「伝えたいこと」があるのが前提です。伝えたいことがあってこそのコミュニケーションスキルですから、いくら英語や他の外国語が流暢に話せたとしても、話す人の中に伝えたいことや相手の興味を引けるものを育んでおかなければ本末転倒になってしまうということですね。

 このお話をふまえて考えると、「わが子は何のために英語を学ぶのか(学ばせるのか)」という点について、親は明確なビジョンをもっておく必要があるといえそうです。
 将来わが子には、日本から巣立って国際社会で活躍できるようになってほしいとか、日本で暮らしながらも英語力を活かしてほしいといった考えが強ければ強いほど、単なる「容れ物」である英語の力だけ磨いてもさほど意味がありません。他に学ぶべきものがあるなら、それを犠牲にしてまで「とにかく早く英語を・・・」とこだわるのではなく、場合によっては「あくまでもコミュニケーションスキルの一つ」と割り切る考え方も必要なのかもしれません。

 これからの社会の変化を考えると、英語学習の重要性がますます高まっていくのは間違いないでしょう。小学校では既に始まっていますが、これから幼稚園・保育園などでも本格的に英語に触れる機会がどんどん増えていくはず。ただ、「幼いうちに英語に親しませておく」「発音を聞き取る耳を育てておく」のと、「英語漬けの生活で完全にマスターさせておきたい」というのでは、かなり意味合いが違います。
 私自身も子をもつ親の一人ですが、保護者の立場からすれば、まずはわが子の教育を広い視野で総合的に捉える必要がありそうですね。

(butsuen)

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カテゴリー: 勉強について, 子どもの発達, 家庭学習研究社の特徴, 小学1~3年生向け

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