2017 年 6 月 19 日 のアーカイブ

“朝学”はなぜ効果が高いのか?

2017 年 6 月 19 日 月曜日

 今回は、「朝早めに起きて勉強すると効果が高い」と言われる理由を話題にとりあげてみます。「勉強の能率が上がらない」と、困っておられるかたにとって、“朝学”は現状を打開する一つの方策になるかもしれません。また、あと1カ月余りで夏休みがやってきます。夏休みからの学習時間の割り振りを考えるうえで、多少なりとも役立てていただければ幸いです。

 もっとも、朝の苦手なお子さんは少なくありません。なかには、「朝早く起きて勉強」というだけで、「うちの子には無理!」とあきらめてしまうかたもおありでしょう。 そんなかたも、とりあえず読んでみてください。睡眠と記憶の関係についての基本的なことがわかりますから、受験生活の参考になるかもしれません。

 お茶の水女子大学名誉教授で、かつて同大学の附属幼稚園の園長も務めておられた外山滋比古先生は、子どもの教育に関わる多数の著書を表しておられます。その外山先生の本のなかに、「なぜ朝はものを考えるのに適しているのか」について書かれているくだりがあります。ちょっとご紹介してみましょう。

 忘却が夜の間におこることはどうやらたしかである。忘却が頭をはたらきやすいように、きれいに整理してくれるのだとすれば、一夜明けた朝、頭がものを考えるのにもっとも適した状態になっているのはむしろ当然である。

 昔から、それに気付いていた人は少なくなかったと想像される。イギリスの詩人、ウィリアム・ブレイクにこういう詩がある。

 朝、かんがえ (Think in the morning)
 ひるは、はたらき (Act in the noon)
 夕がたに食し (Eat in the evening)
 
夜は眠れ (Sleep in the night)

 つまり、朝いちばんに考えよ、頭を使え、というのである。ほかの仕事は、そのあとでよい。朝はそれほど頭の活動に適しているのだという洞察である。食事をするのは夕方、つまり、仕事が終わってからでよいというところが注目される。

 同じくイギリスの小説家ウォルター・スコットも朝の信者だったようで、難しい問題があって夜遅くまで解決できないようなとき、彼はまわりのものによく言った。「明朝になれば、いい考えが浮かんでくるよ」、夜の間に、妙案、妙想が用意されることを知っていたのである。その夜に、大働きをするのが忘却であることまでは、スコットは、あるいは知らなかったかもしれない。しかし、夜より朝の方が頭がよく働き、いい考えが生まれやすいことは経験によって知っていたものと思われる。生活の知恵である。

 どうやら、朝頭を使うとよい考えが浮かぶのは、夜眠っているときに前日までに経験した事柄の多くが忘却され、頭が整理整頓されて働きやすくなっているからのようですね。

 外山先生は、朝頭を使うことの重要性を昔の人が知っていた証拠として、「朝廷」という言葉の由来を紹介しておられました。大昔、中国の役所は、朝、日が昇るのとともに開始されたという故事があります。それで「“朝”廷」と呼ばれたのだそうです(「廷」は政治を行うところ、官吏が集まる広い庭の意)。朝早くに仕事をするほうが、より能率的に迅速に行えるということを昔の人が知っていたからです。

 また、みなさんご存知の“朝飯前の仕事”という言葉は、「朝食前でもできる簡単な仕事」という意味で使われていますが、もとはそういう意味ではなかったという話も紹介されていました。朝食前に仕事をすれば、頭がすっきりと整理されているので、仕事がはかどり易くなります。本来はそういう意味だったのです。それが、「簡単にできる仕事」と誤用されるようになったのだと言います。外山先生は、「朝の仕事の能率がよいことを忘れてしまっていまのような解釈になったのである。朝の仕事の能率のよさこそむしろ注目すべきである」と述べておられます。朝する仕事は能率のよいことを昔の人はよく知っており、本来はそうした知恵が生み出した言葉だったのですね。

 ここで再び外山先生の著作の一部をご紹介しましょう。勉強がはかどる時間に着目しておられます。

 “朝考える”にしても、“朝になればいい考えが出てくる”にしても、さらに中国の朝廷にしても、朝の思考、仕事がすぐれていることに注目しているのだが、朝飯前の仕事が、朝は朝でも、食事の前というところに注目しているのがおもしろい。

 というのも、思考に適しているのは、朝だけに限らないからである。気をつけてみると、昼前にも、そして、夕方にも、仕事のはかどる、つまり、頭の状態がよい時間帯があることがわかる。ことに、夕方がいい。体から言えば、昼より疲れていてもおかしくない夕方に頭の活動がよくなる。言いかえれば、頭がよくなる。さらに、忘却作用が成果をあげているのはどうしてか。

 考えられるのは、いずれも空腹時ということである。胃の中に、食べたものが入っていて、その消化にエネルギーをとられるとき、頭の活動も低調になるのではないかと推測されるのである。

 みなさんご経験がおありかと思いますが、たっぷりと食事を摂った後は、ややこしいことを考えたり覚えたりする気になれないものです。それは、食事をした後には消化作業で内臓に負担がかかっているため、頭の働きにエネルギーを向ける余裕がないからなんですね。

 受験の際にも、「胃もたれのする食事を摂らず、多少空腹の状態で臨んだほうが頭がよく働く」と言われます。また、「厚着をしてあたたかい状態よりも、多少薄着で寒さを感じるぐらいがよい」と言われます。これは、「体が少し危険を感知するぐらいのコンディションにおいて、神経が最も研ぎ澄まされ、頭の働きが鋭敏になるからだ」ということのようです。

 早朝は、記憶が整理整頓されて働きやすい状態にあり(睡眠によって不確かな記憶が忘却されている)、体が思考に適したコンディションにあり(食べ物が消化された後で胃に負担がかかっていない)、少しひんやりとした勉強にふさわしい環境にあり(少し寒さを感じるくらいの条件で頭は一番よく働く)、まさに受験生の勉強に最適な時間帯だということがわかりましたね。

 以上のような情報をもとに、お子さんの学習に有効な時間や条件を考えてみてはいかがでしょうか。繰り返しますが、1カ月余りすると夏休みがやってきます。長い夏休み期間は、生活習慣を見直し、勉強の成果があがるルーチンを築く絶好のチャンスです。お子さんと話し合いながら、お子さんにピッタリの学習のありかたを考えてみましょう。状況が好転する可能性大です。

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