理解するまでに時間がかかるのは悪いこと?

2019 年 4 月 15 日

 おたくのお子さんは、算数の問題を解くのに時間がかかるほうでしょうか。勉強で、納得するまでに要する時間は長いほうでしょうか。今回は、学習課題を解決したり、ものごとを理解したりするまでに手間取るタイプのお子さんをおもちのかたに、励みになるのではないかと思われる情報をお届けします。

 まず、何をお伝えしたいかについて簡単にご説明しましょう。学習において何かと時間や手間がかかることは、必ずしもハンディではありません。むしろ、解くための糸口を見つけ出すまでに手間取ることは、当該の案件を様々な角度から検証するわけですから、深い理解や応用的な能力を磨くことになるのです。――このことが、学者の研究で明らかにされています。これは中学受験をめざして勉強中のお子さんにも当てはまることではないでしょうか。今、「うちの子は、勉強がてきぱきできなくて心配だ」と思っておられる保護者の方々には、ぜひ参考にしていただきたいと存じます。

 このことを紹介しているのは、イアン・レズリーというイギリスのノンフィクション作家です。この人の著作「子どもは40000回質問する」(原題:The Desire Know and Why Your Future Depends on It )に、次のような記述があります。

 1990年代初頭、カリフォルニア大学の認知科学者ロバート・ビョークは、それまでの心理学者の常識を覆すような事実を発見した。突き詰めて言えば、学ぶのに苦労したときのほうが習熟度は高い、ということだ。

 私たちは、素早く習得することと深く学ぶことを同一視しやすい。教師としては、子どもたちがある概念や技能を一度で習得してくれたら嬉しいし、それは子どもたちにしても同じだ。ただし困ったことに、あまりにも簡単に習得してしまうと、じつはそれほど多くを学べていないことがある。ビョークは入念に練られた一連の実験において、人は短時間で学ぶと、うわべだけしか習得できない傾向が高いことを明らかにした。つまり、長い目で見ると忘れる可能性が高いのだ。また、急いで学ぶと新たに得た情報を既存の知識と結びつけて考えることも少なくなる。そうなると、新たな知識を得ても、他の問題に応用できない。

 ある実験で学生たちに文章の一節を暗記する課題を出した。一つ目のグループには文章を読み始める前に、その概要を記載された順序に従って説明し、二つ目のグループには内容は同じだが順序を入れ替えて説明した。最初のグループは文章をよく理解しているようだった。――暗記を確認するテストでは二つ目のグループより成績が良かった。ところが、その文章に関連して創造性が求められる設問――内容を深く理解することが求められる問題――を与えると、二つ目のグループのほうが好成績だった。二つ目のグループは文章を理解するのに余計な難しさが加わったせいで暗記が難しくなったが、内容についてはかえって深く理解していた。彼らは創造的な活動において、知識を応用する能力を発揮していたのだ。

 これを読むと、理解に漕ぎつけるまでに苦労や試行錯誤を伴ったほうが、却って理解が深まるし、応用の利く知識が身につくのだということがわかります。お子さんの学習に照らして考えるなら、はやく正解を得ることに心血を注ぐより、手間取ってもよいからじっくりと腰を落ち着けた学習を実践していくことのほうが成果はあがるし、先々の学力伸長にもつながるということではないでしょうか。

 今、家庭での予習や復習がてきぱきとさばけず、もたもたしているように見えるお子さんもおられることでしょう。しかしながら、問題にすべきは自分で考え、あれこれと思いを巡らせながら理解へと漕ぎつける過程をしっかりと経験しているかどうかです。

 同じ課題を解くにあたり、あっという間に解決する子どもと、課題の意味するところを理解するまでに時間がかかり、解決するまでに何倍もの苦労をしがちな子どもとでは、誰しも前者のほうが頭がよいと見なすでしょう。実際、課題を解くまでに時間がかかりがちな子ども自身、「自分は頭がよくないからすぐに解けないんだ」と思い込みがちです。しかしながら、上記引用文に書かれている実験報告を踏まえると、必ずしもはやく正解に漕ぎつけることがよいのだとは言えないということがわかります。

 そう言えば、以前ご紹介したことがありますが、有名な遺伝学者の先生が著書で次のようなことを述べておられます。「人が1回で身につけられる勉強を、自分は5回、6回も繰り返して学ばなければマスターできないとします。では、これは頭の差だからとあきらめるべきことなのでしょうか。いいえ、5回、6回と取り組めばいいのです。結果として、同じ評価をもらえ、同じような力の持ち主ということになるのですから。要は、その努力を惜しまないことです」――確か、だいたいこのようなことだったかと思います。

 このように、理解までに手間取るタイプの人はあきらめずに繰り返し取り組んでいけば、飲み込みや理解のはやい人よりも苦労が伴うものの、却って努力の大切さを知り、コツコツと取り組む姿勢を強固なものにすることができます。また、うまくできない人への思いやりの心も養えるでしょう。したがって、このほうが将来の大成につながるような気がしますが、みなさんはどう思われるでしょうか。

 進学塾にわが子を通わせると、親は勉強の成果の一側面にすぎない成績に目を奪われ、データさえよければ安心するし、データが芳しくなければ「もっとがんばれ!」と、子どもの勉強の内実に目を向けなくなる恐れがあります。今回の記事をきっかけに、「わが子は粘り強く、学習課題に取り組めているかどうか」という観点から、お子さんの勉強を見守り応援していただきたいと存じます。

 今は要領よく勉強しているとは言い難い状態でも、取り組みの姿勢さえよくなっていけば、やがて勉強の方法や段取りなどがわかってきます。そうして、みるみる学習状況や成績が変わってくるお子さんが毎年一定数います。こうした流れを築くことが重要です。目先のテスト成績を追いかけることに終始すると、延々成績に振り回される泥沼に陥りかねません。こうなると、いつまでも勉強の基盤が形成されないし、お子さんは自分に自信をもつことができません。

 受験勉強は小学生にとって特別な勉強です。そのことを保護者の方々には踏まえていただき、楽とは言えない受験勉強に逃げずに向き合うわが子をまずはほめてやり、今よりも一歩一歩前進していくことをめざして粘り強く努力を継続していくことを奨励してあげていただきたいと存じます。きっとお子さんは成長し、変わっていくことができるでしょう。

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カテゴリー: がんばる子どもたち, アドバイス, 中学受験

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