2019 年 7 月 のアーカイブ

夏の講座で成果をあげるための大原則

2019 年 7 月 29 日 月曜日

 中学入試を約半年後に控えた6年生にとって、この夏の学習成果は合否を決定づけるほどの重要な役割を担っています。というのも、これまで養ってきた学力を夏の講座を通してもう一段階レベルアップさせ、秋から始める本格的入試対策への橋渡しをしていくからです。

 これまで、小学校課程の基礎内容をもとに、少しずつ学習の難度をあげてきましたが、それでも入試問題で要求される学力とにはまだ大きな隔たりがあります(ですから、まだ入試問題に手をつけるべきではありません)。しかし、夏の講習のメニューにしっかりと取り組み、うまくやり切ったなら、徐々に入試レベルの問題にも食い下がれるようになっていきます。

 また、夏休みは個々の学力に大きな変動が生じる時期です。長い休暇ですから、自己管理に基づいてしっかりした勉強が継続できるか、それとも惰性に流れ集中力を欠いた勉強に終始するかで、成果に著しい差が生じます。同じお子さんが、状態を上げた場合と下げた場合とで生じる学力の落差は想像以上に大きいものです。暑い日が続きますが、受験生の子どもたちにとっては「ここが正念場」です。強い意志でがんばり通していただきたいですね。

 弊社の夏期講習に通っている6年生の場合、すでに5日間の授業を消化していますが、ここまで学習のスケジュールを順調にこなしてこられたでしょうか。今回は、夏休みの講習を有意義なものにするための重要なポイントをいくつか挙げてみようと思います。ぜひ実行に移していただきたいですね。なお、6年生向けに書いていますが、同じようなことは4・5年生のお子さんにも言えますので、参考までに読んでみてください。

 

1.「授業」を集中して聴き、重要な点をしっかり理解して家に帰る。

 「授業を大切にする」――これがなんといっても基本です。家での問題練習や暗記でテストに対処する癖がつくと、覚えては忘れるという負の連鎖が続きがちです(このやりかたでは使える知識が定着しません)。理屈やしくみをしっかりと理解するのが授業の一番重要な役割ですから、「大事なことは授業でマスターするんだ!」という意識をもつことが重要です。そのうえで得た知識はよく記憶されます。

 

2.「復習(授業・テキストのおさらい)」を毎日欠かさない。

 一度覚えたことも、1日経つと6割以上は忘れ去られてしまいます。そして、次の日はもっと忘却が進みます。それにストップをかけ、さらにわかりかけていたことをわかるようにするのが「復習」です。復習を、授業日、テスト前、テスト後の三段階繰り返すと、非常によく記憶に残ります。特に授業後の復習を徹底させると、テスト直前に慌てて暗記する泥沼の勉強が不要になり、ゆとりが生まれます。授業のその日にしっかり復習を!

 

3.睡眠も学力形成で重要な役割を担う。しっかり睡眠をとろう!

 睡眠は、体の疲れを回復させるだけでなく、学びや体験で得た記憶の整理整頓という重要な役割を担っています。夜遅くまで勉強しても、睡眠が不足すると記憶の効率性が落ち、おまけに疲れが溜まります。なお、次の図を見ていただくと、睡眠の役割がよくわかります。浅い眠りのレム睡眠のときに体が休み、同時に記憶が整理されます。深い眠りの状態になるノンレム睡眠のときに脳が休みます。これを一晩で数回繰り返す必要がありますから、最低7~8時間の睡眠が必要なんですね。

 

4.先生への「質問」、友達への「質問・相談」を積極的に!

 わからなかったことを理解し、さらに記憶に残すうえで効果的方法の一つが「質問」です。なぜなら、どこがわからないかを踏まえた的確な説明が受けられます。また、勉強で得た知識は意味記憶と言って、記憶として残すのが難しくて取り出しにくいという特徴があるのに対し、先生への質問で身につけた知識は、エピソード記憶と絡められているおかげで記憶に残り易く、テストのときに思い出し易いのです。友達への質問や相談も効果的です。同年代の子どもの言葉で説明されるとわかり易いのです。説明してくれる友達にも、他者に説明することで自分の理解をより深め、記憶に深く刻みつけるというメリットが生じます。休憩時間や授業後などを上手に活用したいですね。

 もう一つ付け加えるとしたら、夜型の勉強より朝型の勉強にシフトすることでしょうか。朝のひんやりとした空気のもとで勉強すると、前日学んで得た知識の再確認の学習やテキストの予習などもよりはかどるでしょう。その意味でも、「早寝早起き」を励行していただきたいですね。

 たくさんお伝えするとお子さんが混乱を来してしまうかもしれませんので、ここまでにしておきます。なお、保護者の方々に一つお願いがあります。受験生とは言えまだ小学生の子どもです。決して楽ではない受験勉強を継続するのはなかなか大変なことです。各ご家庭で、お子さんの学習に励みを与えるような工夫を何かしていただくと、お子さんの意欲や実行力も高まるでしょう。

 たとえば、家族一緒のイベントを夏休みの後半に企画するのもよいでしょう。また、受験生はまだ小学生ですから、ちょっとした息抜きの時間(団欒、読書、ゲームなど)を毎日少しずつ設けるといった方法もあるでしょう。あるいは、毎日の予定をやり終えたら、必ず親に報告させるようにし、一日の努力を承認したりほめてあげたりするのもよいかもしれません。

 結局、勉強もスポーツも芸術もみな同じで、成果をあげているのは意欲や研究心、実行力を高い水準で維持し続けている人たちです。ただし、受験生は前述のように人間として未完成な子どもです。親の要求水準に達する勉強ができていないお子さんもいることでしょう。ですが、誰でもはじめから完璧にできるようになったわけではありません。折を見ては親子で話し合い、現状をわが子に振り返らせながらお子さんのやる気や実行力を後押ししてあげてください。

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カテゴリー: アドバイス, 中学受験, 勉強について, 勉強の仕方

夏の家庭勉強は、集中してテンポよく!

2019 年 7 月 22 日 月曜日

 夏休みが訪れ、7月23日の6年部「中学受験夏期講習」を皮切りに、弊社の各校舎で夏の講座が始まります。「夏休みを制する者が受験を制する」とは、昔からよく言われることですが、学校への通学がない時期だけに、休暇期間を上手に活かした勉強をすれば状況を一気に好転させることも可能です。

 近年、全国的に学校の夏休み期間が少しずつ短縮されていますが、それでも1か月あまりある休暇は受験生にとって貴重です。学校がある期間は塾とのダブルスクールになりますから、小学生にとって肉体的な負担があります。ですから、これまで気になる問題点があったとしても、なかなか解消しきれなかったお子さんも少なくないことでしょう。夏休みは、その意味において状況を変える絶好のチャンスなんですね。

 同じテキストの同じページに取り組んでも、一人ひとりの学びの内実はみな違い、当然ながら成果も異なります。予定していた勉強が、計画通りにはかどらないタイプのお子さん、いつも時間が足りなくなるお子さんはいませんか? その結果、時間を延長してやることが当たり前になっていませんか? しかしながら、そういう勉強で成果のあがるお子さんはまずいません。なぜなら、やたら時間をかける勉強は頭を疲労させるし、知識を無理に詰め込もうとすることで頭が混乱を来したりして、却って成績不振に陥るなどの悪循環を招くからです。そんなお子さんは、どうしたら状況を改善できるでしょうか。

 そのためにまず保護者にご理解いただきたいのは、成果のあがる勉強をしている子どもの情報処理の特徴がどういうものかということです。この点について、東京大学の石浦章一先生は、著書の「『頭のよさ』は遺伝子で決まる?」において次のように述べておられます。

 頭の処理スピードが速いというと、脳のシナプスのつながりが速いのではないかと思われるかもしれません。しかし、少なくとも脳の電気が伝わる速さは、頭がいい人も悪い人も、ほとんど同じです。
 おもしろいことに、頭を要領よく使っている頭のよい人の脳は、じつはあまり動いていないのです。逆に頭の悪い人が何か作業をしていると、いろいろな部位が動いています。IQの高い人と低い人にいろいろな作業をさせて調べたところ、IQの高い人のほうが一般に血液量が少ないことがわかったのです。これは神経回路が速く回っているのではなく、神経回路のつながりに無駄がなく、記憶の形式や引き出しが効率よく行われているということです。(中略)
 つまり頭がいい人、要領がいい人は、脳内の回路を省力化して最短距離で使っているといえます。

 石浦先生によると、同じ作業をしても頭のいい人のほうが脳を使っていないから頭が疲れないのだそうです。うらやましい話です。逆に頭の悪い人の作業は時間や労力を使うわりにはかどらず、疲労もたまりがちです。脳を無駄に使っているのですね。できるものなら、頭のいい人の脳の使いかたをマスターしたいものですね。

 では、頭のいい人の勉強ができるようになるにはどうしたらよいでしょうか。そのためにまず心がけていただきたいのは、勉強するときの条件をなるべくシンプルに固定し、決めた時間枠のなかで集中してやり切るような勉強を心がけることから始めたらよいと思います。そもそも弊社の家庭勉強のシステムも、そういった取り組みで成果をあげることをめざしています。

 子どもの勉強の様子を見ると、集中して取り組んでいる時間が短いものです。すぐに気を逸らしたり、ボンヤリしたり、他のものを手に取ってみたり…。しかし、これは勉強の取り組みかたの習慣を改善すれば変わります。また、親が横にいていろいろ指示を出したり、ヒントを言ったり、教えたりしながらの勉強をしていると、受け身の姿勢が集中力をスポイルし、よけいに勉強の効率を悪化させてしまいます。まずはお子さんに予定の時間枠に自分でやり切るよう促し、あとで必要に応じてアドバイスしたほうがよいでしょう。「勉強は決めた時間に集中してやり切るもの」という認識を親子で共有しましょう。前出の石浦先生は、次のようなことも述べておられます。

 何事も初体験ではうまくいきませんから、いろいろ試行錯誤するため脳の負担が大きいのです。それが経験を重ねて「こうすればうまくいく」とわかると、その後は同じ道筋をたどれば脳が効率よくはたらくようになるのです。
 くりかえしますが、ものごとを脳レベルで考えると、脳が回路の最短距離を覚えて省力化するようになることを指します。ですから練習すればするほど、脳は効率よくはたらくようになり、疲れなくなり、思考スピードが速くなって処理速度が上がることになります。
 そう考えれば、計算だって練習すればするほど速くなります。そして創造性を発揮するためには、基礎的な知識を身につけ、いろいろな工夫をする体験を積み重ねることが、最終的には大切なのですね。

 これによると、効率的な勉強ができるようになるまではある程度苦労が伴うものの、自分に合ったよい取り組みの方法にたどり着くと、そこから省力化した能率のよい勉強ができるようになっていくのですね。そこまでのプロセスであきらめたり、おかしな取り組みを染みつかせたりすることなく、努力を継続できるかどうかで個々の勉強成果に差が生まれるのでしょう。

 まずは、夏の講座で毎日すべき勉強に、「テンポよく集中して取り組む」ようお子さんを促してあげてください。夏の講座の期間、一定のリズムでしっかりと取り組む努力を継続する。そうすれば、徐々に脳がその方法に順応し、効率のよい勉強を実現してくれるようになるでしょう。頭のよさは生まれつきなのではなく、努力でつくっていくものなのだということを、ぜひお子さんに伝え励ましてあげてください。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 勉強の仕方, 家庭での教育

東京の国・私立一貫校受験、かつてと今

2019 年 7 月 15 日 月曜日

 先日ある本を読んでいると、1980年ごろの東京の国・私立中学校進学状況と、最近のそれとの違いがデータで紹介されていました。この本の著者は教育社会学者の舞田敏彦氏です。教育社会学者が教育を切り口としたデータを紹介されるときには、社会構造や経済状況、家庭環境、人口動態、交通網の整備状況などと絡めて原因を分析されることが多く、そういった意味においても興味を惹かれました。

 広島の中学受験は、10数年~20数年前ぐらいがピークだったと記憶しています。以後、少子化の進行や地方経済の長期停滞などもあり、近年は少しずつ減少の傾向にあります。いっぽう、このところ広島では公立一貫校が次々に開校されていますが、いずれも相当な受験者数を集めています。私立学校に子どもを通わせるには、かなりの経済的負担が余儀なくされますから、それが公立一貫校の吸引力を後押ししているのかもしれません。では、日本最大の人口集中地区である東京の中学受験状況はどうなのでしょう。

 以下の表は、公立小学校から国・私立中学校への進学状況の変遷を調査したものです。都内の国・私立中学進学率の高い上位10位以内の地区と、下位10位以内の地区の推移を表しています。

 
※都教委「公立学校統計調査(進路編)」より作成。数字(%)は都内地域別の上位10位・下位10位の平均値。

 著者の舞田氏は、都教委の資料をもとに、上表の各年度の公立小学校卒業生の国・私立中学校進学率を、都内の市区町村ごとに明らかにし、上位10位と下位10位の平均値をパーセントで示しておられます。なお、2016年の上位10位は、文京区(44.9%)、港区(38.4%)、千代田区(37.8%)、中央区(36.8%)、目黒区(36.8%)、世田谷区(33.5%)、渋谷区(33.4%)、新宿区(31.2%)、杉並区(30.8%)、豊島区(29.3%)でした。この上位10地区の平均は35.3%となっています。

 多数の地区で小学生の3割~4割以上が国立や私立の中学校に進学するというのは、広島では考えられないことで、ただただ驚くばかりです。かつて中学受験が熱気を帯びていた頃、広島市の小学6年生の数と中学受験生の数を比較計算したとき、受験率で15%前後だったことを記憶していますが、受験率どころか進学率でこれほどの数値を記録しているとは……。地方都市で最も中学受験の盛んな広島ですが、東京と比べるとスケールが全然違うのですね。

 この資料を見ると、上位の10地区については常に上昇傾向が続き、1980年と直近の調査年の2016年とでは19ポイント余り伸びています。いっぽうの下位10地区はあまり変わっていません。国・私立中学校への受験熱が高く、多くの子どもが進学しているのは、東京都の中心部や文教地区とされる地区、交通アクセスのよい地区のようです。これらは、いわゆる富裕層の多い地区と言えるでしょう。

 いっぽう、下位の10地区は主として西側の地区にありました。都の西側は人口の密集度、国・私立学校の数、交通の利便性、教育熱心な家庭の数など、中学受験を成立させるための要件において、上位の地区とよりもずいぶん不利な状況にあります。もちろん、これらのファクターは相互に連動していますから、まだ遠距離通学の困難な年齢期の受験と進学だけに、「受験する」「受験しない」の地域差がより一層強く出るのでしょう。

 以下は、東京都における国・私立中学校進学率をマップで表したものです。前述の舞田氏が作成されたものです。これを見ると、受験地図がどのようになっているのかが一目でわかりますね。なお、1980年の段階では中学受験の盛んな地区はごく一簿でした不が、2016年には都心部からかなり広範囲な地区に拡散しています。人口の集中が一層進んだこと、それに伴う郊外の都市化現象、交通網の整備、魅力ある教育を実践する一貫校の増加など、理由はいろいろに考えられます。それでも、国立・私立中学校への進学率が上がらない特も一定数あります。これは、地理的条件や家庭の数、交通アクセスなど、国立や私立の一貫校が設立されるための最も基本的な要件が以前とあまり変わらないからでしょう。

※都教委「公立学校統計調査(進路編)」より作成。

 ところで、今回引用した資料には近年増加しつつある公立一貫校の情報がありません。東京や首都圏の公立一貫校受験はどんな具合なのでしょう。以前、出版社系のサイトで調べたことがありますので、その一部をご紹介してみます。

  2年前の資料ですが、首都圏には公立一貫校が21校(東京11校、神奈川5校、千葉3校、埼玉2校)あるようです。倍率が一番高かったのは、千葉県立東葛飾で、12.0倍でした。難関として知られるのは、小石川中等教育(倍率6.4)、千葉県立千葉(倍率9.6)などで、押しなべて合格を巡る競争は激しいようです。公立の一貫校の募集定員は、80~160名と、私学と比較すると少ない人数ですが、都立桜修館中等教育、三鷹中等教育、都立小石川中等教育、県立相模原中等教育、横浜市立南、都立両国高校附属などは、千名を越える応募者を集めている模様です。これら公立一貫校への進学者数を合わせると、さらに中・高一貫校への進学率は高くなるでしょう。

 前述のように、広島でも公立一貫校が徐々に増えており、今年の段階で県立広島、広島中等教育、叡智学園、県立三次の4校があります(中等教育学校、併設型、全寮制など、それぞれに運営の形態が異なります)。なぜ公立一貫校が注目されつつあるのでしょうか。前出の出版社系サイトでは、公立一貫校のメリットとして次のようなことがあげられていました。

 学費が安いということは、問答無用の強力な吸引力をもちます。欧米やアジア、日本の情勢を見れば一目瞭然ですが、親自身が先行き不透明な社会に不安を抱いており、教育投資にお金を惜しまぬ時代ではなくなりました。年金すら当てにできない状態では、「お金がかからず、成果を期待できる教育の場」として公立一貫校は魅力に映ることでしょう。少なくとも、中学や高校で教育費が押さえられれば、大学への進学の段階で必要になる資金をプールできると考える保護者もいるでしょう。

 言うまでもなく、教育の受け皿に多様性があるのはよいことです。東京とはスケールで及びませんが、広島には伝統と実績をもつ私立学校が多数ありますし、最近では共学化・新規参入などの動きもあり、私立学校の選択肢はこれまで以上に増えています。さらに、師範学校以来の伝統を有する広島大学の附属中学・高等学校も指折りの人気校の一つとして君臨しています。それに加えて上述の公立一貫校が存在します。

 このように、広島は中等教育の選択肢が多様であるという点においてとても恵まれた地域です。それぞれの特性をよく調べ、お子さんに合った学校選択をしていただきたいですね。日本は世界的にみて家庭の教育費の負担がとても大きい国です。ですが、子どもの教育ほど重要なものはありません。明日の地域社会、日本は次世代によって築かれていくのですから。今、中学受験を視野に入れておられるご家庭におかれては、学費面の問題は頭を悩ませる要素ではありますが、それだけでなく、「わが子が6年間を過ごす教育環境として、どの学校がふさわしいか」という視点から、悔いの残らぬ選択をしていただきたいですね。

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カテゴリー: 中学受験, 私学について

勉強の得意不得意と自尊心の関係

2019 年 7 月 8 日 月曜日

 前々回、前回と、成績不振に陥っているお子さんの状況改善案として、音読の励行による読みの態勢の再構築をご提案しました。

 文字とは、そもそもコミュニケーションのために考案され、共通のルールで体系づけられた記号です。文字を介して伝えられる情報はそれこそ無限にあり、人生経験の浅い子どもがそれを使いこなせるようになるには、相応のステップが必要です。特に、文字を識別し、発音と照合するプロセスは長い時間と習練を必要としますが、そこでの学習で不可欠なのが音読です。もしも「わが子の読みの態勢づくりが不十分だった」と感じる保護者がおありでしたら、音読の励行から巻き返していただきたいと存じます。

 さて、今回は子どもの自尊心の状態と勉強の得意不得意との関係を話題に取り上げてみました。つまり、自分を好きであるという気持ちと、勉強を得意に思う気持ちとには何らかの関連性があるかどうかということです。その調査結果をご紹介し、子どもの健全な成長を促すために大人(親)が留意すべきことは何かを一緒に考えてみようと思います。

 以下は、上記テーマに基づく公的調査の結果を表にしたものです。なお、この資料は教育社会学者の舞田敏彦氏の著書から引用したものです。

※国立青少年教育振興機構「青少年の体験活動等に関する実態調査」(2014年度)より。

 上記資料をまとめられた舞田氏の著書によると、「自分がとても好き」と回答した子どもの割合は、小4で28.9%、小5で24.4%、小6で22.4%、中2で9.3%だったそうです。あきらかに、年齢が上がるにつれて「自分をとても好きである」と思う子どもの比率が下がっています。その理由ですが、氏は次のように述べておられます。

 小学校と中学校の落差が大きいようですが、高校受験を見据えたテストの連続で、周囲と比した自分の相対的位置を思い知らされることが多くなるためでしょう。よって自尊心の程度が、勉強のでき具合に規定される度合いが高まってくるとみられます。

 上表は、「勉強の得意度×自尊心の程度」を示すクロス表です。網掛けしている数字はA~Dの各項目の最頻値を表します。その分布をみると、勉強の得意度が高いほど自分を好きであると受け止める子どもの比率が高くなり、勉強の得意度が低いほど自分を好きでないという子どもの比率が高くなっていることがわかります。この傾向は、小学4年生でも、高校2年生でも基本的に変わりません。

 上記引用文にある「自尊心の度合いが、勉強のでき具合によって規定される度合いが高まってくる」という状況が、より視覚的にとらえられる資料を舞田氏が作成されていますので、ちょっと見てみましょう。

 この資料を見ると、小4では「自分がとても好き」「自分が少し好き」という自己肯定感の強い子どもの割合がかなり高かったのに、高2になると数的割合が随分減少していることがよくわかります。自分を肯定的にとらえる気持ちが、様々なテストなどでの順位付けの経験によって低下していくのでしょう。申し上げるまでもなく、この傾向が強まるのは決して望ましいことではありません。

 弊社のような進学塾においては、学力の相対的な位置づけを知るためのテスト制度が欠かせません(順位を始め、学力の指標となるデータを出します)。うまく生かせば、自分の勉強の成果や欠点がわかる有効なデータとなりますが、成績が伴わないことが続くと、「これは能力を示すのではなく、現在の勉強の結果が数字に表れたものですよ」とお伝えしても、親も子どもも能力判定のように受け止めてしまい、「力が足りない」と思い込んでしまいがちです。しかしながら、実際には勉強の方法に問題があったり、努力の向けかたがアンバランスだったりしたことが成績低迷の原因であることも少なからずあります。つまり、勉強の改善で対処できるのです。

 親が成績を見て子どもの自己肯定感を低下させるような言動をとると、それが覿面にお子さんに影響します。成績が思わしくなかったときには、どうしてそうなったのかを子どもに振り返らせたり、一緒に原因を話し合ったりし、「成績は、自分の勉強の状態が反映したものだ」と受け止めるよう導いていただきたいと存じます。無論、得意不得意もあるでしょう。お子さんが「今回は苦手なところが出た」と言ったなら、「じゃ、そこは少しずつ対策を考えて実行しよう」など、前向きな対応をお願いいたします。

 言うまでもありませんが、「自分は頭のよくない人間だ」「自分という人間が好きでない」と思うことが、人生でプラスに作用することなどほとんどありません。保護者におかれては、テストデータは能力判定をするものではなく、「学習成果のチェック」のためにあるのだということを肝に銘じ、「どれだけ努力したか」を軸にお子さんの勉強を見守りサポートしていただくようお願いするしだいです。成績を能力の問題と一元的にとらえると、成績がよくてもよくなくてもお子さんによい影響はもたらされません。

 また、得意な教科が一つでもあれば、それはお子さんのもっている可能性がいかに大きいかの証しです。保護者におかれてはそれを大いに評価し、励みにするようお子さんに声かけをしてあげていただきたいと存じます。実際、1教科でもよい成績をとれる力のあるお子さんは、取り組み次第で他の教科の成績も上がる可能性が高いのです。また、一つの教科に秀でたお子さんは、中学・高校への進学後もがんばり続ければ、その教科に関連する進路を選択することで高いレベルの大学への進学も可能です。

 お子さんには、自分のもっている可能性に挑戦するつもりで中学受験に備えた学習生活を送っていただきたいですね。勉強は、「やっただけのことがある」と、教えてくれるものです。前よりも、一歩ずつ進歩することを親は望んでいるのだということを絶えずお子さんに伝え、前向きに努力する姿勢を植えつけてあげてください。そうすれば、きっとお子さんは自分を肯定的にとらえ、何事もあきらめることなくがんばれる人間に成長されると思います。

 中学入試は、完成された人間のためのものではありません。完成度の違いで如何様にも結果が変わる、成長途上の子どもが受ける試験です。その試験の途中で能力を見限るようなことがあっては元も子もありません。保護者におかれては、将来的なわが子の成長の姿を見通しながら、今存在する課題や努力目標を少しずつクリアしていく姿勢を大切にしてください。お子さんの内面の健全性や成長にも決して目を離さないようお願い申し上げます。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 子どもの発達, 子育てについて

学力不振は“読み”の習練不足が原因? その2

2019 年 7 月 1 日 月曜日

 前期講座がもうしばらくで閉講となります。2月に開講して4カ月ほど経過したわけですが、学習をうまく軌道に乗せて堅調に成績を伸ばしておられるお子さんが多数おられるいっぽう、なかには残念な状況に陥ってしまい、勉強しているのに成績不振から抜けだすことができないままのお子さんもおられるようです。前回から今回にかけては、その原因と対策についてお伝えしようと思います。

 一応の勉強はしているのに成績が伴わない。その理由は、「読みの態勢づくり」に問題があったことではないかということを、前回お伝えしました。もし思い当たる節がおありでしたら、今回の記事を参考にしていただければ幸いです。

 無論、成績不振の原因は子どもによって様々でしょう。不規則でムラのある勉強をしていたり、一見努力しているように見えても無駄の多い勉強をしていたり、集中力を欠くぼんやりとした勉強に陥っていたり、やりかたがでたらめだったりなど、ちょっとした原因が招いた成績不振かもしれません。女の子の場合、親の声かけにも従順で、テキストの家庭勉強も計画通りやるものの、勉強に向かう強い意志に欠けるために中途半端な成果しかあげられない状態に陥ってしまうケースも結構ありました。ですが、こういうお子さんの場合、平均点前後の成績は取れているものです。

 ですから、毎日のように計画に沿って勉強しているのに成績が振るわないとしたら、他のもっとはっきりとした原因があるはずです。それが「低~中学年期までの不十分な読みの態勢づくり」にあるのではないかと、筆者は思っています。すでに何回も書いてきたことですが、読むという行為こそ、全ての勉強の基本的手段だからです。読みのスピードや精度は一人ひとりずいぶん違っています。そのことをご存知でしょうか? この能力の個人差が学習成果の違いを生み出すのです。

 念のために前回お伝えしたことを繰り返しますが、多くのお子さんは2年生前半までに黙読ができるようになり、読書への欲求が高まって活字に接する機会が一気に増えていきます。それから1年程で黙読の安定期に至り、「読みの速さ」「読みの精度」などが個々の能力として定まります。一定時間枠での読み取り能力を問う国語のテストにおいては、読みに長けたお子さんが圧倒的に有利なのは論を待ちません。逆に読みの稚拙なお子さんは、読む作業が遅いだけでなく、理解も不十分です。こうして、読むほどに語彙を増やし、思考力を高めていくお子さんと、いつまでも読むのに難渋するお子さんとの読解力の差はどんどん広がっていきます。

 黙読力の上達の遅れを取り返す方法は、おそらく音読のやり直ししかないと思います。そのわけも前回お伝えしたとおりです。大人なら、難解な本でない限り字面を目で追えばわけもなく著述内容を理解できます。ですから、「何で音読が必要なの?」と思われるのも無理はありません。しかしながら、誰でもはじめは文字の字形と発音を照合するステップを踏んだからこそ、黙読へと到達できたのです。

 これは筆者の勝手な表現ですが、黙読は音読の進化したものです。黙読は文字の読みを声に出すのではなく、視覚で捉えた文字情報を言語理解中枢に送り、そこで読みの声をイメージして意味を解読する方法です。声に出さずに読めるにようになると、読みの負担は大幅に軽減され、短時間に多くの情報を手に入れられるようになります。人間の言語理解のための中枢はウェルニッケ野ですが、これはもともと音声の言葉を理解するために発達しました。それなのに、視覚で文字列をとらえただけで意味に変換できるのは、脳内で読みの音声をイメージしているからです。したがって、黙読のスピードや精度を高めるには、速く正確に音読できるようになるためのトレーニングが必須です。本人は覚えていなくても、幼少期には家庭で、小学生になってからは学校で、相当な時間や労力を投入して読みの修練を積んでいたはずです。その内容の個人差が、読みの習熟度に影響しているのです。

 筆者は15~16年ほど国語指導の現場にいましたが、おもに6年生の男子のクラスを担当しました。男の子の国語指導をすれば、誰でもすぐに頭を抱える問題に直面することになります。それは、個々の読みの能力差が大きく、うまく読めないお子さんは読解力が足りず、語彙も貧しいために思考も幼稚で、成績的にも底辺をウロウロすることになりがちです。このようなお子さんに音読をさせてみると、ほぼ例外なく同じ現象が発生します。すぐに躓き、読みが前へなかなか進まないのです。いっぽう、常に国語で安定した高成績をあげているお子さんの音読は実に滑らかで、1ページくらいわけもなく一気に音読することができます。したがって、筆者はたとえ入試が近づいている6年生であっても、授業では素材文のリレー音読や役割音読を欠かしませんでした。そして、上手に音読できるようになることを奨励したものです。

 以上のことについて、お子さんにあてはまるようでしたら、今から夏休みにかけて、お子さんに音読練習をするようもちかけ、毎日サポートしてあげていただきたいですね。たとえば、次のような手順でやってみたらどうでしょう。

.音読練習の実施を提案する
 
なぜ音読なのかを、今回の記事を参考にしてお子さんに伝える。上手に読めると、勉強が楽しくなることを熱心に説明する。

2.実施期間や、時間を相談して決める
 いつから始めるかをまずは決める。期間は最低3ヶ月くらい(乗り気でないようなら夏休み限定でも可)。できるなら、期間中は毎日やりましょう。時間は、15~30分程度。

3.音読素材
 特によい本が思い当たらなければ、弊社の国語テキストの素材文でよいでしょう。読みに抵抗のある子は、楽しいストーリーの本を親子で話し合って選んでも構いません。

4.一度に音読する量(ページ)
 
お子さんの技量に合わせて無理のない分量にしましょう。1ページくらいから出発し、上達に合わせて2~3ページに増やしても結構です。

5.音読の方法
 まずはお子さんに一定の範囲を音読させてみましょう。音読のよいところは、間違ったら本人が気づくことです。おかあさんは間違いの数をカウントし、何回か繰り返す中で、躓きが減ったら大いにほめてあげてください。おかあさんと交替で読むのも楽しいかもしれません。

6.フィードバック
 
音読は自分でも上達ぶりがわかりますが、おかあさんが毎回練習の終わりに感想を伝えてあげれば、次への励みになります。能動的なフィードバックで励ましを! 

 以上はアバウトで申し訳ないのですが、各ご家庭で工夫を加えてやりかたを決めていただくようお願いいたします。なお、音読の練習期間ですが、できるなら3か月以上を見込んでいただきたいですね。以前もお伝えした記憶がありますが、ある種の技能獲得にあたっては、取り組みの効果が見て取れるようになるのにだいたい3ヶ月ほどかかると言われています。

 文字列を視覚で捉える。視覚からの情報を脳内で転送して発話中枢(ブローカ野)に届ける。ブローカ野から発せられた情報を筋肉運動に変えて音声で発する。それを聴覚で捉え、今度は言語理解中枢(ウェルニッケ野)に転送する。これによって意味を解読する。ーーこのような音読の作業を繰り返しているうちに、音読という作業に脳の神経ネットワークが順応し、素早く正確にできるようになっていきます。こうした変化がはっきりとわかるようになるまでの期間はだいたい3ヶ月くらいだと言われています。そして、同時に音読力の向上とともに確かな黙読力も準備されていくわけです。

 読みが達者になるということは、文字を介した情報入手に長けた人間に成長するということです。小学生までに確かな読みの態勢を築けば、それは一生モノの財産になるでしょう。中学受験対策の学習をより快適にできるようになること以上に、読みの態勢づくりには大きな意義があるのだということをご理解いただき、お子さんの音読練習に付き合ってあげていただきたいですね。こうした協力ができるのは、お子さんが小学生のときまでと言えるでしょう。どうぞよろしくお願いいたします。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 勉強の仕方, 家庭での教育, 音読・読み聞かせ