東京の国・私立一貫校受験、かつてと今

2019 年 7 月 15 日

 先日ある本を読んでいると、1980年ごろの東京の国・私立中学校進学状況と、最近のそれとの違いがデータで紹介されていました。この本の著者は教育社会学者の舞田敏彦氏です。教育社会学者が教育を切り口としたデータを紹介されるときには、社会構造や経済状況、家庭環境、人口動態、交通網の整備状況などと絡めて原因を分析されることが多く、そういった意味においても興味を惹かれました。

 広島の中学受験は、10数年~20数年前ぐらいがピークだったと記憶しています。以後、少子化の進行や地方経済の長期停滞などもあり、近年は少しずつ減少の傾向にあります。いっぽう、このところ広島では公立一貫校が次々に開校されていますが、いずれも相当な受験者数を集めています。私立学校に子どもを通わせるには、かなりの経済的負担が余儀なくされますから、それが公立一貫校の吸引力を後押ししているのかもしれません。では、日本最大の人口集中地区である東京の中学受験状況はどうなのでしょう。

 以下の表は、公立小学校から国・私立中学校への進学状況の変遷を調査したものです。都内の国・私立中学進学率の高い上位10位以内の地区と、下位10位以内の地区の推移を表しています。

 
※都教委「公立学校統計調査(進路編)」より作成。数字(%)は都内地域別の上位10位・下位10位の平均値。

 著者の舞田氏は、都教委の資料をもとに、上表の各年度の公立小学校卒業生の国・私立中学校進学率を、都内の市区町村ごとに明らかにし、上位10位と下位10位の平均値をパーセントで示しておられます。なお、2016年の上位10位は、文京区(44.9%)、港区(38.4%)、千代田区(37.8%)、中央区(36.8%)、目黒区(36.8%)、世田谷区(33.5%)、渋谷区(33.4%)、新宿区(31.2%)、杉並区(30.8%)、豊島区(29.3%)でした。この上位10地区の平均は35.3%となっています。

 多数の地区で小学生の3割~4割以上が国立や私立の中学校に進学するというのは、広島では考えられないことで、ただただ驚くばかりです。かつて中学受験が熱気を帯びていた頃、広島市の小学6年生の数と中学受験生の数を比較計算したとき、受験率で15%前後だったことを記憶していますが、受験率どころか進学率でこれほどの数値を記録しているとは……。地方都市で最も中学受験の盛んな広島ですが、東京と比べるとスケールが全然違うのですね。

 この資料を見ると、上位の10地区については常に上昇傾向が続き、1980年と直近の調査年の2016年とでは19ポイント余り伸びています。いっぽうの下位10地区はあまり変わっていません。国・私立中学校への受験熱が高く、多くの子どもが進学しているのは、東京都の中心部や文教地区とされる地区、交通アクセスのよい地区のようです。これらは、いわゆる富裕層の多い地区と言えるでしょう。

 いっぽう、下位の10地区は主として西側の地区にありました。都の西側は人口の密集度、国・私立学校の数、交通の利便性、教育熱心な家庭の数など、中学受験を成立させるための要件において、上位の地区とよりもずいぶん不利な状況にあります。もちろん、これらのファクターは相互に連動していますから、まだ遠距離通学の困難な年齢期の受験と進学だけに、「受験する」「受験しない」の地域差がより一層強く出るのでしょう。

 以下は、東京都における国・私立中学校進学率をマップで表したものです。前述の舞田氏が作成されたものです。これを見ると、受験地図がどのようになっているのかが一目でわかりますね。なお、1980年の段階では中学受験の盛んな地区はごく一簿でした不が、2016年には都心部からかなり広範囲な地区に拡散しています。人口の集中が一層進んだこと、それに伴う郊外の都市化現象、交通網の整備、魅力ある教育を実践する一貫校の増加など、理由はいろいろに考えられます。それでも、国立・私立中学校への進学率が上がらない特も一定数あります。これは、地理的条件や家庭の数、交通アクセスなど、国立や私立の一貫校が設立されるための最も基本的な要件が以前とあまり変わらないからでしょう。

※都教委「公立学校統計調査(進路編)」より作成。

 ところで、今回引用した資料には近年増加しつつある公立一貫校の情報がありません。東京や首都圏の公立一貫校受験はどんな具合なのでしょう。以前、出版社系のサイトで調べたことがありますので、その一部をご紹介してみます。

  2年前の資料ですが、首都圏には公立一貫校が21校(東京11校、神奈川5校、千葉3校、埼玉2校)あるようです。倍率が一番高かったのは、千葉県立東葛飾で、12.0倍でした。難関として知られるのは、小石川中等教育(倍率6.4)、千葉県立千葉(倍率9.6)などで、押しなべて合格を巡る競争は激しいようです。公立の一貫校の募集定員は、80~160名と、私学と比較すると少ない人数ですが、都立桜修館中等教育、三鷹中等教育、都立小石川中等教育、県立相模原中等教育、横浜市立南、都立両国高校附属などは、千名を越える応募者を集めている模様です。これら公立一貫校への進学者数を合わせると、さらに中・高一貫校への進学率は高くなるでしょう。

 前述のように、広島でも公立一貫校が徐々に増えており、今年の段階で県立広島、広島中等教育、叡智学園、県立三次の4校があります(中等教育学校、併設型、全寮制など、それぞれに運営の形態が異なります)。なぜ公立一貫校が注目されつつあるのでしょうか。前出の出版社系サイトでは、公立一貫校のメリットとして次のようなことがあげられていました。

 学費が安いということは、問答無用の強力な吸引力をもちます。欧米やアジア、日本の情勢を見れば一目瞭然ですが、親自身が先行き不透明な社会に不安を抱いており、教育投資にお金を惜しまぬ時代ではなくなりました。年金すら当てにできない状態では、「お金がかからず、成果を期待できる教育の場」として公立一貫校は魅力に映ることでしょう。少なくとも、中学や高校で教育費が押さえられれば、大学への進学の段階で必要になる資金をプールできると考える保護者もいるでしょう。

 言うまでもなく、教育の受け皿に多様性があるのはよいことです。東京とはスケールで及びませんが、広島には伝統と実績をもつ私立学校が多数ありますし、最近では共学化・新規参入などの動きもあり、私立学校の選択肢はこれまで以上に増えています。さらに、師範学校以来の伝統を有する広島大学の附属中学・高等学校も指折りの人気校の一つとして君臨しています。それに加えて上述の公立一貫校が存在します。

 このように、広島は中等教育の選択肢が多様であるという点においてとても恵まれた地域です。それぞれの特性をよく調べ、お子さんに合った学校選択をしていただきたいですね。日本は世界的にみて家庭の教育費の負担がとても大きい国です。ですが、子どもの教育ほど重要なものはありません。明日の地域社会、日本は次世代によって築かれていくのですから。今、中学受験を視野に入れておられるご家庭におかれては、学費面の問題は頭を悩ませる要素ではありますが、それだけでなく、「わが子が6年間を過ごす教育環境として、どの学校がふさわしいか」という視点から、悔いの残らぬ選択をしていただきたいですね。

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カテゴリー: 中学受験, 私学について

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