2019 年 9 月 のアーカイブ

大人の期待が子どもの学習に及ぼす影響

2019 年 9 月 30 日 月曜日

 今回は、大人(親や教師)のいだく期待が子どもの学力にどう影響するのかを話題に取り上げてみました。子どもに対する期待のもちようや接しかたの重要性について、再確認するきっかけにしていただけたなら幸いです。

 1960年代の半ばころ、教育心理学者のローゼンタールとジェイコブソンは、サンフランシスコの小学校の教師と児童を対象にした実験をしました。

 その実験とは次のようなものです。学年ごとに多くのクラスで知能検査を実施し、そのあと検査結果を踏まえたデータであるかのように振る舞って、「このリストは知能がさらに伸びる可能性の高い子どもたちをピックアップしたものだ」と、全体の2割ほどの子どもの名簿を教師に渡しました。しかしながら、実際はただランダムに抽出しただけの、データ的に根拠のない名簿でした。また、子どもにはテストの結果を教えませんでした。

 さて、「優秀な子どもたちだ」と教師が思い込んだことが、以後の教育効果に何らかの影響を及ぼしたでしょうか。約半年後、もう一度知能検査が行われたのですが、その結果はどうだったでしょうか(以下の資料は筑波大学の桜井茂男先生の著作から引用しています)。

 まず、IQの変化ですが、「伸びる可能性が高い」と言われた子どもたちのIQが1・2年生においては著しく伸びています。ただし、3年生以上の学年についてはあまり変化が見られませんでした。もう一つの資料は、教師による知的好奇心の評定です。こちらは、1・2・6年生で大きな変化が見られました。6年生の評定がなぜ高くなるのかについては不明です。最終学年であり、6年間の小学校生活による成果を前向きにとらえたいという無意識の願望が教師の側にあるからでしょうか(これは筆者の独断的解釈です)。なお、実験の「統制群」というのは、何の働きかけもしなかった子どもたちを示します。

 どなたもお気づきかと思いますが、テスト成績は教師の感情や思い込みが入る余地がありませんから、データとしての信ぴょう性は極めて高いと言えます。いっぽうの、教師による知的好奇心の評定に関しては、客観性が高いとは言えないので参考までに留めておくべきでしょう。

 では、なぜ1・2年生に限ってIQは大きく伸びたのでしょうか。前述の桜井先生は、「小学校低学年の子どもたちは教師の期待の影響を強く受けている。高学年になると、教師の期待よりも本人が『自分に期待すること』が知的能力の開発には大きな寄与をするらしい。『わたしはできるんだ!』と自分に期待すること(自己期待)が知的成長につながるのである。自信をもって勉強すれば、それなりの成果を期待できるということである」と述べておられます。

 実験者は、教師が期待することで子どもが伸びる現象を「教師期待効果」あるいは「ピグマリオン効果」と名づけました(ピグマリオン効果という言葉の由来については、以前かなり詳しく書いていますので、その記事をお読みください)。

 ところで、教師が心の中で期待をするだけで子どもの能力が高まるという結果について、みなさんはどう思われるでしょうか。釈然としないかたも少なくないことでしょう。この点について、より詳しい調査(教師の期待が、具体的にはどのような形で子どもに作用していったのか)をした学者がいます。この調査によって明らかにされたのは次のようなことがらです。なお、紙面の都合で一部をご紹介させていただいています。

 これを見ると、期待される生徒は教師からよくほめられ、答えを間違ってもあまり叱られず、考えの糸口となるヒントを多く与えられ、書いた答えに対して多くの反応をもらい、「がんばりなさい」と励まされ、温かい目で見守られ、自分の考えを言うまで辛抱強く待ってもらい、教師のすぐ近くで説明を聞きくことができ、表現が明確でない答案を好意的に受け取ってもらっているということがわかります。

 「何だこれは!期待値が高い( できがよい)子どもを、教師は依怙贔屓(えこひいき)しているんだ!」と思われたでしょうか。しかしながら、当の教師は自分の対応は公正であると思っており、特別できる子とできない子を差別しているという意識はないのだと思います。、そのいっぽうで、無意識のレベルで「この子どもたちは伸びる可能性が高い」という前情報に影響された対応をしているのです(先入観というのはこわいですね)。その結果、「伸びる可能性が高い」とされた子どもたちが期待通りに伸びているのですね。

 この実験結果は、子どもたちの学習指導に当たる私たち学習塾関係者にとっても大いに参考になるでしょう。「この子はきっと伸びる」という思いを一人ひとりに対して差し向け、努力する姿勢を失わせないように心がけることが、子どもたちの取り組みに積極性をもたらすことになります。現実を無視した高い期待を差し出すのも考えものですが、子どもたち個々の状況をしっかりと見て、「ここまではきっとやれるはず」という冷静な見極めに基づいた対応をしなくてはならないと思います。

 また、保護者の立場からも同様のことが言えるでしょう。過重な期待を突きつけても子どもはよくなりません。それどころか、親自身が期待と現実とのギャップに苛立ち、子どものがんばりを引き出すために必須の、「辛抱強い見守り」「ポジティブな声かけや関わり」「親密なコミュニケーション」を喪失してしまいかねません。「急いては事を仕損じる」のことわざではありませんが、他の誰よりも大切なわが子だからこそ、現実を冷静に見極め、焦らずに少しずつの進歩を引き出すような働きかけをすべきでしょう。お子さんが、親の期待に対して重圧感を感じることなく、伸び伸びと頑張れなければ、親が指し示す期待は、子どもにすれば圧力にしかならないでしょう。

 子どもは親の思い通りにはなかなかがんばってくれないものです。しかし、焦ると「うちの子は駄目なんだ」という短絡的結論に至るだけです。子どものやる気や行動に影響を及ぼすのは、表面に出る言葉だけではありません。親自身が「うちの子は必ずやれる子だ」という信念をもち、言葉だけでなく、子どもに向ける表情やしぐさもふくめ、丸ごと子どもを信じて応援する姿勢を片時も忘れないようにすることが大切ではないでしょうか。

※今回の記事は、「学習意欲の心理学」(桜井茂男/著、誠信書房)、「しらずしらず」(レナード・ムロディナウ/著、ダイヤモンド社)を参考(一部引用)にして書きました。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 子どもの発達

勉強がはかどるための基本的条件 ~低・中学年児童~

2019 年 9 月 24 日 火曜日

 勉強の時間になっているというのに、なかなか机に向かおうとしない。やっと始めたと思ったら、すぐに勉強とは無関係な物をいじり始める。――こんなお子さんはいませんか? この種のお子さんで勉強のできる子はまずいません。一刻も早く状況を改めさせたいものですね。

 なかなか机に着かない、机に着いてもすぐに気を逸らしてしまう、そんなお子さんの机の上を見ると、大概はひどく散らかっています。何がどこにあるかがわからないと、必要なものを探すのに手間どり、いつまで経っても勉強が始められません。また、机の上が乱雑だと気が散って勉強に集中できず、ついつい机の上にあるほかのものに気を奪われてしまいます。以上からわかるように、勉強がはかどるための基本的条件の一つは、「整理整頓ができる」ということです。

 また、今取り組んでいることをやり遂げることにこだわりすぎ、気がつくと予定の時間がどんどんオーバーしてしまうタイプのお子さんもいます。そのあまり、算数と国語、理科の復習をするはずが算数しかできないまま一日を終えてしまう。 完璧主義が災いする、バランスをとった勉強ができない、段取りが悪いなど、理由はいろいろでしょうが、これでは勉強ははかどりません。

 筆者がかつて担当していてクラスのお子さんがまさにそれで、テスト対策のためのまとめの勉強をする際も、苦手教科の勉強に悪戦苦闘して時間を費やしてしまうだけでなく、挙句に他教科の勉強にしわ寄せが生じてしまい、その度にテストで失敗を繰り返すお子さんがいました。真面目なお子さんなのに…。このことからわかるのは、勉強がはかどるための基本的な条件の一つは、「時間管理(タイムマネジメント)ができる」ことです。

 小学生時代に身についた習慣は、善きに悪しきに一生ものとして、その人の人生の歩みを規定します。勉強のブレーキになるような悪しき習慣は、少しでも早く取り除いておきたいものです。小学生の今ならまだ間に合います。親のサポートで修正をはかりましょう。

 ではまず「整理整頓」のできる子にするための方策から考えてみましょう。「机の上を片付けなさい!」「部屋の掃除をしなさい!」と言っただけではおそらく何も変わりません。もう少し具体的に子どもに伝え、整理整頓のしかたを学ばせる必要があります。整理整頓とは、次のようなことだということを教えてやりましょう。

 とは言え、整理整頓の必要性について納得できなければ、子どもはそれをしようとは思いません。ある教育書に、次のような説明が必要だと書いてありました。

 「ね、整理整頓していれば、こんなに便利だよ」ということを、おかあさんには思いつく範囲で、お子さんに言ってあげてほしいですね。

 同じように、時間管理についても、「時間管理ってどういうことか」をまずはお子さんに説明し、それを上手にするとどんなメリットがあるかを納得させてやりましょう。子どもの勉強(ここでは塾の勉強を例にしています)についての時間管理とは、

 時間管理の必要性については、これまで時間をうまく使って勉強できなかったために、何が問題となったかを踏まえて説明するとよいでしょう。たとえば、こんなのはどうでしょうか。

 どうでしょう。「整理整頓ができる」ことと、「時間管理ができる」こと、この二つがうまくいくことで、子どもの勉強の様相は随分変わってきます。身になる勉強ができるようになるうえ、毎日の生活態度に積極性や実行力がみられるようになります。これこそ、親が望んでいたことではないでしょうか。

 児童期の前半から中盤までの時期は、大人(親)の働きかけかた次第で、子どもはどのようにも変われます。まだ、固まらない年齢期ゆえのことです。しかしながら、この段階に見られる行動面の欠点をそのまま見過ごすと、親の心配は減るどころか、悪循環の連鎖にストップがかからなくなってしまいがちです。現状の問題点についてお子さんと振り返り、どこをどう改めていくべきかをまずは確認してみてください。 

 無論、もっと上の学年のお子さんについても、基本的には同じです。問題となる悪しき習慣を改めると、同じエネルギーを投入しても成果が違ってきます。年齢が上がるにつれて改善は難しくなりますが、小学生のうちならいくらでも変われます。親は、「いつの段階においても遅すぎるということはない」と子どもを説得し、状況を改善していきましょう。今のうちに手を打っておけば、問題点を放置したままでいるよりもはるかに未来は明るくなるに相違ありません。

 勉強がはかどるようになるための要件は、人生を前向きで充実したものにするうえでも役立ちます。さあ、今のうちにこそよい習慣を身につけておきましょう!

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 勉強の仕方

中学入試に向けた仕上げ期へ突入!

2019 年 9 月 17 日 火曜日

 秋の訪れは、受験生にとって「いよいよ受験対策の仕上げ期が来たぞ!」という合図でもあります。9月8日(日)には、弊社主催の公開模擬試験(第2回広島県中学入試模擬試験)が実施されました。参加されたお子さんの手応えはいかがだったでしょうか?

 第1回目の模試は7月でしたが、夏休み前ということもあり、まだ入試が近いという実感がないまま参加したお子さんが多かったと思います。また、公開模試とは言え弊社の会員受験生以外の参加も多くはありませんでした。入試対策の勉強の進度は学習塾によってかなり違います。入試の全範囲を学び終えていない受験生も少なくない段階での模擬試験は、学力の判定だけでなく、「受験に向けた意識を高める」という意図も多分に含んだものでした。

 しかしながら、今や中学入試はあと数ケ月後(なかには、11月に一次入学者選抜をする公立一貫校もあります)に迫ってきています。ここからの仕上げ具合の如何で入試の結果も決まってきます。

 そこで弊社の6年部では、毎年9月の上~中旬に「保護者説明会(第3回)」を実施し、これから入試までの受験対策の重要事項についてお伝えしています。すでに東広島校(19日予定)以外の校舎では開催済み(土曜コースも開催済み)ですが、みなさん参加くださったでしょうか?

 受験するのはお子さん自身です。しかしながら、まだやるべき勉強を上手に見通しながら調整していけるお子さんは多くありません。そこで弊社では、受験準備の大詰めに向かうプロセスで必要なことは何かを保護者の方々にお伝えし、お子さんの学力の仕上げプロセスを上手にサポートしていただくようお願いしています。保護者説明会の骨子は次のようなものですが、もしもご都合等で欠席された保護者がおられましたら、これをご確認の上、当日配布した資料で詳しくご確認いただければ幸いです。

 

 後期講座の始まる9月から入試本番までの指導の日程をカレンダーで確認していただきます。入試までの道のりがおおよそ概観いただけるでしょう。そのうえで仕上げ指導に向けた講座や催しについてご説明します。6年部の後期は、学力を万全に仕上げるための綿密なカリキュラムを組んでいます。その意図を保護者におかれてもよくご理解いただき、ご家庭でのアドバイスやフォローをお願いいたします。

・後期講座Ⅰ(9~12月)…広島の中学入試に対応した応用力養成のための指導(算・国・理・社)を行い、冬期講習までに一応の完成をめざします。
・重点強化特訓(9月末~12月下旬)…申込者対象。入試頻出単元をピックアップし、1日2教科を演習形式で指導します(計10回)。
・広島県中学入試模擬試験(第2回~第5回)…9月から毎月1回実施。成績資料をもとに、学力の補強や調整をして入試に備えます。合格可能性のデータを参考に受験校を決定します。
 ・冬期実戦講習(12月24日~1月6日)…広島県の主要校の入試問題に対応した教材で、入試に向けた総仕上げを行います。
・後期講座Ⅱ(1月8日~18日)…最後の調整のための講座です。入試本番で一人ひとりが最善の答案を作成できるよう、最終チェックをします。

 模試については、おもに模試の見かたや活かしかたをご説明しました。資料の「合格可能性の予測」は、過去の模試参加者の成績と受験結果に関する膨大な蓄積データに基づいて割り出したものです。したがって、合格可能性が低いとされたお子さんのなかにも必ず合格者はいます。データに負けてはいけません。また、成績がよくなかった回の答案やデータにこそ、合格を得るための貴重なヒントがあります。どこが弱いのか、なぜ間違ったのか、どこをどうやり直すかを徹底的に洗い出しましょう。子どもは悪い成績の見直しを嫌がります。成績が思わしくなかった場合、親は冷静になり、「合格のヒントがここにある!」ということを合言葉に巻き直しを図りましょう。そのためにも、保護者には、本説明欄をよくお読みいただき、模試を最大限に活用するためのサポートをお願いいたします。

 まずは受験対策の仕上げで使用する教材をご説明しています。テキストや副教材がどういうものか、テストはどういったものかを、保護者も一応は把握しておいてください。

 そのうえで、入試4教科それぞれのテキストの構成・しくみをご確認ください。テキストの学習法や、広島の中学入試の特徴を押さえた勉強法についてもご説明しています。さらに、基礎をやり直したい受験生が使用すべき教材は何かについても、教科ごとに記していますので参考にしてください。

 ある意味において、この項目でお伝えすることが保護者にとっていちばん重要と言えるかもしれません。というのも、受験生であるわが子の人生経験は、親の三分の一~四分の一に過ぎません。受験が近づくにつれて、親から見て当たり前の勉強をすることすらままならない状態に陥ったり、初めて味わう受験の重圧にイライラを爆発させたりすることもあります。親は親で、そういったわが子に対する適切な対応がわからず、戸惑ったり、感情的になったり、叱りつけたりしがちです。

 本項目においては、上記のような状況を踏まえ、親として適切な対応や心のもちようについてご説明しています。特にお子さんの受験を初めて経験される保護者のかたにとっては、大いに参考にしていただけるのではないかと思います。

 弊社会員の主要な受験対象校について、入試状況に関する基本的なデータ(志願者数・受験者数・合格者数など)や、入試の枠組み(試験教科・時間・配点・合格点に関するデータなど)をお伝えしています。また、各中学校の入試の現状を踏まえ、合格を得るうえでどのような勉強・対策を求められるかについてご説明しています。具体的に入試対応ポイントについても書いていますので、参考にしていただけるでしょう。

 

<保護者へのお願い>

 最後になりますが、保護者にお願いしておきたいことがあります。受験は合格できなければすべてが無に帰するわけではありません。特に中学受験は人間形成途上の12歳の子どもの受験です。受験の体験がどういう思い出として残るかは、今後の人生の歩みに少なからぬ影響を及ぼすものです。どのような受験結果になろうとも、「受験してよかった」「受験が自分を成長させてくれた」と振り返られるようなものになるよう、配慮とサポートを忘れないでください。

 そのことと、親の対応も無関係ではありません。前述のように親はわが子の受験になると感情が高ぶってしまいがちです。「どうしてもっとがんばれないのか」と、癇癪を起してしまうこともあります。しかし、そういうときこそ親には冷静な対応が望まれます。もしもそのときの感情をそのまま口に出したとしたら、子どもがそれをどう受け止めるかを考えてください。「この言葉が、果たしてわが子の奮起につながるだろうか。それとも……」――こうしたことを思いめぐらしたなら、きっとどなたも我に返り、落ち着いた対応ができるのではないでしょうか。

 中学受験はわが子の成長の場になってこそ意味があります。当たり前のことですが、志望校に受かったから将来が保障されるのではありません。中学受験でどのような学びかたや考えかたを身につけたかが将来の歩みを決めるのです。受験が近づくと、この大原則がつい忘れ去られてしまいがちです。

 中学受験はわが子にとって人生で初めて体験する大きな試練です。まだ親がかりの年齢の受験ですから、この試練に立ち向かうときに親がどのように導いてくれたか、応援してくれたかが重要なのです。「おかあさんは、どんなときも優しい笑顔で支えてくれた」「おとうさんは、『問題点はどこにあるかな』と、いつも一緒に考えてくれた」――こんな思い出の残る受験になったなら、お子さんは受験の結果に関わらず、常に親を信頼し、前を向いて努力を続けるのではないでしょうか。

 お子さんの受験が、おとうさんおかあさんにとってもすばらしい思い出として残るものになりますように。

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カテゴリー: お知らせ, アドバイス, 中学受験

失敗は学びのチャンス。失敗を糧にできる子どもに。

2019 年 9 月 9 日 月曜日

 あるとき図書館で教育関連の書物を手にし、読むべき本かどうかを検討するために章ごとのタイトルを何とはなしに眺めていたら、次のような著述が目に留まりました(筆者はそうやって、ときどきブログのネタを探します)。

 「失敗とは転ぶことではなく、そのまま起き上がらないことです」

 ほかにも目を引く言葉がいろいろあったのに、なぜこの言葉に注目したのかというと、これこそ小学生の受験勉強のありかたを語る貴重な示唆に他ならないと思ったからです(ただし、本文の内容は筆者の予想とは少し違ったものでしたので、ここでは割愛します)。

 人間のやることに失敗はつきものです。失敗の繰り返しが人間を育てます。あらゆるジャンルにおいて、「成功者に、失敗経験のない人間など一人もいない」と言っても過言ではないでしょう。よくスポーツの世界で大成した人の言葉や経歴を紹介した記事が、ウェブ画面や雑誌誌面に掲載されていますが、そのほとんどにおいて失敗の繰り返しを糧に研究を重ね、より高いレベルへと到達するための方法を編み出し、たゆまぬ努力で自らを高みへと導いていったエピソードが語られています。また、優れた科学研究の業績を残した人について語られた本を読むと、おびただしいほどの失敗のプロセスがあったことが紹介されています。「失敗は成功の母」という諺(ことわざ)がありますが、まさに人間が何らかの分野で成功するうえでの核心を突いた言葉だと思います。

 ところで、本ブログをお読みくださっている保護者の方々にとって、現在の最大の関心事は「わが子の中学受験」であろうと思います。みなさんのお子さんの受験勉強の様子はどんな具合でしょうか。小学生の子どもはものの考えかたが楽観的で、今の勉強で十分かどうかの判断も甘いものです。弊社が1週おきに実施しているマナビーテストへの備えにしても、「何をどれだけやっておけば、テストで好成績を得られるか」を見通すこともせず、漫然とした取り組みのままテストに臨み、その度に残念な結果に至っているお子さんもおられるのではないかと思います。これは、先ほどご紹介した言葉に照らすと、「転んだのに、そのまま起き上がろうとしない」のと同じで、単なる失敗を繰り返しているに過ぎません。失敗と向き合い、何をどう変えればうまくいくかを考えることこそ、成功への転換を図るための第一歩になるのではないでしょうか。

 おたくではどうでしょう。テストで失敗したということは、点を失った箇所が多数あるということです。その点を失った箇所を一つひとつチェックすれば、その原因・理由が当然見えてくるはずです。

 上図のように、テストで50点だった場合を考えてみましょう。ものは考えようで、半分はちゃんととれていたということに他なりません。どうしてその50点がとれたのかを点検することも意味があります。それが、できなかったところをできるようになるために生かせるからです。そして、失った50点の検証です。上図以外にも、点を取れなかった理由はいろいろあるでしょう。それらをつまびらかにし、必要な対策を講じれば必ず失点はかなり減ることでしょう。

 前回、卒業生のコメントをご紹介しましたが、それらの言葉のなかにも失点を減らしたり、実力を養ったりするうえで有効なものが多数あるように思います。たとえば、「覚えたいことを紙に書き、ドアや壁に貼って眺める」「うっかりミスをなくすため、ゆっくり書く、見直す、を実行する」「夜やったことを、翌朝チェックする」――これらは、忘却対策やうっかりミス対策に有効ですね。「復習しやすいようノートを工夫する」「教科ごとの勉強法を箇条書きにする」「苦手教科こそ、伸びる余地が多いと考えて取り組む」「こつこつ投げ出さずに続ける」――これらは、地道に学力を伸ばすうえで随分効力を発揮する勉強法です。

 保護者におかれては、ただ「こうしなさい」と指示や命令をするのではなく、お子さんと現状を一緒に振り返り、いかにしたら問題点を改善できるかについて子どもに考えさせ、そのうえで必要なアドバイスをしていただければ幸いです。

 無論、お子さんなりに努力し取り組んでも歯が立たない問題があるものです。それについては、現段階では無理に克服しようと時間や労力を投じる必要はありません。重要なのは、今努力すれば改善できることをしたり、ミスなどの不用意な失点を減らしたりすることです。それが成績を安定させることにつながり、それによって自信や意欲を取り戻すことが先決です。この流れができれば、少々難しいことに対してもチャレンジし食い下がっていく意欲や能動性も生まれてくるでしょう。

 あるとき、男子の地元私立最難関校の先生が保護者や子どもたちにこんなことを語っておられました。

 勉強は楽ではありません。大変なものです。そのことについてうちの生徒がこんなことを言っていました。「大変という字は“大きく変わる”って書きますよね。つまり、大変なときというのは、自分が“大きく変われるチャンス”ってことじゃないですか」――勉強は大変かもしれませんが、ポジティブに考えて取り組めば、大変=辛いには必ずしもならないものです。

 テストで失敗をし、残念な点を取るのは誰しも辛いものです。しかし、その残念な点を取る経験こそが、自分を成長させるために欠かせないものなのです。そこから今ある問題点を見出し、同じ失敗をしないよう努力すれば、間違いなく一歩前進することができるでしょう。失敗しても失敗しても不屈の精神で立ちあがる。その姿勢が人間を変えるんですね。大切なのは受験生活を通してわが子が成長すること。保護者の方々におかれては、わが子が失敗を恐れず、失敗に学ぶ姿勢をもった人間になるよう導いてあげてください。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 子育てについて

プラスのイメージが残る受験生活を!

2019 年 9 月 2 日 月曜日

 今回は、前回の続きをお伝えしようと思います。今回は過去の受験生が書き記している言葉をもとに、前向きな学習姿勢を築いて受験を迎えることの重要性についてともに考えてみたいと思います。というのも、受験生活の在りかたは、受験の結果もさることながら、先々の人生の歩みにも影響を及ぼします。この点をご理解のうえ、この記事をお読みいただくとうれしいです。

 中学受験で最も大切にすべきは、子どもの人間的な成長を引き出す体験にすることです。志望校に合格できるかどうかはさほど問題ではありません。それが高校や大学への受験との大きな違いだと私たち家庭学習研究社は考えています。結果が全てではない。このことをご理解いただき、ともに連携しながら望ましい受験生活の実現に向けてがんばってまいりましょう。

 中学受験を終えたあと、受験を振り返ってどんなことが思い出されるかについて、受験を終えた子どもたちが受験体験記GET(ゲット)に書いている言葉をあげてみましょう。

 たとえば、ある年の体験記を見ると、勉強についてはこんなことが書かれていました。


覚えられない用語は、紙に書いてトイレのドアに貼って繰り返しそれを眺めた。
うっかりミスが多いことを反省し、ゆっくり書く、見直す、を心がけた。
入試が終わっても、決まった時間に勉強する習慣がずっと崩れなかった。
6年生の初めまでは何となく塾に行っていたが、夏休みからは自分で納得できる勉強をしようとがんばれるようになった。夏休みが転換点になった。

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後で見直し(復習)をし易いよう、ノートづくりを工夫したのがよかった。
夜覚えたことは、朝再び確認して、記憶に残すような勉強を心がけた。
辛いこともあったが、志望校に合格して制服を着ている未来の自分を想像してがんばった。
教科ごとの勉強法を箇条書きにし、どの教科にも共通する重要事項(復習する、わからないことは質問する、苦手箇所のチェック、テストのやり直しをするなど)も書いて確認しながら勉強した。

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苦手教科の復習をしなかったことを反省し、6年の夏から過去のテキストを必死になってやり直した。
課題が多くても投げ出さずにコツコツやっていく勉強を最後までやり通せた。
「あのとき、もっとがんばっていれば」という反省でネガティブになると、勉強に身が入らなくなるので、「でも、前にできなかったことはできた」とポジティブに考えるようにした。
苦手なことをやるのはいやだけど、逃げてはいけない。苦手だからこそ、やれば点が伸びる。

 以上はほんの一部をご紹介しているにすぎませんが、いずれのコメントも「大切なのは、前向きな気持ちで勉強することだ」ということを教えてくれているように思います。また、理想的な受験生活を経て合格する子どもはそういるものではないということも、おわかりいただけるでしょう。

 満足できる成績をあげられなくても、決めたやりかたをコツコツ継続した子どももいれば、自分のよくない点や苦手な点を克服するために、ある時点から工夫を凝らして受験を乗り越えた子どももいます。受験生活の過去を反省し、遅まきながらも必死でがんばって結果を引き出せた子どももいます。このようなプロセスを経て入試に臨んだ子どもは、入試の結果がどうであろうと、おそらく先々もちゃんとやっていけるだろうと思います。

 なぜなら、受験や勉強に対してネガティブなイメージを染みつかせていません。ものの考えかたが健全で建設的です。入試が望んだ結果ではなかった場合でも、「何がいけなかったのか」を振り返り、以後は改めようとする姿勢をもっています。また、首尾よく受かった場合でも、自分なりの反省点があることをよくわかっています。

 受かっても、勉強に対する受け止めかたや取り組む姿勢が間違っていたとしたら先が心配です。やればできる。うまくやれないのは努力が足りなかったからだ。――わが子がこういう考えかたのできる人間になることこそ、親が望んでいることであろうと思います。こういう受験を体験すれば、どの中学校に進学してもちゃんとやっていけるに相違ありません。

 受験体験記には、しばしばおとうさんやおかあさんの励ましやサポートの様子が記されています。また、ともに競い合い、励まし合った友人やライバルへの感謝の言葉が目立ちます。塾に通っての受験生活を楽しい思い出として受け止めているお子さんもたくさんおられます。

(週3日コースに変わったとき)はじめは「週3日も通うのか~」といやいやでしたが、そんな気持ちは太平洋のかなたまで飛んでいきました。それほどまでに、先生方の授業や、友達と過ごす休憩時間、そして補習の時間は楽しいものでした。


第一志望校に不合格だったことを知ったとき、おかあさんが「だいじょうぶ、辛い思いは時間が解決してくれるよ」と、励ましてくれた。この言葉はほんとうだったんだ。


父は成績がよいときは喜んでくれ、悪いときには「問題を解き直してみなさい」と励ましてくれた。

 このような環境に恵まれた子どもは幸せです。無用のプレッシャーに押しつぶされることなく受験生活を最後までがんばり通せるからです。少なくとも、受験をしたことがマイナスに作用しませんし、中学生になってからも新たな目標を見出して、努力を続けていけることでしょう。最後に紹介する受験生のコメントは、受験を終えたときの子どもの感想としてとても清々しさを感じさせてくれるものです。すべての受験生の子どもたちがこんな感想を胸に中学校へ進学できますように!

 

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カテゴリー: がんばる子どもたち, アドバイス, 中学受験