追い込み期の親の声かけは男女で違う?

2020 年 12 月 7 日

 師走を迎え、受験生を抱える保護者におかれては何かと気ぜわしい毎日をお過ごしのことと思います。コロナ禍における健康面の様々な対応は無論のこと、入試が迫ってくるとお子さんのメンタルへの配慮も以前に増して必要になってきます。そこで今回は、受験前の最終段階を迎えるにあたり、親の声かけや励ましにどういった配慮が望ましいかについて、ともに考えてみたいと思います。

 とは言え、筆者もその筋の専門家とは言い難く、絶対的な妙案をもっているわけではありません。かつて多くの受験生や保護者と接してきた経験と、教育・心理学系の学問を修めたことで得た知見とをもとに、「少しでも参考になれば」という思いを込めて筆者なりの考えお伝えしようと思います。多少なりともお役に立つ点があれば幸いです。

 前回お伝えしたように、入試前の数十日は12歳の子どもが驚くほどの集中力を発揮し、一気に合格圏へと駆け上がっていく最重要局面です。そのいっぽうで、精神面にも負荷がかかりやすいときです。やるべきことに専念して勉強に打ち込めるか、精神的なふらつきに惑わされてしまうかで、仕上げ学習の効率は大きく変わってきます。お子さんが無用のストレスや心配に振り回されることなく、入試前最終段階の学習をやり切れるよう適切なサポートをお願いいたします。

 入試本番が近づくと、楽しそうに勉強していたかに見えた子どもたちも、精神的に張りつめた状態になりがちです。この段階を迎えると、親の声かけも男女の気質の差に応じた要素が必要になってきます。どういうことかを端的に申し上げると、男子は自己肯定的な傾向があり、難しい厳しい局面においても比較的楽観的な態度やふるまいをするいっぽう、女子はどちらかというと難しい厳しい局面にいたると自分を過小評価し、悲観的な心境に自分を追いやりがちであるということです(あくまで相対的な傾向ですが)。心理学系の専門者を読むと、やはりそういった傾向が間違いなく見られるようです。

 まず男の子ですが、大人から見るといささか能天気で、現実が伴わないわりにプライドが高く、「いったいこの期に及んで、やる気がほんとうにあるのか!?」と、入試が近づくほどにカリカリ来てしまう保護者が少なくないようです。あげくに、売り言葉に買い言葉で双方がけんか腰になり、互いに感情を爆発させてしまうようなこともありがちです。男の子の弱点は、危険回避への柔軟な対応を怠りがちな点にあります。川や海で溺れて死亡する事件、無謀運転による事故などが圧倒的に男性に多いのは、危険を予測して慎重に行動するよりも「やれるさ」という楽観的で希望的観測に身を任せて行動する傾向があるからだと言われています。リスクが厳然と存在するにもかかわらず、それを無謀なまでの挑戦へと変えてしまうのが男子なんですね。それが考えられないほどの大成功を呼び込むこともある半面、未然に防げるはずの失敗を招くことのほうがはるかに多いのが現実です。

 しかしながら、ことわが子の入試となると、こういった男子の欠点を見過ごし看過するわけにはいきません。そういう現状認識の甘さがみられる場合、「今のままでいいのか」と問いかけ、檄を飛ばすような対応をしてもよいと思います。感情を抑制しビシッと叱る親に対して、やっと目が覚める思いをし、それを契機に追い込みを成功させた男の子の話は少なくありません。男の子には、「自分がいけないときには、ガツンとやってもらいたい」という心理的な欲求が根底にあるのかもしれなせんね。

 いっぽうの女の子については、この方法は望ましくありません。6年生の女子クラスを初めて担当したとき、入試が迫ってきた12月くらいから、やたらと「先生、私なんか受かるわけないよね」「私には見込みがないよね」と、悲観的な言葉を次々に向けられて困惑したことがあります。優秀な成績を維持しているお子さんすらそうでした。そこですぐに気づきました。打ち消そうとしても湧きあがってくる悲観的な思い、不安を、大人に払しょくしてほしかったのです。「ええっ!? きみが受からなきゃ、誰が受かるの?だいじょうぶだよ!」と明るく応じてあげたら、いつも通りの笑顔を取り戻したものでした。実際のところ、指導現場にいる担当者は心得たもので、入試会場などでよくこの言葉を女子受験生に投げかけているのを目撃します。

 以前も書いた記憶がありますが、おかあさんと女のお子さんとは精神的に近くなりすぎる傾向があり、わが娘の悲観的な思いに同調しておかあさんも一緒に落ち込んでしまうケースがあるようです。ただし、不安に振り回されたせいとはゆえ、成績不振に陥ったわが子に、「あなたなら絶対に大丈夫よ!」と激励しても、大人の思考レベルへと近づきつつある女の子には説得力がありません。男子と比べて女子は真面目で、それなりにがんばってきたお子さんが多いものです。ですから、今までの努力を思い出させ、「今までやったことは必ず身についているよ。不安は誰にでもあるもの。大事なのは不安に負けないことじゃないのかな? 自分のやってきたことを信じて、今まで通りやっていこう!」などのように、不安から我を取り戻すよう励ましてあげることが必要だろうと思います。語弊があるかもしれませんが、「開き直ってやるしかないよ!」という激励もアリでしょう。

 以上を簡単にまとめると、男の子に対しては「本当にやるべきことをやれているか」と、現実を冷静にとらえ直させ、データをもとに今からできる最善を尽くすよう働きかけることが肝要でしょう。また、女の子にはリスクを恐れる悲観的な考えから解放してやり、今まで継続してきた努力を信じてがんばるよう促してあげることが必要でしょう。また、男女どちらにも欠かせないのは、「親は子どもの最大の理解者であり、味方なんだ」という思いを込めて声かけをすることです。この思いは必ずお子さんに伝わり、奮起を促すのは間違いありません。

 どうでしょう。おたくのお子さんに当てはまると思われた点があるでしょうか。もしもおありなら、今からの声かけやサポートにおいて、上述した事柄を参考に、今の状態やシチュエーションに即して試してみてください。

 そしてもう一つ、どのご家庭にもお願いしたいことがあります。それは、今までどれだけ努力してきたかどうかにかかわらず、親の不満はとりあえず脇に置いておき、「おとうさんおかあさんは、今からできる最善を尽くすことがあなたに望んでいることなんだよ!」と伝えてあげてください。過去の後悔を引きずっても何にもなりません。それよりも、やるべきことから目をそらさずやり尽せるかどうかが重要なことでしょう。すべての入試が終わったとき、「最後のがんばりは見事だったよ!」と、笑顔で語ってあげられるよう、思いを込めてこの言葉を伝えてあげてください。

 かつて広島学院の名物校長だったロバート・ラッシュ先生は、校庭に整列した受験生全員を前にして、「みなさんのベストをやりなさい!」と激励されていました(以前は、全受験生が校庭に整列したうえで、入試会場に案内されていました)。入試日恒例のことなので、この言葉を聞くたびに、「今年も学院の入試がやってきたんだな」という実感が湧いてきたものでした。そうです。重要なのは、入試本番でベストを尽くすべく挑戦することなのです。それがやれたなら、結果はどうであれ悔いは残りません。だからこそ、「ベストをやりなさい」とおっしゃったのかもしれませんね。

 一回勝負の受験は12歳という年齢の子どもには酷な面もあります。しかしながら、重圧に耐え、最高のパフォーマンスを発揮すべく挑戦することに大いなる意義があります。人間として成長するうえでもかけがえのない体験となるのです。入試が終わるまで、チャンスは受験生の誰にも平等に与えられています。悔いの残らぬラストスパートを実現すべく、がんばっていただきたいですね。

 入試を終えたとき、全ての受験生家庭に晴れ晴れとした笑顔が見られますように!


 

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カテゴリー: がんばる子どもたち, アドバイス, 中学受験, 家庭学習研究社の理念

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