おたくには“サンタ”はやってきてくれますか?

2020 年 12 月 21 日

 2020年も残り少なくなりましたね。新型コロナウィルスの感染問題は一向に収束する気配がなく、日本中、世界中がパンデミックの渦中にさらされています。比較的感染の拡大が押さえられていた広島も、このところ感染者が急増しており、非常に危険な状況に至りつつあります。医療現場にいる方々の感染が増加していることにも胸が痛みます。

 第3波の特徴の一つに、感染経路不明の人の割合が多いということがあげられています。みなさまにおかれては、きちんとしたマスクの着用をはじめ、手洗い(消毒)やうがいの励行など、以前に増して慎重に感染対策を励行されますようお願いいたします。ご自身のこと、ご家族のこと、お子さんの受験に向けた備えにまつわることなどが重なり、保護者の方々は心身ともにつらい毎日をお過ごしのことと拝察します。コロナウィルスの感染に見舞われませんよう、くれぐれもご注意ください。

 さて、気がつけばクリスマスが目前に迫っています。例年なら週末の本通りはクリスマスがらみの買い物客でごった返し、ごきげんなクリスマスソングが店先から聞こえてくるのですが、今年はだいぶ静かなように感じます。ともあれ、コロナ禍にあってもクリスマスのプレゼントやケーキは子どもたちにとっての大きな楽しみです。受験生のおられるご家庭も、クリスマスの夜は勉強のことを束の間忘れ、楽しい時間を過ごしていただきたいですね。

 そこで今回は、クリスマスに因んだ話題を提供してみようと思います。クリスマスと言えば、サンタクロースがすぐさま連想されます。ただ親からクリスマスのプレゼントを渡すのではなく、「サンタさんからもらう」といった趣向でわが子に与えておられるご家庭はどれぐらいあるでしょうか。中学受験生の年齢なら、もはや「サンタは実在する」なんていうことを信じているお子さんはいないかもしれません。おたくのお子さんは、何歳頃からサンタのいないクリスマスになったでしょうか。それともサンタはまだクリスマスの贈り物を届けてくれていますか?

 職場の女性スタッフ(小6の娘さんの母親)に、「おたくの娘さんにはまだサンタがいますか?」と尋ねると、「まだギリギリいます」という意外な言葉が返ってきました。「『クリスマスの贈り物がもらえない子は、サンタなんていないんだと思っているからよ』と伝えたから、『サンタはきっといる!』と信じようとしているんだと思います」と語っていました。「ギリギリ」というのは、そういう意味だったんですね。なるほど。いかにもおかあさんの愛情を感じる話です。こんな家庭は多いのかもしれませんね。

 ところで、筆者は職業柄、心理学者の河合隼雄先生(京都大学名誉教授 1928-2007)の著書に目を通すことがしばしばあります。河合先生の随筆は個人的にも好きで、何冊か読んでいるうちにクリスマスの話題が取り上げられている文章が目に留まり、心を惹かれました。今回は、みなさんにそれをご紹介してみようと思います(文字数の都合で一部を省略・調整しています)。

 私が子どもだったころ、わが家にはサンタクロースが来たのである。12月24日の夜、贈り物がとどけられることになっていた。しかも、それは12月24日の夜、子どもたちが眠っているうちに、家の中のどこかに隠されていて、25日の朝暗いうちから起きて、兄弟一同で贈り物を探すことになっていた。

 子どもにとって、これほど不思議で楽しいことはない。朝早く起きて、兄弟で探すのだが、興奮しているのでなかなか見つからない。サンタクロースは賢いので、年々まったく思いがけないところに隠しているのだ。兄弟への贈り物がつぎつぎ見つかって、自分のだけがなかなか出てこなかったときの心細かったこと。またそれだけに発見したときの嬉しかったことなど、今もなお心に残っている。

 わが家の構造上、煙突からはどうしてもはいってこられないことがわかって問題となったとき、父親は「うちの家は、ここからはいってくる」と、玄関の上の小さい菱形の飾り窓を指さして教えてくれた。そこで、24日の夜、兄たちがひそかに細い糸を張っておいたが、25日の朝、それはみごとにちぎられていた! サンタクロースが通ったのだ。

 もっとすごいことがあった。小学5年生の兄が徹夜してサンタクロースをつかまえる、と言い出したのである。私は小さかったので、そんなことをすると贈り物がもらえないのではと大変心配だったが、何と父親が大賛成で協力を申し出た。24日の夜、父と兄は徹夜をしようと頑張ったが、兄はついとろとろと眠ってしまい、父親も「お父さんも、つい一緒に眠ってしまって、おしいことをした」というしばらくの間に、サンタクロースはすかさず、すべての贈り物を隠して去っていったのである。これには驚嘆してしまったが、この話は、サンタクロースのすばらしさを示すものとして、河合家の伝説のようにその後も何度話をされたかわからないくらいとなった。

 この話を、単なるほほえましいエピソードとしてお読みいただいても構いません。ただし、筆者がこのくだりをご紹介したくなったのは、河合先生のおとうさんのすばらしい子育てに感心したからです。子どもの発想を認めて受け入れ、一緒になって考えたり行動したりする。このような子育てを、家父長制の色濃く残る戦時中に実践されていたとは! これこそ、創造性豊かな人間(真に優秀な人間)を育むうえで必須の要件を具備した子育てではないでしょうか。

 なお、戦時中であることから、欧米の習慣を排除しようとする雰囲気が国を挙げて色濃くなりました。すると河合先生のおとうさんは、「サンタクロースはもう来ない」と宣言されたそうです。その代わりに、「日本には大きい袋をかついだ大国主命(おおくにぬしのみこと)という神さんがおられる。気持ちが通じるかどうかわからんが、今年は大国主の命にお願いしてみよう」と提案されたそうです。クリスマスの日に、大国主命がやってくる!? 奇想天外な話ですが、子どもたちの期待に応えてちゃんときてくれたそうです(おとうさんの仕業ですから当然のことですが)。何と“とんち”の利いた心優しいおとうさんですね。

 やがて河合先生たち兄弟も成人され、それぞれに子どもをもつ父親になられました。そうして、自分が子ども時代に体験したクリスマスの風習を継承されました。そして、家ごとに楽しい物語を生み出す原動力になったそうです。河合先生は、子どもたちが大きくなったある日、「どうして、長い間サンタクロースの存在を信じていたのだろう」と話し合っているのを耳にされたそうです。その結論は「やっぱり信じたかったからだろう」というものでした。

 「サンタがクリスマスに贈り物を届けてくれる」――世界中に広まったこの夢のある風習は、おそらくこれからも廃れることはないでしょう。「ない」ものを「ある」と、あえて信じながら演じるこの儀式から、親子間、家族間の心豊かな交流や思い出が生まれてくるからです。

  先日、地元新聞社のデジタル版に、クリスマスにまつわる記事が掲載されていました(短めに要約しています。お許しを)。コロナ禍にあって、「世界中を駆け回ってプレゼントを届けるサンタクロースはどうなるの?」と、各国の子どもたちは心を痛め、心配をしていると思います。すると、世界保健機関から、次のような報告が発表されました。「サンタに連絡したら、とても元気そうで、コロナへの免疫もできている」と。また、欧州連合の報道官は、「サンタは必要不可欠な仕事をしているから、コロナ対策の移動制限から免除されている」と、ツイッターに書き込んだそうです。子どもへの豊かな愛情が伺える話ですね。

 非常時においても、否、非常時だからこそ大人は子どもたちの夢を壊さないよう、愛情をもってフォローする必要があると思います。そのことを心得た立派な大人たちがいることにも安堵した次第です。

 おたくではサンタはまだ実在の人物ですか? もしかしたら、お子さんは先ほどの話にあったように、「信じたい」という思いを胸に、あえて「サンタはいるのか、それともいないのか」という話題に触れないようにしておられるのかもしれませんね。

 今年のクリスマスも、おたくのお子さんにサンタが贈り物を届けてくれますように!

 

※今回の記事で掲載している引用文は、以前にも一度ご紹介しています。同じものを使って書いたらどうなるかを、筆者自身ワクワク楽しみながら書いたしだいです。以前のものも読んでみていただけたならうれしいです。

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カテゴリー: 子どもの発達, 子育てについて, 家庭での教育

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