受験生活で養うべきはテスト学力だけではない

2021 年 3 月 29 日

 今回は、弊社会員の保護者におもちいただきたい視点についてお伝えしたいと思います。前々回、前回に引き続き、講座の開始時期だからこそのご連絡であり、お願いです。最後までお読みいただき、日々の受験生活に生かしていただければ幸いです。

 弊社は中学受験専門の進学塾ですから、お預かりした子どもたちの中学校進学の夢が叶うようお手伝いするのが使命であるのは言うまでもありません。しかしながら、弊社は50年余り前の設立当初から、「子どもの学びの自立」を指導の根本方針として定め、今日までそれを曲げることなく貫いてまいりました。合格力や合格者数が進学塾の生命線であるのは昔も今も変わりませんが、そんななか、弊社はかなりユニークなスタンスの学習塾と言えるかもしれません。

 ただし、この方針の実践にあたっては「言うは易く行うは難し」を地で行くような困難が避けられません。なぜなら、成長途上にある子どもが学びの自立を果たすには、大人の粘り強いサポートが必要であり、学習塾にも相応のノウハウが求められます。だいいち、子育て経験者なら誰でも痛感しておられるでしょうが、小学生の子どもに「一を聞いて十を知る」といったような期待は到底できません。それどころか、「言ったことを少しも実行してくれない、できない」ことのほうがはるかに多いのが現実です。

 また、合格を巡る競争が激しければ激しいほど、受験対策は「いかに試験で高得点を取るか」ということにシフトしがちです。そうなると、子どもの理解の度合いをみながらじっくりと指導する余裕などなくなります。実際のところ、今よりも児童数がはるかに多く、中学受験熱が高かったころには、猛烈な詰め込み・訓練型の受験対策が当たり前のように見られたものでした。

 では、上述のような困難がありながら、弊社はなぜ「子どもの学びの自立」を方針として維持してきたのでしょうか。その理由は、「子どもの中学進学後」にあります。中高一貫の進学校、それも学問レベルの高い学校ほど、自ら学ぶ積極的姿勢が求められます。授業前の下調べや授業後のおさらいをするとしないとでは大きな差がついてしまいます。また、たくさんの宿題を要領よくさばいて提出する段取り力や実行力が必要です(ついて行けなくなるのは宿題を溜める生徒です)。優秀な集団内での自分の位置や状況を客観的に判断し、より望ましい方向へと自己修正していく力も求められるでしょう。これらを一括りにして表現すると、まさに「学びの自立」ということになります。

 中高一貫の進学校で行き詰っている生徒の多くは、テスト対応力に偏る受験対策をして、学びの自立を怠った子どもたちなのです。あるいは努力よりも才能で受かったタイプの子どもたちです。これらの子どもは、自分を律するすべを身につけていないという共通点があります。保護者のなかには、「受かれば後は子どもが何とかするだろう」、「学校がうまく引っ張って行ってくれるだろう」と期待するかたがおられるかもしれませんが、中学校生活は児童期よりもはるかに多様な楽しみが増え、勉強を自立型へと修正する余裕はありません。また、人としての特徴は児童期までにできあがりますから、後で変えるのは至難の業です。

「受かっても、あとで伸び悩んだのでは意味がない」――このように考えた弊社の経営者は、いかに受験競争が激しくても、学びの主体である子どもの自立につながる学習指導を実践しました。つまり、弊社は「受験後」と「将来」を中心に見据えた受験指導こそ、前途ある小学生をお預かりする中学受験塾に求められるものなのだと考えたのです。無論、合格実績が下がるとお子さんを預けてはいただけません。掲げた看板と入試結果とのバランスをいかに整えるか。これは、家庭学習研究社が自らに課した挑戦課題だったと言えるでしょう(今もそれが困難なことは変わりません)。

 近年は少子化が恒常化し、合格を巡る競争も沈静化しています。また、特色のある公立一貫校が次々に開校されています。さらには、既存の私立男子校や女子校の共学化、新規参入の私立一貫校の存在もあり、「中学受験は大変」といった印象もだいぶ薄れています。しかし、それゆえの新たな問題も生じています。ちゃんとした学びの姿勢を築かずとも、ある程度希望する学校に受かる(進学の希望が叶うのは喜ばしいことではありますが)ようになったことです。

 その何が問題かというと、やるべき勉強を自分でやりこなせない生徒が、厳しい勉強を自らに課すべき学習環境に多数存在するようになったということです。これではせっかくのハイレベルな教育環境を生かすことはできませんし、中学高校の6年間で学びを飛躍させることなどできないでしょう。かつての一貫校は、生徒を一人前の人間とみなし、「よい授業をすれば、あとは生徒同士が切磋琢磨して成長していく」ということを前提に自校の教育(いかなる人間を育むか)を実践していましたが、近年は、入学早々からやる気も実行力も足りない生徒のフォローに追われているという話も耳にします。高いレベルの専門教育を受け入れ、自らが望む世界で活躍できる人間へと成長する。それが中高一貫の進学校に通う生徒の望みのはずですが、このようなことでは入学に段階から躓いているようなものです。

 以上から言えるのは、今後ますます「学びの自立」は必要不可欠のものであり、「どの中学校に受かったか」よりも「学びの自立をどれだけ果たして中学へ進学したか」のほうがはるかに将来の歩みを左右する重要要素になってくるということです。グローバル社会という言葉をしばしば耳にしますが、外国の人々との交流において、自己発信力は欠かせないものであり、単に語学力を身につけるだけではグローバルとは言えません。そういった意味においても、中学受験を志す子どもたちには、「学びの自立」につながる受験生活を送り、自分という主体がしっかりと軸にある人間へと成長しながら学力を伸ばしていくよう努めていただきたいですね。

 そこで、子どもの学びの自立に向けたサポートとして、保護者は何をしたらよいかという話になります。実際のところ、ここからが本題なのですが、すでに文字数をかなり使ってしまいました。とりあえず、今回はここでいったん終えようと思います。楽しい話題ではないので、次を読んでいただけるかどうか心配ですが、どうぞよろしくお願いいたします。できましたら、「わが子の学びの自立に向けて、親として何をしてやったらよいか」ということを考えてみていただけたら嬉しいです。

 一つだけ、お考えいただくための糸口をお伝えしておこうと思います。受験勉強は負担の伴うものですから、何の苦痛もなく快適にやれる子どもはいません。ですが、傍から見るとさも楽しそうに取り組んでいるかのように見えるお子さんも結構おられます。どういうことでしょうか。それは、「決めたことをやらずにはいられない」という意識レベルで学んでいるからです。では、どうしたらそんな子どもになれるのでしょう。それを考えてみてはいかがでしょうか。無論、前回、前々回にお伝えしたこととも深く関連しています。よろしければ、もう一度読み直してみてください。

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カテゴリー: アドバイス, 中学受験, 子どもの発達, 子どもの自立, 家庭での教育, 家庭学習研究社の特徴, 家庭学習研究社の理念

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