子どもを前向きに生きる人間に育てる家庭内会話

2021 年 6 月 28 日

 ご存知のように、広島県では6月21日をもって緊急事態宣言が解除されました。ただし新規感染者の数は減少傾向にあるものの、毎日一定数の感染者が確認されています。予断を許さぬ状況であるのは変わりません。十分にお気をつけください。

 さて、今回は家庭内での親子間の会話のもつ役割や重要性を話題に取りあげてみました。親子の意思疎通を図るうえで会話がいかに大切なものであるかは論を待ちませんが、中学受験をめざして勉強しているお子さんのメンタルケアの観点においても大変重要な意味をもっています。みなさんのご家庭では、親子の会話はどれぐらいあるでしょうか。

 まずは、家庭内の会話の時間と子どもの学習状況に関する調査資料をご紹介しましょう。以下は、小4~高2の子どもを対象に実施された調査の結果です(ベネッセ教育研究所による)。

学習時間と親子の会話量          ベネッセ教育研究所(小4~高2対象調査)

 グラフ内の数字は%(パーセント)を表します。親子の会話が多い家庭では、総じて子どもの学習時間が長いということがわかりますね。子どもと心を通じ合わせる時間を確保することが、子どもの学びに向かう意欲を高める効果をもたらすのでしょう。子どもにしっかり勉強してほしいと考える保護者のなかには、「おしゃべりしている暇があるなら、勉強、勉強!」と子どもを追い立てておられる保護者はおられませんか? しかし、それは子どものやる気をしぼませる生憎な結果を招きがちです。

 筆者は、親子関係を密なるものにするうえで重要な時期は児童期だと考えています。というのも、児童期の親子のコミュニケーションの状態が、子どもの成長に後々までも影響を及ぼすからです。どういうことか、ちょっとご説明しておきましょう。

 小学生の子ども、特に低~中学年までの子どもは親を全面的に頼って暮らしていますから、親の影響力がきわめて強い状態にあります。この段階においては、親が多少理不尽な命令をしたり、子どもの意向を無視したりしても概ね従大きな問題にはなりません。しかしながら、成長とともに行動範囲が広がり、他者との交流が増えるにつれて自分自身の考えをもつようになり、親への精神的依存性が徐々に低下していきます。もしも親への不満や反発の気持ちを根底に抱いていたなら、やがて親に反発し口答えばかりするようになる危険性が多分にあるでしょう。そのような子どもが思春期を迎えると、もはや全く親を顧みなくなってしまいかねません。ですから、わが子が小学生のうちにこそ信頼で結ばれた風通しのよい親子関係を築いておく必要があるのではないでしょうか。

 上記資料を見ると、子どもの年齢が上がるほど会話時間が長いか短いかの違いが学習時間の差を拡大させています。児童期に親子の会話時間が少なかった家庭が、高校生になって激変し、十分な会話の時間を設けるようになるとは考えられません。その理由は先ほどお伝えしたとおりです。親子の会話を今のうちに大切にしておきたいものですね。

 「親子の会話の重要性はわかった。でも、会話の際どんなことに留意したらよいかがわからない」というかたもおありかと思います。教育学者の汐見稔幸氏(東京大学名誉教授・前白梅学園大学学長)は、親子間の会話について次のようなことを述べておられます(「学力を伸ばす家庭のルール」2006小学館)。

 家庭の中で考えることを促すような会話、言葉を選んで答えなくてはいけないような会話が意識されているかどうかによって、普段の何気ない会話の中で、ある程度知的な準備がされるかどうかの違いが生じます。

 たとえば子どもと会話をしたときに、親が期待していることと違うことをしゃべる、ということがよくありますね。そういうときに「何をバカなことを言っているの」とか「子どものくせに生意気云うんじゃないの」と批判するか、「え、どうしてそんな面白いことを言うの?」とか「そうかあ、お母さんはそういうことを聞いたんじゃないんだけど、あなたは面白い発想をするね」というふうにして、子どものこちらの期待通りではない発言に対しても、きちんとプライドを大事にしてやる、ということを心がけているかどうかによって、子どものセルフイメージ(自己像)が大きく変わってきます。

 セルフイメージとは、自分を自分でどう価値づけるか、ということです。「自分がどう考えたとしても、自分が一生懸命考えたことは大事にされるんだ」というふうに自分を感じるのか、「親の期待通りに発想しないと自分はいつも否定される」と感じるのか。

 自分という人間は祝福されているし、ちゃんと肯定されている、ということになれば、自己像も肯定的になります。こういった親の配慮のもとで育つと、望ましい自尊感情や自己肯定感が育まれていきます。

 一方、いつも頭ごなしに反論されたり批判されたりすると、「自分という人間はどこかダメなのかな」とか、「何を考えても意味がないのかな」ということを学習してしまいます。これでは、自分に対する肯定感や受容観がうまく育まれません。

 このように、親の何気ない対応によって、わが子の知的能力だけでなく、心というか、セルフイメージも違ってくるわけです。ですから、普段の会話はできるだけ一方的にならず、活発にやりとりができる雰囲気をつくるよう心がけたいものです。

 これを読むと、子どもの自尊感情・自己肯定感を育むような会話を心がけることの重要性が語られています。そのための会話のポイントがわかり易く書かれています。ぜひ参考にしていただきたいですね。

 また、上記引用文で紹介されているような親の会話における配慮や対応は、中学受験をめざして勉強している高学年児童にとっても極めて重要な意味をもたらします。

 というのも、自分と他者とを比較し、優れているとか劣っているなどの意識が芽生えるのは、だいたい小学4~5年生の頃だからです。塾通いを始めた当初、塾に通って授業を受け、新しい友達もができたことを喜んでいたお子さんが、いつのまにか学びの活力を失い、勉強に向かう意気込みをしぼませることがあります。それは、テスト成績で自分と全体(他者)を比較する新しい世界の洗礼を受け、自分の能力に疑念をもつようになったからに他なりません。これまで何度もお伝えしてきましたが、全員が受験をめざす集団内での成績はそうやすやすと上がるものではありません。実際は、随分学力的に向上しているのですが、他者と比較すると頭打ちに見えたり、下がって見えたりするものです。

 しかしながら、自尊感情をサポートする親の存在があったなら子どものメンタルはダメージを回避することができます。自分に対する信頼の気持ちがあれば、子どもは困難に出合っても簡単にはあきらめません。「どうやったら成績が上がるか」を考え、柔軟に対処することができます。また、親子間の会話が常にある家庭では、親がわが子を励まし奮起させる機会を適切に設けることができるでしょう。上記引用文にあるような親の対応は、子どもの気持ちを強くさせ、困難に立ち向かう勇気を吹き込んでくれるのではないでしょうか。

 児童期後半の子どもは、少しずつ親離れしていく時期にいます。この時期が結構難しいのです。親が手の差し伸べ過ぎるのもよくないし、ほったらかしもよくありません。大切なのは、失敗を恐れず困難に立ち向かう姿勢を育むことです。無論がんばったのに失敗することもたびたびでしょう。しかし、「あきらめるな!次がある」「困難にくじけずに挑戦する人間になることが親の願いなんだよ!」と、サポートしてくれる親がいれば何も心配要りません。

 受験までの道のりは決して平たんではありません。度重なる失敗もあることでしょう。しかし、親子間に強い信頼関係があればだいじょうぶです。そうした信頼関係を育むのが毎日家庭で交わされる会話なんですね。現状をもう一度振り返り、今回の記事のなかで参考になる点が見つかれば採り入れてみてください。

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カテゴリー: アドバイス, 子どもの発達, 子育てについて, 家庭での教育, 家庭学習研究社の特徴

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