学力不振は“読み”の力の底上げで脱出できる!?

2021 年 7 月 31 日

 オリンピックの開幕前後から、新型コロナの感染者が急激に増加しています。広島県内でも、感染力が強いとされるデルタ株の感染者が確認されており、今後ますます感染者が増加する恐れを感じます。みなさま、くれぐれも感染防止のための配慮を怠りなく。

 コロナ禍の夏休みとあって、たくさんの人が集まる場所でのレジャーは控えざるを得ません。また、お盆の帰省も自粛されるご家庭が多いのではないかと思います。何かと行動がセーブされる状況において、家庭や親子という視点からプラス材料とされているのは、親子の会話が以前よりも増えたことだ、親子の信頼関係が強化されたことだという調査結果が、ネットの記事にありました。これは頷ける話ですね。

 夏休みは、親子一緒に過ごす時間がいつもより多く確保できます。そこで、ふと思いついたのは、おとうさんに(無論、おかあさんや他の家族でも構いません)、受験生のお子さんのバックアップをお願いできないかということです。

 と言っても、勉強を教えることではありません。おたくのお子さんは、勉強しているわりに成果が上がらないと嘆いておられませんか? 同じテキストを読んでも、そこから吸収できる情報の質や量は一人ひとりみな違います。なぜそうなるかは、頭の良し悪しという面もありますが、“読み”の力の違いによるという側面が非常に大きいのです。おたくのお子さんの読みの力がどうであるか、それが勉強の成果に影響を及ぼしていないかどうか、一度チェックしてみるとよいかもしれません。特に4~5年生は、読みの態勢づくりがスムーズに進んできたかどうかが、学力面にはっきりと表れてくる時期です。

 どういうことかをちょっとご説明してみましょう。低学年期から積み重ねてきた読みの習練は、中~高学年期になってからの知識獲得や思考力向上に多大な貢献をするようになっていきます。

【3年生】
子どもの読みの能力が安定軌道に乗ります。多くの子どもが、正確によどみなく黙読できるようになり、読書に勤しむようになります。たくさんの言葉との出合いが始まり、語彙がどんどん増えていきます。この流れが築けるかどうかが勝負です。

【4年生】
読書の活発化に伴って、これまでとは比較にならないほどの勢いで語彙が増えていきます。前年までと比較し、4年生の1年間で約4割も語彙が増えていきます。それに伴って思考力も発達し、抽象語の理解も進んでいきます。

【5年生】
1年間に5000~6000語も語彙が増える、人生でいちばんの語彙増加期を迎えます。活発な読書活動は、読みのスキルをさらに向上させ、効率よく活字から知識を得られるようになります。かなり難解な文章でも読みこなせる子どもも出てきます。

 読みの力をつけた子どもは、3~4年生頃から読書量が一気に増加し、そこから信じられないほど知識を増やし、思考の大人化を達成していきます。これが、教科学習における理解力や吸収力の差を生み出します。4~5年生頃の急速な語彙発達を、専門家は「語彙の爆発」と呼んでいます。その現象をわがものにしたお子さんは、勉強においても大変有利になるのは疑いありません。なにしろ、テキストを速く読めるうえ、著述内容を理解して知識にするレベルも高いのですから。逆に、この段階で読みの力が不十分だと、知識獲得や学力形成において後手を踏むことになりがちです。

 とは言え、近年は優れたエンターテインメント性をもったゲームが子どもたちを虜にしています。さらには携帯をもたない子どもはごくわずかになりつつあります。したがって、活字との親和性を築けないまま高学年に到達してしまう子どもが少なくありません。もしもそうした傾向が、おたくのお子さんから感じられたなら、この夏を起点にして、読みの力の強化に向けてバックアップしてやりませんか? 今からでは遅いなどということはありません。読みの力はこの先もずっとお子さんの学習成果を規定します。今すぐにでも始めましょう。

 では、何をすればよいかという話になります。それは音読練習のサポートです。“読む”とは、普通黙読のことをさします。黙読というのは、活字のつながりを目で追っていきながら、言葉の意味や言葉同士のつながりなどを判断して著述内容を理解していくことを言います。このとき、実は読み手は声に出して読む代わりに文字の読み(発音)を脳の中でイメージしています。これが上手にできるようになるには音読練習の積み重ねが必要なのです。

 なぜかというと、もともと人間には音声の言葉しかありませんでした。たとえば、日本で文字の言葉が一般に普及していったのは平安時代です。音声言語の歴史が20~30万年とすれば、文字言語の歴史は1000~2000年でしかありません。したがって、人間の言語理解の中枢は、音声の言葉のそれしかありません。その音声言語の理解中枢を使って文字言語を理解する手立てが、「読みの発音(自分の読む声)を脳の中でイメージすること」なんですね。

 このことからわかるのは、音読が速くて正確であればあるほど黙読も早くて正確になるということです。さらに、黙読は音声というバイアスを伴いませんから、ずっと速く快適に読むことができます。だから子どもは読書に勤しむようになるんですね。この流れをうまく築いた子どもは、前述のように急速に語彙や思考を発達させることができるようになります。

 前期に弊社の校舎に通っていたお子さんなら、前期のテキストまたは夏期講座の素材文を利用してください。夏休みからの通学生は、夏期講座のテキストの素材文(学校の教科書でも、一般の児童書でも構いません)を利用してください。さきほど、サポートはおとうさんにとお伝えしましたが、その理由は夏休みは食事の準備などでおかあさんの負担が大きくなるからです。毎日、20~30分、素材文を大きな声で一気に読ませてください。躓いた回数をチェックし、メモします。おとうさんと読みの力比べをしてもよいでしょう。楽しい時間にしてください。

 音読で気をつけたいのは、読むことに気持ちを取られ過ぎて、肝心の著述内容の理解に気持ちを傾けられない子どもが多いことです。ですから、読み終えたら、どういうことが書いてあったかをお子さんに必ず尋ねてください。男の子は、口頭で答えるとしどろもどろになるかもしれません。自分の考えを整理しながら順序だてて説明する練習の場としてとらえ、気長に付き合ってあげてください。決して叱らないようお願いします。おとうさんも一度音読し、著述内容をもとに感想や印象に残ったことなどをやり取りするのも楽しく、お子さんのモチベーションアップに役立つかもしれません。また、おとうさんに負けまいと、お子さんの音読に熱が入るかもしれません。

 なかには音読練習などに時間を割くよりも、勉強の内容に直接手を染めさせたいとお考えのかたもおありかと思います。しかし、そもそも読む力がうまく機能していないから、勉強の成果を引き出し損ねているのです。滑らかに読めるようになれば、読むこと自体を苦痛に思わなくなるし、同じことを勉強しても吸収度が高まるので勉強に向かう能動性も高まることでしょう。成果の違いは推して知るべしです。読みの習練のやり直しは、学力向上に向けた遠回りのようで近道なのです。

 その昔、読むとは声に出して読むことでした。この原点をしっかり押さえ、読みの力の増強に向けてがんばっていただきたいですね。

 夏休みは、あらゆることの起点や転換点となるありがたい長期休暇です。うまく生かしてください。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 勉強の仕方, 家庭での教育, 音読・読み聞かせ

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