2021 年 9 月 のアーカイブ

意欲に満ちた学びは習慣づけから生まれる

2021 年 9 月 28 日 火曜日

 このところ新型コロナウィルスの感染者数の減少が全国的に報じられています。田村厚生労働相は、「ほとんどの都道府県で宣言が10月から解除される見通しである」という見解を述べておられます。無論、重症者数が相変わらず多く、病床数の逼迫問題も解決していませんから、引き続き生活のあらゆる場面で最大限の自粛が必要でしょう。

 さて、前回は「地図を読み込むことの楽しさを、親からわが子へ伝えてやりましょう」といった趣旨の記事を掲載しました。進学塾のブログとしては、少し本道から外れていたかもしれません。そのせいか、いつもより若干閲覧数は少なめでした。ただし、筆者が直接知っている人から、「親子で分水嶺を確認しに、ドライブがてら出かけてみました」「ネットで世界地図のジグソーパズルを楽しめる、おもしろいゲームがありますよ」など、ありがたい反応もいただきました。

 まあ、記事数にして800以上に及ぶブログですから、ともすれば類似した話題が繰り返されがちです。たまには変化をつけてもよいかなと思って書いてみたしだいです。今後もときどきこういうことがあろうかと思います。ご理解のほどお願い申し上げます。

 それでは、今回お伝えしようと思っている話題に移りましょう。たった今、「たくさんの記事を書いてきたので類似の話題が繰り返されがち」と申し上げましたが、その舌の根も乾かぬうちに、以前の記事とオーバーラップする話題をとりあげてしまいました(悪しからず)。

 みなさんはわが子に対して、「もう少しやる気を出してほしい」、「勉強に意気込みや覇気が足りない」、「もっと積極的に勉強に取り組めないものか」などのような不満や悩みを抱いておられませんか? この問いかけをしたのは、これまで多くの保護者からこの種の相談を受けてきたからです。「成績がどうやったら上がりますか?」などの相談よりも、意欲に関する相談が多いのは、「ものごとの成否はやる気しだいで決まる」というお考えがあるからだと思います。それは重要な見識で的を射ています。

 ただし、「もっとやる気を出しなさい」と子どもを諭したところで、一過性の効果で終わるか、ほとんど効果がないのはどなたも経験済みでしょう。「言われてできるなら苦労しない」というのが多くの子どもの現実です。なにしろ受験勉強は小学生にとって高レベルな内容を扱っています。求められる取り組みの量や時間もかなりの負担を伴います。しばらく放っているとちんぷんかんぷんになりかねません。こういった要素が取り組みの受動性につながるのは、まだ将来を見通して行動を律する姿勢が身についていない小学生ゆえしかたない面もあります。それでも、「志望校合格のためにがんばらねば」と、子どもも重々わかっています。やる気がないわけではないが、いざやるべき段になると気持ちも体も重くなってしまう。これが現実でしょう。この呪縛のようなものをいかにして取り除くかが受験の結果を決めるのだといってもよいでしょう。

 いっぽう、弊社の教室に通っている会員児童で、いつもよい取り組みをし、成績的にもすばらしい結果を得ている子どもたちを見てみると、確かにやる気の平均値が高いのは事実です。しかし、そのやる気はもともと誰にでもあるはずのものです。問題は、子どものもつ素朴なやる気を、受験勉強で求められるやる気(意欲)へとバージョンアップできるか否かではないでしょうか。今ちゃんとやれるいる子どもも、思うような取り組みができずもどかしい思いをしている子どもも、そもそも携えているやる気や能力に違いがあるわけではありません。

 受験勉強が軌道に乗っている子どもは、「やると決めたことを放っておくことができない」「今日やるはずのことを明日にもち越すのは耐えられない」と言います。あるいは、やろうと決意するまでもなく、体が自然と時間になると机に向かっていくのです。それは、習慣づけが軌道に乗り、無意識のレベルで体が反応するようになったからであり、そのおかげで「やればやっただけ成績が上がるのだ」ということを実感し、より高いレベルの成績をめざしていく好循環のサイクルができあがっているからでしょう。この領域まで達した子どもは、大人でも感心するほど熱心に勉強に取り組みます。そして、その姿勢は生涯失われることはありません。筆者は、心から弊社の教室に通う子どもたち全員にこうなってほしいと願っています。

 何であれ、子どもは「知りたい」という意欲をもっています。それが受験勉強で稼働しないのは、それへの準備や構えが十分にできていないからでしょう。その準備・構えを築くための出発点は、学習の「習慣づけ」に他なりません。だいぶ前の記事でご紹介したことがありますが、有名な教育社会学者の先生は「意欲は、意欲に直接働きかけて高まるものではなく、習慣づけを通して育ってくるものだ」と述べておられます。日本特有の食材や料理(納豆・味噌汁・シラス(目玉が気になる)・卵かけご飯など)を、初めて見る外国人は気味の悪いものと感じるケースが多いようです。それは食する習慣があったか否かに原因があります。幼いころから食べ慣れている人にとってはおいしいものであり、食欲を刺激する食卓に欠かせない存在に他なりません。勉強もこれと同じで、習慣づけられれば、やるのが当たり前になり、その面白さを徐々に味わえるようになり、それが学習意欲の向上へと発展・転化していくのですね。ここまでなんとしても漕ぎつけたいところです。

 おたくのお子さんの取り組みの現状を振り返ってみてください。たとえ成績がよくても、この習慣化が徹底できていないと、やがて本格的な受験勉強の段階になると、壁にぶつかるおそれがあります。

 毎日、計画を着実に実行に移せているでしょうか。今の計画に無理や無駄はないでしょうか。予習(5・6年生)・復習でやるべきことがわかっているでしょうか。がんばりチェックで重要事項の確認をしたうえでテストに臨んでおられるでしょうか。これらが連動し、やるのが当たり前になったなら受験勉強が完全に軌道に乗ったと言ってよいでしょう。

 もしもやるべきことがおざなりになっているようでしたら、学習の開始時と終了時に親が声かけをすることも必要でしょう。4年生は、家庭学習で取り組んだ問題の〇つけを保護者にお願いしていますが、きちんと対応していただけているでしょうか。やるべきことをやり終えたら、計画表の当該学習日の欄に承認のシールなどを張ってやり、子どもが取り組みの継続に向けた意欲を促す仕掛けも工夫していただけるとよいですね。

 受験生とは言ってもまだ小学生。親が関心を示し、少しでも能動的な取り組みの様子が見えたら、最大限に喜びほめてやることも必要です。決めたことをやり切ることの喜びを学びの原動力にする前段階として、親が子どもに対して率先した取り組み姿勢を期待していることを伝え、いつも温かく見守り、少しでも能動的な姿勢が見えたら褒め称える。そこから、計画実行に向けた行動力が徐々に高まるものです。成績は、努力や実行力に応じて自ずと伴うものとご理解ください。また、前述のように決めたことをやらずにはいられないという人間に成長できたなら、勉強はうまくいかないはずがありませんし、何よりも将来の人生の歩みに多大な威力を発揮してくれるでしょう。

 まずは習慣づけから。ここを原点にして、徐々に学習意欲を高め、洗練された勉強の取り組みのできる人間へとお子さんが成長できるよう背中を押してあげていただきたいですね。小学生までの子どもの勉強は、親の関わりが随分大きな役割を果たします。もしもお子さんの勉強がうまくいっていないようでしたら、親の役割は何かを今一度思い起こし、お子さんの勉強に活気をもたらすための働きかけお願いするしだいです。

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地図を読む楽しさを親からわが子に!

2021 年 9 月 20 日 月曜日

 ご存知のように、19の都道府県で緊急事態宣言が9月末まで延長されました。広島県も延長の対象となっており、不自由極まりない生活が続いています。しかながら、感染拡大を抑え込まない限り以前の健康で自由な生活は戻ってきません。ストレスも溜まりますが、毎日細心の注意を払ってコロナ感染の防止に努めてまいりましょう。

 さて、今回は一冊の本をご紹介してみようと思います。このところ何度かお伝えしている、親子のコミュニケーション強化の主旨に沿ったものです。たまたま目に留まった本なのですが、おとうさんかおかあさんがお読みになったうえで、「おもしろい」「子どもに教えてやりたい」と思われた箇所をピックアップし、親子団らんの時間の話題にしていただければと思います。

 その本は「地図帳の深読み」(帝国書院2019 1800円+税)というタイトルで、日本地図や世界地図をもとに興味深い話を紹介している、なかなかユニークな内容の本です(オールカラー刷りで見た目も惹きつける要素に富んでおり、内容のおもしろさと相まって楽しめます)。著者は地図研究家の今尾啓介氏です。中学生の頃から地図帳に興味を深め、それがきっかけで地図マニアになり、現在に至るまで地図や地形図、鉄道などに関する著書を多数著しておられます。好きなことに没頭する人生を歩んでおられる誠に羨ましい人物ですね。

 この本の内容ですが、どなたも中学生の頃は地図帳のお世話になったことと思います。その地図帳を改めて細部まで読み込むと、これまで気づかなかった多くの事柄が発見できるというのです。

 今、地図帳を「読む」「眺める」「見る」ではなく、「読み込む」と表現しましたが、これは著者の今尾氏による表現です。「地図帳には一般図だけではなく、宗教や環境、言語など世界情勢を語るのに不可欠なものが主題図で示されているし、国内の各地方図には、海苔から鉄鋼に至る多種多様な名産品がイラストでちりばめられている。凝縮された統計資料からは世界と日本の姿が伝わってきて飽きることがない。回数を重ねるごとに深く読み込めるのが地図帳である」と述べておられます。そうです。地図帳には単に地図が載っているだけでなく、世の中の実態に関する実に様々な情報がぎっしりと詰まっているんですね。

 この本の内容の一部をご紹介してみましょう。興味をもっていただくため、身近な広島に関する著述を取りあげてみました。国道54号線(183号線)を北上し、可部→三入→大林を通過してさらに北へ向かうと上根(かみね)峠にさしかかります。

 この峠を越してしばらく北に車を走らせると、左側に川が見えます。筆者はてっきりその川は瀬戸内海に向かって流れているのだと思っていましたが、何と逆で、中国山地に向かって山陰方面に流れているのです。「低いところから高いところに向かって流れるはずがない」と、何度も目を凝らして川の流れを確かめました。これはどういうことなのでしょうか。その答えはこの本でわかりました。実は上根峠の頂上付近が瀬戸内海と日本海の分水嶺になっていたのです。しかし、すぐ南に瀬戸内海があるのに、どうして山の連なる北へ向かってこの川は流れているのでしょうか。以下は、この本からの引用です。

 ( 前略 )水は重力に従って流れているので、わずかでも高い所へは流れない。それが山を断ち切っているのはなぜだろうか。

 地形学用語で先行谷(せんこうこく)と呼ぶこの「山越えの谷」は、まず川が流れていたところが山になったことにより形成されたものだ。山の持ち上がり方が大きければ水流は変更を余儀なくされるが、山が持ち上がる量よりも川の削る量が勝るのであれば、山はひたすら削られ、川は「根性」で元の流れを維持することになる。たとえ平均して年間わずか1mmであっても、これが千年経てば1m、10万年経てば100mの標高差となるので侮れない。( 中略 )

 中国地方随一の流域面積をもつ江の川(ごうのかわ)も先行谷の代表例だろう。この川の中で最も瀬戸内海に近い国道54号線沿いの広島県安芸高田市八千代町上根付近は広島港からわずか25㎞ほどの近さにもかかわらず、そこから北東に流れて、三次盆地を経由、中国山地を越えながら島根県に入って江津市で日本海へ出る。これもやはり中国山地の隆起量を江の川の浸食量が凌駕した結果だ。

 地図に目を遣ると、確かに川は分水嶺のあたりから北東に流れ、土師ダム(八千代湖)の下あたりで島根県境を源に発した流れと合流し、国道沿いに北東へ向かって流れています。それは上記引用文にあるように、太古の昔から続いた山の隆起と川の流れとのせめぎあいによって生じたものなのでしょう。中国山地の隆起よりも、川の流れを維持する力が勝った結果です。著者はそれを「川は『根性』で元の流れを維持する」と表現しておられます。おもしろいですね。

 この本を読むと、地図を通してたくさんの新たな知見を得たり発見をしたりする楽しさを味わえるでしょう。話題は日本に限らず、世界の様々な地域から取りあげられています。タイトルのみですが、ピックアップしてご紹介してみましょう。

・なぜ四万十川は太平洋を目前にして内陸へ向きを変えるのか
・飛び地は国を越えて―世界の飛び地あれこれ
・山の名は先住民族言語へ―マッキンリーからデナリ
・ひらがなの市名、元の漢字は何だったのか
・市町村合併で消えゆく歴史的地名
・分断された国―ベトナムとドイツ
・半世紀で7割以上消えた?アラル海の今昔
・函館とローマが同じ緯度?
・言語・宗教の色分けから何を読み取るか

 おとうさんおかあさんは、かつて中学校や高校で使用した地図帳を保存しておられますか? 筆者がかつて購入した地図帳のなかには、いわゆる平成の大合併以前のものがあります。その地図と今の地図とを見比べると、地名が随分違っていて、見比べるとおもしろいですね。上記のタイトル例にもありますが、市町村の合併で歴史的地名が失われてしまい、残念な思いに駆られるものも少なくありません。そのいっぽう、「あれ? 横文字を採り入れた市名や地名があるぞ!?」と驚かされることもあります。たとえば、山梨県の南アルプス市や、愛知県のセントレア(国際空港)などです。前者は日本アルプスの南ということで命名されたのでしょうが、セントレアは???  調べてみると、中部を意味するセンターと空港を意味するエアポートを組み合わせた造語のようです。公募で選ばれたそうです。

 ところで、筆者は毎朝起床後に必ず一杯のコーヒーを楽しみますが、そのときに地図帳を手にすることがよくあります。そして、アメリカの50州の名前をいくつ言えるかなどを家族と競ったりして楽しんでいます。日本のサッカー選手が西欧のチームに移籍すると、そのチームの所在地を地図帳で調べたりします。たとえば、ヴィッセル神戸の古橋選手が移籍したセルティックというプロチームは、スコットランドのグラスゴーにあります(このときも、すぐにイギリスの地図で場所を確認しました)。グラスゴーはイギリス第4の都市です(では、トップ3の都市名は?)が、ケルト人(アイルランドの民族)移民の多いことで知られます。「セルティック」とは、綴りを見ると「ケルト人の」という意味合いなんですね。貧困家庭の多いアイルランド移民を支援するのがそもそもの創設の由来だと言われています。

 こんなふうに、小さな発見を導いてくれ、楽しみを味わえるのが地図帳のよさでもありますね。おとうさんやおかあさんには、今回ご紹介した本をまずは手に取ってみていただき、地図帳を読み込む醍醐味や楽しさをお子さんに教えてあげていただきたいですね。無論、わざわざ本を手に入れなくても、この記事をきっかけにして地図帳と親しむ習慣を身につけるだけでも、お子さんの成長にとってよい影響がもたらされることでしょう。

※分水嶺の看板の写真は、ご紹介した本から転写しました。

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相手の目を見て会話することの意味って!?(前回の続き)

2021 年 9 月 14 日 火曜日

 後期の講座が始まりました。広島の中学入試は多くの場合1月に行われますから、受験生に残された期間はあと4~5ヶ月です。いよいよ受験対策の仕上げ学習の段階に入りました。

 後期講座開校直後の9月5日(日)には、「第2回模擬試験」が実施されました。弊社会員以外の受験生も参加され、男女とも4百数十名が志望校合格の目途を立てるべくしのぎを削りました。模擬試験はこの後、10月3日(日)、11月7日(日)、12月5日(日)と、3回実施されます。模試の結果を分析し、各教科の学力の状態に合わせてバランスよく仕上げ学習を行っていきましょう。勝負はこれからです。受験生のみなさん、がんばって健康管理にも配慮しながらベストを尽くしてください!

 さて、前回のブログ記事において、家庭での会話の際に配慮したい事項の一つとして「相手の目を見て話す」ということをお伝えしました。これについては、後で「なぜ相手の目を見ながら話す必要があるのか」についてご説明したほうがよいのではないかと思い直し、急遽今回の記事の話題として取り上げることにしました。

 会話の相手が自分の目を見据えて話してしてきたなら、大概のかたは次のような受け止めかたをするのではないでしょうか。

1.私との会話を大切に思ってくれている。
2.嘘偽りのない気持ちを真剣に話している

 このような印象をもつと、いい加減な返事はできません。また、返事をする側も相手の目をまっすぐに見て言葉を発します。すると、おのずと心を開いた本音の会話が展開されます。子どもであれば、よい会話の手本を学ぶ場にもなるでしょう。

 これは1対1の会話に限りません。よい授業を実践できる先生は、教室の子どもたち全員を丁寧に見渡し、一人ひとりに語りかけるような話しかたをします。自然と子どもたちは先生のほうを見て話を聞くようになります。いっぽう、教室全体がさばけた雰囲気に陥り、先生の話に耳を傾けたり、板書を注視してノートを取ったりする子どもが少ない授業を見てみると、大概は授業での語りかけかたに問題があります。先生の目線が子ども一人ひとりに向けられていません。ただ虚空に向かってものを言っているかのような印象を受けるのです。

 子どもは大人と違って、話し手が自分に向かって話しかけてくれないと、「自分のことだ」と受け止めません(特に低学年児童)。したがって、授業を担当する先生は、子どもの注意を自分に向けさせる必要があります。だからこそ、子ども一人ひとりに目を向けて話す必要があるのです。それなのに、虚空に向かってしゃべっているような話しかたをすると、子どもの注意を引く授業は到底実践できないことでしょう。

 相手の目を見て話すことがもたらす影響について、脳科学の専門家の先生も言及しておられます。ちょっとご紹介してみましょう。

 最近は子どもでも携帯電話をもち、パソコンを使ってコミュニケーションすることもめずらしくありません。( 中略 )しかし、相手の表情や目の動き、声の調子や態度などを直接感じ取ることをしないで、相手の心の内をうまく理解することができるでしょうか。また、自分の気持ちを適切に伝えることができるでしょうか。

 子どもでも相手に直接会い、目を見て話ことでより正確に相手の気持ちを推し量り、自分の気持ちを伝えることができるはずです。たしかに、電話やメールに比べると緊張したり、身構えたりすることはありますが、それでも直接会って話すことのほうが、人間関係をより親密にするチャンスが多いことはまちがいありません。相手に直接会うことでミラーニューロンも活動します。相手の表情や態度を見たり、ことばを聞いたりすることは、自分の脳のミラーニューロンが働いて自分も同じ行動をし、ことばを話している経験をすることになるのです。逆に、もし自分から相手に何かを伝えたいと考えたなら、相手のミラーニューロンを刺激する必要があります。それを効果的に行うには、やはり相手の目を見て話すのがよいのです。

 ことばを通して気持ちや考えを伝えあうには、ことばに込められた感情、意図、真意などを適切につかまなければなりませんが、そうしたこともミラーニューロンの働きによってそれぞれ自分の中で再現されるようにして理解されるからです。

 前回、ミラーシステムについてふれましたが、ミラーニューロンがそのもつ働きを適正に稼働させるうえで、「相手の目を見て話す」ということが随分大きな作用を果たしていることがわかりました。会話の際に、互いが相手の目を見ながら話すと、双方の脳に収められているミラーシステムが稼働し、ただ言葉を伝え合うだけでなく、真に心の交流をしていくことができるようになるのですね。

 今、小学校の低~中学年のお子さん、もしくはそれ以下の年齢のお子さんをおもちのかたは、しつけの効果をもたらすとともに、人との向き合いかたの基本を学ばせるうえにおいても大いに役立つことでしょう。家庭内での親子の会話の際は、「互いの目を見ながら話す」ということを心がけていただきたいですね。

 ただし、会話の全ての時間に相手の目を見続けるということは難しいと思います。それどころか、照れくさいし苦痛を感じる人もおられると思います。お子さんとの会話においても、要所要所、特にしっかりと聴き届けてほしいことを話すときに、お子さんの両腕を手にとって、しっかりと目を見て話すようにするなど、多少のアイデアを採り入れながら可能な範囲で実行してみてはいかがでしょうか。

 このようなご提案をしたものの、すぐさま「今はコロナ禍のさなかにあるのだ」ということを思い出しました。このところ、家庭内感染の増加もとりだたされています。子どもから親への感染事例が少なくないそうです。それを思うと、すぐさま実践するのは難しいと言わざるを得ません。コロナ感染の心配が解消されたらと言う但し書き付きで、ぜひ試していただきたいと存じます。

※上記引用文は、「子どもの脳を育てる教育」永江誠司/著 河出書房新社 によります。

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家庭内会話と子どもの人間形成

2021 年 9 月 6 日 月曜日

 現在、広島県にも非常事態宣言が発出されています。しかしながら、新規感染者の推移を見るとステージ4の水準から脱却しておらず、12日までとされる緊急事態宣言も解除の見通しが立っていません。不自由で我慢を強いられる毎日が続きますが、感染回避に向けて私たち一人ひとりが今できることをしっかりと実行していきましょう。

 長引くコロナ過のもとでの生活のよい点を強いてあげるとすれば、家庭で親子一緒に過ごす時間を十分に確保できることではないでしょうか。子どもにとって、親は目の前にいる身近な手本であり、生活や行動の規範を教えてくれる先生に他なりません。「子どもは親の背を見て育つ」と言われますが、目の前に親がいる、親子で一緒に過ごす、親子でいろいろな会話を交わすということが、子どもの成長にどのような影響をもたらすかを、今回はともに考えてみようと思います。

 子どもが総じて親に似ているのは、「遺伝子を受け継いでいるのだから当然だ」と言えるでしょうが、必ずしもそれだけではありません。子どもは毎日親の行動の様子を観察したり、親との会話で学んだりしています。そのとき、子どもの脳の発話中枢(ブローカ野)とその周辺部にあるニューロンの集団が特有の反応を示すと言われています。親の行動の様子を知覚すると、子どもの脳内でそのパターンを模して同じような動きをするのです(ミラーシステム)。まるで親の行動をなぞるように再生することで、親の行動様式を自己のなかに取り入れていきます。

 なぜ脳がこのような働きをするのかについては、筆者は専門家ではないので詳しくはわかりませんが、目の前で知覚した現象を理解するにあたり、いったん自己の脳内で同じことを再生するステップが必要なのだと思われます。親が手を伸ばしたり、指し示したり、腕を組んだり、頬を膨らませたりするたびに、このニューロン群が反応し、目の前の親のしぐさや行動を模して活動を始めます。

 そこで気をつけたいのは、親の日頃のふるまいです。子どもの言うことに耳を貸さず、いつも一方的に命令をして親の言うとおりにさせていると、子どもは成長するにつれて反発するようになるでしょうが、そのいっぽう、自分が見てきた親のそういった振る舞い以外の方法を学んでいませんから、結局親と同じような行動をとる人間になっていく可能性が高いのです。家庭内暴力を受けて育った子どもが、やがて親になると同じようなふるまいをするのは、そういう理屈に基づくのでしょう。

 もしも親が子どもに対して「こうあってほしい」という期待に沿った振る舞いをしたならどうでしょう。おそらく子どもは、親の期待する行動様式を身につけるのではないでしょうか。

 上記イラストで示した例は、これからの社会で求められるコミュニケーションの様式をもとにあげてみました。グローバル化が叫ばれて久しい年月が経過していますが、相変わらず「英語ができないと外国で通用しない」という考えがはびこっているようです。無論、外国語に堪能であることは大変重要な要素ですが、外国に長く滞在し、活躍して来られたかたの著述を読むと、もっと大切なことがあるということに気づかされます。それは、自分をしっかりとアピールすることであり、他者に共感したり、他者の気持ちを汲み取って行動したりすることです。

 たとえば、英語がペラペラの男性と、せいぜい片言しか話せない男性が、外国の同じ職場で働いていました。当然、英語の堪能な男性のほうが喜ばれ人気者になるのだろうと思いきや、英語が苦手な男性のほうに外国人の関心が向けられ、話をしたいと思われたそうです。その理由は、相手の気持ちを汲み取り、適切な行動やフォローができるからでした。英語力の足りない点は、身振りや手ぶり、表情などで補えますが、相手への配慮や心遣いを行動に移す能力はそうはいきません。その意味では、外国語習得以前の当たり前のことをしっかりと身につけることこそ、グローバル社会で通用する人間になるための条件と言えるのではないでしょうか。

 家庭で毎日繰り返される会話は、子どもの人間形成や対人関係調整能力の育成に多大な影響を及ぼします。その意味において、「わが子とどんな会話を交わすか」ということの重要性について、もっと強い自覚をもつべきでしょう。しかしながら、そうかと言って大層なことを考えて会話する必要はありません。親として大切にしたいことを、自然体で実行すればよいのだと思います。上記のイラストで示した例もいくらか参考にしていただけるでしょう。

 進学塾のブログで上記のようなことをお伝えすると、「おたくは塾でしょ?」といぶかしく思われるかもしれません(実際、私学の先生からそういう指摘を受けたことがあります)。「塾の仕事は子どもを合格に導くことだ」というのが一般通念ですから、当然と言えば当然かもしれません。しかしながら、学力は他者との関係性を上手に保ってこそ正当に評価されます。ただ学力に秀でている、学歴が高いというだけでは世間で通用しません。そのことを保護者の方々は十分ご承知でしょうが、受験での合格に目を奪われているうちに、いつの間にか他の重要要素が忘れられてしまうこともあります。学を修めることと、人間性を磨くこと、この二つのバランスこそ、人生を有意義に歩んでいくうえで重要なことではないでしょうか。だから弊社は、敢えて教育に関わる要素にも言及しているのです。

 さて、最後に「親子の会話が大事なのはわかった。でも、会話の際に何を話せばよいか思い浮かばない」というかたもおありでしょう。「今日何があったのか」や、「勉強はどうしてる?」などを話題にすると、話は盛り上がらないし、下手をすると子どもが直に口を閉ざしてしまいかねません(無論、こういった話題の会話も必要ですが)。それよりも、親子それぞれの趣味やスポーツ、プロのサッカーチーム・野球チーム、ニュースネタ、アニメ、読書、受験勉強で扱う理科や社会のネタ、好物の食べ物、料理など、親子間で話が盛り上がりそうなものをとりあえずは話題に組み入れてもよいと思います。何か、おたくの家庭ならではの楽しい話題に気づかれましたか?

 家庭内会話こそ子どもの人間を育む場。そのことを念頭に置き、会話のなかに親の愛情をたっぷりと注ぎながらやりとりしてみてください。

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