家庭内会話と子どもの人間形成

2021 年 9 月 6 日

 現在、広島県にも非常事態宣言が発出されています。しかしながら、新規感染者の推移を見るとステージ4の水準から脱却しておらず、12日までとされる緊急事態宣言も解除の見通しが立っていません。不自由で我慢を強いられる毎日が続きますが、感染回避に向けて私たち一人ひとりが今できることをしっかりと実行していきましょう。

 長引くコロナ過のもとでの生活のよい点を強いてあげるとすれば、家庭で親子一緒に過ごす時間を十分に確保できることではないでしょうか。子どもにとって、親は目の前にいる身近な手本であり、生活や行動の規範を教えてくれる先生に他なりません。「子どもは親の背を見て育つ」と言われますが、目の前に親がいる、親子で一緒に過ごす、親子でいろいろな会話を交わすということが、子どもの成長にどのような影響をもたらすかを、今回はともに考えてみようと思います。

 子どもが総じて親に似ているのは、「遺伝子を受け継いでいるのだから当然だ」と言えるでしょうが、必ずしもそれだけではありません。子どもは毎日親の行動の様子を観察したり、親との会話で学んだりしています。そのとき、子どもの脳の発話中枢(ブローカ野)とその周辺部にあるニューロンの集団が特有の反応を示すと言われています。親の行動の様子を知覚すると、子どもの脳内でそのパターンを模して同じような動きをするのです(ミラーシステム)。まるで親の行動をなぞるように再生することで、親の行動様式を自己のなかに取り入れていきます。

 なぜ脳がこのような働きをするのかについては、筆者は専門家ではないので詳しくはわかりませんが、目の前で知覚した現象を理解するにあたり、いったん自己の脳内で同じことを再生するステップが必要なのだと思われます。親が手を伸ばしたり、指し示したり、腕を組んだり、頬を膨らませたりするたびに、このニューロン群が反応し、目の前の親のしぐさや行動を模して活動を始めます。

 そこで気をつけたいのは、親の日頃のふるまいです。子どもの言うことに耳を貸さず、いつも一方的に命令をして親の言うとおりにさせていると、子どもは成長するにつれて反発するようになるでしょうが、そのいっぽう、自分が見てきた親のそういった振る舞い以外の方法を学んでいませんから、結局親と同じような行動をとる人間になっていく可能性が高いのです。家庭内暴力を受けて育った子どもが、やがて親になると同じようなふるまいをするのは、そういう理屈に基づくのでしょう。

 もしも親が子どもに対して「こうあってほしい」という期待に沿った振る舞いをしたならどうでしょう。おそらく子どもは、親の期待する行動様式を身につけるのではないでしょうか。

 上記イラストで示した例は、これからの社会で求められるコミュニケーションの様式をもとにあげてみました。グローバル化が叫ばれて久しい年月が経過していますが、相変わらず「英語ができないと外国で通用しない」という考えがはびこっているようです。無論、外国語に堪能であることは大変重要な要素ですが、外国に長く滞在し、活躍して来られたかたの著述を読むと、もっと大切なことがあるということに気づかされます。それは、自分をしっかりとアピールすることであり、他者に共感したり、他者の気持ちを汲み取って行動したりすることです。

 たとえば、英語がペラペラの男性と、せいぜい片言しか話せない男性が、外国の同じ職場で働いていました。当然、英語の堪能な男性のほうが喜ばれ人気者になるのだろうと思いきや、英語が苦手な男性のほうに外国人の関心が向けられ、話をしたいと思われたそうです。その理由は、相手の気持ちを汲み取り、適切な行動やフォローができるからでした。英語力の足りない点は、身振りや手ぶり、表情などで補えますが、相手への配慮や心遣いを行動に移す能力はそうはいきません。その意味では、外国語習得以前の当たり前のことをしっかりと身につけることこそ、グローバル社会で通用する人間になるための条件と言えるのではないでしょうか。

 家庭で毎日繰り返される会話は、子どもの人間形成や対人関係調整能力の育成に多大な影響を及ぼします。その意味において、「わが子とどんな会話を交わすか」ということの重要性について、もっと強い自覚をもつべきでしょう。しかしながら、そうかと言って大層なことを考えて会話する必要はありません。親として大切にしたいことを、自然体で実行すればよいのだと思います。上記のイラストで示した例もいくらか参考にしていただけるでしょう。

 進学塾のブログで上記のようなことをお伝えすると、「おたくは塾でしょ?」といぶかしく思われるかもしれません(実際、私学の先生からそういう指摘を受けたことがあります)。「塾の仕事は子どもを合格に導くことだ」というのが一般通念ですから、当然と言えば当然かもしれません。しかしながら、学力は他者との関係性を上手に保ってこそ正当に評価されます。ただ学力に秀でている、学歴が高いというだけでは世間で通用しません。そのことを保護者の方々は十分ご承知でしょうが、受験での合格に目を奪われているうちに、いつの間にか他の重要要素が忘れられてしまうこともあります。学を修めることと、人間性を磨くこと、この二つのバランスこそ、人生を有意義に歩んでいくうえで重要なことではないでしょうか。だから弊社は、敢えて教育に関わる要素にも言及しているのです。

 さて、最後に「親子の会話が大事なのはわかった。でも、会話の際に何を話せばよいか思い浮かばない」というかたもおありでしょう。「今日何があったのか」や、「勉強はどうしてる?」などを話題にすると、話は盛り上がらないし、下手をすると子どもが直に口を閉ざしてしまいかねません(無論、こういった話題の会話も必要ですが)。それよりも、親子それぞれの趣味やスポーツ、プロのサッカーチーム・野球チーム、ニュースネタ、アニメ、読書、受験勉強で扱う理科や社会のネタ、好物の食べ物、料理など、親子間で話が盛り上がりそうなものをとりあえずは話題に組み入れてもよいと思います。何か、おたくの家庭ならではの楽しい話題に気づかれましたか?

 家庭内会話こそ子どもの人間を育む場。そのことを念頭に置き、会話のなかに親の愛情をたっぷりと注ぎながらやりとりしてみてください。

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