中学受験のほんとうの価値はどこにある? その1

2022 年 3 月 13 日

 新年度の講座が開講しましたが、まん延防止等特別措置は解除されたものの、新規感染者の数は高止まりの様相を呈しており、決して油断できません。朝の通勤時間帯のバスは解除前よりもかなり込んでいるように感じます。決して気を緩めることなく、感染防止への配慮を怠ることなくなく継続してまいりましょう。弊社の活動も、教室での学習指導と併行してオンラインでも行い、感染防止に努めながら維持してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、今回は受験生の保護者の方々にもっていただきたい視点についてお伝えしようと思います。受験する理由は、どのご家庭も「進学の目的を叶えるため」「合格のため」とお答えになるでしょう。それは当然のことです。ですが、稀に違った視点からお子さんを弊社に通わされた保護者もおられます。その意図について考えてみたのですが、その結果中学受験のもつ別の大きな可能性に気づかされることになりました。そこでこのブログで取り上げ、ともに考えてみていただこうと思ったしだいです。

 だいぶ前のことです。成績は良好で難関校への合格も視野に入る男の子がいたのですが、入試直前まで通われていたのに受験はされませんでした。では、何のために通ってくださったのでしょうか。うろ覚えですが、お子さんの学習に向けた取り組みを見て、また地域のトップレベルの中学受験生に遜色のない学力が身についたことを確かめ、「先の見込みは十分に立った」と判断されたようでした。

 その保護者がお子さんを弊社の教室に通わされたのは、わが子の頭脳を鍛えておく、あるいは将来高いレベルの学問を修めるための素養を身につけておくという意図をおもちだったのでしょう。親が安易に手を差し伸べることなく(助言や励ましはされたと思います)、わが子の学ぶ姿を見て判断されたとしたら、その試みは慧眼であると思わずにはいられません。児童期後半までの学びの体験こそ、将来に向けた可能性の基盤を築いてくれるからです。

 もしも現会員のご家庭の保護者が、合格のための学習とは違った視点に立ってお子さんの学ぶ様子を見守り応援されたなら、「合格」よりも価値のある宝物を手にすることもできるでしょう。「二兎を追うもの一兎を得ず」という諺がありますが、近年の中学受験合格を巡る競争はかつてとは比較にならないほど落ち着いたものになっています。受験勉強を「合格」のための手段に限定してとらえるのではなく、将来の大成に向けた布石を打つ場としてもとらえるほうが、お子さんにとってはるかに有益だと思います。そういった受験で最高峰の中学校に合格することも、今なら十分に可能なのですから。

 では、中学受験を通して得られる「合格以外の価値」とは何でしょうか。今から、それを簡単にご説明してみようと思います。

 

① 学問に適した頭脳を形成することができる。

 児童期の中盤から終盤にかけての時期は、子どもの学びのポテンシャルがおおよそ定まる時期にあたります。この時期に「知識」を得ることと「思考」することをくり返す体験は、子どもの頭脳を著しく成長させてくれます。

 高いレベルの学問を修めるにあたり、知識の量は必須ですから、覚えることも非常に大切です。しかし、それだけでは味気ないし使える頭脳は形成されません。小学生の子どもは、「なぜだろう?」「どういうことなのだろう?」「知りたい!」などの欲求に突き動かされると、時間を忘れて夢中になります。知識を得ることと思考すること。両方のバランスが重要でしょう。弊社の「基礎力養成期(4年生~6年生の初め)」の学習は、このような勉強をするうえで最適な環境と言えるでしょう。覚えることもテスト対策で求められますが、考えて解決することを要求する課題もたっぷり用意されています。

 ここで留意したいのは、思考するには手もちの知識がベースになるということです。したがって、知識の獲得を「詰め込み」と同一視しないことが重要です。「いろいろなことを知っている」という意味で知識をとらえたなら、覚えることも大切な勉強の一部なのですね。ただし、なかには覚えるにも考えて解き明かすにも手間どるお子さんもおられるでしょう。しかし、人間の脳はうまくできています。その努力を惜しまず取り組み続けるうちに、少しずつ脳の神経ネットワークが順応(シナプス結合をくり返す)し、やがては情報処理に長けた頭脳ができあがっていきます。中学受験の準備学習は、知識の量を増やし、考える力を鍛えるうえで、ちょうどよい負荷を脳に課してくれる、学習脳の成長にうってつけの場になるのですね。

 

② ものごとを実行するうえで必要な段取り力が備わる

 私立一貫校の先生にお聞きすると、宿題を滞ることなく提出している生徒さんと、提出が滞りがちな生徒さんとがいます。提出状況の差は、時間が経つほどに学習のはかどりに影響を及ぼします。そして、1年もすれば大きな学力差となって現れます。力をつけた生徒さんは学習のレベルアップに対応できますが、宿題を溜める生徒さんは大概ついて行けなくなります(フォローが大変なようです)。やがて、めざす大学の水準に大きな隔たりが生じていることでしょう。もったいない話です。

 大人でもそうですが、少し面倒なことをやらねばならないとき、つい後回しにして直に首が回らない状態に至りがちな人がいます。後手を踏むとどうなるかわかっているのに、段取りをつけて準備することができないタイプの人です。そんな人のなかには、「もはや凝り固まった自分の性分だ」とあきらめているかたもおられるかもしれませんね(努力しだいでやり直しは利きますが)。

 何度もお伝えしたかと思いますが、児童期後半は、子どもたち一人ひとりの性格的傾向が定まっていく時期にあたります。だからこそ、この時期の行動や習慣は何よりも重要なものであり、そこに心血を注ぐべきだと思います。たとえば、行き当たりばったりの勉強でテストに備えることをくり返しているか、テストまでの日数を念頭に置いて段取りよく準備をする習慣を身につけるかは、テスト成績の違い以上に大きな差をもたらすことになります。少し大げさに言えば、人生の歩みにすら影響を及ぼすのです。

 高校や大学での学業成績に違いが生じるだけでなく、社会人になってからの仕事の質にも影響します。調査資料の作成、プレゼンの準備や仕上げ、商品開発までのプロセス等々、あらゆる仕事で段取りがよいかどうかによる成果の違いが出てきます。

 今なら、どのお子さんにも段取りをつけて準備する姿勢を磨く余裕がありますし、それによって学習のクオリティを高めることができます。授業前の予習、授業後の復習、副教材の家庭学習、1週間のまとめ、テスト前のおさらい、テスト後の振り返りややり直し、学力の現状チェックなど、学習に関わる事柄全てにおいて、取り組む時間や優先順位などを自分で考えて決め、それらを実行に移す努力をしていきましょう。はじめはうまくできなくても、1年後にはお子さんが随分と成長していることに気づかれると思います。

 

 児童期に時間やエネルギーを投入した事柄は、人間としての生きかたや行動様式を築くうえで大きな影響を及ぼします。保護者におかれては、何がわが子の将来の歩みによい影響を及ぼすかをお考えいただき、子どもの望ましい成長に資する受験生活の実現に向けてバックアップしてあげていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

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カテゴリー: アドバイス, 中学受験, 勉強の仕方, 子どもの発達, 家庭での教育, 家庭学習研究社の理念

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