2022 年 4 月 のアーカイブ

子どもの将来を左右する重要な資質とは!?

2022 年 4 月 24 日 日曜日

 もうすぐGW(ゴールデンウィーク)がやってきます。毎年、弊社はこのGWに合わせて一週間ほど休講とさせていただいています。弊社の指導担当者は仕事柄年間を通じてまとまった休暇がなかなか取れません。そこでGWの休講期間を、リフレッシュのための休暇に充てているしだいです。ご了承のほどお願いいたします。

 子どもたちも、この時期は家庭行事などいろいろとあり、勉強に集中しづらいと思います。一息つきつつも新年度の開講からこれまでを振り返り、成果と反省点を洗い出しておきましょう。講座の再開後にはより成果のあがる学習ができるよう、心づもりしていただきたいですね。私どもも気合を入れて指導にあたってまいる所存です。

 さて、今回の話題はどちらかというと小学校の低~中学年児童の保護者に向けた内容となっています。弊社にお子さんを通わせている保護者の方々はどなたも教育熱心です。学問をきちんと修め、さらに人間としてしっかりした成長を遂げ、有意義な人生を歩んでほしいと願っておられることでしょう。そのための中学受験であるのは言うまでもありませんね。

 さて、このようなよい人生を歩んでいる人間は、ある種の共通項でくくれる特徴を携えていると言われます。それは何でしょうか。考え得る事柄を挙げるといろいろとあります。勤勉であること(努力家であること)、豊かな発想力をもっていること、粘り強い取り組みができること、信念を曲げないこと、行動に計画性があること、集中して物事に取り組めること等々、いくらでも頭に浮かんできます。ですが、今回挙げる事柄は、学問に限らず人生の成功者になる確率がきわめて高い要素です。それは何かというと、一言で表現するのは難しいのですが、「目先の楽しさや利益よりも、自分にとってよりよい結果を得ることを志向し、自分の行動を抑制しコントロールできること」と申し上げれば、おおよそご理解いただけるでしょうか。

 端的な事例を挙げてみましょう(以前もご紹介したことがあります)。幼児に、「ここにあるお菓子を一つあげるよ。食べたかったらすぐに食べてもいいんだよ。でも、私が戻ってくるまで食べるのを我慢したら(約15分程度)、同じものをもう一つあげるよ」と言ったとしたら、その幼児はどう反応するでしょうか。これは何十年も前にアメリカの心理学者が行った有名な実験です。この実験のために多数の幼児が集められましたが、大半の幼児は目の前のお菓子の誘惑に負けて食べてしまったそうです。しかしながら、一部の子どもはすぐに食べたいという気持ちを我慢することができ、ご褒美としてもう一つお菓子を手に入れたそうです。

 どうやって我慢できたのかというと、「あのお菓子はまずいに決まっている」と自分に言い聞かせたり、他の楽しいことに気持ちを逸らせてお菓子の誘惑に対抗したりと、子どもなりに思考し、工夫を凝らしたのでした。この実験の結果が世界中に流布したのは、目の前のお菓子を我慢できた子どもたちのその後、それも20年後30年後といった長いスパンでの追跡調査が行われたためであろうと思います。そして、驚くべきことが確認されました。目先の誘惑をコントロールできた子どもは、学問的にも優秀なレベルに到達する確率が高く、さらに社会に出てからも高収入で高い地位を得ている人物が多かったのです。この実験の結果は、自己抑制、自己制御がうまくできることが、人生の成功者になるうえで大きな条件となることを教えてくれるでしょう。

 これは大人の世界でも言えることですが、目先の利益に走りがちな人、当面の欲求を押さえることができない人は、何をやっても中途半端、もしくは失敗を繰り返しがちで、自分が思い描く理想に少しも近づくことができません(かく言う筆者も反省しなければなりません)。目先の小さな利益に目もくれず、より多くの成果を得るために自分の行為を適正にコントロールできる。そういった人間にわが子が育つよう、親は何とかして導いてやりたいものですね。なにしろ幼児期にして、すでにそういった人間に育ちつつあるか否か、その兆候が見られるのですから。親がわが子のためにサポートできる今のうちにがんばってみようと思いませんか?

 「でも、うちの子はもう小学生。ちっとも我慢強くないんです」「目先のゲームや遊びにかまけてばかり」とおっしゃる保護者もおありかもしれません。しかし、「まだ小学生なのだから何とかなる!」という発想をしていただきたいですね。あと何年か後、わが子が中学生になってしまったら、もはや親は何もしてやれないのですから。

 平凡な例で恐縮ですが、次のような関わりかたをしてみたらどうでしょう。

 陳腐な例で申し訳ありません。より多くの成果をあげるためにどうしたらよいか。それを子ども自身に考えさせないと、おそらくこういった姿勢は身につかないでしょう。つまり、「……しなさい」「こうやるのよ」などの命令や指示では効果を引き出せません。何につけても、子ども自身に考えさせ、実行の様子を見守り、結果を子ども自身に引き取らせる。そういった接しかたが望ましいのではないでしょうか。

 結果が伴わなくても叱るのではなく、反省を強要するのでもなく、「どうしてうまくいかなかったんだと思う?」などのように、親は期待をし、関心をもっていることを伝えつつも、結果が得られなかった理由を子ども自身に考えさせ、再びやらせてみるのです。そういうことをくり返せば、「上手くいかないのには原因がある」「自分のやりかた次第で結果が変わってくる」という自覚が生まれます。

 どうやったらもっとよい結果が得られるか。どうすることが自分にとって満足できるのか。それを考え、自分で工夫する姿勢が身についたなら、結果にこだわりをもつようになるし、「自分の考えが甘かった」という反省も生まれます。やがては、人に指図されてやる受け身の勉強をすることが、とうてい許せない人間になっていくのではないでしょうか。

 大人(親)は忙しく暮らしています。わが子の子育てに関しても、ゆっくりと時間を割くのが難しい人もおありでしょう。そこで、つい手っ取り早く指示や命令でことを済ませようとしがちです。しかしながら、子どもの毎日の生活は、やがて大人になったときのための大切な勉強の場、訓練の場です。自分にとって満足のいく結果、より大きな成果につながるのはどうすることなのかを、自分で考え、失敗し、試行錯誤しながらより望ましいやりかたを自分で獲得する経験を大切にしてやるべきではないでしょうか。

 学校での勉強も、弊社に通っての勉強も、さらには好きなスポーツや習い事も、向上をめざして自分で考え工夫する経験を積み重ねていけば、目先の僅かな利益を得る喜びよりも、辛抱してより大きな成果を得る喜びのほうがずっと大きく価値のあることだと気づくのが人間というものです。おたくのお子さんも、ぜひそのような人間へと成長されることを願っています。

 今、親がわが子にしてやるべきことは何かを考え、実行していきましょう!

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子どもが勉強する理由って?

2022 年 4 月 17 日 日曜日

 学校の新学期がスタートしました。新小学1年生の子どもたちにとって、小学校は初めて足を踏み入れる未知の世界です。建物の規模も、グランドの広さも、子どもの数も、幼稚園の頃とは全く変わります。「小学校はどんなところだろう?」という期待と、「ちゃんとやっていけるかな?」という不安とが交錯し、胸をドキドキさせながらの入学式だったことでしょう。あれからおよそ1週間が経ちましたが、お子さんは新たに始まった小学校生活を受け入れ、楽しく通っておられるでしょうか?

 また、2~6年生の子どもたちは、一つ上の学年に進級したことで、「お兄さん、お姉さんになったんだ」という自覚も生まれたことでしょう。この進級という経験を繰り返し刻んでいくことで、少しずつ年長者としての自覚を高めていくわけですね。特に6年生の子どもたちは最上級生になりましたから、ことさら意識の変化も大きいことが想像されます。弊社の教室に通う6年生の場合、来年の中学受験も視野に入っていますから、一段と引き締まった面持ちで新学期を迎えられたことでしょう。

 さて、今回は子どもたちが勉強する理由とはどのようなものかを、大規模なアンケート調査の結果を通して確かめてみようと思います。この調査は、ベネッセ教育研究所が2004年11~12月に実施したものです。調査からかなり年数が経っていますが、十分参考になる資料だと思います。なお、調査対象者の住まいが都市部か農村部か、教育環境の状態の違い、サンプル数など、調査結果の変数となる要素は十分に吟味されています。詳しくは掲載しませんのでご了承ください。では早速資料をご覧ください。

勉強する理由(学校段階別)※グラフ画像をクリックすると拡大表示されます

 図表の右手やや下側に説明がありますが、各3本の棒グラフのうち、上が小学生、真ん中が中学生、下が高校生の回答です。この資料をご紹介したのは、子どもが勉強する理由をどう答えているかがある程度わかれば、子どもへの望ましい接しかたも見えてくるだろう思ったからです。

 資料を上から順に見ていきましょう。「問題が解けるのがうれしいから」や「いろいろな考え方を身につけることができるから」という回答は、自己向上心の表れであり、年齢に関わりなく純粋で望ましいものです。小・中・高いずれの段階においても、一定数の子どもが勉強する理由としてあげているのがうれしいですね。さらに、小学生の比率が高い点が注目に値します。解けたときの喜びや達成感、新しい知識を習得することの喜び。これらをわが子が実感している瞬間を見逃さないようにしましょう。そんなときには、すかさず喜んだり、感心したりするなど、親がどう感じているかを子どもに伝えてやるのです。きっとお子さんは励みを得ると思います。

 つぎに「小学生(中学生)(高校生)のうちは勉強しないといけないと思うから」という理由は、どの学年段階でもほぼ同じぐらいの数値を示しています。しかも、勉強に向かう動機としてトップランクに位置づけられます。「勉強はしなくてはいけないもの。必要なもの」という意識は、どの年代の子どもにもあるのですね。その昔、筆者はわが息子に、「お前は仕事をしてお金を得る心配はしなくてよい。その代わりに、お前のすべき仕事は勉強だ。仕事をするための準備が勉強なんだからね」と伝えたことを思い出します。あまり効果はありませんでした。すでに自覚しているのに、親からそんなことを言われたら子どもは説教臭く感じてしまうでしょう。だから逆効果を招いたのかもしれません。今更ですが、反省しています。

 「勉強しないと頭が悪くなるから」という理由は、小中学生よりも高校生の数値が低いのが気になります。すでに自分の能力の限界を感じており、「今さら」と思ってしまうのでしょうか。どの年齢期の子どもにしろ、こういったネガティブな考えではなく、自己向上心にもとづく学びを実現してほしいものです。児童期の子どもには、親子一緒に考えたり調べたりする機会を多く設け、疑問を解決する喜びや楽しさを子どもに味わわせてやりましょう。知識を拡充していけばいくほど未知の事柄への探求心が強まり、以前の自分よりも物知りになることを、子どもに実感させてやりましょう。

 賞罰(ほめられる・叱られるなど)が勉強の動機になるのは概ね小学生までです。特に児童期前半までの子どもには大いに効果があります。このタイミングをうまく生かしたいですね。ただし、ほめられるほうが効果的だということも念頭に置いておきたいところです。「おとうさんに叱られて目が覚めた」と、発奮する子どもは大概男の子です。また、それはおとうさんを尊敬し、信頼している(親がなぜ厳しいのかを分かっている)場合に限ります。もしも子どもがおとうさんの日頃のふるまいを批判的な目で見ていたなら、逆効果を招く恐れもあるでしょう(ひと言多かったかもしれません。ご容赦を)。

 ライバルとなる友人に恵まれるとやる気が高まるのは、どの年齢段階の子どもにも言えることのようです。ただし、なかなかそういう機会に恵まれるケースが少ないことが、この資料の結果からもうかがえますね。ただし、弊社のような進学塾は、その点恵まれています。目の前によい手本がたくさんいるのですから。この環境が大いに作用することを願っています。

 進学目標を達成したいという意欲が勉強の動機になる。これを多くの保護者が望んでおられます。ただし、中学受験の場合は小学生が受験生ですから、先を見通しそれを励みに勉強に向かうということは難しいのが現実です。将来的な観点よりも、その学校の建物や行事を見る、先輩のふるまいを見るなど、学校の魅力に直接触れる体験をさせ、子ども目線での憧れや目標を見つけさせるとよいのではないでしょうか。

 最後の項目ですが、さすがに高校生のポイントが高くなっています。ですが、高校生の段階で「つきたい仕事につく」ことを励みに勉強に打ち込む子どもがこんなにも多いのには驚きました。少し冷めた見かたになるかも知れませんが、「まあそう」と回答した子どもが多かったのかもしれません。ともあれ、小学生にしても6割の子どもが「とてもそう」もしくは「まあそう」と回答しています。親子で、将来のことについて話し合う、子どもに将来の夢を語らせる。そういった機会をときどきつくるとよいのかもしれません。これは、どちらかというとおとうさんに期待したい役割ですね。

 以上、駆け足で見てきましたが、「わが子にもっとがんばってほしい」と願っておられる保護者の方々の参考になれば幸いです。勉強に向かう姿勢の向上も、毎日の親の関わりの積み重ねによって随分変わってきます。現状を嘆いておられる保護者がもしおられれば、もう一度これまでの関わりを振り返り、「今からわが子のためにがんばってみよう!」と奮起していただければ嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

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「オンライン‟親子”セミナー」のご案内 (会員生向け行事)

2022 年 4 月 9 日 土曜日

 いよいよ小学校の新学期が始まりました。進学塾は、中学校の入学試験の実施時期を視野に入れ、早々と2月頃に新年度の講座を開講します。ですが、学校が新学期を迎えてこそ、学習塾や子どもたちの雰囲気も新しい年度の様相を呈してくるものです。会員児童のみなさんには、「一つ上の学年になったのだ」という実感を胸に、これまでよりも引き締まった気持ちで勉強に向かっていただきたいですね。

 さて、弊社は昨年11月に「オンライン‟親子”セミナー」と銘打った新しい催しを開催しました。内容は、広島の代表的な男女の私立一貫校である広島学院とノートルダム清心の魅力をいくつかの視点に立ってご紹介するもので、「学校をより深く知る」「受験生の意識を高める」ことが主な目的でした。昨年は、新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、学校説明会の開催を断念された学校が出てきました。それも私学を代表する有力校でしたので、「学習塾として何かできないか」と思ったのが催しを開催するきっかけでした。

 ただし初めての試みであり、急ごしらえかつ手探りの状態でしたので、「広島学院」と「ノートルダム清心」の2校に絞っての開催としました。また、そのような事情もありましたので、弊社の会員家庭のみを対象とすることにいたしました。告知をすると、受付初日すぐに予定していた数の申し込み数を超えました。そのため、急遽定員を増やすこととなりました(両校ともに約200家庭が申し込まれました)。

 不安を抱えての実施でしたが、先生がたが十分な準備をしてよい話をしてくださったおかげで、好評をいただきました。また、「もっと多くの学校の紹介を」「公立の一貫校もやってほしい」などの声も多数いただきました。そこで、今年はできる限り多くの学校をご紹介することにしました。ただし、まだ催しとしての見通しが確定していませんので、当分は会員家庭のみを対象として実施する予定です。ご了承ください。

 今年の第一弾は、「広島市立広島中等教育学校」です。みなさん、この学校のことをご存知ですか? 広島市安佐北区の桐陽台という団地の一角にある、完全6か年一貫教育を実践する公立学校です。公立一貫校というと、中学だけでなく高校からも募集する「併設型(県立広島中学校 同高等学校など)」と、中学校からのみ募集する「中等教育学校」が主要な形態です。今回ご紹介するのは後者ですが、同校はもともと広島市立安佐北高等学校でした。それが併設型一貫校の広島市立安佐北中学校・高等学校に衣替えされました。そしてさらに、平成26年度から広島市立広島中等教育学校に変わりました。この学校がまだ十分一般に認知されていない理由の一つもそのあたりにあるのだと思います。

 筆者の住まいはこの学校の近隣にあり、学校の変遷を目の当たりにしてきました。すばらしい学校になりつつあります。生徒さんの立ち居振る舞いや学校の雰囲気を見れば一目瞭然です。放課後の時間帯に、同校の校舎や校庭が見渡せる道路を歩いていると、スポーツ系の部活の活気ある練習風景が目に入ったり、ブラスバンドの元気な演奏練習の音を耳にしたりします。本催しを通じて同校に興味をもたれたなら、ぜひ一度学校を実際に見に行ってみていただきたいですね。今回の催しが、同校のすばらしさにふれるよい機会になることを願っています。

 どの中学校に縁ができるか。今の段階では誰にもわかりません。だからこそ、今のうちに進路として候補となり得る学校の特徴やよさに触れておくべきではないでしょうか。最終的にどの中学校にするか迷ったとき、事前に入手している情報があると大いに役立ちます。

 私立か、公立か、それとも国立か。中高一貫の学校はいろいろ選べます。ぜひ今回のセミナーに参加いただき、お子さんと一緒に広島中等教育学校という完全6か年一貫の公立学校の魅力を発見してください。

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朝勉強・朝読書のススメ

2022 年 4 月 4 日 月曜日

 春の心地よい風が頬を伝わるこの頃です。“春眠暁を覚えず”という言葉がありますが、エアコン要らずの快適な春の時期はぐっすりと眠れるし、いつまでも寝床で惰眠をむさぼっていたくなるものです。そんな折、今回は「早起きをして勉強や読書すると、成果が上がりますよ」というお話です。今どきの子どもは宵っ張りが多く、「そんなの、うちの子には無理!」と撥ねつけられそうですが、何事も習慣づけをすれば定着するものです。さらには、おとうさんやおかあさんに実行していただくこともできるでしょう。この記事をお読みいただき、「やってみよう」と思われたならうれしいです。

 お茶の水女子大学名誉教授の外山滋比古氏(1923‐2020)は、実に多くの著書を残しておられますが、晩年に出された著書で、「朝は人間がものを考えるうえでもっとも適した状態である」と述べておられます。その理由ですが、睡眠中に脳内の中途半端な記憶が削り落とされるため、朝は頭がすっきりとした状態にあるからです。いっぽう、夜はその日に脳に刻まれた情報がいっぱい混乱した状態で詰め込まれています。したがって、知識を収めたり、ものごとを考えたりするうえでふさわしいとは言えません。つまり、朝のほうが勉強にとってよい条件が整っているわけです。

 外山氏によると、昔から朝のほうがものを考えるうえで適していることに気づいていた人が少なくなかったようで、その事例をいくつかあげておられます。いずれもなかなか興味深い事例ですので、ちょっとご紹介してみましょう。イギリスの詩人、ウィリアム・ブレイクの詩につぎのような一節があります。

朝、かんがえ(Think in the morning)
ひるは、はたらき(Act in the noon)
夕がたに食し(Eat in the evening)
夜は眠れ(Sleep in the night)

 これは、朝の時間がものを考えることに最も適しているのだから、何よりもそれを優先するべきだということなのでしょう。

 また、同じくイギリスの小説家、ウォルター・スコットという人物は、難しい解決困難な問題に悩まされたとき、周囲の人たちに「明朝になれば、いい考えが浮かんでくるよ」とよく言っていたそうです。これは根拠のないことではないようで、外山氏は「夜寝ているうちに名案や妙想が用意されることを、この詩人は経験によって知っていたと思われる」と述べておられます。ただし、「その夜に、大働きをするのが忘却であることまでは、スコットはあるいは知らなかったかもしれない」とも述べておられます。前述のように、忘却によって役に立たない知識をふるいにかけられると、頭がすっきりとし、創造的な思考が可能になります。この詩人はそこまでは知らなかったものの、少なくとも「朝の時間帯は頭がよく働くことを経験的に知っていたということのようです。

 みなさんは、朝廷という言葉をご存知ですね。(漢字文化圏の君主制国家の)政治を執り行う組織や建物を言いあらわします(例:大和朝廷)が、この朝廷という言葉の由来も、朝は頭が働いて仕事がはかどるということと関係が大いにあるようで、前出の外山氏はつぎのようなことを述べておられます。

 大昔、中国の役所は、朝、日が昇るのとともに開始されたという。それで‟朝″廷なのである。われわれは、そういう故事を知らずに、朝廷ということばを使ってきたが、朝の仕事は、正確で迅速に処理されることを知った人たちの、知恵である。現代は、朝遅く仕事にかかり、そろそろ眠ってよい時間になって、頭を使うのを勤勉のように考える。

 “朝飯前の仕事”というと、今日では「朝飯の前でもできるほど簡単な仕事」といった意味で用いられていますが、もとはそうではありませんでした。ものごとの判断は、朝飯の前にするほうが頭のなかがきれいに整理されているので、正確に手早く行うことができるという意味で使われていました。それが、いつの間にか“朝飯前の仕事”=“簡単な仕事”という意味に転じたようです。本来あった「朝の仕事は能率がよい」という意味が失われてしまったのですね。それにしても、昔から「朝は頭がよく働いて仕事がはかどる」ということは一般によく知られていたわけです。

 以上の四つの事例に共通しているのは、「朝は仕事の能率が上がる」ということを教えてくれるだけではありません。もう一つ、「朝は朝でも、食事の前というところに注目しているのがおもしろい」と外山氏は述べておられます。このことからわかるのは、頭がよく働くうえでの条件として重要な要素は、「記憶が整理されてすっきりした状態にある」ということと、もう一つ「空腹の状態にある」ということです。

 このことは大人も子どもも納得できるでしょう。食事後の満腹状態のときは消化にエネルギーがとらえ、頭脳活動は鈍りがちです。いっぽう、空腹のときには体のセンサーが危険を感じ取り、集中力が高まります。だから頭がよく働くのですね。

 みなさんのご家庭で試してみませんか? 早朝、頭がすっきりしていて、なおかつおなかのすいている時間を、勉強や頭脳を働かせる仕事にあててみてはいかがでしょう。とは言っても、習慣として定着させられそうなものがよいでしょう。時間もあまり長くないほうがよいと思います。お子さんであれば、15分ぐらいの時間を決め、頭のトレーニングになるような算数課題に取り組んだり、読書をしたりするなどいかがでしょう。

 ここで再び記憶に留めていただきたいことがあります。それは、忘れるのは悪ではないということです。学んだことを忘れるのは、まだ役立てられるレベルに到達していない証拠です。忘却を恐れず学び続けましょう。繰り返し学ぶことを厭わなければ、やがて記憶として頭に貯蔵され、必ず役立つ知識となってくれるのですから。

※今回の記事は外山滋比古氏の著作をもとに書きまました。ただし、だいぶ前にパソコンに打ち込んだ記述内容をベースにしたもので、書物の名前などを記録していません(「思考の整理学」だったかもしれません)。ご了承ください。

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