朝勉強・朝読書のススメ

2022 年 4 月 4 日

 春の心地よい風が頬を伝わるこの頃です。“春眠暁を覚えず”という言葉がありますが、エアコン要らずの快適な春の時期はぐっすりと眠れるし、いつまでも寝床で惰眠をむさぼっていたくなるものです。そんな折、今回は「早起きをして勉強や読書すると、成果が上がりますよ」というお話です。今どきの子どもは宵っ張りが多く、「そんなの、うちの子には無理!」と撥ねつけられそうですが、何事も習慣づけをすれば定着するものです。さらには、おとうさんやおかあさんに実行していただくこともできるでしょう。この記事をお読みいただき、「やってみよう」と思われたならうれしいです。

 お茶の水女子大学名誉教授の外山滋比古氏(1923‐2020)は、実に多くの著書を残しておられますが、晩年に出された著書で、「朝は人間がものを考えるうえでもっとも適した状態である」と述べておられます。その理由ですが、睡眠中に脳内の中途半端な記憶が削り落とされるため、朝は頭がすっきりとした状態にあるからです。いっぽう、夜はその日に脳に刻まれた情報がいっぱい混乱した状態で詰め込まれています。したがって、知識を収めたり、ものごとを考えたりするうえでふさわしいとは言えません。つまり、朝のほうが勉強にとってよい条件が整っているわけです。

 外山氏によると、昔から朝のほうがものを考えるうえで適していることに気づいていた人が少なくなかったようで、その事例をいくつかあげておられます。いずれもなかなか興味深い事例ですので、ちょっとご紹介してみましょう。イギリスの詩人、ウィリアム・ブレイクの詩につぎのような一節があります。

朝、かんがえ(Think in the morning)
ひるは、はたらき(Act in the noon)
夕がたに食し(Eat in the evening)
夜は眠れ(Sleep in the night)

 これは、朝の時間がものを考えることに最も適しているのだから、何よりもそれを優先するべきだということなのでしょう。

 また、同じくイギリスの小説家、ウォルター・スコットという人物は、難しい解決困難な問題に悩まされたとき、周囲の人たちに「明朝になれば、いい考えが浮かんでくるよ」とよく言っていたそうです。これは根拠のないことではないようで、外山氏は「夜寝ているうちに名案や妙想が用意されることを、この詩人は経験によって知っていたと思われる」と述べておられます。ただし、「その夜に、大働きをするのが忘却であることまでは、スコットはあるいは知らなかったかもしれない」とも述べておられます。前述のように、忘却によって役に立たない知識をふるいにかけられると、頭がすっきりとし、創造的な思考が可能になります。この詩人はそこまでは知らなかったものの、少なくとも「朝の時間帯は頭がよく働くことを経験的に知っていたということのようです。

 みなさんは、朝廷という言葉をご存知ですね。(漢字文化圏の君主制国家の)政治を執り行う組織や建物を言いあらわします(例:大和朝廷)が、この朝廷という言葉の由来も、朝は頭が働いて仕事がはかどるということと関係が大いにあるようで、前出の外山氏はつぎのようなことを述べておられます。

 大昔、中国の役所は、朝、日が昇るのとともに開始されたという。それで‟朝″廷なのである。われわれは、そういう故事を知らずに、朝廷ということばを使ってきたが、朝の仕事は、正確で迅速に処理されることを知った人たちの、知恵である。現代は、朝遅く仕事にかかり、そろそろ眠ってよい時間になって、頭を使うのを勤勉のように考える。

 “朝飯前の仕事”というと、今日では「朝飯の前でもできるほど簡単な仕事」といった意味で用いられていますが、もとはそうではありませんでした。ものごとの判断は、朝飯の前にするほうが頭のなかがきれいに整理されているので、正確に手早く行うことができるという意味で使われていました。それが、いつの間にか“朝飯前の仕事”=“簡単な仕事”という意味に転じたようです。本来あった「朝の仕事は能率がよい」という意味が失われてしまったのですね。それにしても、昔から「朝は頭がよく働いて仕事がはかどる」ということは一般によく知られていたわけです。

 以上の四つの事例に共通しているのは、「朝は仕事の能率が上がる」ということを教えてくれるだけではありません。もう一つ、「朝は朝でも、食事の前というところに注目しているのがおもしろい」と外山氏は述べておられます。このことからわかるのは、頭がよく働くうえでの条件として重要な要素は、「記憶が整理されてすっきりした状態にある」ということと、もう一つ「空腹の状態にある」ということです。

 このことは大人も子どもも納得できるでしょう。食事後の満腹状態のときは消化にエネルギーがとらえ、頭脳活動は鈍りがちです。いっぽう、空腹のときには体のセンサーが危険を感じ取り、集中力が高まります。だから頭がよく働くのですね。

 みなさんのご家庭で試してみませんか? 早朝、頭がすっきりしていて、なおかつおなかのすいている時間を、勉強や頭脳を働かせる仕事にあててみてはいかがでしょう。とは言っても、習慣として定着させられそうなものがよいでしょう。時間もあまり長くないほうがよいと思います。お子さんであれば、15分ぐらいの時間を決め、頭のトレーニングになるような算数課題に取り組んだり、読書をしたりするなどいかがでしょう。

 ここで再び記憶に留めていただきたいことがあります。それは、忘れるのは悪ではないということです。学んだことを忘れるのは、まだ役立てられるレベルに到達していない証拠です。忘却を恐れず学び続けましょう。繰り返し学ぶことを厭わなければ、やがて記憶として頭に貯蔵され、必ず役立つ知識となってくれるのですから。

※今回の記事は外山滋比古氏の著作をもとに書きまました。ただし、だいぶ前にパソコンに打ち込んだ記述内容をベースにしたもので、書物の名前などを記録していません(「思考の整理学」だったかもしれません)。ご了承ください。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 勉強の仕方, 子育てについて, 家庭での教育

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