夏のおかあさんセミナー2022 内容報告2

2022 年 7 月 12 日

 前回に引き続き、7月1日(金)に実施した「夏のおかあさんセミナー」の内容をご報告しようと思います。このセミナーに参加くださった方々は、とても積極的でノリがよく、進行を担当した筆者自身がおかあさんがたの笑顔や熱心なメモ取りの様子を拝見して元気づけられる思いをしました。

 そもそも「おかあさんセミナー」という催しの呼称は、日本では子育てに関わる事柄の80数%をおかあさんが担っておられるという調査データがあり(外国、特に西欧とはずいぶん違っています)、「負担の多いおかあさんがたを支援したい」という思いで考えたものです。「母親」ではニュアンスが固いし、「保護者」とすると趣旨にそぐいません。おとうさんがたには申し訳ないとは思いつつ、対象をおかあさんに絞らせていただいたしだいです。実は、「おとうさんセミナー」というアイデアもあります。父親だからこそ担える子育ての側面もあるのではないでしょうか。「コーヒーを飲みながら」というスタイルも面白いかもしれませんね。

 では、セミナー後半の内容をご報告します。後半は、高い知力を携えるとともに、社会で活躍できる人間になるために欠かせない資質として、「自己制御能力」と「やり抜く力」を取り上げ、これらをいかに育てるかを共に考えてみました。

 

② 行動を適切に制御できる力、最後までやり抜く力を養う

 セミナー前半では、勉強の主体性や自律性をメインに取り上げました。非認知能力の根幹となる要素です。児童期の子どもは、大人に強制されても素直に従って勉強しますから、取り組みが主体的か、受動的かによる成果の違いはすぐには表面化しません。しかし、長いスパンで見ると大きな差をもたらします。この主体性を育むための大前提が「生活習慣の自立」です。毎日の家庭生活で絶え間なく繰り返される行動と深く関わります。そこで真っ先に取り上げました。続いてセミナー後半は、人間の知的活動を支える非認知能力のなかから「行動を制御する力」と「やり抜く力」を取り上げ、その重要性について一緒に考えていただきました。これらはいま世界中で脚光を浴びています。

 

1.我慢の利く子の将来は明るい!

 困難だがより多くの収穫が得られる道と、容易に得られる代わりに収穫の少ない道とがあります。大人なら、迷わず前者を選ぶでしょう。しかし、前者には我慢が求められます。この我慢する能力は、青年期に達する16歳頃までは未熟で、子どもは目先の僅かな利益に走ってしまいがちです。学業面で成果をあげるには、できるだけ早く子どもに我慢を身につけさせることが望ましいでしょう。実際、幼児期から我慢する力をが身につきつつある子どももいます。これを裏づける有名な心理学の実験をご紹介しました。

 幼児をテーブルの前に座らせます。目の前に、マシュマロやクッキーを一つ載せた皿を置きます。実験者は子どもに「今から私が帰ってくるまで待っていてほしいんだけど、このおやつを食べたければ食べていいよ。でも、もし私が帰ってくるまで食べるのを待てたら、一つじゃなく二つあげるからね」そういって部屋を去ります。

 さて、実験の結果はどうなったでしょうか。大半の子どもはお菓子を食べてしまいました。しかし、一部の子どもは、15分間の我慢の末、お菓子を二つ手に入れました。両手をお尻に当てて手を伸ばすのを堪えたり、両手で目隠しをしてお菓子を見えなくしたり、他のことを考えて気を逸らしたりするなど、年齢なりに我慢の手段を考えて誘惑に対抗したのです。

 この実験の被験者となった子どもたちの20年後、30年後を調べたところ、食べるのを我慢できた子どもは、長じても誘惑の数々に対応することができました。その結果、総じて高学歴で、高収入を得る傾向が強く、人生での成功の確率が高いということがわかりました。

 

2.子どもに我慢を教えよう!

 この実験の結果をご紹介した後、それぞれのテーブルのメンバーごとに、我慢、自己抑制のできる子どもにするために家庭で何ができるかを話し合っていただきました。すでにしていることがあれば披露していただきました。考えやすくなるよう、一つ例をご紹介しました。

<我慢を教える例>

 小学生にはいささか高額な遊び道具を子どもが欲しがりました。そこで、「誕生日(4か月後)まで欲しいものを我慢し、僅かずつでも貯金をしよう」と提案しました。そして、「足りない分は、おかあさんが払ってあげるからね」という約束をしました。

 我慢が効く子ども、自己抑制のできる子どもは、目先の楽しさに走らず、自分にとってより有益な道を選択することができます。また、計画性や実行力がある、粘り強い取り組みができる、遊びと勉強の切り替えが上手である、決めたことをやり抜くことができるなど、取り組みの成果を決定づける極めて重要な能力が備わります。長いスパンで見ると、圧倒的な差が生まれるのは間違いありません。

 

3.望ましい行動を選択する姿勢はどうしたら身につく?

 我慢できる子ども、自己抑制のできる子どもにすることの大切さは、これで十分おわかりいただけたことでしょう。問題は、どんな働きかけをすればこのような子どもにできるかということです。

 それを考えるうえで、有効と思われるヒントが三つあります。一つ目は、「児童期までは、親の価値観が子どものモチベーションに強い影響力をもつ」ということです。もう一つは、「よい選択を子ども自身がするよう上手に仕向ける」ということです。三つめは「きっとできると信じているよ」というサインを子どもに送ることです。これらをもとに、具体的な方法をご提案しました。

① 例のように努力の大切さを常に言って聞かせましょう。そして、何につけ努力したかどうかを基準に子どもを評価してやるのです。テストの成績がよくても悪くても、努力していたらほめるのです。時間はかかりますが、努力して伸びない人間はいません。努力の価値を知ったなら、中学受験の結果よりも子どもの人生にもたらすプラス効果はずっと大きなものになるでしょう。

② 親がどちらを選ぶべきかを先に言わず、子どもに判断させましょう。同じことをするのでも、親に言われて選ぶのと、自分で選ぶのとでは気持ちに大きな違いがあります。よいことをしているとき、子どもは「これは、自分が決めたのだ」と胸を張りたい気持ちになります。その気持ちを理解し、子どものプライドを尊重すれば、前向きな取り組みを引き出せます。また、子どもは自分が信頼されていると思ったなら、親の期待が何かを受け止め、その期待に沿った選択をするものです。

③ 親は子どものすることを黙ってみていられません。しかし、安易に手を貸さず、「きっとできるよ」と子どもを励まし信じてやりましょう。ちゃんとできないのが子どもですが、挑戦する過程で様々なことを学びます。この経験が子どもを成長させます。「やる気がないのか」、「ダメなやつ」などと子どもを否定するのはNG。ちゃんとやれなかったときは、「残念だったね。どうしてうまくいかなかったんだと思う?」などとフォローしてやりましょう。子どもは「今度こそ!」と奮起するに相違ありません。

 

 すでにお伝えしたように、子どもの自発性や行動の自律性は、生得的なものではありません。しつけや家庭教育を通して、子どもに浸透させていくべきものです。親がより善い方向へと導くプロセスには苦労が伴うものの、子どもの人生を大きく変えることになります。

 その働きかけの核となるのは「ほめる」ことです。アメリカの心理学者(アンジェラ・ダックワース)は、大人になって成功や失敗をしたとき、その原因を自分の才能に結びつけるか、それとも努力に結びつけるかは、子どものころの「ほめられかた」で決まる確率が高いと述べています。能力よりも努力を見てほめる。このことの繰り返しが子どもの生きかたとして浸透し、チャレンジ精神ややり抜く力となって子どもの人生の歩みを後押しすることになります。

 以上がおかあさんセミナーのおおよその内容です。児童期までの子どもに親がどう関わるか。それによって子どもの能力や生きかた、人間性も決まります。今こそ親は悔いのない子育てに邁進すべきときです。いずれ子どもが親の元から離れる時期がやってきます。そのときに、「わが子なりにやっていけるだろう」と信じて送り出せるようになりたいものですね。

※催しの実施にあたり、換気などのコロナ対策を十分に施された会場を使用しました。また、来場者の体温を確認し、座席間の距離(写真ではわかりにくいですが)も十分にとっています。

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