学力形成の要は言葉の力 その2

2025 年 12 月 2 日

 今回は、「子どもの語彙獲得の道筋」を中心のテーマに据え、言葉の習得の重要性についてお伝えしようと思います。子どもたちが、小学校に入学する前に使用してきたのは、おもに「話し言葉」でした。「話し言葉」は、音声でやりとりする言葉です。音声で発し、音声で受け止めて理解する「耳の言葉」です。これに加え、小学校に入学してからは、「書き言葉」が登場します。「書き言葉」は、視覚でいったんとらえた文字情報を、意味に変換し、そこで初めて理解できる言葉です。

 幼児期まではゆっくりとしたペースで話し言葉を身につけていた子どもも、小学校に入学するころにはかなり達者に自らの思いを相手に伝えることができるようになります。つまり、この時点で、子どもたちは、すでに音声の言葉で意思伝達を図ることに関しては、かなり達者にできるようになっています。ですから、書き言葉の学習が始まったばかりの段階では、当面は文字(視覚)による言葉よりも、耳の言葉のほうがはるかにコミュニケーションをとり易いことでしょう。

 いっぽう、書き言葉の獲得は後発です。書き言葉は、すでに知っていた「話し言葉」をベースに、それとの照合で獲得されていきます。ですから、「書き言葉」を単独でどんどん身につけていくのではないため、どうしても語彙獲得の上昇カーブは、緩やかにならざるを得ません。しかし、このもどかしいステップを根気よく継続することで、やがて大きな変化がやってきます。話し言葉を書き言葉に置き換える作業が少しずつ進むにつれて、子どもは自分で本を読むことが可能になってくるのです。こうして、ある程度本が読めるようになると、本のなかで出合った新しい「書き言葉」を通じて、新たな語彙(話し言葉)を獲得できるようになってきます。これを言語獲得の反対給付と言います。「話し言葉 → 書き言葉」の言語獲得の流れが反転し、「書き言葉 → 話し言葉」という流れが生じるのです。

 生活の実場面で新しい「話し言葉」を少しずつ獲得(主としておかあさんから)していた段階と比べ、「書き言葉」による新しい言葉の獲得は、その数を著しく増加させていきます。なにしろ、本のページをめくるたびに次々と新たな言葉が出現するのですから当然のことでしょう(そのとき、挿絵も言葉の理解の一助となります)。しかも、話の筋立てがおもしろければ子どもたちは文章の流れに沿ってその意味を想像していきます。話し言葉よりもはるかに速いペースで新たな語彙を獲得していくのは疑いありません。このような流れができるのは、ごく易しい本を読み始めてから2~3年経過したころです。

 以上からおわかりいただけると思いますが、書き言葉の獲得には相応のステップが必要であり、小学校に入学したら一気に進むわけではありません。一人で読書ができるようになり、読書を通じて新たな語彙を獲得する流れが軌道に乗ってこそ可能になるのですね。その時期は、だいたい小学校の3~4年生ごろだと言えるでしょう。この流れを確実なものにするには、小学校低学年のうちに文字学習をしっかり積み重ねていき、書き言葉が文字の組み合わせで成り立つことを知り、書き言葉のつながりで文が構成され、一定の意味を伝えてくれることを学ぶ必要があります。そして、それを「読書」へとつなげていくことで、子どもは自力で語彙を増やしていくすべを身につけることができるわけです。

 下表をご覧になると、子どもの語彙獲得の様子がよくわかります。語彙の増加率が最も高まるのは小学校4年生(9~10歳ごろ)であり、増加数がいちばん多いのは小学校5年生(10~11歳ごろ)のことです。小学校4年生の1年間で、子どもの語彙は4割近くも増えます。このものすごい増加がベースにあるので、増加率は4年生や3年生の時期に譲るものの、5年生になるとわずか1年間で子どもは6千をはるかに超える数の語彙を獲得します。

 つまり、小学校高学年期は、人生で一番語彙の獲得が著しい時期だということです。この爆発的な語彙の増加が、子どもの思考のステージを一気に上げていき、複雑な内容、抽象的な内容を扱う言葉を吸収していけるようになります。中学受験を乗り越えるにあたっては、この語彙獲得や思考力の発展が前提となります。この段階を上手に乗り越えることで、勉強の効率がずいぶん上がり、学力の向上に寄与してくれます。

児童期の子どもの語彙獲得状況 (阪本一郎)

1年 2年 3年 4年 5年 6年
年間語彙獲得数 1,271 2,305 3,602 5,448 6,342 5,572
語彙量 6,700 7,931 10,276 13,878 19,326 25,668
増加率 19.00% 28.00% 35.10% 39.30% 32.80% 21.00%

 このことを踏まえると、小学校低~中学年期の言語環境の重要性に気づかされるのではないでしょうか。算数や国語の問題を解くこと以前に、子どもの言語生活を整え、言葉の発達への気配りをすることが何よりも大切です。 ただし、読書を子どもに強要するのは控えるべきです。逆に、読書は楽しいものだということを体験させるべきでしょう。小学校高学年の子どもで「読書が嫌い、本が嫌い」という子どもを調べてみると、読書や本自体が嫌いなのではなく、うまく読めない、スムーズに読めないことが原因であったり、大人に無理強いされた経験がマイナス効果を生み出したりしたことが原因であったという専門家の調査結果があります。

 読書の強要は親が控えればよいわけですが、「読むのが苦手である」「読むのがつらい」ということに関しては、しっかりとした対処が求められます。何をどうすればよいのでしょうか。次回はそのことを話題に取り上げてお伝えしようと思います。

次回の掲載は、12月5日、もしくは9日になると思います。興味をおもちになったら、ぜひ読んでみてください。

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